異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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1回戦 Sランク冒険者ゲーム39

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 体長は2メートルくらいだろうか。全体的に焦げ茶色で、甲羅が丸く盛り上がり、角のようなコブがいくつも生えている。手足は短い。ケイヴタートスは大きな足音を立ててこちらに向かってきていた。だが、やはり亀らしく足は遅い。一般人がジョギングする程度の速度だ。

「朝倉さん、まずは牽制してくれ! 佐古くんは俺の剣と槍を交換してくれ」

 俺は2人にそう指示を出した。俺は素早く佐古くんに自分の剣を渡し、代わりに佐古くんの剣を受け取った。これまでの魔物よりも強く、佐古くんには荷が重そうだから、俺が真正面の攻撃を引き受けようと思ったのだ。

 朝倉夜桜が矢を放ったが、甲羅に当たって跳ね返され、地面に落ちてしまった。ケイヴタートスは無傷のようで、速度を緩めることなく俺に向かって突進してきていた。

「俺と国吉さんと安来さんで、噛みつかれないように注意しながら頭を攻撃しよう。青山と千野くんと立花さんは側面に回り込んで、手足や尻尾を攻撃してくれ」

 俺がそう指示を出すと、何人かが「うん」とか「分かった」と言い、残りは無言で行動を開始した。

 俺がケイヴタートスの真正面に移動し、その両隣を国吉文絵と安来鮎見が固めた。俺がケイヴタートスに向かって槍を突き出すと、ケイヴタートスは僅かに身をよじったが、側頭部にヒットした。

 ケイヴタートスが突進をやめ、30センチ以上も口を開け、鋭い牙を剥き出しにして威嚇する。その口に、国吉文絵と安来鮎見の槍が突き刺さった。

 ケイヴタートスの動きが止まったところで、青山、千野圭吾、立花光瑠の3人が移動する。千野圭吾はドスドスと大きな足音を立ててケイヴタートスの側面に回り込もうとした。突然、ケイヴタートスが頭の向きを変えた。俺より遠い場所にいた千野圭吾の方を向き、勢いよく突進する。ケイヴタートスは少し顔を斜めにして、鋭い牙で千野圭吾の左足を噛んだ。

「ぎゃあああああああっ!」

 千野圭吾が悲鳴を上げて立ち止まり、剣を取り落としてしまった。剣を拾う余裕もないのか、噛まれたのとは反対側の足でケイヴタートスの頭を何度も蹴りつける。だが、ケイヴタートスは噛むのをやめようとしない。

「みんな! 一斉攻撃だ!」

 千野圭吾を救うには、一刻も早くケイヴタートスを倒すしかないと思い、俺はそう叫んだ。

 すると、ケイヴタートスは口を開けて千野圭吾を解放した。再び俺に向かって突進してきて、俺の足に噛みつこうとした。その顔に俺と国吉文絵と安来鮎見の槍が突き刺さった。青山と立花光瑠も剣で手足を攻撃する。

 ケイヴタートスは劣勢だと感じたのか、頭と手足を甲羅の中に引っ込めた。本当はここで、経験値を上げたいメンバーに立ち位置を譲ってレベル上げをさせる予定だったのだが、今はそれどころではないと判断し、俺がトドメを刺した。

「千野くん、大丈夫か!?」

 ステータス画面の経験値が増えたことでケイヴタートスの死亡を確認すると、俺は急いでそう訊いた。鈴本と有希と国吉文絵が、左足を押さえて倒れている千野圭吾に駆け寄り、ランプの魔道具を近づけて傷の状態を確認していた。

