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1回戦 Sランク冒険者ゲーム31

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「どうかしら。ザイリックは、死体を回収して魔空間に転移するようなことを言ってたし、もう回収されてるかもしれないわよ」

 国吉文絵はそう指摘した。

「あー、そうか。そうかも。でも、首都班の男子6人が裸やパンツ一丁の姿で蘇生させられたのって、たぶん死んだときにその格好だったからだよね? ってことは、すでに死体が回収されていたとしても、死体から離れた服やアクセサリーなんかは、地面に散らばってるかもしれないよ」

 夏目理乃はそう反論した。

「まあ、とにかく行ってみないと分かんないな。受付で依頼を受注して、武器屋で武器と、夏目さんの防具とかを買って準備したら、北門から出てあの場所を見に行こうか」

 俺はそうまとめた。

 そしてギルドの受付に行き、俺達でも受注できる依頼がないかサーシャに訊いた。サーシャはGランク冒険者が初めて受注するのに相応ふさわしい、薬草の採取依頼を提案した。

「これは常駐依頼で、失敗してもペナルティがありません。薬草を持ってきた分だけ買い取る形になります。薬草の種類と採取方法、採取場所はこのようになっております。買い取り金額は採取した当日に納品した場合のものです。劣化した薬草は買い取り金額が下がったり、買い取りそのものを拒否したりする場合があります」

 サーシャは事務的な口調でそう言い、紙を1枚渡してくれた。紙には、そのあたりに出現する魔物の種類とランクも記されていた。紙は端の方が汚れていて、折り目もついていた。どうやら使い回しているようだ。

「分かりました。これを受注します」

 俺は代表してそう言った。

「常駐依頼には受注手続きはないので、そのまま出発していただいて構いません。それと、今回お渡しした紙は、必要なくなったら返却してください。また別の冒険者に渡すことになりますので。それと、魔物の素材に関する依頼の紙もお渡ししておきます。こちらも常駐依頼です。素材の相場は理想的な状態の物の場合です。大きく破損していたり腐敗していたりした場合は、買い取り金額が下がるか、買い取りそのものができません。大きな素材は、この受付ではなく建物の横に入り口がある解体作業所に直接納品してください」

 サーシャはそう言い、さらに別の紙を渡した。この街の周囲に出現するGランクからEランクまでの魔物の種類と特徴、買い取る素材の部位、買い取り金額の相場などが書かれていた。

 いやー、こういうのを見ると、本当に冒険者になったんだな、って感じがするな。Sランク冒険者ゲームとやらに強制参加させられているはずなのに、今まで冒険者らしいことを何もやってなかったからな。

 他に細かい注意事項を聞き、ギルドを出た俺達は、米崎と出くわした。

「無事にレイエットの村で世話になれることになった」

 米崎はそう報告した後、レイエットの村の場所について詳しく説明した。どうせ鈴本くんが憶えておいてくれるだろう、と思い、俺は聞き流しておいた。

「元気でな。何か変わったことがあったら、ここの冒険者ギルドに手紙を預けておけよ」

 俺はそう言った。

「うん。みんなも元気で」

 米崎はそう言い、南門の方に去っていった。以前の米崎はもっと張り詰めたような雰囲気だったというか、無理して背伸びをしている感じだったのに、今の米崎は憑き物が落ちたように自然な感じがした。

 その後、俺達はいつもの武器屋に行った。剣が4本と、槍が3本、弓が1張と、十数本の矢を買った。武器の良し悪しはさっぱり分からないので、結局店主のお勧めの、駆け出し冒険者用の安物ばかりを購入した。

「安い武器の方が、強い魔物から逃げないといけなくなったときには、躊躇ちゅうちょなく捨てられるからお勧めだぞ。下手に高い武器を持ってると、捨てるのを惜しんでしまい、それが重荷になって逃げ遅れて命を落とす……というアホみたいな死に方をする奴もいるからな。勝てそうにない魔物と遭遇してしまったら、とにかく逃げろ。逃げるのは恥じゃない。つまらないプライドのせいで死ぬことが、本当の恥だ。悔しかったら、いつか強くなってリベンジすればいいんだ」

