復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
上 下
16 / 49

第16話

しおりを挟む
 それからノエルと久しぶりにまともな夕食を取った。

 これまでお金を切り詰めてきたけど、さすがにお腹が減って限界だったし、ここ最近は軽いめまいもしてたから、結果的にはきちんと夕食を取ってよかったって思う。

 オートミールとサラダとスープ。
 お馴染みのメニューだったけど、久しぶりに口に入れると本当においしく感じられるから不思議だ。

 あと、今日のノエルは心なしか、いつもよりも笑顔が多かったからこっちまで嬉しくなっちゃった。昨日は1人でパンをかじっていただけだから、なおさらそう感じたのかも。
 案外こういう些細なことが、幸せだったりするのかもしれない。

「それじゃお兄ちゃん、ノエルはもう寝るね~」

「ああ、うん」

 おやすみと、挨拶しようとしたところで思い出した。

「……あ、その前に。1つお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

「どしたの?」

「ノエルさ、シルワにあるダンジョンの詳細が書かれた本持ってたでしょ? あれ、ちょっと見せてほしいんだけど」

「うん、いいよー♪ ちょっと待ってて~」



 ◇



 ノエルから受け取った書物を片手に自分の部屋へ戻る。

「けっこう重い……」

 厚さもかなりある。
 それもそのはずで、この書物にはシルワが管轄するすべてのダンジョンの詳細が細かく記されているんだ。

 実はこれ、ヴィスコンティ孤児院が所蔵していた物なんだけど、ノエルが毎日のように読んでいたから、引っ越しと同時に院長がプレゼントしてくれたっていう経緯があって、すごく貴重な物だったりする。
 少なくとも、城下町の市場で出回っているような物じゃない。

 僕の目当ては【グラキエス氷窟】ボス魔獣のデータだ。
 少し情報が古いんだけど、そのダンジョンに出現する魔獣は、数百年前から変わっていないって言われているから多分問題ないはず。

「えっと……グラキエス氷窟、グラキエス氷窟……っと、あった」

 膨大なE級ダンジョンの項目の中から目当てのページを探り当てる。
 【グラキエス氷窟】の概要は、このように記述されていた。

 『内部は薄暗く、氷壁で覆われているため少し肌寒いが、広い通路で構成されているため、魔獣とも戦いやすいダンジョンである。だが、シルワ王国が管理下に置くE級ダンジョンの中では、やや難易度が高いと言える。その理由は、大魔獣であるビッグデスアントの強靭さによる。成人男性の2倍ほどある巨大な蟻の姿を模した魔獣で、高い攻撃力を武器に素早く先制を仕掛けてくるので、注意が必要である』

「ビッグデスアントか」

 ページをめくりつつ、僕は学校の授業を思い出していた。

 E級ダンジョンのボス魔獣の中には、想像よりも遥かに強い相手もいて、E級だからって油断している冒険者シーカーを食い物にするいわゆる初心者狩りのボス魔獣が存在するって、メリアドール先生も言ってたっけ。
 たしか、その中にビッグデスアントの名前があった。

 そのままステータスのページを確認してみる。

-----------------

[ビッグデスアント]
LP25
HP710/710
MP30/30
攻50
防15
魔攻6
魔防6
素早さ25
幸運10
属性魔法:《フリーズウォーター》
状態:火魔法・被ダメージ2倍

-----------------

 さすがダンジョンの主といったところだろうか。
 これまで戦ってきたスライムやクインペリーとは、比べ物にならないくらい強い。
 なんといっても目を引くのは、概要にもあった高い攻撃力だ。

「物理攻撃特化の魔獣だな。今、僕の防御力は1だから……攻撃を受けたらひとたまりもないぞ、これは」

 というか、確実に即死だ。

 ソロでダンジョンに挑む最大の難点は、仲間に蘇生で生き返らせてもらえないこと。
 即死した後は、そのまま魔獣に食い散らかされて、肉体はめちゃくちゃにされてしまう。
 それはつまり、本当の意味での〝死〟を意味している。

 だから、ソロを嫌がる冒険者は意外と多い。
 タイクーンに頭を下げてでも、なんかとパーティーに入ろうとする冒険者がいるのは、そのためだったりする。

「今あるLPを防御力に全振りしてもいいんだけど。でも、相手の素早さが鬼のように高いからなぁ。多分、連続で攻撃されて終わりだ。どうしよう……」

 そもそも、ボス魔獣にソロで挑むって段階で、幸運以外のパラメーターがオール1っていうのは非常にマズい。
 こんなもの、みすみす殺されに行くようなものだよ。

「せめて、パラメーターは少し上げておかないと」

 この先冒険者を続けていくのなら、人並みのステータスがなければ、いつかは魔獣にやられてしまう。
 せっかく<アブソープション>みたいなチートスキルを持っていても、死んだらそこでおしまいだ。

