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1回戦 Sランク冒険者ゲーム48
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【お知らせ】
何の告知もなく1ヶ月近くも更新がストップしまい、すみませんでした。
自分自身の持病の悪化や体調不良に加え、親の入院や手術なども重なり、サイトにログインする気力すらありませんでした。
まだ本調子ではありませんが、今日から不定期で更新を再開しますので、よろしくお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――
「じゃあ、次は有希の〈健康〉を複製してみてもいいか?」
俺は有希の方を見ながらそう訊いた。
「いいよ」
有希は気軽な口調でそう答えた。
俺がスキルツリー複製魔法Lv.1を使用すると、有希が何もない空間を指で操作した。
【複製できるスキルツリーが上限に達しました。消去するスキルツリーを選択してください。
〈解体〉
〈健康〉】
という文章がステータス画面に表示された。俺はそのことをみんなに向かって説明した。
「どう考えても、〈解体〉より〈健康〉をコピーした方がいいだろう。回復魔法は貴重だし」
青山が真っ先にそう言ってくれた。俺も同意見だったので、青山に軽く謝ってからステータス画面の〈解体〉を押した。
さっき複製した〈食欲旺盛〉〈血抜き〉〈皮剥ぎ〉の3つのスキルがステータス画面から消え、代わりに〈ヒールLv.1〉を覚えた。
「よし、ヒールが使えるようになったぞ!」
俺はそう報告した。
「ついでに、有希ちゃんが使うヒールと烏丸くんが使うヒールのHPの回復量の差を調べておきたいところだよね」
夏目理乃はそう言いながら、鈴本の方を見た。
「何で僕の方を見るんだよ」
「だって、鈴本くんって昨日、有希ちゃんにヒールかけてもらってたし。わざと怪我してHPを減らせとまでは言わないけど、次にヒールが必要なときは烏丸くんに頼んでね」
「次に怪我しそうなのが僕だって決めつけるのはやめろ!」
鈴本はそう抗議したが、夏目理乃はスルーした。
しかし、こういうやり取りを見ていると、このパーティで1番運動神経がポンコツなのが鈴本でちょっと助かったな、と思った。
気の弱い佐古くんとか、他人の視線を必要以上に気にしがちな安来鮎見とか、無口な立花光瑠あたりが今の鈴本のポジションになってたら、イジメっぽくなってしまって、洒落にならないからな……。うん。本当に、鈴本でよかった。
「MPポーションの試作品はまだまだたくさんあるから、他のメンバーのスキルツリーも複製する練習をしていいわよ」
国吉文絵はそう言い、俺に2本目の瓶を差し出した。
「ありがとう」
俺はそう言い、瓶を飲み干した。MPが回復したのを確認し、鈴本に向かって「スキルツリー複製魔法Lv.1」と唱えてみた。
しかし――。
鈴本は、戸惑ったように沈黙しただけだった。
俺のMPは【9/9】と表示されたままだった。もう1度、鈴本に向かってスキルツリー複製魔法を使用したが、やはりMPに変化はなかった。
つまり、俺と鈴本は信頼し合っていないから、鈴本にこの魔法を使うことはできない、ということなのだろう。
俺、鈴本とは結構仲良くなってたつもりだったんだけどな……。鈴本は滅茶苦茶よく喋るから、必然的に会話も多かったし。
「あ、あはは。何か知らないけど、失敗しちゃったみたいだな。3回連続で魔法を使おうとしたせいかな」
俺は苦労して笑顔を作り、そう言った。
「そ、そうか。そういうこともあるよな」
鈴本もぎこちない笑みを浮かべて、眼鏡のズレを直した。
俺にスキルツリー複製魔法を使わせた国吉文絵は、罪悪感に駆られたのか、泣きそうな表情で俺と鈴本の顔を交互に見ていた。夜桜はコンちゃんの方を見つめていて、俺達の方は見ないようにしていた。佐古くんはオロオロしている。安来鮎見は、そんな雰囲気ではないと思ったのか、2杯目のお代わりしようとしていた手を止めて鈴本の方を見ていた。
きっつ……!