 店主はそう説明した。
 その言葉、スタンピードから逃げた方がいいと言った俺のことを臆病者呼ばわりした石原にも聞かせてやりたいな。

 武器の数の合計は8人分で、俺達11人の人数分に足りていないが、これは有希、鈴本蓮、夏目理乃の3人分が含まれていないからだ。この3人は全然戦闘の練習もできていないし、有希に至っては今日は見学だけの予定だから、まだ武器は必要ないだろうという話になったのだ。
 有希は安静にしていないといけないから読書の続きをしていた方がいい、と俺は言ったのだが、有希に拒否されてしまっていた。まあ、仲間外れみたいにするのも可哀想だし、結局見学という形に落ち着いたのだった。

「そう言えば、遠話だっけ? 遠くの人と話ができる魔道具っていうのを私達も買ったら、便利だと思わない?」

 北門に向かって歩く途中、安来鮎見がそう訊いた。

「ああ、それか。正確には遠話機っていうんだけど、思ってたより便利な物じゃないみたいだよ。昨日読んだ本によると、地球で言うところのトランシーバーみたいなもので、最大でも10キロくらい先までしか電波が届かないらしい。しかも、周波数をいじることができなくて、予め登録してある遠話機同士でしか会話ができないんだ。さらに、使用する際にはMPを消費しないといけないという代物だ。そのくせ、凄く高くて、2つセットで10000コールトくらいが相場なんだそうだ」

 鈴本蓮はそう説明した。10000コールトと言うと、日本円に換算すると100万円くらいか。そりゃ高いな。今の俺達の所持金を超えてしまっているし、しばらくは買えそうにないな。

「おまけに、この街では売ってないんだって。昨日アクセサリーを売るときに、私も気になって探したら、この国では首都にある専門店でしか買えないって言われたよ」

 夏目理乃はそう補足した。

 そして北門に行くと、まだ門は開放されていなかった。角ウサギのスタンピードに対応していた冒険者達は出入りしているが、それ以外の冒険者や一般人の通行はまだ許可されていなかったのだ。

「今、門を開放してもいいか副ギルドマスターが判断しているところだから、もう少し待ってくれ」

 門兵の男はそう言った。

 しばらくして、城門から副ギルドマスターのエイブラムが入ってきて、スタンピードの終息を宣言し、門が一般に開放された。

 俺達は早速外に出ようとして、エイブラムに止められた。

「ちょっと待て。お前達に確認しておきたいことがある」
「何でしょうか?」

 俺は代表してそう訊いた。何か、いつの間にか俺が「エイブラム係」にされてるんだよな……。

「城門の上から確認したところ、お前達の仲間の死体が消えていたんだ。死体がなくなっている理由に、心当たりはないか?」
「えっと……角ウサギに食べられてしまったとか?」
「角ウサギは草食だ」

 あんなに獰猛で、人間を襲うのに草食なのか。角まで生えてるのに、と思ったけど、よく考えたら地球でも鹿とか牛とか、角がある動物は大抵草食だったか。そして鹿は結構凶暴らしいし、牛も闘牛のように好戦的なのがいるし、別におかしくはないのか。

「じゃあ、他の魔物に食べられてしまったのかもしれませんね」
「死体があったはずの場所からは服も消えていた。魔物は服までは食べない」
「そうですか……。謎ですね」

 別に俺が本当の答えを教えてあげる必要はないのだ。俺にも分かりません、と言っておけばいいのである。

「はあ……。もういい。だが、現在きみ達は監視対象になっている。これ以上怪しい行動はするな。それと、スタンピードが終息したとはいえ、まだ普段よりも角ウサギの出現率が高いから注意しろよ」
「分かりました」

 俺は別に怪しい行動なんてしてないのに、と不満に思ったが、神妙な顔で頷いておいた。
 それにしても、わざわざ監視対象であることを教えてくれるなんて、エイブラムはいい人なのかもしれないな。泳がすことより釘を刺すことを優先したのかもしれないが。
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