復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
26 / 49

第26話

しおりを挟む
 城下町へ戻る頃には、すでに夕方となってしまっていた。

 疲労が蓄積された状態での帰路は想像以上にしんどく、行きの倍の時間を費やしてしまう。
 しかも、体は傷だらけでボロボロの状態だった。

 いくら冒険者シーカーで溢れた街とはいえ、この状態で歩くのはかなり目立つ。

(このまま帰ったら、確実にノエルに心配されちゃうだろうな)

 現に今日、自分は死にかけたんだ。

 これまではほとんどHPについて心配してこなかったけど、ポーションの回復量だけだと、いざっていう時に不安だった。
 そろそろ回復魔法を覚えた方がいいのかもしれない。

「そうだよね。油断は禁物だ」

 水晶ディスプレイを立ち上げると、スクロールして回復魔法一覧を表示する。

-----------------

◆ヒール/消費LP20
内容:味方1人のHPを100回復させる
詠唱時間1秒
消費MP5

◆ヒールプラス/消費LP50
内容:味方1人のHPを300回復させる
詠唱時間2秒
消費MP10

◆フルキュア/消費LP100
内容:味方1人のHPを全回復させる
詠唱時間3秒
消費MP15

◆パーフェクトヒール/消費LP100
内容:味方全員のHPを100回復させる
詠唱時間3秒
消費MP20

◆キュアエンド/消費LP150
内容:味方全員のHPを全回復させる
詠唱時間6秒
消費MP30

◆ニル/消費LP200
内容:味方1人をHP100の状態で蘇生させる
詠唱時間2秒
消費MP20

◆ニルオール/消費LP250
内容:味方1人をHP全回復の状態で蘇生させる
詠唱時間4秒
消費MP30

-----------------

 現在のLPは151。
 一応は《キュアエンド》まで習得できるけど、これはパーティーを組んだ際に、主に回復術師が使う魔法だ。

 これから誰かとパーティーを組むつもりなら覚えてもいいんだけど、僕にそのつもりはない。
 あれだけ散々、悪魔の子フォーチュンデビルって周りからバカにされて、今さら誰かと組むなんてことは考えられなかった。

 そもそも<アブソープション>と<バフトリガー>があれば、他の仲間を頼る必要もない。

「……てなると、現実的なラインで《ヒール》と《ヒールプラス》かな」

 《フルキュア》も覚えられるけど、今僕の最大HPは150だし。
 《ヒールプラス》だけでも十分に事足りる。状況によって《ヒール》と《ヒールプラス》を使い分けるのが一番現実的かな。

 ということで、ひとまずこの2つの回復魔法を習得することに。

 『《ヒール》を習得しました』
 『《ヒールプラス》を習得しました』

 水晶ディスプレイでアナウンス画面を確認すると、さっそく水晶ジェムを握り締めて《ヒールプラス》を使用する。

「〝聖なる無垢な癒しよ その永遠の輝きにより エデンの加護とともに彼の者の傷を治せ――《ヒールプラス》〟」

 シュピーン!

 その瞬間、眩い光が全身を包み込み、一瞬のうちにして傷跡が癒されていく。

「ふぅ……。これでひとまずは大丈夫」

 自分の体を今一度点検しつつ、僕はアパートへの道を急いだ。



 ◇



「ただいま~! ノエル帰ったよー!」

 普段よりも気持ち元気に声を張り上げて、玄関のドアを開ける。

「お兄ちゃんっ! おかえりぃ~♪ 今ね、メリアちゃんが来てるんだよぉ!」

「えっ……メリアドール先生?」

 出迎えてくれたノエルの後ろに、見覚えのある紫色のポニーテールが見えた。

「ナード君かい?」

 いつものように丸ぶちメガネのフレームを持ち上げながら顔を近付けてくる。
 これは先生の癖のようなものだ。ちょっと近くてドキドキする……。

「探索お疲れさま。少し上がらせてもらってるぞ」

「あ、はい。えっと……でも、今日はどうしてうちに?」

「この前言っただろう? そのうちお邪魔させてもらうって。それでね」

「あぁ、なるほど」

「ほら見てお兄ちゃん! メリアちゃんがアレ作ってくれたんだよ♪」

 ノエルが指さす方を見れば、テーブルに2つのお皿が用意されているのが分かった。
 お皿の上には、見たことのない白い物体がのっている。

「あれ、なんです?」

「ブランマンジェさ。宮廷でも出されるデザートなんだ。私は何度か食べたことがあるから、ナード君が食べてみるといい。作りたてが一番おいしいからね」

「だって! お兄ちゃんよかったじゃん!」

 たしかに、ダンジョン帰りの疲れた体には最高のご褒美だけど。

「でもいいんですか? せっかく作ったデザートを僕が食べちゃって」

「なに言ってるんだい。教え子がダンジョンの探索を終えて無事に帰ってきたんだ。これを御馳走せずにどうする。さあ、ぜひ食べてみてくれ」

「そうだよ、お兄ちゃん! 遠慮してもメリアちゃんに失礼だよぉ~」

 その〝メリアちゃん〟っていうのも、十分失礼な気がするんだけど……。

 でも、昔からノエルはメリアドール先生にだけはとても懐いているから。
 友達でありながら、親子みたいな関係でもあって、それが僕としてはちょっと微笑ましかったりする。

 2人がこう言ってくれているんだし、これ以上僕が何か言うのもヘンだよね。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 そのままテーブルに着くと、ブランマンジェを一口すくって食べてみる。

「もぐもぐ…………んんっ!?」

「どうだい?」

「な、なんですかこれは!? 初めて食べる味です! 口触りがものすごく心地よくて、ひんやりとした感触が癖になって、砂糖の甘みとアーモンドの香りが口の中で絶妙に絡み合って……。幸福感が倍増されるっていうか、その……」

