少女騎士団

ヲトブソラ

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少女騎士団 最終話

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少女騎士団 第十三話
Das armee Spezialpanzerteam 3,
Mädchen ritter Panzer team 8."Hartriegel"
Drehbuch :Dreizehn.

…………………………

 わたしはあなたがいるなら、どんな世界であっても生きていけます。たとえ、ずっと雨が降っていて、身体が濡れ、寒さに震えようとも、たまに見せる不器用な微笑みが見れるなら、しあわせだ。でもね……、

 その逆なら、






 わたしはね。









…………………………

 対岸の町に入ると公国軍の新型機械化騎兵【ヤマネコ】が展開していた。わたしたちは後続のナタル中尉率いる三隊と、ティーチャーとともに行動するキンモクセイ隊、ノウゼンカズラ隊が到着するのを待たずしてヤマネコの撃破に乗り出した。身を隠した建物がヤマネコから放たれた弾丸に砕けいく。飛び散るコンクリートとレンガを見ながら、攻撃が止まるのを待っていた。一瞬、目の前が暗くなり「まずい!」と操縦桿とペダルを踏む。

バッ!ガンッ!!!

 激しい衝撃は、直接、脳を鉄の棒で殴るような鈍痛。その痛みとともに視界が暗闇に消える。鼻の中を痛みとともに走る血の匂い。眼を開けているはずなのに、そこには闇しか映らない視界。それでも「イリアルっ!!!走って!!!!」と叫んでいた。自分の声の後に入ってきた月華の警告音が、何を言いたいのかも分かる。視界がなくとも、どこに何のスイッチがあるのかも分かる。警告音を切り、視界が戻るまで出来ることは全部する。

…『姫っ!!お先っ!!!』

 イリアルが抜いていった。敵騎はわたしに撃ち込んだことで、すこし気を抜いているはずだ。五メートルでもいい、土煙や炎に隠れて距離を詰めていれば不意を突ける。ガンッ!と月華が揺れ『ナコっ!?大丈夫ーっ!!?』というファブの声と、ヴヴーーーーーーーーーーーーーッッ!!というガトリングガンの唸る音が聴こえた。イリアルを援護しながら、わたしの月華に寄せてくれたのか。

「大丈夫。だいぶ視界も戻ってきた。ふー…っ!行けるよ」

 ほんとうは、はじめて感じる頭痛がしていた。すごい悪寒も、吐き気も、空咳も、胃の中に何も入っていないのに吐こうする身体の反応。胃酸と唾液ばかり吐き出そうと反応する身体が震えている。

「行こう、ファブ!行こう!」

 あなたにつきしたがうときめたわたしは、



 とまっているわけにはいかないんだからね。

 右側モニタ全体と前面モニタの右半分がおかしい。映像処理機器か、月華の頭部右側に備え付けられたカメラに問題があるのか。ふふっ、でも、なんだか、わたしの見えない右眼みたい。

「これで、ちょうどいいや」

 町の奥に追い込んだ一騎のヤマネコにガトリングガンで弾を雨のように撃ち込む。機関から排出され飛んだ薬莢が落ちて道路で跳ね、自動車のガラスを割りボディを凹ませていく。ガトリングガンの温度を計器で確認すると、初冬を過ぎ十一月に入ろうとしているのに、機関の熱が外気で冷えていなかった。一度、ここから引いて、ショットガンに持ち替え……と思考したとき、ヤマネコの騎体一部が建物から五センチ出たのが見え、あ、来る、そう月華を遮蔽物に隠す。その遮蔽となったコンクリートの八〇センチメートル以上吹き飛ぶ。相当、大きな口径の弾頭が撃ち込まれたのだ。こんな距離で………?恐らく、あのヤマネコには、この距離で使用するはずの適切な装備がない。

 本当に何を考えているの?

 わたしたちを町の奥に誘い込むために、河で叩かなかった。そして、いまは町のなかだ。わたしたちの背中には河があって、またひとつ逃げにくい状況下に引き込んだんだよ。だから、畳みかけるような殲滅戦が始まるんじゃないの?

 これじゃあ、まるで………、



「死にに来ているみたいだ」

 いつか、ホムラ中尉が言っていたな「死にに来たのよ」って。誰かに与えてもらった、ひとりじめできる生命の使いかたが、これをするために………それが望みだったのかなあ。

 ショットガンに持ち変えて走った。ヤマネコは通りの真ん中で脚を広げ重心を落とし、超銃身、大口径のライフルを構えている。この距離をあんな装備で戦おうだなんて常軌を逸している。左眼を開いてヤマネコの動きを見る。三〇センチメートルほど重心が下がるのを確認した。両手の操縦桿を操作して、左右のペダルの踏み込み量を変えて月華の姿勢を崩した。大きな破裂音がし、ライフルの先で燃焼ガスに光が反射すると、ヒュッ!と空気を切り裂く音が耳元を通る。操縦桿のパッドを親指で触って、モニタに映るショットガン用のレティクルを操作。人差し指でトリガーを引きこむと、バンッ!と火薬が炸裂し、射線の向こうでヤマネコの右脚から火花と少量の白濁した動力液が吹き出して、わずかに騎体が傾いた。コッキングをしてケースが飛び、次射、ライフルに添えていた左腕を吹き飛ばした瞬間、迷子になったライフルから空に向け、弾が放たれた。

