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第18話
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「ノエル、どこも痛くない?」
「うん……。もうだいじょーぶ、ありがとお兄ちゃん」
ポーションを使って傷を治すと、ノエルをベッドに寝かせる。
昨日、たまたまポーションを1つ拾っておいてよかった。
「ごめん。僕が家賃を払い忘れたばかりに、こんな風に怪我させることになっちゃって……」
「ううん。ノエルも忘れちゃってたから、お兄ちゃんが悪いんじゃないよ。それに、リジテさんもあんな怒っておかしいって。暴力振るうなんて最低だよ、あの人っ!」
その点に関しては僕も同感だ。
たしかに家賃の支払いが遅れたのは、本当に申し訳ないって思うけど、だからって暴力を振るってもいいって話になるわけじゃない。
「うん。でも、たしかに支払い期限は過ぎちゃったわけだから」
「お兄ちゃん……。もし気を遣ってくれてるんなら、ノエルは大丈夫だよ? ちょっとの間なら、外で生活することだってできると思うし」
「いや、ノエルがそんな心配しなくても大丈夫だよ。僕、今日中にダンジョンをクリアして、リジテさんに家賃を払うから」
「えっ……。でも、さっきはクリアは明日になるって」
「……」
「けど、本当にクリアすることができたら……100万アロー貰えるって話なんだよね?」
ノエルの言っていることは正しい。
たしかに、B級ダンジョン【テネブラエ呪城】をクリアしたら、分け前として100万アロー貰うって約束だったんだ。
でも、結局それも無くなってしまって。
「それだけのお金があれば、このアパートを出ることもできるのかな……」
どこか儚げにノエルがそんなことを口にする。
それを聞いて、僕の胸ははち切れそうになった。
(パーティーを追放されてなきゃ、今頃、もっといいアパートへ引っ越すことだって、できていたかもしれないんだ)
そう思うと、僕はこれ以上ノエルに対して嘘をつき続けることができなくなっていた。
「……あのさ、ノエル。実はもう1つ、謝らなくちゃいけないことがあるんだ」
「もう1つ?」
「うん……。実は僕、【鉄血の戦姫】から追い出されちゃって」
「え、追い出されたって……」
「これまで嘘ついてしまってごめん! ここ最近は、ずっとソロでE級ダンジョンに入ってたんだ。だから、ノエルの言う100万アローも手に入らなくて……その、本当にごめんなさいっ……!」
大きく失望させてしまったかもしれない。
僕は、奥歯をグッと噛み締めて頭を下げ続けた。
E級ダンジョンの初回クリア報酬である木霊のホットストーンを換金したとしても10万アローだ。
B級ダンジョンの取り分であった100万アローの10分の1にすぎない。
たとえ【グラキエス氷窟】をクリアできたとしても、このアパートから出ることはできないんだ。
自分がとても情けない存在に思えてくる。
ノエルはこんなにも、僕に期待してくれていたっていうのに。
――でも。
そんなノエルから返って来たのは、予想外の言葉だった。
「見る目ないよ、セシリアちゃん」
「!」
「お兄ちゃんをパーティーから追い出すなんてさぁ。だってそうだよね? お兄ちゃん、こ~んな強くてかっこいいのに! さっきもほんとかっこよかったよー? おとぎ話に出てくる勇者様みたいだった♪」
「ノエル……」
「だから、そんなことで謝らないで? べつにソロでも関係ないよ。だって、お兄ちゃんは最強だし、すぐに有名なタイクーンになるって! 誰がなんて言おうと、ノエルだけはぜーーったいにお兄ちゃんの味方なんだから!」
実際に、僕がパーティーでどんな役割をしていたのかをノエルは知らない。
ただ、アイテムを出し入れすることしかできない姿を見たことがないから、いつも僕のことを過大に評価して応援してくれていた。
ノエルの期待に応えられない自分が情けなくて、いつも自分が嫌だったけど……。
今の僕なら、ノエルの期待に応えられるかもしれない。
透き通るような白い手をギュッと握り締める。
言葉は自然と溢れ出てきた。
「ありがとう。お兄ちゃん、必ずノエルのことを幸せにするから」
はっきりと目を見て真剣にそう伝える。
それを聞いた瞬間、ノエルは急に顔を真っ赤にして、手をぱたぱたと振り始めた。
「あわわっ~~!? ちょ、ちょっと待って! それってなんか愛の告白みたいだよぉっ!?」
「へ? 愛の告白?」
「恥ずかしいってそゆの……。ノエルたち兄妹なんだし! まだ早いっていうか……いや、ちがうちがうっ! 早いとかじゃなくてぇぇ~~!? えとえと……とにかく、今日はゆっくり休んでるからぁ! お兄ちゃんは、ハイ行ってらっしゃいぃっ!」
バタンッ!
