異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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1回戦 Sランク冒険者ゲーム7

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【お知らせ】
 5話前の「1回戦 Sランク冒険者ゲーム2」の後半部分に、魔法やスキルを発動させる方法をザイリックに訊いたけど、ザイリックが「その質問は禁則事項です-」と答える、というシーンを加筆しました。
 このシーンを書いたつもりで書き忘れていましたorz すみません。
――――――――――――――――――――――――――


 城壁の中から、カーンカーンカーン、という甲高い鐘の音が聞こえた。スタンピードを街の人に知らせているのだろう。

 逃げなければ。街の中に入れてもらうのが理想的だ。しかし、城壁は見えるが、城門の位置が分からない。

 1回戦が始まる前、俺はザイリックに地図で表示されたスプリングワッシャーの城門の北にある街道を指で示し、周囲に誰もいない場所という条件を付け加えた。

 街道には誰か現地の人がいたため、その人から見えない位置に転移されてしまったのだろう。それはつまり、俺の立っている場所からだと、街道が見えないことを意味する。
 それか、城門の上のやぐら台のような場所に見張りの人がいて、その人から見えない位置に転送されたのかもしれない。だとすると、城門まで相当の距離がある可能性がある。

 木でもあれば、そこに上ってやり過ごすという方法もあるのだが、周囲は草原だ。背の高い木は半径数百メートル以内に1本も生えていない。

 どっちだ? 右と左、どちらに逃げればいい? どっちに城門があるんだ? 間違えたらゲームオーバーだ。

 クラスを2つに分けて、別々の方向に逃げるべきかもしれない。そうすれば、上手くいけば2分の1は助かるかもしれない。

 俺がそう考えていると――。

「迎え撃つぞ! 前衛は前に出てスキルを発動させて攻撃しろ! 後衛はその後ろで魔法や弓を放て! 生産職は戦闘職の邪魔をしないように、後ろで大人しくしてろ!」

 石原が勝手にそんな指示を出してしまった。

「おう!」「分かったッス!」

 取り巻きABがそう応答した。それにつられて、みんなが立ち位置を変更し始めてしまった。

「逃げた方がいい!」

 俺はそう叫んだ。

「うるせえ! 生産職の臆病者はすっこんでろ! 戦闘職のみんな、闘うぞ!」

 石原が、俺の叫びをかき消すように叫び返した。

 困ったことに、石原の言うことにも一理あるのだ。スタンピードとはいえ、相手はこの世界で最弱の魔物とされる角ウサギだ。みんなで協力して戦えば、案外簡単に勝てるかもしれないのだ。しかし、俺が逃げろと強硬に主張すると戦線が崩れてしまって、勝てるものも勝てなくなってしまうかもしれない。

 もっと上位の魔物のスタンピードだったなら迷わずに逃げろと言えるのだが、1度も戦ったことがないにも関わらず、相手は弱い魔物だという認識があるせいで迷いが生じてしまっていた。

 そして――二手に分かれて、その片方が城門に辿り着いたとしても、中に入れてもらえるとは限らないのだ。何しろ今は、スタンピードが発生している真っ最中だ。俺達が城門の外で助けを求めても、城門を開けたら魔物も一緒に入り込んできてしまうからと、見殺しにされてしまう可能性だってある。

「戦うなら、せめて城壁を背にして戦え!」

 俺はそう叫び、自ら真っ先に城壁に向かって駆け寄った。他のクラスメート達もついてきた気配があった。
 城壁を調べ、どこかに登れそうな場所がないか探すが、見つからない。城壁は、色合いが茶色だが、コンクリートによく似た素材に見えた。凹凸が少なく、手足を引っかけることができる場所もない。
 そりゃそうだろう。外敵からの侵入を防ぐために城壁を築いているのに、登れそうな場所を放置しておくはずがない。

 振り返ると、石原の指示通りに、前衛職の10人前後が1番前に出て、その後ろに後衛職の10人前後が並び、さらにその後ろの城壁に1番近い場所に10人前後が並んでいる様子だった。
 俺の右隣には美容師の有希がいて、左隣には料理人の青山がいた。俺の前には、左から順に浅生律子、七海、心愛の3人が並んでいた。さらにその前には、柔道が得意な女子、柔道子ちゃんや、巨漢くん、石原、取り巻きABなどがいた。