「ああああああああっ!!!!!!!」

 宙を跳び、ヤマネコのライフルを持つ右腕に向け、撃つ。吹き飛ぶ、右腕の肘から先を支持するパーツと垂れ下がるライフル。右脚を前方に出してヤマネコを蹴り倒すと、そのまま騎体に乗り支配下に置いた。

「もうっ!これ以上は!無駄だって!!早く手を挙げて出てこいっ!!コクピットを吹き飛ばすぞッッ!!!!」

 ショットガンのフォアエンドを引いて、銃口を騎体頭部と胸部の間に向ける。脈動のリズムをもって送られる白濁した動力液は、吹き飛んだ腕部の付け根から紅いオイルとともに脈をもって噴き出していたが、それが止まった。それを見てヤマネコのパワーユニットと主電源が落とされたと安堵し、短く熱い息を「ハッ!」と吐く。開かれるヤマネコのカウルハッチ。脳震盪を起こしているのか、よろけながらも這い上がり出てくる、

 髪がくしゃくしゃで、白い髪の、
 肩幅がせまくて、華奢な、



 真っ黒な搭乗着を着た、






 わたし。

 眼を隠す前髪の間から鋭い眼光で、こちらを睨み、腰から抜いたハンドガンで躊躇うことなく、こちらに向けて撃ち始めた。

 そんな銃では月華の装甲に何もできないことくらい………。数発撃ち、反応がないことを見て冷静になったのか、何ひとつ抗うことができないことを知り、だらりと腕を垂らしたのだ。一度、ゆらっとよろけて、はあっ、と息を吐いたようだった。ゆっくり、マガジンを抜き、残弾数を確認して、再びマガジンを差し込むとスライドを引いて、そのままこめかみに、

「だめっっっっ!!!!!!!!」

…………………………

 国境を越えヴァントを攻略し、南下を続けて十日目の朝が来た。南方沿岸部まで二六〇キロメートルの位置にいるのだが、ここから五〇キロメートル南に投入された空挺部隊が激しい抵抗に合いながらも、戦線を維持しているという。わたしたち少女騎士団の六隊は、後続の戦車隊と機械化騎兵団との足並みを揃えるために、廃墟になり地図からも消された町に留まることとなった。この廃墟の町に、これから南下する陸軍の連絡所となる仮設の指揮所を構える。

 あのヤマネコに乗っていた女の子が何を思っていたのか、考えられずにはいられない。

 くしゃくしゃな白い髪、
 肩幅のせまい、
 華奢な身体をした、

 わたし。

 そんなはずはないのだけど、どうだろうか。

 わたしが彼女の立場だったとして、あの状況でどんな選択をしただろう。

 あの子とわたしが違うのは、少女騎士団のアイドルが携行するハンドガンには拳銃としては無意味なくらい大口径の弾が、マガジンに三発しか入っていない。

 一発は月華の計基盤にある差し込み口に挿れ、制御盤を破壊する。

 一発は月華の操縦席後ろにある差し込み口に挿れ、発電用ディーゼルエンジンとコンプレッサ、動力液パルスポンプを破壊するため爆薬の起爆に使う。

 残った一発は………。

 大口径である理由は『確実に』だからだ。三発も撃てば、ハンドガンのフレームが歪む可能性が高いくらいの大熱量の大口径弾を使う。でも、それでいいのだ。使うのは、一度きりだから。

 わたしは敵わないとわかっていても、あの子のように最期まで抗っただろうか?あの子のように生きようとし、最期まで生き貫いただろうか?

 抗えないと知ったとき、
 貴方に応えられないとわかったとき、

 わたしが向ける銃口は、

 廃墟の町で与えられた時間のほとんどを、散歩することに使った。それはあの子のことを考えないようにするため、答えなんかわからないのに、ずっと答えを探し続けてしまうんだ。レンガ敷の通りを歩き、ふと向けた視線が建物と建物の間に向けられ、細く暗い路地の向こうに白く霞む丘があることを見つけた。あれは何かが育てられていた草原なんだろう。麦だとすると、実った季節には金色になって丘が綺麗なんだろうな。ここも昔、我が連邦国が侵攻し統治する前は領主によって、治められていた町だと聴いた。領地に住むひとの領主に対する信頼の厚さから、我が国の支配下に置かれたあとも大きな介入をすることなく、領主に統治を任せていた町。大通りに出ると、すべてが荒れていて、激しく損傷した車や砲塔の飛んだ戦車の塗料は剥げ、真っ紅に錆び朽ちている。建物の至るところが砲弾による破壊で崩れ、弾痕が多数残されたものばかり。いかに南方戦が激しかったのかがわかる。

