異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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1回戦 Sランク冒険者ゲーム19

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 俺は針を受け取り、左手の人さし指に刺して、血を一滴、水晶玉のような魔道具の上に落とした。そして言われたとおりに、傷口に布を押し当てると、布が血を吸収した。一瞬で痛みが消えたので驚いて傷口を見ると、傷は跡形もなく消えていた。この布も治療用の魔法製品だったようだ。

 血がゆっくりと魔道具の中に浸透していき、その中で炎のように揺れ、一瞬だけ光ったと思ったら、血は消えていた。

 サーシャはカウンターの下から、パソコンのキーボードによく似た魔道具を取り出し、何やら入力した。すると、カウンターの下からプリンターの稼働音のようなものが聞こえ、サーシャはそこから冒険者カードを取り出した。

 サーシャはカードに目を落とし、一瞬だけ目を大きく見開いた。

「こちらがクロウ様の冒険者カードです。再発行には手数料がかかるので、なくさないようにしてください」

 渡された冒険者カードには【名前:クロウ 職業:複製師Lv1 基礎レベル:2 冒険者ランク:G】と書かれていた。

「分かりました。さっき、一瞬驚いたような顔をしたのはどうしてですか?」
「失礼しました。複製師という職業の人を見たのが、初めてだったからです」
「そんなに珍しい職業なんですか?」
「ええ……。詳しく知りたい場合は、2階に図書室があるので、その蔵書である職業辞典をご覧ください」

 図書室と聞いて、鈴本蓮と国吉文絵が目を輝かせた。2人とも、本が好きなのだろう。

 そして、青山、鈴本蓮、佐古くん、千野圭吾、夏目理乃、国吉文絵、安来鮎見、朝倉夜桜、立花光瑠と、順調に冒険者カードを作っていった。

 残っているのは米崎陽人だけだった。しかし、米崎陽人はカウンターに近づかず、むしろ遠ざかるようにしてパーティの最後尾に居座っていた。

「米崎くん、何やってるんだ? 早くこっちに来てカードを作ってくれよ」

 俺はそう呼びかけた。

「えっと……。その……」

 なぜか米崎陽人は躊躇ためらっているようだった。

「もしかして、体調が悪いのか?」

 俺はふと気付いてそう訊いた。

「え? あ、うん! そうそう! そうなんだよ! 実は体調が悪いんだ!」

 米崎陽人は元気良くそう答えた。体調が良さそうだったので、俺は心配するのがバカらしくなった。

「じゃあ、冒険者カードだけ作ったら宿に戻って寝てればいいから。さっさと作ってくれ」

 俺はそう催促した。

 すると、米崎陽人は再び挙動不審になり――。

「ごめん!」

 そう叫ぶと、きびすを返して冒険者ギルドから飛び出していってしまった。

「……は?」

 俺は訳が分からず、そう呟いた。

「米崎くん、逃げちゃったの? 何で?」

 夏目理乃も訳が分からない様子でそう訊いた。

「とりあえず、追いかけた方がいいんじゃない?」

 佐古くんはみんなの顔を見回すようにしてそう言った。

「いや、ちょっと待ってくれ。米崎とは幼馴染みの俺が説明する」

 青山はそう言うと、サーシャに向かって「すみません。ちょっとあっちのテーブルと椅子をお借りしてもいいですか」と頼んだ。

「ええ。構いませんよ。パーティの脱退や追放、再編成などは日常茶飯事ですから、皆様でゆっくりとご相談なさってください」

 サーシャはにっこりと笑ってそう言った。
 追放も日常茶飯事なのか……。追放した相手が実は陰でパーティを支えていたと追放後に判明して後悔し、そいつを呼び戻そうとしたけど、そいつは新しい人生をスタートさせていて、パーティには戻りたがらない、なんてことも日常茶飯事なのだろうか。まあ、俺達は米崎陽人を追放したわけじゃないし、あまり関係のない話だが。

 とにかく、俺達はサーシャには話が聞こえないであろう場所まで移動し、10人でテーブルを囲んだ。

「えーと、何だかあいつの陰口を叩くみたいで気分が悪いんだけど、ここまでクラスメート達に迷惑をかけてしまったら、もうどうしようもないから話そうと思う。――あいつは、中二病なんだ」