 やることは決まった。
 ひとまず、今あるLP40を5ずつ幸運以外のパラメーターに振り分けることに。
 水晶ディスプレイ上で指示を送って、再度ステータスを確認する。

-----------------

[ナード]
LP15
HP50/50
MP0/30
攻6
防6(+5)
魔攻6
魔防6
素早さ6
幸運10
ユニークスキル:
<アブソープション【スロットβ】>
<バフトリガー【OFF】>
属性魔法:《ファイヤーボウル》
無属性魔法:
攻撃系スキル:
補助系スキル:《分析アナライズ》《投紋キャスティング
武器:
防具:毛皮の服
アイテム:
ポーション×1、水晶ジェム×1、魔獣の卵×5
貴重品:ビーナスのしずく×1
所持金:2,700アロー
所属パーティー:叛逆の渡り鳥バードオブリベリオン
討伐数:E級魔獣73体
状態:

-----------------

「これでちょっとはマシになったかな」

 だけど、これでも成人の儀式で、一般的に受け取れるステータスよりもだいぶ低い。
 ただ、さすがにオール1のまま放置しておくよりはマシだったはず。

(どれだけ自分のステータスが終わってたかってことだよね)

 あの時、スライムに間違って<アイテムプール>を使っていなかったら、今頃、絶望の淵に立たされていたに違いない。本当に<アブソープション>さまさまだ。

「今日だって、LP40まで増やせたのも、<アブソープション>のおかげだし」

 ちなみにあれから3時間、ダンジョンを探索した結果はこんな感じだったりする。

-----------------

〇結果

◆魔獣討伐数
・クインペリー×12

◆拾得アイテム
・ポーション×1
・マジックポーション×1
・水晶ジェム×4
・青銅貨×2

◆ドロップアイテム
・魔獣の卵×4

-----------------

 まずはクインペリーを6体、《ファイヤーボウル》で倒した。
 その途中で運良くマジックポーションを1つ拾うことができたから探索を続行して、さらに下の階層でクインペリーを6体討伐することに成功。

 さすがに途中で帰りの道が分からなくなってきたから、《投紋》で目印を付けることも忘れなかった。

 でも、ソロってなかなか心細いものだったりするんだよなぁ。
 途中で会話できる相手もいないし、下の階層へ降りるにつれて冷気も厳しくなってきて、寒さが身に染み始めたから、3時間が限界だった。

 そんなことを考えながら、ビッグデスアントのステータスに再び視線を移すと、気になる項目が目に入り込んでくる。

「……あれ? 意外と魔法攻撃力と魔法防御力が低くないか? それに、火魔法・被ダメージ2倍って……弱点あるじゃん!」

 つまり、ビッグデスアントは火魔法に弱いということ。
 ちょうど《ファイヤーボウル》を習得していたから、これは想定外のラッキーと言えた。

 一応、残りの火魔法一覧を水晶ディスプレイに表示してみる。

-----------------

◆中級魔法-デモンズフレイム/消費LP50
内容:敵1体に火魔法ダメージ(中)を与える
威力120ダメージ/詠唱時間5秒
消費MP10

◆上級魔法-ファイナルボルケーノ/消費LP100
内容:敵1体に火魔法ダメージ(大)を与える
威力450ダメージ/詠唱時間7秒
消費MP30

-----------------

「ビッグデスアントの魔法防御力は6で、僕の魔法攻撃力もちょうど6になったから……。えっと、これだと《デモンズフレイム》を3回詠唱すれば倒せるんじゃないかな」

 被ダメージ2倍だから、1発当てると約240ダメージを与えることができる。
 つまり3回唱えれば、ビッグデスアントを倒すことができるって計算だ。

 もちろん、学校の授業で習った計算方法と実戦は異なる。そう簡単に3発も当てられないかもしれない。
 でも、僕にとっては、ボス魔獣を倒せるかもしれないって分かっただけでも大きな収穫だった。

 《デモンズフレイム》を習得するにはLPがあと36必要だから、クインペリーを18体倒せばいい。

「明日、ポーションと魔獣の卵を売り払えば、ぎりぎりマジックポーション2個と水晶ジェム17個が買えるか。うん……これで完璧だ」

 そして、その翌日にはビッグデスアントを倒す。
 なんとか10日以内に【グラキエス氷窟】をクリアすることができそうだ。

「そしたら、ノエルには本当のことを言わないとだよね」

 まだノエルは、僕がセシリアと一緒にパーティーを組んでいるものだって思っているわけだし。
 これ以上嘘をつき続けるのは、精神的にもキツい……。

 ちょっとだけ罪悪感を抱きながら、この日は眠りについた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...