 暗く淀んでいた空が突然泣き出し、十一月の冬に向けた時雨は冷たくて、ばたばたと落ち、うるさく、憂鬱な気分を逆撫でていく。雨具を持っていなかったので、ちいさな看板が掲げられた、ちいさな煙草屋の廃墟、その軒先で雨宿りをすることにした。割れたガラスからお店のなかを覗くも荒らし尽くされていて、本当にこんなところにひとが住んでいたのだろうか、と首を傾げてしまうくらいにひどいのだ。

とんてんかん、ぽてん。
とんてんかん、ぴちょっ。

白く煙る廃墟の町。
雨が軒先の屋根に跳ねて音がする。

とんてんかん、ぽてん。
とんてんかん、ぴちょっ。

────わたしは、雨が………、

「よっ!姫!こんなところでどうした?」

 大きなポンチョを被ったイリアルとリトが、わたしを見つけ声をかけてくれた。

「うん……。雨………すごいな、って」

 彼女たちが顔を見合わせて「あー……そか。ナコは雨で濡れるのが苦手だったな」と、やさしく微笑んでくれる。でも違うよ、話していないけれど不快に思うのは濡れることじゃないんだ。雨が降ること、そのものが不快なんだよ。

 雨、そのものが大嫌いなんだ。

「そのポンチョが大きいね」
「これが一番小さいサイズらしい」

 陸軍部隊から借りた支給品のポンチョをイリアルが広げて見せるのだが、ぶかぶかで大人のワンピースに憧れて着た子どもの姿のようだったから、わたしたちは場違いな存在だなあ、と再認識させられた。

 いつまでも争っていてはいけない。
 そう言ったのは誰だったっけ?

 ふわり、ポンチョを広げ回るイリアルの姿が、本で読んだことのある東方文化の『雨が降らないよう、雨が止むように祈る』ときに作るという、おまじないの人形みたいに見える。

「しっかし、なんでこんなサイズしかないんだろーなー?」
「私たちのような子どもが、こんなところにいるのがおかしいのよ」

 リトが眼を閉じて呟き、ため息をつく。ふたりがわたしの分も借りてくると言ってくれたのだが「しばらく、雨をながめるのもいいかなあって思ってるんだ」と嘘を言って、誰にも会いたくないことを隠した

「ふたりは、なにをしていたの?」
「んー……ああ。まあ………あたしがリトに言いたいことがあって……さ?」
「さっきまでファブの事で喧嘩をしていたわ」
「それを言うかね……ホント嫌いだわ、あんたのこと」

 ずいぶんと距離が近付いたとはいえ、イリアルとリトは相変わらずだな。わたしから見ると仲がいいから、そうやって言いたいことを言いあって、一緒に歩けるんだろうな、って思っているよ。「姫、この町の建物おもしろいよ。あたしたちの町とは造りが違う」とイリアルが言い辺りを見渡す。第三特殊機械化隊が配属されている北部の町は雪がよく降る地域の建築の流れで、建物を頑丈にするために多くのレンガやコンクリートが使われる。対して、この町の建物は木材やモルタルなどが多く使われていた。壁や屋根に使われたレンガや瓦が紅みがかっていて絵本のようだとも思う。

「劇場を中心に町が広がっているのも興味深いわね」

 劇場。

「近代の町が形成される前、土着の祭り事や芸能を大切にしていた文化で形成されていたのかもしれない」
「なるほどなあ、だから町を形成していく過程で劇場が中心部になったのか」

 廃墟。

「どうした?ナコ?なんだか、顔色が………」



「わたし………、この町知ってる」

 月華のコクピットに入り、カウルハッチを閉じて紅い非常灯が灯るまでの一秒間。頭の奥にある届きそうで届かなかった何かは、この町の風景だ。

…………………………

 しばらく、雨を眺めているよ、と言うと「そか」とイリアルが言って「一応、何があるか分からない。早めにテントに戻るのよ」とリトが心配そうに言って去った。冬に向かうために空から落ちてくるそれは道に敷かれたレンガを叩き、砕け、跳ねて、地上十数センチメートルの世界で白く咲く。ごつごつと陸軍歩兵の革靴が鳴り、軍用犬の脚とともに止まる革靴。わたしはその止まった革靴の顔を見上げると、陸兵が大きく眼を開いて「ナコ准尉ですよね!」と名前を呼ばれた。敬礼をして、笑顔を作り「はい、そうです。ご苦労さまです」と【アイドル】としての役割を果たそうと、もっと顔の筋肉を使って笑う。男性は、いつかの、どこかの戦場で、国境線の川を戦車と機械化騎兵が越えてくるという恐怖のなか、冷たい雨が打たれながらも、わたしたちハナミズキ隊の活躍に心身ともに救われたのだと言った。

「わたしたちの行いが助けになり、よかったです」

 微笑んで、それらしいことを言ったのだが……どの戦場の、どの戦闘なのかを覚えていない。戦争をし過ぎて、どの戦車と、どの機械化騎兵だったか。そして、どの冷たい雨だったのか、本当に分からないんだ。わたしは話を逸らすために男性が連れていた軍用犬に「おとなしくて、いい子ですね」と言った。すると「ルード号と言います。でも私以外になかなか懐かなくて………。他の隊員に触れさせないんですよ、まったく困ったやつです」と笑った。

 あれ?
 えと……これ?

