異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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1回戦 Sランク冒険者ゲーム30

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 米崎は、目を怪我した現地の女の子の治療費だと言って、夏目理乃から1000コールトを借りて去っていった。

「米崎の話、本当だと思うか?」

 宿の前で、俺は夏目理乃の方を見てそう訊いた。

「さあ。まだ分からないわ」
「分からないのに貸したのか?」
「ええ。これから先、米崎くんのことを信用できるかどうか試す、いいチャンスだと思って。私は米崎くんを尾行して、あの話が本当なのかどうか確かめてくるから、後はよろしくね」

 夏目理乃はそう言い、俺にお金を渡すと、米崎の後を追っていった。

「……怖い奴だな」

 俺がそう呟くと、鈴本蓮や千野圭吾も頷いた。

「理乃って、基本的に考え方が悪役っぽいんだよね……」

 有希は、夏目理乃が去っていった方角を見ながらそう言った。

 それから、俺達10人は昨日と同じ武器屋兼防具屋に行き、すでに防具を買った俺と青山以外の8人の防具を店主に見繕ってもらった。
 そして冒険者ギルドに行くと、昨日と違って酒場が開いていて、それなりに冒険者がいた。有希は冒険者登録をした後、鈴本蓮と相談し、『戦闘指南 後衛編』という本を読むことになり、図書室へ行った。回復魔法の使い方やタイミングについて学ぶためだ。

 残りは昨日と同じように練習場に移動した。ここの冒険者の人達はあまり練習というものをしないのか、俺達以外に利用者はいなかった。

 昨日サーシャの指導を受けていないのは、この中では鈴本蓮だけだった。昨日教わったことを思い出しながら、俺と青山と千野圭吾は素振りの方法などについて鈴本蓮に教えた。
 だが、鈴本蓮は早々にバテてしまった。昨日、真っ先に脱落した国吉文絵よりも早かった。昨日の国吉さんと違って防具を身につけているとはいえ、いくら何でも体力なさすぎだろ、と思った。

「僕は肉体労働向きじゃないんだ……」

 鈴本蓮は柱にもたれかかりながら、そう言い訳をした。

「素振りのことを肉体労働って言うな」

 俺はそう突っ込んだ。

「もう図書室へ読書しに行ってもいいかな?」
「うーん。少し休憩したら、体力作りのために練習場の中をジョギングでもしたらどうだ? 読書はその後だな」
「僕は、身体を動かすことに罪悪感を覚えるタイプの人間なんだよ」
「ただ休みたいだけなのに、かっこつけるなよ……」

 鈴本ってこんな奴だったっけ? と幻滅してしまいそうだったが、誰にでも苦手なことはあるということなのだろう。

 その後、鈴本は防具を脱ぐと嫌そうな顔でジョギングを始めたが、その走り方は、運動が苦手な人特有のフォームだった。前途多難だな。

 一方、鈴本以外の8人は、それぞれ自分がどの武器で戦うかについて話し合いをした。鈴本は戦う以前の問題なので、武器を選ぶどころではない。

 俺と青山と千野圭吾と立花光瑠は、剣を選んだ。佐古くんと安来鮎見と国吉文絵は槍を、朝倉夜桜は弓を選んだ。
 ただ、これはまだ暫定的なものだ。青山はそのうち包丁で戦うようになるだろうし、千野圭吾は鍜治屋のイメージ的に金槌やハンマーで戦うようになるかもしれない。立花光瑠は鍬で、安来鮎見は釣り竿で、朝倉夜桜は人形で戦うようになるかもしれない。

 とりあえず、今はこの武器でGランクの魔物と戦ってみることにしただけだ。

 後は、それぞれが選んだ武器の素振りをした。鈴本はさほど広くもない練習場を3周しただけで、ベンチで休憩し始めてしまったが。

 そこへ、夏目理乃がやってきてこう報告した。

「米崎くんの話は本当だったみたい。米崎くんは南門近くの城壁に上った後、ウサギ耳の獣人の女の子と一緒に下りてきて、治療院に入っていったの。そこまで見届けて、私だけ先に帰ってきたわ」
「そうか。疑って悪いことしちゃったな」