「痛い痛い痛い! めっちゃくちゃ痛い! HPも減ってる! 減り続けてる!」

 千野圭吾は老け顔に脂汗を浮かべながら、そう叫んだ。左足に装着していた防具が破損してしまっていて、その下から血が流れていた。

「千野くん、薬草だ!」

 俺は自分のポケットから薬草を取り出し、千野くんの手に握らせながらそう叫んだ。千野くんは急いだ様子で薬草を口に含んで飲み込んだ。しかし――。

「やっぱり痛い! 薬草が効かない!」

 千野圭吾はそう叫んだ。

 鈴本は千野圭吾の下半身の防具を脱がせた。さらに、防具の下に穿いていたズボンの左足の裾を捲り上げて傷を露出させた。大きな半円形の噛み傷があり、血が流れ続けていた。特に、上下に生えていた4本の牙が刺さった部分からの出血がひどかった。

「これを飲んで!」

 国吉文絵はポケットから小さなガラス瓶を取り出し、そう言った。蓋を外し、中に入っていた緑色の液体を千野圭吾に飲ませる。
 すると、出血が少し減ったような気がした。国吉文絵はさらにもう1本ガラス瓶を取り出し、中の液体を患部に振りかけた。みそうだな、と思ったが、千野圭吾は痛そうな反応は見せなかった。逆に、痛みがスッと引いたような、楽な表情になっていた。よく見ると、完全に傷が消えていた。

「みんな、ありがとう……。もう大丈夫だ」

 千野圭吾はそう言うと、大きな溜め息をついた。

「昨日、お小遣いで初級ポーションを買っておいてよかったわ」

 国吉文絵も溜め息をついてそう言った。

「国吉さん、グッジョブだ」

 俺はそう褒めた。

「使った初級ポーションの代金は、後で文絵さんに渡しておくね。必要経費だし」

 夏目理乃はガラス瓶を回収しながらそう言った。

「でも、何で千野っちが襲われたんだろうね。その直前までは烏丸Pを狙ってたのに」

 有希は気になった様子でそう言ったが、俺には有希が千野圭吾のことを「千野っち」と呼んだことの方が気になった。ちのっち、って、語呂はいいけど……。

「うーん……。何でだろうね」

 鈴本は眉をひそめてそう言った。『魔物図鑑』で予習してきた鈴本にも分からないのか、と思いながら、俺は真剣に考えた。そして、あることに気付いた。

「なあ。ケイヴは洞窟で、タートスは陸亀っていう意味だよな?」

 俺はそう確認した。

「うん。翻訳魔法がこの世界の言語を英語に訳した言葉を、さらに日本語に翻訳するとそうなるね」

 鈴本は眼鏡のズレを直しながらそう答えた。

「ってことは、ケイヴタートスは洞窟陸亀っていう意味だよな。光が射さない洞窟に住んでいる生き物ってことは、視力じゃなくて聴力とか地面の振動とかで獲物の位置を把握してるんじゃないか? コウモリみたいに。だから、さっきは正面で槍を構えていた俺や国吉さんや安来さんじゃなくて、大きな足音を立てて移動していた千野くんに標的を変更して攻撃したんじゃないだろうか。で、その後は俺が大声を出したから、再び俺を次の標的に選んだんじゃないか?」

 俺がそう言うと、みんなは驚いた表情で俺を見た。

「そうか……。そんな情報は『魔物図鑑』にも載っていなかったけど、確かに辻褄は合うな。完全に視力がゼロとは限らないけど、視覚よりも聴覚や触覚や嗅覚に頼っている可能性は高いな」

 鈴本は感心した様子でそう言った。

「だとしたら、俺の指示のせいで千野くんを怪我させちゃったってことになるんだけどな。ごめん」

 俺は千野くんに謝った。

「いや、誰も気付かなかったんだから仕方がないだろう」

 千野圭吾は笑顔でそう言ってくれた。

「烏丸P、凄いじゃん! 名推理だよ!」

 有希はそう言い、俺の背中を叩いた。

「まあ、まだ正解と決まったわけじゃないけどな」

 俺はそう予防線を張っておいた。

「ケイヴタートスが聴力で獲物の位置を把握しているのだとすると、それを利用して罠を仕掛けられるわね」

 国吉文絵はケイヴタートスの死体を見下ろしながらそう言った。
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