 ちかっ、ちかちかっ、眼の奥、頭の中が白く光り意識が飛びそうになる。月華のカウルハッチを閉めて現れる一秒間の闇。わたしが見ているのは一秒ではなく二万六千二百八十時間分の何かだ。それは脳が一秒で処理をするには膨大すぎて見えない…………いや、見たくない。だって…………。

 眼のまえが、ちかちかするから。

【兵士】「ルードを撫でてみます?」

  まだ煙草とコーヒーは嫌いか?
  しかし、私は両方を嗜む。
  慣れろとは言わない。
  嫌いなものは嫌い。それでいい。

 煙草の匂いが嫌いだ。コーヒーの味が嫌い。おとなのおとこのひとなんて大嫌いだ。痛い、そんなに揺らすな、怖い、怖い、怖い。眼の前がちかちか光る。いろんな感覚や感情に混乱して、頭が破裂しそうになるから、もう…………やめて。そんなに揺らすな、頭が痛い、お腹が痛い、苦しい、息ができない。眼に何か、右眼が、まぶたを開けても見え………ああ、なんだか、

 なんだか、もう………………。

【兵士】「しかし、私が命令をすると他の隊員に嫌々触らせるんです。本当に困ったヤツです」

 それは嘘なんでしょう。
 また、わたしを騙そうとしているんでしょう。

【兵士】「ルード!准尉に撫でてもらいなさい!」

 おいで、私が助けてやる。
 ここから先は私と紡ぐ物語だ。



 わ、わたしを……助けて!

 わかった。ここから出て君の好きな紅茶でも飲みに行こう。






 ねえ?物語は貴方と作っていくのでしょう?

「これからは私がいる。もう大丈夫だ、信じろ」

 夢の中でも、夢だと思いたいくらいの悪い出来事。そこから助け出してくれた貴方は、わたしの、わたしの………………、



 絵本のなかに出てくるような、
 わたしの王子様。






【兵士】「………准尉?どうしました?犬は嫌いでしたか?」


 わたしが望む居場所は貴方の隣だ。

 私に付き従え。



はい。どこまでも。
貴方のおかげで、
わたしは、ここまで来ました。

「准尉?先ほどはルードの事を悪く言いましたが、うまく飼ってきた子なので悪い子ではないんですよ」

────雨だ。

 あの日と同じ冷たい雨が降っている。
 でも、貴方のおかげでわたしは強くなったよ。
 貴方がいるから、わたしは強いんだ。

「わたしもティーチャーにうまく飼われてきたので、あなたには騙されません」



とんてんかん、ぽてん。
とんてんかん、ぴちょっ。

 丘が見える廃墟の町で雨に打たれながら歩いた。はじめて来た場所のはずなのに、脚が勝手に進み続けた。やっぱり、わたしはこの町を知っている。脚が向かった先に、劇場と思われる焼け燻んだ大きな建物が佇んでいた。その建物の向かいにある公園に仮設の指揮所として、いつもの大きなテントが設営されていた。テントを眺めるために劇場の入り口で落ちる雨をしのぐ。早く雨が止まないかな、と願い、雨が屋根を打つ音を、ぼんやりと聴いていた。

とんてんかん、ぽてん。
とんてんかん、ぴちょっ。



ごつ、ごっごっごっ!

 レンガを鳴らす革靴の音。陸兵に与えられる革靴の行進はいつも聴いているのに、ずっと慣れずに胸がざわつくのだ。焦茶色の痩せ細ったシェパードの血を引いているであろう野犬が、びしょ濡れの身体でわたしを見ていた。不思議に思う。こんな、ひとのいない町で生きていくことなんて出来ないはずなのに、どうして、あなたは凛とした顔でいれるの。 

 わたしとあなた、どちらがふこうだろうね。

 わたしが呟いたのか、誰かが言ったのか、頭の中を過ったのか分からないけれど、確かにそう聴こえた。

「雨……やまないかな」

 ────わたしは、雨が嫌い。

 誰かが煙草を吸っている。指揮所のテントからかな、コーヒーの匂いもする、不快だな。空から落ち、雨は大地を潤す、それは生命のためにあるとしても、ぜんぶ、不快で嫌いだ。煙草も、コーヒーも、雨も、ぜんぶ大嫌いだ。

