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第25話
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「〝一閃秘める殺戮の紫電よ 我の命に従い その流転する稲妻で慈悲なく敵を撃ち砕け――《サンダーストライク》〟」
勢いよく放たれた渦雷がギルム2体に直撃する。
「「ギイイィッ!?」」
悲鳴を上げながら、ギルムたちは焼け焦げた状態で倒れた。
「これで、このフロアに降りて7体目!」
風穴から突風が吹き上がるタイミングを待ち、ギルムの亡骸を<アブソープション>で吸い上げて討伐完了!
グループ攻撃ってこんなにも効率がいいんだ。ここまで難なく進むことができている。
おかげでLPも最高値を更新中。
「ふふふ、まさかこんな簡単にLP100を越えちゃうなんてね~」
LP200あれば目標だったA級ダンジョンにも挑めるから、なんとかそのラインをキープしたところ。
「にしても、幸運値も100を越えてると、敵もめちゃくちゃアイテムドロップするんだなぁ」
通路で拾った物も合わせると、相当な量だ。
いちいちアイテムを魔法ポーチの中に入れるのも面倒だから、こういう時、荷物持ちのメンバーがいてくれると助かるんだけど……。
(――ッ)
その瞬間、荷物持ちとしてパーティーに参加していた当時の記憶が突然甦ってくる。
あの頃の僕は、セシリアが見つけたアイテムを拾ったり、言われた通りアイテムを使うことしかできなかった。貢献しているってそう信じて頑張っていたけど、セシリアにとっては役立たずでしかなかったに違いない。
国から多額の助成金を貰えるから、指南役を引き受けて、僕とパーティーを組んでいたに過ぎなかったんだ。
〝冗談なんかじゃないわよ、ナード。ずっと足手まといだと思ってたわ〟
〝気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!〟
「……っ、はぁ…………はぁっ……」
嫌な汗が全身から吹き出して、だらだらと流れ落ちてくる。
ダンジョンの壁にもたれかかって呼吸を整えると、なんとか落ち着きが戻ってきた。
毎回、そうだ……。
あの日のことを少しでも思い出すと、動悸が激しくなって、気持ち悪くなって、倒れそうになる。
僕にとってあれは、心を壊すのに十分な出来事だった。
〝学校であなたといてあげてたのだって、すべて金のためだから〟
「……!」
悔しさで涙がこぼれそうになるのを、歯噛みして堪える。
これまでの学生生活のすべてが否定されたような気分だった。
でも……セシリアの言葉は事実なんだ。
僕はいつもダコタを追い払ってくれることに感謝していたけど、セシリアがそばにいてくれたのは『お父様とお母様の言いつけ』ってだけで、実際はあれも周囲へ向けたパフォーマンスであった可能性が高い。
孤児のでき損ないの面倒をしっかりと見ていますよっていうアピールだ。
事実、セシリアとダコタは恋仲だったんだ。
追い払うような関係のはずなのに、なぜか2人ともすごく仲良さそうだったし。
ずっと疑問に思っていたけど、僕はそれに気付かないフリをしていた。
明らかにおかしいって分かったのは、【鉄血の戦姫】に、セシリアがダコタを引き入れてからだ。
あの日、ダコタがセシリアの腰に手を回した瞬間、僕はすべてを悟った。
ずっと騙されていたんだって。
それなのに、僕はセシリアに淡い恋心を抱いていたりして……。
自分がとても惨めで情けない存在に思えてくる。
(……いや、やめよう。もうあいつらと僕は何の関係もないんだ)
今、僕はソロでC級ダンジョンに挑めるほどになった。魔獣だって、魔法や技を使って倒せるようになったんだ。
アイテムを出し入れするしかできなかった以前の僕とは違う。
パンパンと両手で顔を叩いて嫌な記憶を追い出すと、僕は再びダンジョンを進み始めた。
◇
それからさらに、3体のギルムを《サンダーストライク》で倒して、下のフロアへと足を踏み入れる。
ビューーーンッ! ビューーーンッ!
「っ、おっと……」
思わず足がすくわれそうになり、なんとか踏ん張って堪える。
心なしか風穴から吹き上がってくる風が強くなっているように感じた。
止む瞬間を狙って通路を進んでいくと、奥の開けた空間に、ドタドタと駆け回る魔獣の跫音が聞こえてくる。
かなり強靭な足腰を持っているみたいだ。
突風が吹き荒れるこのダンジョンにおいて、ここまではっきりと物音が聞こえるのは珍しい。
少しだけ警戒レベルを上げつつ、音のする方へとそっと足を進めてみることにした。
ドンッ! ドンッ!