「つまり、おいしいってことだね?」

「はいっ! 頬がとろけるくらいにおいしいです!」

「お兄ちゃんも気に入っちゃったね。実はノエル、これで2杯目なんだよ~♪」

「マジで! なんて羨ましい!」

「こんなに喜んでもらえて、こっちとしても作り甲斐があったってもんさ」

「やっぱメリアちゃんの作る手料理は最高だよぉ! んんぅっ~! しあわしぇ~♡」

 昔からメリアドール先生は料理を作るのが上手かった。
 1人で孤児院にこもっているノエルのことをいつも気にかけてくれて、こうして何度か訪ねに来ては、手料理を御馳走してくれた。

(先生こんな美人なのに、いまだに独身なんて変わってるよなぁ……)

 実際、学校でもメリアドール先生の人気は高かった。
 あのダコタでさえ、先生の前じゃ借りてきた猫のようになっていたし。

(噂だと、先生は教師になる前、凄腕の騎士だったって話だけど)

 本当のところはよく分かっていない。
 直接聞いたわけじゃないし、プライベートなことになるから。

 優しく穏やかな一面がありつつも、先生にはどこかミステリアスな雰囲気があった。



 ◇



 それからしばらく3人でわいわいと話して盛り上がる。
 今日のノエルは体調がいいみたいで笑顔も多かった。多分、メリアドール先生が来てくれて、リラックスできたんだと思う。

 やがて……。
 楽しい時間もあっという間に終わりを迎えてしまう。

「――っと、もうこんな時間か。それじゃ、そろそろ私は帰らせてもらうよ」

「あっ、はい」

「悪かったね。ダンジョン帰りの疲れたところにお邪魔してしまって」

「そんな、とんでもないですよ。こちらこそ、おいしいデザートありがとうございました」

「メリアちゃん! また遊びに来てね!」

「うむ。またノエル君のために、おいしいデザートを作ってあげよう」

「やったぁ♪ 約束だからねー!」

 飛び跳ねて喜ぶノエルの水色の髪を優しく撫でると、先生は僕に声をかける。

「ナード君。ちょっと外までいいかい?」

「はい?」



 言われた通り、2人揃ってアパートの外へと出る。
 すでに辺りは暗くなっていて、結界越しに覗ける夜空には、いくつもの星がキラキラと光って輝いていた。

 先生は一度、アパートから漏れる明りに目を向けると、突然こんなことを訊ねてくる。

「キミ、随分前にセシリア君のパーティーを抜けたんだろう?」

「!」

 そうだ、すっかり忘れてしまっていた。
 メリアドール先生には、パーティーを追放された件をまだ話していなかったんだった。

「す、すみません……。先生にお伝えするのを忘れてしまって……。実は僕、今1人でダンジョンに入ってるんです」

「そうみたいだね。それに、謝ることなんてないさ。冒険者がパーティーを組んだり、抜けたりするのは自由だからね。授業でもそう教えただろう?」

「は、はい……」

「卒業生の話はちょこちょこ耳に入ってきてね。特にセシリア君は成人の儀式で飛び抜けて高いステータスを授与されたから。両親は2人とも有名な冒険者だし、注目の的なんだよ」

 注目の的……。
 たしかにその通りかもしれない。 

 僕が【鉄血の戦姫アイアンヴァナディス】に入っていた時から、セシリアは周囲から一目置かれていた。
 A級ダンジョン踏破も時間の問題だって騒がれていて、セシリアはそれをとても誇らしげに思っている感じだったし。

「……でも、最近はいい噂を聞かなくてね」

「え?」

「冒険者ギルドで、幅を利かせて高価な武器が自分たちに回るように細工したり、他のパーティーと言い争いをして喧嘩沙汰になったり、酒場を貸し切って日夜迷惑に騒いだり……。それと、A級ダンジョンのクエストにも失敗したようでね。最近の評判はあまり良くないんだ。パーティー内でも仲間割れを起こしたっていう話もある」

「仲間割れ……ですか?」

「うむ。今はセシリア君とダコタ君の2人だけのパーティーとなっているようだね」

 ということは、デュカとケルヴィンは【鉄血の戦姫】を抜けたんだ。
 ちょっと信じられないけど、先生が言うんだから間違いない。

「キミがセシリア君と組んでいた頃は、こんな話は聞かなかったからさ。ナード君がまたセシリア君と組んでくれたらいいなって個人的には思うんだが……。もう彼女と一緒にパーティーを組むことはないのかい?」

「……申し訳ないですけど、僕はもうセシリアとはパーティーを組みません」

 僕は先生の目をまっすぐに見てそう答えた。

 これは紛れもない僕の本心だ。
 ズタズタに裏切られた心の傷が癒えることは一生ないんだから。

 そんな僕に対して、メリアドール先生は静かにこう口にする。

「ならこの話は終わりだね」

 正直、説得されるものだと思っていたから、先生のその反応は意外だった。

「えっ? あの、いいんですか?」

「いいも何も、ナード君はもう立派な大人だ。学校も卒業したわけだし、私はどうこう言える立場にいないよ。悪かったね、変なことを訊いたりして」

「い、いえ……」

「でも、そうか。うむ……。今のキミならソロでも上手くやっていけそうだ」

 メリアドール先生はどこか嬉しそうにそう呟くと、ポンポンと僕の肩を叩いてその場から立ち去る。

「ノエル君によろしく。またお邪魔させてもらうよ」

 先生の背中が闇夜に消えて見えなくなるまで、僕はどこか不思議な気持ちで見送った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...