 しばらく勢いよく降った雨が弱くなり、何かを隠そうと企んでいるみたいにヴェールのような霧雨になった。

とんてんかん、とんてんかん。
ぽてん、ぴちょっ。

 朽ちた劇場、入り口の軒先で避けていた雨。壊れた雨樋を伝って水が落ち葉や泥で詰まった溝に向かい流れる。ふたつがひとつ、みっつがふたつ、集められ、流れ、溝に向かい、溢れ、道に川を作っていく。

「ナコ。……たちは贅沢だねー」

 笑う誰かの声が聴こえたような気がした。陸兵の革靴が水溜りの元雨を跳ね上げる。わたしは少女騎士団のアイドルだ。雨が降ってきたからといって、雨に打たれ身体を冷やすことはない。陸軍が使うポンチョ等の雨具もわたしたちが望めば、陸軍兵よりも優先して受け取ることができる。張り詰めた空気のなかで呑気に温かい紅茶を飲み、寝る場所も寒さに凍える心配をする必要もない。テントと簡易ベッドが与えられるのが普通。最低でも雨風凌げる場所と寝袋が与えられる。自由に過ごせる時間があり、各々が好きに過ごし、特別な事情がないかぎりは歩き回り散歩をすることも可能だ。こんな戦場でもわたしたちは、雨すら楽しめる環境が保証されている。それらのモノをわたしたちが得るために軍隊のなかで、階級が低い者から奪い与えられている。わたしたちがしあわせな分だけ、誰かが、つらいということ。

ぱたっ!ぱたたたっ!

 劇場の屋根から大きな雫が落ちた。わたしは貴方のいる指揮所のテントを目指して飛び出す。

 相変わらず、大嫌いな煙草の匂いと大嫌いなコーヒーの香りが充満するテント。外も中も、わたしにとっては、息の仕方も分からなくなるくらい劣悪だ。

「どうした、ナコ?」

 貴方の不機嫌そうな表情と不機嫌そうな声を、ただ、わたしに向けてもらいたかっただけだ。それだけで、ここまで雨に濡れても走ってこれた。いま、見せてくれている表情と言葉だけで充分なんだ。もし、忙しければ、その忙しく動く姿を見られるだけでもよかったのに、今日みたいな日に限って貴方は「ナコ、私と少しドライブに出掛けないか?」と、その大好きな不機嫌そうな声で言うから、何の躊躇いもなく「はい」と返事をしたんだ。

 ティーチャーが運転する四輪駆動の軽車両がゴトゴトと不器用に走り揺れる。この振動は一般人にとって不快極まりないものなんだろう。だけど、月華より乗り心地がいいから、気分が落ち着き思わず口元が緩んでしまう。

「ナコ、煙草を吸ってもいいか?」
「……はい、ティーチャー」

 いつもなら気をつかって、わたしの前では咥えもしない煙草が、くすんだ銀色のオイルライターで火が点される。ティーチャーの身体へ煙が吸い込まれ、すこし居座って吐き出されたあと、開けた窓の隙間から逃げていった。貴方の眼が、すこしとろんとし、安心したように見えたから、わたしも、その煙になりたいと思った。

「まだ煙草は嫌いか?」

 次の煙を吸う前に言われた言葉に「ティーチャーに吸い込まれる煙になりたいと思ったので、いまは好きです」と言うと、困った顔で不器用に微笑んだのだ。

「君から煙草の煙になりたい、なんて言葉が出てくるとは思わなかった」

 そう言って、また笑顔を作ろうとしてくれる。いつもの不機嫌そうな表情が、こんな日にやさしいのだから、困る。

「ナコはよく戦っている。戦場だけじゃない、自分自身ともだ」

 わたしの身体がぴくっと反応する。なんだか嫌な感じがして、こころがざわざわするんだ。わたしが戦っているのは貴方のためで、わたしのためじゃないんだよ。たぶん、わたしと同じ年齢くらいのおんなのこが「貴方のために生きています、貴方のためなら身体を捧げることも、死ねと言われれば死ぬこともできます」なんて言えるのだろうか。好きなひとに対して、どうしようもなく伝えたいきもちが、贈り続けていたい想いと一緒にあって、何万回、何百万回と言葉にしたいと願う、どうしようもない心があるのか。

「わたしが戦えるのは、
 ティーチャー、貴方のためです。

 貴方に従うことが、
 どうしようもなく、

 しあわせなのです」

 いつも、そこにいる不機嫌そうな眼が何か言いそうになったのを殺し、唇を噛んだ。貴方の不機嫌そうな表情がひどく辛そうになったから、わたしも驚いてしまったのだけれども臆せず続ける。

「わたしは、貴方にとって都合のいい「こども」なのは知っています。
 貴方にとって使い勝手のよい「少女」なのも知っています。

 ただ、

 貴方がわたしを道具や狗だと思うように、

 わたしが想いを伝え続けたいのは、
 ティーチャー、貴方だけで、
 何があっても、
 触れられなくとも、声が届かなくとも、
 慕い続けていくことだけは、
 知っていてほしい。