信頼し合ってないってのを可視化されるのが、こんなにキツいなんて……。駄目だこれ。絶対に、人間関係にヒビが入っちゃうやつだ。過去にこの世界に存在した複製師が全員不幸になったのも頷けるな。
「あー、ウチと青山くんは、予選で烏丸Pと同じ班だったからね。鈴本くんだって烏丸Pとは信頼し合ってるだろうけど、今はまだ一緒に過ごした時間とかが足りてないってことなんだろうね」
有希は立ち上がると、背伸びをしながらそう言った。スキルツリー複製魔法の説明文の「同じパーティかつ信頼し合っている人のスキルツリーを複製する能力」の部分を、さり気なく解釈し直してくれたようだ。
それで何となく、この話題はお仕舞い、という空気になった。
今度この魔法を使うときは、対象相手に気付かれないようにしよう、と俺は誓った。
その日の午後は、午前中とは別のダンジョンに潜ってレベル上げをし、みんな少しずつレベルが上がった。鈴本は案の定転んで怪我をしたが、かすり傷程度では俺と有希のヒールLv.1に差は出ないらしかった。
暗くなったらスプリングワッシャーに戻り、昨日と同じように自由行動となった。
鈴本と国吉文絵は、迷わずに図書室に出かけていった。
青山はギルドの酒場で働くのはやめ、ギルドの解体所でアルバイトを始めることになった。冒険者が持ち込んだ素材を解体するお仕事である。〈解体〉スキルツリー持ちだからと、即決で採用が決まったようだった。少し見学させてもらった俺の目には、解体所も結構ブラックに見えた。
有希は、女性冒険者を中心に、他の冒険者のかすり傷を無料で治すボランティアを始めた。治療費は請求しなかったのだが、それでは申し訳ないと軽い食事を奢ってもらえるようになったらしい。かすり傷でも、油断すると傷跡が残ってしまうことがあるから、肌を気にする人には助かるのだそうだ。
千野は昨夜とは別の冒険者のグループに混じって、酒を飲んでいた。
俺は文房具店で正方形のメモ用紙を購入すると、宿に戻って昨夜と同じように職業レベル上げのために鶴を折り始めた。だが、しばらくするとノックの音が聞こえた。ドアを開けると、夏目理乃が立っていた。
「烏丸くん、また鶴を折るつもりなの?」
「ああ」
「どうせなら、鶴以外のものを折ってくれない? 市場調査をしてみたら、鶴はすでに真似し始める人が続出しちゃってるみたいだから」
「そうなのか。別にいいけど、俺は鶴しか折り方を知らないんだよな……」
「私、ポチ袋っていうか、小銭入れの折り方なら知ってるよ」
夏目理乃らしいチョイスだった。
「他には?」
「それ以外の折り方は知らないな……。でも、夜桜ちゃんがこういうの得意だったと思うから、聞いてみるね」
夏目理乃はそう言うと、女子が使っている4人部屋のドアを開けて、「ねえ、知ってる折り紙の折り方があったら、烏丸くんに教えてあげて欲しいんだけど」と頼んだ。すると、夜桜以外に安来鮎見も部屋から出てきた。
俺の部屋は2人用だから狭いし、女子の部屋にお邪魔するのは俺の気が引けるので、男子用の4人部屋に行ってみた。4人部屋と言っても、今は米崎がいないから、使っているのは佐古くんと鈴本と千野の3人だけだが。
唯一部屋にいた佐古くんに頼むと、部屋を使うのを快諾してくれた。
ベッドに腰掛け、俺と佐古くんと夜桜と夏目理乃と安来鮎見の5人で、それぞれが折り紙を始めた。
「夜桜ちゃんは、動物とか人形の折り紙が得意なんだよ!」
コンちゃんが自慢げにそう言った。しかし、コンちゃんを手に嵌めた状態で紙を折るのは困難だったので、夜桜はコンちゃんを外して、中に綿を詰めてベッドの上に自立させてしまったが。
「私は、食べ物系の折り紙の折り方なら知ってる」
安来鮎見はそう言い、意外と手先が器用なことを証明してみせた。
「ごめん。僕は鶴以外の折り方を知らなくて……」
佐古くんは申し訳なさそうにそう言った。
「謝る必要はないよ。こっちが押しかけたんだから。部屋を貸してくれてありがとう。佐古くんも一緒に折ろうぜ」