「な、何やってるんだ? あれ……」
柱の影に隠れて物音のする方へ目を向ける。
視界に飛び込んできたのは、自身の背丈ほどの長い両角を持つ魔獣が、壁に向かって激突を繰り返す姿だった。
巨大な鉄球のように重そうな下半身をしているっていうのに、とても俊敏に動き回っている。
牛のような見た目をした魔獣で、ギラギラと大きく見開かれた目は、トラウマになりそうなほどの威圧感があった。
ドンッ! ドンッ!
それが習性なのか、牛型の魔獣は長い両角を使って壁に体当たりを繰り返している。
相手の正体が分からないと戦い方も分からないから、ひとまず《分析》を使ってみることに。
-----------------
[マザーヴァファロー]
LP18
HP660/660
MP20/20
攻65
防55
魔攻35
魔防80
素早さ105
幸運10
攻撃系スキル:<体術>-《あばれ倒し》
状態:
物理攻撃・与ダメージ2倍
雷魔法・被ダメージ半減
-----------------
(マザーヴァファローっていうんだ)
下層の魔獣だから当然と言えば当然だけど、ギルムより間違いなく強い。
目を見張るのは、高い素早さだ。
<バフトリガー>の恩恵を受けている僕と、ほとんど変わらない素早さを持っている。
ギルムの時のように、ヒットアンドアウェイを使いながら、ウルフダガーで戦うのは難しいに違いない。
ここはやっぱり遠距離からの魔法一択だ。
が。
すぐにそれも難しいことに気付いてしまう。
(……ちょ、ちょっと待って? 雷魔法・被ダメージ半減!?)
うわ、最悪だっ……。雷魔法の耐性があるんだ。しかも、被ダメージ半減。
魔法防御力も高いから、10倍ダメージのバフがあっても《サンダーストライク》を4回撃たないと倒せない計算だ。
(なら、ここは《プラズマオーディン》 を2回放って倒した方がいいのか? いや……MPの節約をするなら、ここは《プラズマオーディン》を1発撃ってから、《サンダーストライク》で仕留めた方が……)
そんなことで、しばらく悩んでしまっていると
ドドドドドドドドドッ!
「!?」
突如、方向転換をしたマザーヴァファローが、こちらに向かってものすごい勢いで突進してくる。
隠れていることがバレたんだ!
逃げようとして柱の影から飛び出すも、予想以上に相手の動きが速いことに気付く。
結局、バックラーを構えて防御の姿勢を作るも、《あばれ倒し》をもろに食らってしまった。
「ダシャーーーーッ!」
ドンッ!
「っぐぉ!?」
そのまま吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「……ッ、いったぁ……!?」
が、それで悲観しているような状況じゃない!
マザーヴァファローに備わっているバフを思い出す。
(物理攻撃・与ダメージ2倍! 次に同じ攻撃を受けたらマズいッ……!)
水晶ディスプレイを確認している余裕はなかったけど、おそらく今の攻撃でHPの半分は持っていかれたはず。
早く魔法で倒さないと……!
相手との距離を確認しながら、水晶ジェムを急いで取り出すと、すぐに魔法発動を唱える。
けど、その隙を見せたのがマズかった。
ドドドドドドドドドッ!
後方通路から同じような跫音を響かせて突進して来るものの存在に、一瞬気付くのが遅れてしまう。
しまった!と思った瞬間には、すべてが遅かった。
「ダシャーーーーッ!」
ドンッ!
「っがあ゛ぁ!?」
背中越しに2体目のマザーヴァファローから攻撃を受けて、僕は再び吹き飛ばされてしまう。
そうしているうちにも、前方のマザーヴァファローはこちらに照準を合わせてきて……。
(マズい、殺されるッ!)
頭の中が真っ白になる。迷っているヒマはなかった。
「……《瞬間移動》……!」
シューーン!
大声でそう唱えると、間一髪のところでダンジョンから脱出することに成功する。
「……ぜぇ、はぁっ、うぇ……ぐえぇぇっ……」
岩場に倒れ込んで大きく息を吐き出す。
本当に死ぬかと思ったぁ……。
すぐにビーナスのしずくに触れてステータスを確認すると、残りのHPはなんと3!