 それだけです」

 軽車両は町を抜け丘を登っていく。そのススキの中に点在する焦げた戦車に混じり、不自然な大きさの塊があった。

「第一世代の機械化騎兵だ」

 燦華は設計が古くて大きい、だから月華を作ったんだ、と聴いている。その燦華よりも大きく背の高い戦車のような重厚感を持つ、それ。あんなもので戦っていたなんて………ただの的だ、ただの自殺行為だ。

「黎明期のパイロットには、戦車や戦闘機乗りが志願したらしい」

 なにもかもが手探り。新しく生まれた技術を制御するのに、どんな人間が最適か。そんなことが人殺しをするために努力された。

「人間は犠牲の上に成り立った便利な道具ばかりを評価する。
 犠牲に対し、敬意を表するどころか、愚かだと笑い、恩恵だけを吸い尽くす」

 きっと貴方のその不機嫌そうな表情は、そんな世界ばかりを見てきたからだ。

…………………………

 丘を越えて、森を抜け、少し走った霧のなかに白い屋敷が現れた。閉ざされた門の前に軽車両が停められ、降りるように促さる。悪路を走破するために高く上げられた車から精いっぱい脚を伸ばして、やっとつく地。貴方が手をつく質素な板張りの門。しばらく何かを考えているようだった。板を撫でるように手が降りていき、かけられた大きな錠に貴方が鍵を差し込み、開かれる。屋敷の玄関まで続く石畳を歩きながら左右を見渡すと、雨に濡れた草木が生き生きとしていた。庭としては荒れてはいるのだが定期的に手は入れられているのか、花壇には春になると咲くはずの花が冬に向けて、寒さに耐え、根付いている。

 階段を六段昇って、扉の前で立ち止まり貴方が呟く。

「何も変わっていない。鍵まで変わってないとは驚いた」

 貴方の不機嫌そうな顔、その左半分がわたしに「公国軍の雑な仕事に賛辞を送らなければならん」と言い、背を向けて、差し込んでいた鍵を左へ回すと、チャッ!と心地のいい音がして、貴方は躊躇いもなく屋敷へ入っていく。外から恐る恐る覗くエントランスホールの高い吹き抜けに、大きく配置された窓からやさしい自然光が差し込んでいた。

「ナコ、入っていいぞ」@@@@編集中@@@@

 その声の元に向かい天井を見上げながら、歩を進める。天井は質素ながらもしっかりとした装飾がなされていて、光の加減で空間の表情が変わるように作られているに違いない。空気が埃っぽくて、すこし、カビ臭いから長い時間に渡り動くことを制限された空気と、微かに貴方の匂いがした。

「ティーチャー………ここは?」
「私の生家だ」

 噂には聴いていた『ティーチャーは南方二州五県出身』であること。

「十五で家を出たままだった。やっと帰ってこられたと思ったら、こんな歳になっていたんだよ」

 不良少年も不良少年だ。家を出たまま帰らず、連絡も届かない。時間が経ちすぎて………父が、この家を継いだ歳になってしまった。笑いながら、ゆっくりと懐かしそうに見渡し、壁に触れ、階段の手すりを撫でる。二階へ上がり「ここが私の部屋だよ」と開けられたドアの向こうに、たくさんの本が散乱していて「小さな頃から本が好きだった。読むのも、知らないことを調べるのも好きでね。本の虫ってやつだ」と言って、また笑う。床から手に取った本『世界の劇作家名作集第三集』を、わたしに差し出し「子どもの頃、劇作家になるのが夢だった」と言った。

「十五歳で全寮制の学校へ行くために家を出た。発つ朝に交わした言葉が家族との最後の言葉になってしまうとは」

 公国軍が我が国の主要軍港がある南方沿岸部に侵攻し陥落すると、軍港を拠点に北進を始めた。いつかファブが学校で言った、我が国は領土を拡大したが、防衛機能の拡充や軍備拡大を疎かにしていた。無理な国土拡大に対して、リスクだけが高まり、それが結果として安定していた南方地域に、公国との戦火を招き入れてしまった理由のひとつとされている。

「この辺りに【中央】の命令を無視して、防衛に奮闘した戦車隊がいたらしい。
 ……ティーガー隊と言ったかな。まだ人間の血が通った軍人もいた頃の話だ」

 戦車隊だけで侵攻を止めるには足るはずがない。すこしでも公国軍の侵攻を鈍らせ、北侵させる速度を落として援軍を待ったのだろう。

「私はここを守る為、早く家へ帰る為に軍に入った。
 しかし、公国との交渉の為に初めからこの地は開け渡す予定だったと知った」

 貴方が【南国二州五県放棄措置】について憤りを持っているという噂は絶えなかった。わたしたちハナミズキ隊のみんなにも、基地や学校で色々言われたから…………知っている。