なぜか早口で追い出されてしまう。
「なんか、すごく勘違いされた気がするんだけど」
めちゃくちゃ恥ずかしい……。
けど、多分想いは伝わったはずだ。心なしか気分も軽くなる。
それから自分の部屋に戻って支度をすると、僕は【グラキエス氷窟】へ向けて出発した。
◇
テクテクテク……。
城下町の通りを歩きながら考える。
(今日中になんとかダンジョンをクリアして、木霊のホットストーンを換金しないと)
あのリジテさんの感じだと、明日まで待ってくれるとはやっぱり思えなかった。
領主様は気まぐれな人だし、どんな判決が下るか分からない。
なんとしても、今日中に家賃を渡さなくちゃ……。
(どのみち所持金も底を尽きかけて、クエストの期限も迫ってるんだ。明日とか甘いことは言っていられないよね)
昨日の夜に考えた予定からは外れてしまったけど、今の状態でもビッグデスアントを倒すのが不可能なわけじゃない。
《ファイヤーボウル》でも、8回当てれば倒すことができるんだ。
ただ、攻撃魔法だけを頼りに、ボス魔獣に挑むのは少しだけ心もとなさがあった。
そろそろ武器の1つくらい持っておくべきなのかも。
[冒険者の鉄則 その7]
ボス魔獣には最大の準備をして臨むべし。
何が起こるか分からない以上、万が一に備えて、攻撃魔法以外の選択肢も考えておく必要があった。
「うん、そうだな。一番オーソドックスな<片手剣術>を覚えておこう」
人通りの邪魔にならないところへ一度避けると、ビーナスのしずくに触れて水晶ディスプレイを立ち上げる。
『LP10を消費して<片手剣術>を習得します。よろしいですか(Y/N)?』
『(Y)』
『<片手剣術>を習得しました』
「これでよしと……」
アナウンス画面を確認してから、水晶ディスプレイを閉じる。
その後、道具屋と武器屋に寄って準備を万全のものとした。
-----------------
◆売却リスト
・魔獣の卵×5=1,500アロー
◆購入リスト
・獣牙の短剣×1=1,700アロー
・マジックポーション×1=1,000アロー
・水晶ジェム×15=1,500アロー
-----------------
これで、現在の所持金はすべて使い切ってしまった。
もう今日中に【グラキエス氷窟】をクリアするしかない状況に追い込んで、自ら奮い立たせる。
あと僕がすべきことは、ビッグデスアントを倒すだけだ。
「うん……。もうだいじょーぶ、ありがとお兄ちゃん」
ポーションを使って傷を治すと、ノエルをベッドに寝かせる。
昨日、たまたまポーションを1つ拾っておいてよかった。
「ごめん。僕が家賃を払い忘れたばかりに、こんな風に怪我させることになっちゃって……」
「ううん。ノエルも忘れちゃってたから、お兄ちゃんが悪いんじゃないよ。それに、リジテさんもあんな怒っておかしいって。暴力振るうなんて最低だよ、あの人っ!」
その点に関しては僕も同感だ。
たしかに家賃の支払いが遅れたのは、本当に申し訳ないって思うけど、だからって暴力を振るってもいいって話になるわけじゃない。
「うん。でも、たしかに支払い期限は過ぎちゃったわけだから」
「お兄ちゃん……。もし気を遣ってくれてるんなら、ノエルは大丈夫だよ? ちょっとの間なら、外で生活することだってできると思うし」
「いや、ノエルがそんな心配しなくても大丈夫だよ。僕、今日中にダンジョンをクリアして、リジテさんに家賃を払うから」
「えっ……。でも、さっきはクリアは明日になるって」
「……」
「けど、本当にクリアすることができたら……100万アロー貰えるって話なんだよね?」
ノエルの言っていることは正しい。
たしかに、B級ダンジョン【テネブラエ呪城】をクリアしたら、分け前として100万アロー貰うって約束だったんだ。
でも、結局それも無くなってしまって。
「それだけのお金があれば、このアパートを出ることもできるのかな……」
どこか儚げにノエルがそんなことを口にする。
それを聞いて、僕の胸ははち切れそうになった。
(パーティーを追放されてなきゃ、今頃、もっといいアパートへ引っ越すことだって、できていたかもしれないんだ)
そう思うと、僕はこれ以上ノエルに対して嘘をつき続けることができなくなっていた。
「……あのさ、ノエル。実はもう1つ、謝らなくちゃいけないことがあるんだ」
「もう1つ?」
「うん……。実は僕、【鉄血の戦姫】から追い出されちゃって」
「え、追い出されたって……」
「これまで嘘ついてしまってごめん! ここ最近は、ずっとソロでE級ダンジョンに入ってたんだ。だから、ノエルの言う100万アローも手に入らなくて……その、本当にごめんなさいっ……!」