クリティカルヒットでも食らっていたら、まず間違いなく死んでいたよ……。
ギルムを楽に討伐できたことで、有頂天になっていた自分が恥ずかしい。
「……今日中にクリアとか、調子に乗りすぎでしょ、僕……」
<バフトリガー>をONにしてもこれなんだ。
やっぱり、C級ダンジョンは簡単に攻略できる所じゃないってことを、僕は改めて認識した。
勢いよく放たれた渦雷がギルム2体に直撃する。
「「ギイイィッ!?」」
悲鳴を上げながら、ギルムたちは焼け焦げた状態で倒れた。
「これで、このフロアに降りて7体目!」
風穴から突風が吹き上がるタイミングを待ち、ギルムの亡骸を<アブソープション>で吸い上げて討伐完了!
グループ攻撃ってこんなにも効率がいいんだ。ここまで難なく進むことができている。
おかげでLPも最高値を更新中。
「ふふふ、まさかこんな簡単にLP100を越えちゃうなんてね~」
LP200あれば目標だったA級ダンジョンにも挑めるから、なんとかそのラインをキープしたところ。
「にしても、幸運値も100を越えてると、敵もめちゃくちゃアイテムドロップするんだなぁ」
通路で拾った物も合わせると、相当な量だ。
いちいちアイテムを魔法ポーチの中に入れるのも面倒だから、こういう時、荷物持ちのメンバーがいてくれると助かるんだけど……。
(――ッ)
その瞬間、荷物持ちとしてパーティーに参加していた当時の記憶が突然甦ってくる。
あの頃の僕は、セシリアが見つけたアイテムを拾ったり、言われた通りアイテムを使うことしかできなかった。貢献しているってそう信じて頑張っていたけど、セシリアにとっては役立たずでしかなかったに違いない。
国から多額の助成金を貰えるから、指南役を引き受けて、僕とパーティーを組んでいたに過ぎなかったんだ。
〝冗談なんかじゃないわよ、ナード。ずっと足手まといだと思ってたわ〟
〝気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!〟
「……っ、はぁ…………はぁっ……」
嫌な汗が全身から吹き出して、だらだらと流れ落ちてくる。
ダンジョンの壁にもたれかかって呼吸を整えると、なんとか落ち着きが戻ってきた。
毎回、そうだ……。
あの日のことを少しでも思い出すと、動悸が激しくなって、気持ち悪くなって、倒れそうになる。
僕にとってあれは、心を壊すのに十分な出来事だった。
〝学校であなたといてあげてたのだって、すべて金のためだから〟
「……!」
悔しさで涙がこぼれそうになるのを、歯噛みして堪える。
これまでの学生生活のすべてが否定されたような気分だった。
でも……セシリアの言葉は事実なんだ。
僕はいつもダコタを追い払ってくれることに感謝していたけど、セシリアがそばにいてくれたのは『お父様とお母様の言いつけ』ってだけで、実際はあれも周囲へ向けたパフォーマンスであった可能性が高い。
孤児のでき損ないの面倒をしっかりと見ていますよっていうアピールだ。
事実、セシリアとダコタは恋仲だったんだ。
追い払うような関係のはずなのに、なぜか2人ともすごく仲良さそうだったし。
ずっと疑問に思っていたけど、僕はそれに気付かないフリをしていた。
明らかにおかしいって分かったのは、【鉄血の戦姫】に、セシリアがダコタを引き入れてからだ。
あの日、ダコタがセシリアの腰に手を回した瞬間、僕はすべてを悟った。
ずっと騙されていたんだって。
それなのに、僕はセシリアに淡い恋心を抱いていたりして……。
自分がとても惨めで情けない存在に思えてくる。
(……いや、やめよう。もうあいつらと僕は何の関係もないんだ)
今、僕はソロでC級ダンジョンに挑めるほどになった。魔獣だって、魔法や技を使って倒せるようになったんだ。
アイテムを出し入れするしかできなかった以前の僕とは違う。
パンパンと両手で顔を叩いて嫌な記憶を追い出すと、僕は再びダンジョンを進み始めた。
◇
それからさらに、3体のギルムを《サンダーストライク》で倒して、下のフロアへと足を踏み入れる。
ビューーーンッ! ビューーーンッ!
「っ、おっと……」
思わず足がすくわれそうになり、なんとか踏ん張って堪える。
心なしか風穴から吹き上がってくる風が強くなっているように感じた。
止む瞬間を狙って通路を進んでいくと、奥の開けた空間に、ドタドタと駆け回る魔獣の跫音が聞こえてくる。
かなり強靭な足腰を持っているみたいだ。
突風が吹き荒れるこのダンジョンにおいて、ここまではっきりと物音が聞こえるのは珍しい。
少しだけ警戒レベルを上げつつ、音のする方へとそっと足を進めてみることにした。
ドンッ! ドンッ!
