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第41話 セシリアSIDE
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「魔光石もある、聖者の法衣も用意した……これで完璧ね」
セシリアは魔法ポーチの中を整理しながら、ある人物がやって来るのを待っていた。
今日はセシリアにとって、とても大事な意味を持つ日である。
(だって、今日は私がA級ダンジョンをクリアして、一流冒険者の証を手に入れる日なんだから)
セシリアが立っているのは、シルワ王国の旗が立つ【エクスハラティオ炎洞殿】の入口だった。
以前に一度挑戦したことがあり、結局、10日以内に攻略することが叶わなかったダンジョンだ。
しばらく木の幹に背中を預け、そのまま待っていると、遠くの方から人影が見えてくる。
間違いない……アイツだ、とセシリアは思った。
やがて、その者が近くまでやって来ると、セシリアは笑顔を見せて声をかけた。
「久しぶりね、ナード」
「……セシリア? なんでここに……」
「あなたがB級ダンジョンをクリアしたって噂で聞いてたし。シルワにあるA級ダンジョンはここしかないでしょ? だから、来るって思ったのよ」
「……」
「随分と強くなったみたいね。大司祭様から聞いたわ。あなた、LPを増やすユニークスキルを覚醒させたんですって?」
「……はぁ、さすがにバレてるよね」
「ギルドでもあなたの話で持ちきりよ? LPを増やすスキルなんて前代未聞だわ。みんなあなたの動向が気になってるのよ」
「デュカとケルヴィンにも言われたよ。この前、偶然ギルドで会ったんだ。僕がすごい有名人になってるって」
「デュカとケルヴィン……?」
その時、セシリアの視線は、ナードが装備している武器と防具に向く。
「……え、ちょっと待って。それ、ウロボロスアクスと上帝の盾……。どうしたの?」
「ああ、その前にちょっと色々あってね。譲ってもらったんだ」
「……」
(あのデュカとケルヴィンが? これって、親から引き継いだ大事な装備でしょ?)
セシリアは、なんでもなさそうに語るナードを見ながら思った。
譲ってもらったなんて嘘だ、と。
(絶対に2人から無理やり奪ったんだわ)
あれだけ大々的にパーティーから追放したのだ。ナードが恨みを抱えていたとしても、まったく不思議なことではない。
グッと拳を握り締めつつも、セシリアは笑顔を作ってナードに接する。
「そうだったのね。実は2人とはちょっと前にパーティーを解消したのよ。ほら、あの2人って途中から私たちのパーティーに参加してきたでしょ? だから、やっぱり馬が合わなくてね」
「そっか」
「ダコタとも組むのをやめたわ」
「へぇ……」
「だから、今はソロで冒険者やってるんだけど……」
そこでセシリアは短く息を吸い込んだ。
「……実は、もう一度ナードとパーティーを組みたいって思っていて。ここであなたを待っていたのは、そのためなの」
「……」
「もちろん、こんなことを言う資格が自分にないって分かってるわ。私はあなたに、とても酷いことを言ってしまった。それに、パーティーから追い出すような真似もしてしまって……。本当にごめんなさい。でもあの時は、タイクーンとしてパーティーをまとめるのに、ああ言うしかなかったの。けど、3人と別れて分かったわ。私は、やっぱりナードと組みたいんだって。ほら、学生時代からずっと一緒にパーティーを組むって約束してたでしょ?」
自分でそう口にしながら、セシリアは吐き気のする思いでいた。
昔からずっとこうして感情を押し殺してナードと接してきたのだ。
こうして持ち上げながら会話するだけでも、反吐が出る思いであった。
(でも、ここはガマンよ。これもすべてこのクズからユニークスキルを奪うためなんだから)
奪い取ってしまったら、いたぶるなり斬り殺すなりこちらの自由だ。
だから、それまではセシリアは我慢する必要があった。
相手に誠意が伝わるように、深々と頭を下げながらセシリアはお願いする。
「謝って済む問題じゃないっていうのは分かってるわ。でも、私はナードともう一度パーティーを組みたい。心は完全に入れ替えたの。指南役じゃなくて、今度は本当に信頼できる仲間の1人として一緒にダンジョンに入りたい。もちろん、これからはナードがタイクーンで、取り分は多くて構わないから。だから、どうかお願いします……!」
「……」
暫しの沈黙の後。
「……分かったよ」
ナードは静かにそう頷いた。
それを聞いて、セシリアは口元をわずかに釣り上げる。
そう――セシリアには、ナードがこの誘いを断らないという強い確信があったのだ。
(フフッ、やっぱりね。昔からそう。コイツは私に気があるから。私の頼みは絶対に断らない)
セシリアは随分前からナードが自分に好意を抱いていることに気付いていた。
当然、セシリアにはそんな気などこれっぽっちもない。
(人の顔色ばかり窺ってるような軟弱な男に、女が惹かれるわけがないのよ)
セシリアは顔をパッと輝かせると、ナードの手を取って喜びを爆発させる。
もちろん、すべて演技だ。
「ホントっ!? ありがとうナード! またあなたとパーティーが組めて嬉しいわ!」
「うん」
「それじゃ、さっそくだけど【エクスハラティオ炎洞殿】に入りましょう!」
「それはいいんだけど、本当に大丈夫? こう言っちゃなんだけど、A級ダンジョンはかなり危険だよ?」
「ええ、心配には及ばないわ。このダンジョンは、私も以前に入ったことがあるから。勝手なら分かってる。ナードのサポートとして、攻撃魔法で援護するから」
「攻撃魔法かぁ……。正直、あまりいらないかな。後方で時々回復アイテムを使ってくれたらそれでいいよ」
「……え? そ、そう? 分かったわ……ならそれで」
それはあんたの仕事だったでしょ!?