俺はそう言い、佐古くんにメモ用紙を渡した。
何の告知もなく1ヶ月近くも更新がストップしまい、すみませんでした。
自分自身の持病の悪化や体調不良に加え、親の入院や手術なども重なり、サイトにログインする気力すらありませんでした。
まだ本調子ではありませんが、今日から不定期で更新を再開しますので、よろしくお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――
「じゃあ、次は有希の〈健康〉を複製してみてもいいか?」
俺は有希の方を見ながらそう訊いた。
「いいよ」
有希は気軽な口調でそう答えた。
俺がスキルツリー複製魔法Lv.1を使用すると、有希が何もない空間を指で操作した。
【複製できるスキルツリーが上限に達しました。消去するスキルツリーを選択してください。
〈解体〉
〈健康〉】
という文章がステータス画面に表示された。俺はそのことをみんなに向かって説明した。
「どう考えても、〈解体〉より〈健康〉をコピーした方がいいだろう。回復魔法は貴重だし」
青山が真っ先にそう言ってくれた。俺も同意見だったので、青山に軽く謝ってからステータス画面の〈解体〉を押した。
さっき複製した〈食欲旺盛〉〈血抜き〉〈皮剥ぎ〉の3つのスキルがステータス画面から消え、代わりに〈ヒールLv.1〉を覚えた。
「よし、ヒールが使えるようになったぞ!」
俺はそう報告した。
「ついでに、有希ちゃんが使うヒールと烏丸くんが使うヒールのHPの回復量の差を調べておきたいところだよね」
夏目理乃はそう言いながら、鈴本の方を見た。
「何で僕の方を見るんだよ」
「だって、鈴本くんって昨日、有希ちゃんにヒールかけてもらってたし。わざと怪我してHPを減らせとまでは言わないけど、次にヒールが必要なときは烏丸くんに頼んでね」
「次に怪我しそうなのが僕だって決めつけるのはやめろ!」
鈴本はそう抗議したが、夏目理乃はスルーした。
しかし、こういうやり取りを見ていると、このパーティで1番運動神経がポンコツなのが鈴本でちょっと助かったな、と思った。
気の弱い佐古くんとか、他人の視線を必要以上に気にしがちな安来鮎見とか、無口な立花光瑠あたりが今の鈴本のポジションになってたら、イジメっぽくなってしまって、洒落にならないからな……。うん。本当に、鈴本でよかった。
「MPポーションの試作品はまだまだたくさんあるから、他のメンバーのスキルツリーも複製する練習をしていいわよ」
国吉文絵はそう言い、俺に2本目の瓶を差し出した。
「ありがとう」
俺はそう言い、瓶を飲み干した。MPが回復したのを確認し、鈴本に向かって「スキルツリー複製魔法Lv.1」と唱えてみた。
しかし――。
鈴本は、戸惑ったように沈黙しただけだった。
俺のMPは【9/9】と表示されたままだった。もう1度、鈴本に向かってスキルツリー複製魔法を使用したが、やはりMPに変化はなかった。
つまり、俺と鈴本は信頼し合っていないから、鈴本にこの魔法を使うことはできない、ということなのだろう。
俺、鈴本とは結構仲良くなってたつもりだったんだけどな……。鈴本は滅茶苦茶よく喋るから、必然的に会話も多かったし。
「あ、あはは。何か知らないけど、失敗しちゃったみたいだな。3回連続で魔法を使おうとしたせいかな」
俺は苦労して笑顔を作り、そう言った。
「そ、そうか。そういうこともあるよな」
鈴本もぎこちない笑みを浮かべて、眼鏡のズレを直した。
俺にスキルツリー複製魔法を使わせた国吉文絵は、罪悪感に駆られたのか、泣きそうな表情で俺と鈴本の顔を交互に見ていた。夜桜はコンちゃんの方を見つめていて、俺達の方は見ないようにしていた。佐古くんはオロオロしている。安来鮎見は、そんな雰囲気ではないと思ったのか、2杯目のお代わりしようとしていた手を止めて鈴本の方を見ていた。
きっつ……!