大きく失望させてしまったかもしれない。
僕は、奥歯をグッと噛み締めて頭を下げ続けた。
E級ダンジョンの初回クリア報酬である木霊のホットストーンを換金したとしても10万アローだ。
B級ダンジョンの取り分であった100万アローの10分の1にすぎない。
たとえ【グラキエス氷窟】をクリアできたとしても、このアパートから出ることはできないんだ。
自分がとても情けない存在に思えてくる。
ノエルはこんなにも、僕に期待してくれていたっていうのに。
――でも。
そんなノエルから返って来たのは、予想外の言葉だった。
「見る目ないよ、セシリアちゃん」
「!」
「お兄ちゃんをパーティーから追い出すなんてさぁ。だってそうだよね? お兄ちゃん、こ~んな強くてかっこいいのに! さっきもほんとかっこよかったよー? おとぎ話に出てくる勇者様みたいだった♪」
「ノエル……」
「だから、そんなことで謝らないで? べつにソロでも関係ないよ。だって、お兄ちゃんは最強だし、すぐに有名なタイクーンになるって! 誰がなんて言おうと、ノエルだけはぜーーったいにお兄ちゃんの味方なんだから!」
実際に、僕がパーティーでどんな役割をしていたのかをノエルは知らない。
ただ、アイテムを出し入れすることしかできない姿を見たことがないから、いつも僕のことを過大に評価して応援してくれていた。
ノエルの期待に応えられない自分が情けなくて、いつも自分が嫌だったけど……。
今の僕なら、ノエルの期待に応えられるかもしれない。
透き通るような白い手をギュッと握り締める。
言葉は自然と溢れ出てきた。
「ありがとう。お兄ちゃん、必ずノエルのことを幸せにするから」
はっきりと目を見て真剣にそう伝える。
それを聞いた瞬間、ノエルは急に顔を真っ赤にして、手をぱたぱたと振り始めた。
「あわわっ~~!? ちょ、ちょっと待って! それってなんか愛の告白みたいだよぉっ!?」
「へ? 愛の告白?」
「恥ずかしいってそゆの……。ノエルたち兄妹なんだし! まだ早いっていうか……いや、ちがうちがうっ! 早いとかじゃなくてぇぇ~~!? えとえと……とにかく、今日はゆっくり休んでるからぁ! お兄ちゃんは、ハイ行ってらっしゃいぃっ!」
バタンッ!
なぜか早口で追い出されてしまう。
「なんか、すごく勘違いされた気がするんだけど」
めちゃくちゃ恥ずかしい……。
けど、多分想いは伝わったはずだ。心なしか気分も軽くなる。
それから自分の部屋に戻って支度をすると、僕は【グラキエス氷窟】へ向けて出発した。
◇
テクテクテク……。
城下町の通りを歩きながら考える。
(今日中になんとかダンジョンをクリアして、木霊のホットストーンを換金しないと)
あのリジテさんの感じだと、明日まで待ってくれるとはやっぱり思えなかった。
領主様は気まぐれな人だし、どんな判決が下るか分からない。
なんとしても、今日中に家賃を渡さなくちゃ……。
(どのみち所持金も底を尽きかけて、クエストの期限も迫ってるんだ。明日とか甘いことは言っていられないよね)
昨日の夜に考えた予定からは外れてしまったけど、今の状態でもビッグデスアントを倒すのが不可能なわけじゃない。
《ファイヤーボウル》でも、8回当てれば倒すことができるんだ。
ただ、攻撃魔法だけを頼りに、ボス魔獣に挑むのは少しだけ心もとなさがあった。
そろそろ武器の1つくらい持っておくべきなのかも。
[冒険者の鉄則 その7]
ボス魔獣には最大の準備をして臨むべし。
何が起こるか分からない以上、万が一に備えて、攻撃魔法以外の選択肢も考えておく必要があった。
「うん、そうだな。一番オーソドックスな<片手剣術>を覚えておこう」
人通りの邪魔にならないところへ一度避けると、ビーナスのしずくに触れて水晶ディスプレイを立ち上げる。
『LP10を消費して<片手剣術>を習得します。よろしいですか(Y/N)?』
『(Y)』
『<片手剣術>を習得しました』
「これでよしと……」
アナウンス画面を確認してから、水晶ディスプレイを閉じる。
その後、道具屋と武器屋に寄って準備を万全のものとした。
-----------------
◆売却リスト
・魔獣の卵×5=1,500アロー
◆購入リスト
・獣牙の短剣×1=1,700アロー
・マジックポーション×1=1,000アロー
・水晶ジェム×15=1,500アロー
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これで、現在の所持金はすべて使い切ってしまった。
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