なんで私がそんな役割をしなくちゃいけないのよ!
そう喉元まで出かかった言葉をセシリアは飲み込む。
(……ッ。こんなところでムキになっちゃダメ。ナードが隙を見せるチャンスを待つのよ……)
腹の奥にどす黒い感情を抱えつつ、セシリアはナードと共にダンジョンの中へと入って行く。
◇
【エクスハラティオ炎洞殿】は、シルワ王国が管理下に置く唯一のA級ダンジョンである。
その難易度は最高クラスと言われており、ここ20年くらいはクリアした者は現れていない。
すべての冒険者の中で、A級ダンジョンをクリアできる者はごく少数と言われている。
その数、全体の0.01%。
そもそもLP制限で入れる者自体が少なく、挑戦者が極端に少ないダンジョンなのである。
【エクスハラティオ炎洞殿】の構造は、地下低層型に分類され、そこまでダンジョンは深くない。
その代わりに、内部の環境は厳しく、溶岩が転がる灼熱の中を進む必要がある。
だが、このダンジョンに入るような冒険者なら、当然《環境適応》のスキルは習得しているはずで、セシリアもナードも、特に環境に苦労することなくダンジョンを進んで行く。
「斧術中級技――《無双炎車輪》!」
ドドドドドドガギーーーーンッ!!
ナードはウロボロスアクスを駆使して、A級魔獣を次々と殲滅していく。
それも、そのほとんどが瞬殺だった。
(もう疑いようがないわね)
前回、あれほど自分たちが苦戦して倒してきたA級魔獣を軽々と討伐していくさまを見て、セシリアは確信する。
やはり、ナードはLPを増やすスキルを覚醒させたのだ、と。
「セシリア。ちょっとダメージ食らっちゃったから回復アイテムお願い。それと、ドロップしたアイテムはちゃんと拾ってね。さっき見逃してる物があったから」
「ご、ごめんなさいっ……。今使うわ……!」
立場はこれまでと違って、完全に逆転してしまっていた。
(くっ……。なんで私がこんな役を……)
正直言って、この屈辱的な状況は耐えられないという思いだったが、とりかえの杖が使えるチャンスは1度しかない。
今のナードに正面からとりかえの杖を使っても、奪われるのがオチだ。
(大丈夫……チャンスは絶対に来るわ。その時まではガマンしなくちゃ)
ナードが所持するユニークスキルがどれほど強力なのかはよく分かった。
あとは、それを奪い取るだけ。
セシリアには、ある考えがあった。
セシリアは魔法ポーチの中を整理しながら、ある人物がやって来るのを待っていた。
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(だって、今日は私がA級ダンジョンをクリアして、一流冒険者の証を手に入れる日なんだから)
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やがて、その者が近くまでやって来ると、セシリアは笑顔を見せて声をかけた。
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「……セシリア? なんでここに……」
「あなたがB級ダンジョンをクリアしたって噂で聞いてたし。シルワにあるA級ダンジョンはここしかないでしょ? だから、来るって思ったのよ」
「……」
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「……はぁ、さすがにバレてるよね」
「ギルドでもあなたの話で持ちきりよ? LPを増やすスキルなんて前代未聞だわ。みんなあなたの動向が気になってるのよ」
「デュカとケルヴィンにも言われたよ。この前、偶然ギルドで会ったんだ。僕がすごい有名人になってるって」
「デュカとケルヴィン……?」
その時、セシリアの視線は、ナードが装備している武器と防具に向く。
「……え、ちょっと待って。それ、ウロボロスアクスと上帝の盾……。どうしたの?」
「ああ、その前にちょっと色々あってね。譲ってもらったんだ」
「……」
(あのデュカとケルヴィンが? これって、親から引き継いだ大事な装備でしょ?)