「終わったことは戻らないが……………」

 言いかけてやめたのは『怒りの感情は抑えることができない』でしょう?貴方は現実主義なふりをして、感情的に行動したり、選んだり、望んだりしないように、自身を騙し続けながら、今日を待っていたんでしょう。部屋を出て、再び廊下を歩み進める貴方の足取りが重い。先ほどと変わらない白いドアの前に立ち、ドアの向こうを睨むように、唇を噛んでいた。大きく息を吸い込んで、喉を鳴らし、唾を飲み込むと、はっ、と短く、肺から息を吐いて、ドアノブに手をかけ、強く眼をつむる。その八秒間。九秒経って開けたドアの向こう、

「ただいま。……怖かったろう?助けられなくてすまなかった」

 わたしに隠しても、悲しみに言葉が不安定になっているから、背中を見て貴方の表情がわかる。貴方の背中越しに見える部屋は、貴方の部屋とは違い、不自然に綺麗ではあった。だけど、ベッドだけが無茶苦茶になっていて、紐状のもので擦ったような擦り傷がベッドの柵に多くあった。

「……………はーッ!何があったか想像するに容易い。
 やはり、人間は屑だ。
 改めて認識した。
 ……それだけだ。

 屑だと分かったからいいんだ。
 私は間違っていなかったと分かった」

 わたしの肩に手を置き「行こう、ナコ」と言った手が熱を持ち、震えている。こんなにやさしくされるなんて、貴方のなかの何かが………………また………、

 一階に降りて、奥へ進むと細い柱や窓枠で天井がドーム状になったテラスがあり、そこに置かれたソファーに座るように促される。その対に貴方が座り、眼を閉じて言葉にしてくれた南国二州五県放棄措置への感情の全部と、空軍を追い出された理由、そして、牢で渡された大金の使い方と思想との契約。

「利用されるのは分かっていた。だから、私も利用しただけだ」

 貴方は南国二州五県放棄措置反対派、南国二州五県解放派、軍事行動による奪還強行派など複数の組織で活動し、力を持つことばかり考え動いていたという。その理由は「願いを叶えるためには強い力が必要だった」と静かでいて、燃える物があれば、燃やし尽くすまで燃やす高温の青い炎のような怒り。南方戦線の戦時下、貴方の元に届いた三つの棺の中には、花が一輪ずつしか入っていなかった。

「やさしい母とおおらかな父、歳の離れた可愛い妹だった」

 戦争は人間の何たるかを暴き、本来の姿に戻す。積み上げてきた人間としての成長を麻痺させて、壊す。今日、十五の歳から二十余年かけ帰宅し、家族に何があったのか、どんな苦しみや痛みがあったのか、一番起きて欲しくなかった最悪のそれが起きたと分かったから充分だと言って、いつもの不機嫌そうな表情で不器用に微笑んだ。

「私ばかり話して、すまない」

 その言葉にわたしも不器用に微笑む。いつもの朝にある、ふたりきりの三分間は貴方との会話が途切れてしまわぬよう、わたしがたくさんの言葉を繋いでいたからね。

「ナコ、いつものように何か話してくれないか?」

「………わたしは貴方の何かになりたい」

 言葉に驚いた様子だった。叶う恋ではない。だけど、このひとの前だと、こんなにも身体が熱くなって、貴方の一語一句に身体がしあわせに震える。貴方が困っていれば、役に立ちたくなる。叶わなくてもやめられない恋はなんて言えばいいのだろう。『恋』は、わたしのために叶う何かではなくて、“わたしの恋”は貴方の心を埋めるためなら、不純と言われる何かでも、そうなりたいと思う。

「君は一途なんだな」

 貴方が座りなおして、意地悪な眼と声で言った。ガラスで隔たれた外は、風が出てきて霧雨が降り、また世界が霞み、雨が隠し始める。

「私はナコのような恋をしたことがないから……君が分からない」
「恋……を………ですか?」

「あの日から頭の中に、不快な雨が降り続いている。
 この雨は、私が気付いた世界の不快と怒り、愚かさだ。
 心まで溺れる恋は………人間を盲目にする。
 こんな不快な世界でもいいのだと騙す。

 だから、恋はしないと決めた。
 不純だと言われても、求めるように抱く。
 趣味悪と蔑まれても、愛しているように抱く。

 私の『恋』は、そんな形をしていた。
 利用できそうな男女の関係。
 それも『恋』と呼ぶなら、嫌というほどしたよ」

窓ガラスに貼り付く、心細くなるほどの細かい雨。

「この世界には決して忘れてはいけない怒りがある」
「ティーチャー、質問があります」
「なんだ?」
「………ここまでの出来事は、ティーチャーが仕組んだことなのですか?」

