異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選65

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 その後、『1の3』のメンバー達が個人のスポンサーに送る予定の限定グッズをステージの上で作り始めた。
 本当は昨日の昼に行なうはずだったのだが、大会の参加者があまりにも多すぎて、そんなことをやっている余裕がなかったのだ。学習して、今日は午前中のうちにその作業を終わらせておくことにした。

 それぞれが筆でTシャツに自画像を描いていく。1番絵が上手いのは有希で、七海は漫画っぽいイラストを描いていた。心愛は……何て言うか、画伯っぽい感じだった。もちろん、この場合の画伯は悪い意味である。何なんだよ、このクリーチャーは、と思ってしまったが、黙っておいた。プロデューサーとかマネージャーをやっていると、黙っていないといけないことが多くて、ストレスが溜まってしまうな……。

 さらに、3人はそれぞれのイメージカラーに合わせた水性インクを手の平に塗って、手形を押した。

 突然始まったパフォーマンスを、客達はステージ前に集まって眺めていた。

 これは個人のスポンサーに渡す限定グッズだと俺が説明すると、今からでもスポンサーになれないかと問い合わせる客達が殺到した。

 計画通り……!

 無地のTシャツの在庫はまだあるし、もちろん断る理由などなかったので、じゃんじゃん受け付けておいた。

 インクが乾燥した後、Tシャツはステージの壁にピンを刺して、ハンガーで吊るしておいた。こうやって目立つ位置に並べておけば、後からやってきた客達も限定グッズが欲しくなるだろう、と思ったのだ。

 リバーシとトランプの販売所の様子を見に屋台村に行くと、ゴミ拾いをしているストリートチルドレンの姿が目立った。ここに来るとまともな食事をもらえるという噂が広まったのか、昨日よりも人数が増えているようだった。

 院長に聞いてみると、すでに10人以上に食事を渡したと言われた。俺はその分の代金を支払っておいた。

 昨日1日特訓したため、じゃがバターの屋台は、青山がいなくても孤児院の関係者だけで上手く回っている様子だった。

「一晩経ってリバーシとトランプの面白さが広まったおかげで、どちらも飛ぶように売れています!」

 販売所に行くと、ウハウハ顔のエドワードにそう報告された。

「それは何よりです」
「ただし、リバーシとポーカーの大会の参加者は、あまり増えていませんな。賞品には興味がなく、純粋に新しいゲームが欲しいという人が多いようです。一方、腕相撲の参加者は昨日よりも早いペースで増えています。酒場やレストランの経営者の中には、店に設置するためにアームレスリング台が欲しいという人もいたのですが……売ってもいいですか?」
「ロイヤリティがもらえるなら」

 俺はその場でエドワードと交渉し、20万ゼンでアームレスリング台の権利を買い取ってもらった。リバーシやトランプと比べると安いようにも感じるが、それほど需要が多いわけではないので、これくらいが適正だろうと思った。

 ステージに戻ると、ヘンリーが無料ステージで演奏会を開いているところだった。

 これまでに『1の3』が発表した曲をメドレー形式で繋げた演奏で、客達は大盛り上がりだった。無料ステージということになっているが、おひねりをもらうのは自由である。『1の3』のファン達がそれなりにおひねりをあげていて、結構儲かっている様子だった。

 こうして見ると、浅生さんと同じくヘンリーも音楽の天才なんだよな、と思った。歌わなければ、の話だが。

 2回目と3回目のライブが終わると、昼休憩およびリバーシとポーカーと腕相撲の大会の時間になった。

 参加者の人数はリバーシが270人、トランプが381人、腕相撲が2136人だった。やっぱり腕相撲は受付時から予選を始めていてよかった、と思った。

 昨日も参加した人が多いので、人数自体は増えたものの昨日よりは混乱が少なかった。

 スタッフ総出で予選の運営をこなしていると、孤児院の職員が俺を呼びに来た。

「屋台村の方が大変なことになっています!」
「大変なことって?」
「『1の3』のメンバー達が食事を買いに来たところ、大勢のファンの人達が奢りたがり、誰が奢るかで揉めているのです!」

 何じゃそりゃ……と呆れたが、呼ばれたからには行くしかなかった。

 屋台村に移動すると、確かに食事休憩用のテントの一角がとんでもない人口密度になっていた。あちこちで小競り合いが発生していて、乱闘の一歩手前になっている。

「はい! そこまで! 俺は野外フェスの運営委員長です! 喧嘩をしたら、会場から出て行ってもらいますよ!」

 俺がそう怒鳴ると、小競り合いは納まったが、人口密度は減らなかった。

「ちょっと通してください!」

 俺はそう言い、騒ぎの中心に無理矢理割って入った。

「烏丸P……」

 テントの柱にしがみつくような体勢をしていた七海が、泣きそうな顔で俺を呼んだ。4人で身を寄せ合うようにして縮こまっていた有希と心愛と浅生律子もバツが悪そうだった。4人は一応、マントのような外套を羽織って制服を隠していたが、顔を知られているのだからあまり意味がなかった。

「いったい何をやってるんだ。ここにはお前らのファンがたくさん集まってるんだぞ。『エンジェルズ』の公演の合間に食堂に行くような感覚で屋台村に来たら、こうなることが分からなかったのか」
「ごめんなさい……」

 七海に素直に謝られて、逆に俺の方が罪悪感を覚えてしまった。

「いや、言い過ぎた。昨日と違って青山がいないのに、お前らの昼食を用意しなかった俺が悪かった。俺の方こそ、ごめん」

 昨日は青山が子ども達に頼んで、孤児院に昼食を届けてくれていたのだが、今日青山はエドワードの私邸に行っていて不在だった。今日は俺が子ども達に指示しないといけなかったのに、そこまで頭が回らなかったのだ。

「そう言えば、ヘンリーさんは?」
「ここです! 騒ぎになって人が集まってきたら、リツコさん達の傍から追い出されてしまいました!」

 俺の質問に、人混みの外周の方からヘンリーが手を挙げて俺に声をかけてきた。役に立たない奴め、と思わないこともなかったが、ヘンリーの仕事はマネージャーやボディガードではないのだから、こんなことで彼を責めるのはお門違いだろう。

「とにかく、みんな解散してください! 『1の3』のメンバーに食事を奢るのは禁止します! ステージに戻るので、通してください!」

 俺はそう声を張り上げ、七海達を連れて脱出した。

 ステージ横にある楽屋代わりの休憩所のテントに戻ると、『1の9』のメンバーも大会の運営スタッフのアルバイトをしているため、中には誰もいなかった。

「ああ、怖かった……。有名人になるのも良いことばっかりじゃないね」

 七海はそう呟いた。心愛もうんうんと頷いていた。

「大変だったな」

 俺はそう労うと、女子4人にはテントで待っていてもらい、俺とヘンリーで食事を購入して戻った。

「じゃあ、食べ終わったら、昨日と同じように関係者用出入り口から抜け出して、孤児院で休んでてくれ。午後の部のステージが終わる頃に、子どもを迎えに行かせるから」
「分かった、ありがとう。烏丸Pも少しは休んでよ」

 有希が食事を取り分けながらそう言った。

「うん。言われなくてもちゃんと休んでるよ」

 俺はそう言い、大会の運営に戻った。

 昨日と同じように、最初にトーナメントを行なって優勝者が決まったのは腕相撲だった。

 優勝したのはやはりというか何というか、『エンジェルズ』の用心棒の人だった……。

「二連覇おめでとうございます!」

 俺はヤケクソで、優勝インタビューのときにそう言っておいた。
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