 青山は深刻な表情でそう打ち明けた。

「中二病? それって、あれだよな。眼帯を外しながら『我が邪眼の恐ろしさ、思い知るがいい……』とか言ってみたり、包帯を巻いた手首を押さえながら『くっ。鎮まれ! 我が左手に封印されし邪竜よ! こんなところで暴れたら、街に甚大な被害が出てしまう! ……ふぅ。何とか押さえ込めたか。危ないところだった』って言ってみたりする、あれだよな?」

 俺はそう確認した。

「随分と具体的な説明だったけど、まあ、その『あれ』だ」

 青山はそう頷いた。

「でも、米崎はそんな言動は1度も――いや、待て。そう言えば、あいつは右目に眼帯をして、左手首に包帯を巻いてたじゃん! 事故か何かで怪我でもしてるのかな、って程度に思っていたけど、もしかしてあれが……」

 俺は突然気付いて、そう指摘した。

「そう。あれが中二病だったんだ。あの眼帯の下には邪眼が封じられていて、左手には邪竜が封印されているという設定だ。あいつは小学校の高学年くらいからそんなことを言い始め、高校1年生になった今もその中二病は治っていないんだ」
「でも、俺達の前ではそんな中二病っぽい言動はしてなかったじゃないか」
「いや、していたんだよ。烏丸達の前でも中二病ムーブを。ただ、米崎と出会ったばかりの烏丸達は、あいつの中二病ムーブに気付かなかっただけだ」

 青山は真面目な表情でそう言ったが、中二病ムーブって何やねん、と俺は突っ込みたくなった。

「――あ! まさか、あれが中二病ムーブだったの!?」

 夏目理乃は愕然とした表情でそう叫んだ。

「夏目さんは気付いたみたいだな」

 青山は夏目理乃に顔を向けた。

「ええ……。異世界・・・転生モノの・・・・・ウェブ小説を・・・・・・書いていて・・・・・それが・・・編集者の・・・・目に留まって・・・・・・作家デビュー・・・・・・したという話・・・・・・あれが・・・中二病ムーブ・・・・・・だったのね・・・・・?」

 夏目理乃の言葉を聞いて、俺は開いた口が塞がらなかった。

 あれが中二病ムーブだったって? にわかには信じがたいが、よく考えてみると、俺は米崎のデビュー作のタイトルもペンネームも聞いたことがなかった(中二病ムーブとかいう謎の言葉をみんなが使いこなし始めていることについては、スルーすることにした)。

「その通りだ。中学2年生の頃にあいつから作家デビューしたという話を聞かされて、最初は俺も信じそうになったんだよ。でも、タイトルとかペンネームとか、どこのサイトで小説を発表してるのかとか、発売日とか、出版社の名前とか、詳しいことを訊いても何一つ教えてくれなかったんだ。『覆面作家だから教えられない』の一点張りで。でも、おかしいだろ。覆面作家だと周囲に打ち明ける理由は、本の宣伝のためだから、タイトルくらいは教えるものだろう。だから、俺もクラスメート達も、『ああ、またいつもの中二病か』ってすぐに理解したんだよ」

 青山は溜め息混じりにそう言った。

「そこまで行くと、中二病を通り越して、ただの虚言きょげんって感じだよね」

 キツネのコンちゃんが朝倉夜桜に向かってそう言った。朝倉夜桜はうんうんと頷いた。

「お前が言うなよ!」

 俺は我慢できずにそう叫んでしまった。

「え? どうして僕が言っちゃいけないの? 僕が人間じゃなくてキツネだから?」

 キツネのコンちゃんは(朝倉夜桜は)、狼狽うろたえたようにそう訊いた。

 米崎なんかより、お前の方が何百倍もヤバい言動をしてるからだよ!

 本当はそう言いたかったのだが、それを言ってしまうと、米崎に続いて朝倉夜桜まで逃げ出してしまい、完全にパーティが崩壊してしまう危険性が高かったので、俺は言いたいことをグッと飲み込んだ。

「でも、これで米崎が突然逃げた理由が分かったな。あいつが作家デビューしたという話が嘘だったってことは、ザイリックに付与された職業が小説家だっていうのも嘘だったんだろう。冒険者カードに本当の職業が記載されたら、嘘がバレてしまうから逃げ出したんだな」

 俺は朝倉夜桜のことはスルーしてそう言った。
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