 大地を埋め尽くすような角ウサギの大群は、残り100メートルにまで接近していた。

「スキルって、どうやって発動させればいいんだ!?」

 数人挟んだ場所から、男子のそんな声が聞こえてきた。

「魔法って、どうやったら撃てるの!?」

 女子のそんな声も聞こえた。

「私、弓士だけど、弓なんて持ってないよ!」

 後衛の列にいた女子のそんな声も聞こえた。

「ファイヤーボール!」

 石原でも取り巻きABでも巨漢くんでもない元首都班の中の1人が、右手を前に突き出してそう叫んだが、何も起こらなかった。そいつも、駄目元で叫んでみただけだったのだろう。

 そこから、みんなが自分の職業のイメージに合った魔法やスキルの名前を適当に叫んだり、唸ったり、変な動きをしたりしたが、誰もスキルや魔法を発動させることに成功していなかった。歌手の七海は、予選時に『1の3』として活動していたときによく歌っていたアイドルソングを歌い始めたが、何の効果もない様子だった。

 今ごろになって、何人かが石を拾っている始末だった。石を武器にするなんて原始人みたいだな、と思いながら、俺も手ごろな大きさの石を探して拾った。

 そして、とうとう、角ウサギの大群が俺達の眼前に迫った。

 近くで見ると、漠然と想像していたよりも大きかった。日本にいた頃、小学校の中庭のウサギ小屋で飼っていたウサギよりもずっと大きい。中型犬くらいのサイズがある。額に長さ15センチくらいの鋭い角が1本生えている。凶悪な顔つきだ。そして、予想以上に俊敏な動きをしていた。

 角ウサギが巨漢くんの1メートルほど手前でジャンプし、巨漢くんの顔を目がけて角で攻撃しようとした。巨漢くんが石を握り締めた右手で角ウサギを殴り、地面に叩きつけた。最初の角ウサギのすぐ後ろにいた、2匹目の角ウサギは、左手で振り払った。そして、3匹目の角は、顔面で受け止める結果となった。さらに4匹目、5匹目、6匹目の角ウサギが跳びかかり、角が身体に突き刺さった。

 他の前衛達も同じような状況だった。石原も取り巻きABも、角ウサギの角で、全身が穴だらけになっていた。柔道子ちゃんも、人間が相手ならともかく、角ウサギには柔道の技が殆ど通用せず、苦戦していた。

 確かに、1匹1匹の角ウサギはそれほど強くないようだった。牙も鋭い爪もないようで、角にさえ気を付ければ何とかなりそうな気配はあった。石で角ウサギの頭を強く殴れば、それだけで殺すことができるようだった。すでに前衛のクラスメート達が何匹もの角ウサギを倒していて、動かなくなった角ウサギが地面の上に転がっていた。

 しかし、数があまりにも多すぎる。

 1匹1匹の蜂はそんなに強くないが、蜂の集団に襲われたら、ひとたまりもない――そんな状況によく似ていた。

 とうとう、石原や取り巻きABが倒れた。他の前衛も次々と倒れていく。すると、今度はその後ろにいた後衛職が狙われ始めた。あちこちから悲鳴が上がる。

「戦うのは無理だ! 身を低くして、防御姿勢をとれ! 角ウサギの死体を拾って盾にしろ!」

 俺はそう指示した。浅生律子、七海、心愛の3人や非戦闘職のクラスメート達は俺の指示通りにしゃがんだが、遠くにいる後衛や巨漢くんには聞こえなかったのか、それとも混乱していたのか、立ったまま角ウサギを1匹でも多く倒そうと藻掻もがいていた。

 巨漢くんは前衛の中で最後まで頑張っていたが、とうとう耐えきれずに膝から崩れ落ち、土下座をするような姿勢で倒れてしまった。

 そして、今まで巨漢くんの陰に隠れていた浅生律子、七海、心愛の3人に角ウサギの群れが襲いかかる。3人は巨漢くんが倒してくれた角ウサギの死体を引き寄せ、それを盾にしようとしていたが、焼け石に水だった。すべもなく攻撃され始めた。

 俺はしゃがみながら、石を掴んだ手を伸ばして、七海達に襲いかかる角ウサギを攻撃する。だが、この体勢では攻撃力が落ちてしまい、あまり角ウサギを殺すことはできなかった。

 すでに倒れている前衛達にも、角ウサギは襲い続けていた。あれだけの傷を負って生きているとは思えない。すでに前衛は全員が死んでいるだろう。

 ああ……これ、駄目だ。クラス全員、ここで死んでしまうな、と思った。
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