信頼し合ってないってのを可視化されるのが、こんなにキツいなんて……。駄目だこれ。絶対に、人間関係にヒビが入っちゃうやつだ。過去にこの世界に存在した複製師が全員不幸になったのも頷けるな。
「あー、ウチと青山くんは、予選で烏丸Pと同じ班だったからね。鈴本くんだって烏丸Pとは信頼し合ってるだろうけど、今はまだ一緒に過ごした時間とかが足りてないってことなんだろうね」
有希は立ち上がると、背伸びをしながらそう言った。スキルツリー複製魔法の説明文の「同じパーティかつ信頼し合っている人のスキルツリーを複製する能力」の部分を、さり気なく解釈し直してくれたようだ。
それで何となく、この話題はお仕舞い、という空気になった。
今度この魔法を使うときは、対象相手に気付かれないようにしよう、と俺は誓った。
その日の午後は、午前中とは別のダンジョンに潜ってレベル上げをし、みんな少しずつレベルが上がった。鈴本は案の定転んで怪我をしたが、かすり傷程度では俺と有希のヒールLv.1に差は出ないらしかった。
暗くなったらスプリングワッシャーに戻り、昨日と同じように自由行動となった。
鈴本と国吉文絵は、迷わずに図書室に出かけていった。
青山はギルドの酒場で働くのはやめ、ギルドの解体所でアルバイトを始めることになった。冒険者が持ち込んだ素材を解体するお仕事である。〈解体〉スキルツリー持ちだからと、即決で採用が決まったようだった。少し見学させてもらった俺の目には、解体所も結構ブラックに見えた。
有希は、女性冒険者を中心に、他の冒険者のかすり傷を無料で治すボランティアを始めた。治療費は請求しなかったのだが、それでは申し訳ないと軽い食事を奢ってもらえるようになったらしい。かすり傷でも、油断すると傷跡が残ってしまうことがあるから、肌を気にする人には助かるのだそうだ。
千野は昨夜とは別の冒険者のグループに混じって、酒を飲んでいた。
俺は文房具店で正方形のメモ用紙を購入すると、宿に戻って昨夜と同じように職業レベル上げのために鶴を折り始めた。だが、しばらくするとノックの音が聞こえた。ドアを開けると、夏目理乃が立っていた。
「烏丸くん、また鶴を折るつもりなの?」
「ああ」
「どうせなら、鶴以外のものを折ってくれない? 市場調査をしてみたら、鶴はすでに真似し始める人が続出しちゃってるみたいだから」
「そうなのか。別にいいけど、俺は鶴しか折り方を知らないんだよな……」
「私、ポチ袋っていうか、小銭入れの折り方なら知ってるよ」
夏目理乃らしいチョイスだった。
「他には?」
「それ以外の折り方は知らないな……。でも、夜桜ちゃんがこういうの得意だったと思うから、聞いてみるね」
夏目理乃はそう言うと、女子が使っている4人部屋のドアを開けて、「ねえ、知ってる折り紙の折り方があったら、烏丸くんに教えてあげて欲しいんだけど」と頼んだ。すると、夜桜以外に安来鮎見も部屋から出てきた。
俺の部屋は2人用だから狭いし、女子の部屋にお邪魔するのは俺の気が引けるので、男子用の4人部屋に行ってみた。4人部屋と言っても、今は米崎がいないから、使っているのは佐古くんと鈴本と千野の3人だけだが。
唯一部屋にいた佐古くんに頼むと、部屋を使うのを快諾してくれた。
ベッドに腰掛け、俺と佐古くんと夜桜と夏目理乃と安来鮎見の5人で、それぞれが折り紙を始めた。
「夜桜ちゃんは、動物とか人形の折り紙が得意なんだよ!」
コンちゃんが自慢げにそう言った。しかし、コンちゃんを手に嵌めた状態で紙を折るのは困難だったので、夜桜はコンちゃんを外して、中に綿を詰めてベッドの上に自立させてしまったが。
「私は、食べ物系の折り紙の折り方なら知ってる」
安来鮎見はそう言い、意外と手先が器用なことを証明してみせた。
「ごめん。僕は鶴以外の折り方を知らなくて……」
佐古くんは申し訳なさそうにそう言った。
「謝る必要はないよ。こっちが押しかけたんだから。部屋を貸してくれてありがとう。佐古くんも一緒に折ろうぜ」
俺はそう言い、佐古くんにメモ用紙を渡した。
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