ふんっ、と、鼻で笑い。

「私に、そんな力はないよ」と、言った。

「ただ、こうなればいいと強く願って生きてきた。
 それが、たまたま私の小さな力で押した時、

 運良く動いてしまっただけだ」

 椅子の肘掛に掛けて静かに微笑む。霧雨が弱くなり大きな窓から弱々しい光が、わたしたちをやさしく浮かべる。

「何でも利用しようしてきた。
 世界が、国が、人間共が、そうであるように。
 物事には大きな流れがあり、それを変えられる英雄などは幻想だ。
 所詮、英雄は担がれた象徴にすぎないが、
 救いを求め、すがる。

 英雄自身も立場を利用して、欲を叶えているだけ。

 流れが変えられないなら少しでも争おうとした。
 利用できるものは、全て利用した。
 もちろん、君たちもだ。

 君たちが、私にどういう感情を持っているかは把握している。
 そうなるようにしたし、そうならないなら『作った』。

 君たちの感情を作り出したことに、
 罪悪感など少しも感じていない。
 そんな物は生ゴミと一緒に捨てた。

 私は、そんな人間なのだよ。






 ただ、ナコ…………、君は」

また強くなってきた雨がガラスを打ち、派手な音が空間に広がる。

「あまりにも似過ぎていた。
 生きていたのか、と思い、息が止まったくらいだ。






 君から与えられる、

 君の好意に気付かなかったわけじゃない。
 君の好意が嫌だったんじゃない。
 君の好意に甘えるのができなかったわけじゃない。
 君が幼過ぎると考えたんじゃない。

 ただ、君は似過ぎていて、
 ただ、君に触れるには、

 ただ、私が汚れすぎていた。

 私が君に何かをするなんて、
 人間共の決めた法や道徳を犯すより、
 君を汚すことのほうが、
 私の正義に…………、






 …………怖かった」

 わたしにやさしくしておいて、突き放す理由。それは距離を測りあぐねていただけ。貴方の勝手な正義や自尊心を守り、恐怖から逃げるためだけに、想いを弄ばれていただけだ。

「今日、家に帰ってきて雨は止みましたか?」

それでも、わたしは願う、貴方の………。

「いいや。止むどころか、激しくなる一方だよ」

雨から守る、貴方の傘になりたい。

 対になったソファの間にあるテーブルに、ゴトンと置かれたシルバーに光る佐官に与えられるハンドガン。

「ナコ。君は私にやさしすぎたのだ。そのやさしさで、私の頭を吹っ飛ばしてくれ」

 雨はやさしくて、暴力で、狂気だ。冷たくて、不快。雨がないと生命は生きられないから、ひとをおかしくさせる。降り、打たれ、濡れれば身体が冷える。それなのに降らなくなると、祈り、跪き、天を見つめ、乞う。痛みがないと、誰かが苦しまないと、この星では誰かが生きられない。

「お願いだ、ナコ。私を殺してくれ」

テーブルに置かれたシルバーの拳銃を手に取った。
少女騎士団のアイドルは、上官の命令に従順。

わたしは乙女の鬼神。

「これは、私が君にする最初で最後の頼みだ。
 そして、もし願いが叶うなら………、

 私から解放された世界で、
 君は君が願うように生きてくれ。

 今、ここで私と紡ぐ物語は終わりだ」

わたしは貴方に従うことがしあわせ。



「すまなかった、……………っ」

貴方が泣きながら、わたしを誰かの名前で呼んだ。

 雨が降っているのに、空が美しくて神秘的だった。乾いた音に驚いて、森から鳥の群れが一斉に羽ばたいていく。テラスの天井、ガラスの向こうを見た。貴方のいない世界で、わたしが願うことを叶える。それが、わたしに向けられた貴方の願い。

わたしが貴方に何か甘えるのだとしたら、



わたしが、あなたに甘えていいのなら、












あなたのいないせかいに、わたしはいたくない。

 夢を見たんだ、とても綺麗な夢。わたしとティーチャーが仲良く手を繋いで、金色の麦が揺れる丘を歩く、夢。

ずっと、ずっと、離さなくていいと言われた大きな手。
貴方からする煙草の匂いに抱かれるなら、それが好き。
コーヒーの匂いや苦い味だって、貴方と重ねる唇からするなら、






はしたなく求めるくらいに大好きになるからね。



とんてんかん、ぽてん。
とんてんかん、ぴちょっ。

 雫が流れる。ふたつがひとつ、みっつがふたつ、集まっては川になり流れて、しぼむ。そうして、また新しい雫が流れて川が出来る、ただ、それの繰り返し。

 テラスの外、ガラスの向こうでネモフィラの花が雨に打たれ、うつむいている。でも、雨が降らないと枯れちゃうから、耐えるしかない。

ひとが生きていく何かのようだね。

ティーチャー、
わたしは………雨がね……………。






本当に大嫌い。



気持ちわるい。

少女騎士団終。
Das armee Spezialpanzerteam 3,
Mädchen ritter Panzer team 8."Hartriegel"

Ende.
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スパークノークス

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