セシリアは、なんでもなさそうに語るナードを見ながら思った。
譲ってもらったなんて嘘だ、と。
(絶対に2人から無理やり奪ったんだわ)
あれだけ大々的にパーティーから追放したのだ。ナードが恨みを抱えていたとしても、まったく不思議なことではない。
グッと拳を握り締めつつも、セシリアは笑顔を作ってナードに接する。
「そうだったのね。実は2人とはちょっと前にパーティーを解消したのよ。ほら、あの2人って途中から私たちのパーティーに参加してきたでしょ? だから、やっぱり馬が合わなくてね」
「そっか」
「ダコタとも組むのをやめたわ」
「へぇ……」
「だから、今はソロで冒険者やってるんだけど……」
そこでセシリアは短く息を吸い込んだ。
「……実は、もう一度ナードとパーティーを組みたいって思っていて。ここであなたを待っていたのは、そのためなの」
「……」
「もちろん、こんなことを言う資格が自分にないって分かってるわ。私はあなたに、とても酷いことを言ってしまった。それに、パーティーから追い出すような真似もしてしまって……。本当にごめんなさい。でもあの時は、タイクーンとしてパーティーをまとめるのに、ああ言うしかなかったの。けど、3人と別れて分かったわ。私は、やっぱりナードと組みたいんだって。ほら、学生時代からずっと一緒にパーティーを組むって約束してたでしょ?」
自分でそう口にしながら、セシリアは吐き気のする思いでいた。
昔からずっとこうして感情を押し殺してナードと接してきたのだ。
こうして持ち上げながら会話するだけでも、反吐が出る思いであった。
(でも、ここはガマンよ。これもすべてこのクズからユニークスキルを奪うためなんだから)
奪い取ってしまったら、いたぶるなり斬り殺すなりこちらの自由だ。
だから、それまではセシリアは我慢する必要があった。
相手に誠意が伝わるように、深々と頭を下げながらセシリアはお願いする。
「謝って済む問題じゃないっていうのは分かってるわ。でも、私はナードともう一度パーティーを組みたい。心は完全に入れ替えたの。指南役じゃなくて、今度は本当に信頼できる仲間の1人として一緒にダンジョンに入りたい。もちろん、これからはナードがタイクーンで、取り分は多くて構わないから。だから、どうかお願いします……!」
「……」
暫しの沈黙の後。
「……分かったよ」
ナードは静かにそう頷いた。
それを聞いて、セシリアは口元をわずかに釣り上げる。
そう――セシリアには、ナードがこの誘いを断らないという強い確信があったのだ。
(フフッ、やっぱりね。昔からそう。コイツは私に気があるから。私の頼みは絶対に断らない)
セシリアは随分前からナードが自分に好意を抱いていることに気付いていた。
当然、セシリアにはそんな気などこれっぽっちもない。
(人の顔色ばかり窺ってるような軟弱な男に、女が惹かれるわけがないのよ)
セシリアは顔をパッと輝かせると、ナードの手を取って喜びを爆発させる。
もちろん、すべて演技だ。
「ホントっ!? ありがとうナード! またあなたとパーティーが組めて嬉しいわ!」
「うん」
「それじゃ、さっそくだけど【エクスハラティオ炎洞殿】に入りましょう!」
「それはいいんだけど、本当に大丈夫? こう言っちゃなんだけど、A級ダンジョンはかなり危険だよ?」
「ええ、心配には及ばないわ。このダンジョンは、私も以前に入ったことがあるから。勝手なら分かってる。ナードのサポートとして、攻撃魔法で援護するから」
「攻撃魔法かぁ……。正直、あまりいらないかな。後方で時々回復アイテムを使ってくれたらそれでいいよ」
「……え? そ、そう? 分かったわ……ならそれで」
それはあんたの仕事だったでしょ!?
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(……ッ。こんなところでムキになっちゃダメ。ナードが隙を見せるチャンスを待つのよ……)
腹の奥にどす黒い感情を抱えつつ、セシリアはナードと共にダンジョンの中へと入って行く。
◇
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その難易度は最高クラスと言われており、ここ20年くらいはクリアした者は現れていない。
すべての冒険者の中で、A級ダンジョンをクリアできる者はごく少数と言われている。
その数、全体の0.01%。
そもそもLP制限で入れる者自体が少なく、挑戦者が極端に少ないダンジョンなのである。
【エクスハラティオ炎洞殿】の構造は、地下低層型に分類され、そこまでダンジョンは深くない。
その代わりに、内部の環境は厳しく、溶岩が転がる灼熱の中を進む必要がある。
だが、このダンジョンに入るような冒険者なら、当然《環境適応》のスキルは習得しているはずで、セシリアもナードも、特に環境に苦労することなくダンジョンを進んで行く。
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やはり、ナードはLPを増やすスキルを覚醒させたのだ、と。
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(くっ……。なんで私がこんな役を……)
正直言って、この屈辱的な状況は耐えられないという思いだったが、とりかえの杖が使えるチャンスは1度しかない。
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(大丈夫……チャンスは絶対に来るわ。その時まではガマンしなくちゃ)
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