復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ

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第19話

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「はぁ、けっこうMP消費しちゃったな」

 水晶ディスプレイに表示された自分のステータスを見て、ちょっとだけため息が漏れる。

-----------------

[ナード]
LP18
HP39/50
MP14/30
攻6(+10)
防6(+5)
魔攻6
魔防6
素早さ6
幸運10
ユニークスキル:
<アブソープション【スロットβ】>
<バフトリガー【OFF】>
属性魔法:《ファイヤーボウル》
無属性魔法:
攻撃系スキル:<片手剣術>
補助系スキル:《分析アナライズ》《投紋キャスティング
武器:獣牙の短剣
防具:毛皮の服
アイテム:
マジックポーション×1、水晶ジェム×12
魔獣の卵×1
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:0アロー
所属パーティー:叛逆の渡り鳥バードオブリベリオン
討伐数:E級魔獣80体
状態:

-----------------

 幸先よくダンジョンの上層階で、おそらく最後の1体と思われるスライムを狩ったところまではよかったんだけど、予想以上にクインペリーと交戦してしまった。

 なるべくクインペリーとの戦闘は避けて最下層まで降りるつもりだったのが、結局追い回されたりして何度かバトルするはめに。

 最初の3体は獣牙の短剣でなんとか倒せたけど、想像以上に体力を消耗することに気付いて、次のバトルからは《ファイヤーボウル》で倒しちゃったし……。

 こういう時に限ってアイテムを拾うこともなくて、かなりギリギリの状態で最下層へと到達してしまう。

 【グラキエス氷窟】最下層――つまりビッグデスアントがいるフロアだ。

 ここは、上層のフロアに比べて明らかに温度が低く薄暗かった。
 冷気の質がこれまでと異なることにすぐ気付く。ボス魔獣のいるフロアはいつもこんな感じで異質だったりする。
 
 もう目が慣れたと思っていたけど、久しぶりに水晶ディスプレイの明りを点灯させながら先を進むことに。
 氷柱の透明度もこれまでより増しているように思えて、ある種の神秘的で美しい光景がそこには広がっていた。

 ザクッ、ザクッ、ザクッ。

 凍結した氷面を踏みしめながら、ゆっくりと歩いていく。
 ……てか、めちゃくちゃ心細いなこれ。不安がすごいんだけど。

 早くビッグデスアントが現れますようにと、そんなことを祈りながら歩いていると

「っ!」
 
 遠くの方でパリッパリッと氷面が軋む音が聞こえてくる。

(ビッグデスアント……?)
 
 いざボス魔獣がこのフロアにいるのだということが分かると、急に脚が震え始めてしまう。

(お、落ちつくんだ……。シミュレーション通りすれば、問題ないはず……)

 まずは獣牙の短剣で斬りかかって、相手が怯んだところで《ファイヤーボウル》を1発撃ち込む。
 それを何度か繰り返していけば、必ず倒せるはずだ。

(大丈夫、僕なら絶対にできる!)

 ノエルのためにも、今日なんとしても【グラキエス氷窟】をクリアするんだ。
 そう気持ちを強く持つと、僕は音のする方へ近付いていく。





 パリッパリッ、パリッパリッ。

 近付くにつれて、軋む音はさらに大きくなっていった。
 どうやらそれは、この先にある開けた空間から聞こえてくるみたいだった。

 もうビッグデスアントがいるのは間違いない。
 数百年前から冒険者シーカーと何度も対峙してきたこのダンジョンの主が、すぐ目の前にいるんだ……!

 密集して立つ氷柱の影に隠れながら、開けた空間へゆっくりと目を向ける。
 すると、視界に蠢く巨大な黒い手足が飛び込んできた。

(うっ!?)

 思わず口元に手を当てる。
 
 これまで何度もボス魔獣の姿を見て慣れてきたつもりだったんだけど……。
 ビッグデスアントは、書物のイラストで見たよりも実物はかなり歪でグロテスクだった。

 背丈は成人男性の2倍ほどあって、6つの長い手足を踏みつけながら歩いている。
 胸部は萎れたように細長く、それでいて腹部は樽のように丸々と膨れ上がっていた。

 鋭い触覚を左右に揺らして、赤くただれたギラギラの4つ目をぐるんぐるんと回転させている。
 正直、直視するのはかなりキツい……。
 これまで見てきた魔獣の中でもダントツで気持ち悪かった。

(こんなヤツを僕1人で相手にしなきゃいけないの!?)

 これまでは、ボス魔獣が相手でも後方でアイテム支援をしていただけだったから、自分1人の力で倒さなきゃいけないって考えると、途端にプレッシャーで押し潰されそうになってくる。

 なにより敵の威圧感に、完全に委縮してしまっていた。

(と、とにかく……最初は短剣だ……。あの図体なら、懐に入り込んでしまえば何度か攻撃を当てられるはずだから、その次に魔法を放って……)

 ホルスターから抜き取り、獣牙の短剣のハンドルを握ると、開けた空間に慎重に足を忍ばせる。

 ビッグデスアントは、まだこちらの存在に気付いていないみたいだ。
 パリッパリッと、凍結した氷面を踏みつけ、我がもの顔でのったりとフロアを歩いている。

(相手が背中を向けたら、一気に走って懐に入るんだ)

 周囲は氷壁に囲まれて寒いはずなのに、先程から尋常でないほどの汗が全身から吹き出ていた。

 ハンドルを握る手も、べったりと汗ばんでいる。
 いつでも駆け出せる体勢のまま、息を殺して敵の動きを注視していると。

「……?」

 突如、異変に気付く。
 ビッグデスアントの足元が、光を帯びて発光していたのだ。
 
(ま、魔法陣っ!?)

 魔獣は警戒している時以外、魔法陣を作ることはない。
 つまり、相手は……。

(こっちの存在に気付いたんだ!)

 ――その時だった。
 
 少し目を離した隙に、あれだけ巨大なビッグデスアントの姿が視界から消えてしまう。

「!?」

 次の瞬間、予期せぬところから大量の氷瀑が襲いかかってきて

 シュドーン!!

「うあぁああぁっ!?」

 それが思いっきり直撃する。

 《フリーズウォーター》で先制攻撃を仕掛けてきたビッグデスアントは、こちらをあざ笑うかのように、底気味悪い雄たけびを上げていた。

 さっきまで気付いていないフリをしていたのはカモフラージュだったんだ……!

「ギュギャアアアッッ!」

「っ、うぐ……」

 氷柱に手をついてなんとか立ち上がると、僕は短剣を構えた。

 敵がこちらと同じように、魔法が使えるのを完全に失念してしまっていた。
 魔法攻撃力も低かったから、甘く見ていたんだ。

 魔獣が魔法を使う場合、発動方法は人の場合と異なり、自身の獣液を用いる。
 獣液を地表に垂らし、魔法陣が足元に浮かび上がったら、いつでも魔法が発動できる状態となるから、十分に警戒しなくちゃいけないって、学校の授業でも散々習ってきたはずなのに……。

 パリッパリッ、パリッパリッ。

 ビッグデスアントは変わらず、のったりとした足取りで広いフロアを徘徊している。
 障害物がほとんどない場所に出て来てしまったため、お互いが相手の出方を窺うような体勢となってしまっていた。

 相手に気付かれないように、さりげなくビーナスのしずくに触れて、自身のステータスに目を落とす。

(残りHP9!?)

 ポーションも持っていないこの状況でこれは非常にマズいっ!
 次に同じ攻撃を受けたら、間違いなく死んじゃうよ……!

 不気味なボス魔獣を目の前にして、僕は生まれて初めて死の恐怖と対峙していた。
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