 俺は少し反省してそう言った。

 考えてみれば、俺だって予選のときには現地の人達に嘘をつきまくったし、1回戦が始まってからも、副ギルドマスターのエイブラムに嘘をついたし、あまり他人のことは言えないんだよな。

 その後、夏目理乃へ素振りのやり方を教えるのは女子達に任せようと思ったのだが、朝倉夜桜も国吉文絵も安来鮎見も他人に教える自信がないと言い出してしまった。立花光瑠はあまりにも無口すぎて、教えるのには向いていなさそうだ。

 結局、鈴本のときと同じく、俺と青山と千野圭吾の3人で教えた。

 そこへ、米崎が現れた。

「みんなに謝らないといけないことがある。僕に付与された職業が小説家だというのは、嘘だったんだ。ごめん。僕の本当の職業は羊飼いなんだ」

 米崎は、やっと嘘を認めてそう言った。

「ああ。羊飼いか。いい職業じゃないか」

 青山はそう言ったが、俺は別のことを考えていた。羊飼いって、オオカミ少年の職業だよな……、と。

「それで――僕にアイデアがある。羊を使って、敵チームに勝つためのアイデアが」

 陽人がそんなことを言い出し、俺は唖然としてしまった。俺は、羊にそこまでのポテンシャルは感じられなかったのだ。

 だが、米崎の話を詳しく聞いてみると、検討の余地がありそうだった。

 図書室へ有希を呼びに行き、練習場のベンチに座りながら、米崎が考えた作戦について12人全員で話し合いをした。

 米崎の作戦は粗が多く、そのままでは使えそうになかったが、みんなで問題点を洗い出して修正することで、現実的なものに変わっていった。途中、レイエットという子に貸すはずだったお金で羊を買ってしまったことを米崎が告白したときは、夏目理乃は文句を言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わなかった。

「――という感じでいいかな?」

 長い話し合いの後、俺はみんなの顔を見回してそう訊いた。

「うん。それでいいと思う」

 鈴本はそう頷いた。

「僕もそれでいいと思うよ!」

 キツネのコンちゃんもそう言った。ちなみに、朝倉夜桜は昨夜か今朝のうちに新しいハンドパペットを作り直したらしく、コンちゃんは綺麗にリニューアルされていた。昨日は角ウサギのせいでボロボロになっていて、右目部分に大きな穴が開いていて怖かったので、正直俺も助かった。

「じゃあ、これからはこの『米崎作戦』を実行に移すつもりで、準備していこう」

 俺はそうまとめた。

 米崎以外の11人は、ひとまず、ある程度までレベル上げをしながら冒険者ランクを上げる。そこから先は、それぞれの役割に向けて別行動をとることになる。

 米崎は最初から別行動だ。米崎はこれから、あえて冒険者登録をせず、戦闘も一切せず、羊飼いの仕事だけをして職業レベルを上げていくことになる。レイエットの村に世話になりながら、羊の世話をするのが理想だ。米崎は早速、その話をしにレイエットのところへ向かっていった。

 米崎と入れ替わるように、サーシャが練習場に現れた。

「角ウサギの数が減ってきていて、もうすぐスタンピードが終息しそうです。ギルドはこれより、通常業務に戻ります」

 サーシャはそう報告した。

 それを聞き、俺達は借りていた剣と槍と弓を倉庫に戻した。

「これでやっと、依頼を受注しながらレベル上げができるな」

 武器屋で剣を選ぶのを楽しみにしながら、俺はそう言った。

「待って。その前に、死んだクラスメート達の遺体を見に行かない? 江住さんと西表さんと浅生さんも、有希ちゃんと同じく換金用のアクセサリーをたくさん身につけていたんでしょう? 他の人にアクセサリーを拾われる前に、回収しに行かなきゃ」

 夏目理乃はそう言い出した。
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