「な、何やってるんだ? あれ……」
柱の影に隠れて物音のする方へ目を向ける。
視界に飛び込んできたのは、自身の背丈ほどの長い両角を持つ魔獣が、壁に向かって激突を繰り返す姿だった。
巨大な鉄球のように重そうな下半身をしているっていうのに、とても俊敏に動き回っている。
牛のような見た目をした魔獣で、ギラギラと大きく見開かれた目は、トラウマになりそうなほどの威圧感があった。
ドンッ! ドンッ!
それが習性なのか、牛型の魔獣は長い両角を使って壁に体当たりを繰り返している。
相手の正体が分からないと戦い方も分からないから、ひとまず《分析》を使ってみることに。
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[マザーヴァファロー]
LP18
HP660/660
MP20/20
攻65
防55
魔攻35
魔防80
素早さ105
幸運10
攻撃系スキル:<体術>-《あばれ倒し》
状態:
物理攻撃・与ダメージ2倍
雷魔法・被ダメージ半減
-----------------
(マザーヴァファローっていうんだ)
下層の魔獣だから当然と言えば当然だけど、ギルムより間違いなく強い。
目を見張るのは、高い素早さだ。
<バフトリガー>の恩恵を受けている僕と、ほとんど変わらない素早さを持っている。
ギルムの時のように、ヒットアンドアウェイを使いながら、ウルフダガーで戦うのは難しいに違いない。
ここはやっぱり遠距離からの魔法一択だ。
が。
すぐにそれも難しいことに気付いてしまう。
(……ちょ、ちょっと待って? 雷魔法・被ダメージ半減!?)
うわ、最悪だっ……。雷魔法の耐性があるんだ。しかも、被ダメージ半減。
魔法防御力も高いから、10倍ダメージのバフがあっても《サンダーストライク》を4回撃たないと倒せない計算だ。
(なら、ここは《プラズマオーディン》 を2回放って倒した方がいいのか? いや……MPの節約をするなら、ここは《プラズマオーディン》を1発撃ってから、《サンダーストライク》で仕留めた方が……)
そんなことで、しばらく悩んでしまっていると
ドドドドドドドドドッ!
「!?」
突如、方向転換をしたマザーヴァファローが、こちらに向かってものすごい勢いで突進してくる。
隠れていることがバレたんだ!
逃げようとして柱の影から飛び出すも、予想以上に相手の動きが速いことに気付く。
結局、バックラーを構えて防御の姿勢を作るも、《あばれ倒し》をもろに食らってしまった。
「ダシャーーーーッ!」
ドンッ!
「っぐぉ!?」
そのまま吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「……ッ、いったぁ……!?」
が、それで悲観しているような状況じゃない!
マザーヴァファローに備わっているバフを思い出す。
(物理攻撃・与ダメージ2倍! 次に同じ攻撃を受けたらマズいッ……!)
水晶ディスプレイを確認している余裕はなかったけど、おそらく今の攻撃でHPの半分は持っていかれたはず。
早く魔法で倒さないと……!
相手との距離を確認しながら、水晶ジェムを急いで取り出すと、すぐに魔法発動を唱える。
けど、その隙を見せたのがマズかった。
ドドドドドドドドドッ!
後方通路から同じような跫音を響かせて突進して来るものの存在に、一瞬気付くのが遅れてしまう。
しまった!と思った瞬間には、すべてが遅かった。
「ダシャーーーーッ!」
ドンッ!
「っがあ゛ぁ!?」
背中越しに2体目のマザーヴァファローから攻撃を受けて、僕は再び吹き飛ばされてしまう。
そうしているうちにも、前方のマザーヴァファローはこちらに照準を合わせてきて……。
(マズい、殺されるッ!)
頭の中が真っ白になる。迷っているヒマはなかった。
「……《瞬間移動》……!」
シューーン!
大声でそう唱えると、間一髪のところでダンジョンから脱出することに成功する。
「……ぜぇ、はぁっ、うぇ……ぐえぇぇっ……」
岩場に倒れ込んで大きく息を吐き出す。
本当に死ぬかと思ったぁ……。
すぐにビーナスのしずくに触れてステータスを確認すると、残りのHPはなんと3!
クリティカルヒットでも食らっていたら、まず間違いなく死んでいたよ……。
ギルムを楽に討伐できたことで、有頂天になっていた自分が恥ずかしい。
「……今日中にクリアとか、調子に乗りすぎでしょ、僕……」
<バフトリガー>をONにしてもこれなんだ。
やっぱり、C級ダンジョンは簡単に攻略できる所じゃないってことを、僕は改めて認識した。
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