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予選62
しおりを挟む 孤児院に帰ると、子ども達のほとんどはすでに寝ていた。
俺は院長を探し、明日の夜遅くに重要な話があるということを伝えておいた。
「ところで、孤児院の経営状態が改善して余裕ができたら、ストリートチルドレンの子達を孤児院で預かるつもりはありますか?」
「はい。お金さえあれば」
俺の質問に、院長は真剣な表情で即答した。
「分かりました。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
俺は院長と別れ、食堂に行った。
アイドル班の6人だけで遅い夕食をとりながら、いつものようにウィンドウ画面を確認した。
【1位 229番 スサノー星代表チーム :48593320ゼン
2位 239番 地球代表チーム :38953598ゼン
3位 233番 ポリゴウム星代表チーム :37114762ゼン
4位 232番 ラクライン星代表チーム :31697711ゼン
5位 240番 ンジャイロ星代表チーム :20781349ゼン】
「やったぁっ! 4位以内に入ってる!」
七海が真っ先に歓声を上げ、他の女子と手を取り合って喜んだ。
俺は青山と顔を見合わせ、徐々に頬が緩むのを感じた。
ついに、予選通過圏内に入った。数日前までの絶望的な状況を引っくり返したのだ。
計算すると、今日1日で5000万ゼンくらい稼いだことになる。本の印税と活版印刷のロイヤリティで1100万ゼンの収入があったのも大きかったが、何より、ライブのチケット代とグッズ販売の収入が大きい。
「料理のレシピの代金、1350万ゼンは、明日の朝1番で振り込まれる予定だ。そうしたら、俺達が1位に浮上するぞ」
俺はそう言いながら、身体中から力が抜けていくのを感じた。何だか浮ついた気分だった。
これはもう、勝ち抜け確定だろう。石原のときのように、誰かを殺してしまう奴さえいなければ、の話だが。
「石原くん達の作った借金さえなかったら、もっと早い段階で私らがダントツの1位だったんだよね? これって凄くない?」
心愛がみんなの顔を見回しながらそう訊いた。
「うん! 絶対凄いよ! ウチらは最強っしょ!」
有希がそう言いながら心愛の背中を叩いた。
これで、ストリートチルドレンの子達をどうやって救うか考えるのに専念できるな、と俺は思った。
先に女子4人を孤児院の風呂に入らせ、入れ替わりに俺と青山が入った。
風呂から上がると、女子4人がまだ起きていて、俺と青山を待っていた。
「烏丸P。何か隠し事してない?」
出し抜けに、七海がそう訊いた。
「えっ。どうしてそう思ったんだ?」
「だって、予選を勝ち抜けそうな雰囲気になったのに、まだ難しい顔してて、口数が少なかったし」
「あー……。うん。実は、隠し事してた」
俺は観念し、ストリートチルドレンについて洗いざらい話した。あのとき近くにいた青山は、屋台の仕事が忙しくて、俺の行動には気付いていなかったらしい。
「そんなことがあったんだね……。1人で抱え込まずに、話してくれたらよかったのに」
七海は悲しげな表情でそう言った。
「烏丸Pって、水臭いよね」
心愛は溜め息混じりにそう言った。
「ごめん。みんなは俺と違ってライブや屋台で忙しかったし、余計なことを考えてる暇はないだろうと思って」
「何言ってるの? 烏丸Pが1番忙しかったのに」
浅生律子は呆れたような声でそう言った。
「えっ? そんなことないだろ。この6人の中だと、俺が1番暇だったじゃないか」
訳が分からず、俺はそう言った。
「いやいやいや。どう見てもこの7日間、お前が1番忙しそうだったぞ。いつ休んでるのか全然分かんなかったし」
青山までもがそんなことを言い出した。
「そうだよ。ウチらは自分の仕事だけやってればよかったけど、烏丸Pは色んなことに手を出しまくって、自分からどんどん仕事を増やしてて大変そうだよねって、みんな言ってたんだよ?」
有希は他のメンバーの顔を見回しながらそう言った。
「でも、この期に及んでまだ仕事を増やそうとしてるなんて、烏丸Pらしいよね」
七海はそう言って、少しだけ笑った。
「でも、厳しいことを言うようだけど、その子達を救うのは烏丸Pの仕事じゃないと思うわ。この国の人達や、この街の人達の仕事よ。所詮、私達はよそ者なんだから、無理してそんなことまで考えなくてもいいんじゃないかしら。デスゲームを生き残ることだけを考えるべきよ」
浅生律子は真剣な表情でそう言った。
「うん……。浅生さんの言うとおりだと思う。実際、俺も、これが他の街の出来事だったら、何もせずにスルーしていたと思う。だけど、あの子達は野外フェスに来ていたんだ。俺達が開催した野外フェスに来ていて、俺の目の前でゴミを漁っていたんだ」
俺は考えながらそう答えた。
「ねえ。これって、そんなに難しい話なのかな? 要は、孤児院にお金があれば解決できるんだよね? ほら、前髪眼鏡くんが保険や年金の会社を作るって話をしてたときに烏丸Pがザイリックに確認したら、予選が終わった後、プレイヤーが所持していた『ゼン』は、その場に残るって教えてくれたじゃない? 銀行預金は、銀行に残るらしいけど。だったら、明日私達がこの街を去るときに、そのお金を孤児院に寄付するって言えばいいだけなんじゃないの?」
七海がそんなことを言い出した。前髪眼鏡くんというニックネームが浸透してしまっていることについて、俺は脳内で彼に謝っておいた。
「うん。俺も最初からそうするつもりではあった。だけど、それだけじゃ根本的な解決にはならないんだ」
俺はそう答えた。
「どうして?」
心愛が何も考えていないような顔でそう訊いた。
「俺達が寄付したお金は、いつか使い切って、無くなってしまうからだよ。そうなると、再び孤児院はストリートチルドレンを受け入れることができなくなってしまう。だから、俺達が稼いだお金を全て寄付しても、それは俺が院長先生を通じてあの子達に食べ物をあげたときと同じように、ただの対症療法に過ぎないんだ」
「そんなに先の未来のことまで考えて悩んでたんだね……。でも、それはいくら何でも抱え込みすぎだよ」
七海は痛ましいものを見るような表情で俺を見てそう言った。
「結局、どうなったら解決ってことになるわけ?」
心愛は苛々したような声でそう訊いた。
「この街の人達が、自分達の力でストリートチルドレンを救おうと考えるようになり、実際に救えるようになれば、解決だ」
「それなら、領主を説得するのが1番手っ取り早いよな。あの人がこの街で1番のお金持ちなんだろうし」
青山が腕を組んでそう言った。青山も俺達が領主の館に招かれたことは知っていたし、開会式のときに領主一家を見ていたはずだ。
「うん。でも、それが難題なんだ。領主はストリートチルドレンの問題を知っていて、あの子達を救う力があるのに、その力を行使していない」
「普通に領主を説得するのは駄目なの? 『あの子達を救うために孤児院に寄付してください』って」
心愛がそう訊いた。
「為政者っていう人種は、そういうのを1番嫌がるんだよ。自分が見下している側の人間に命令されるのを」
「あー、それは分かる気がする……」
有希がそう同意した。
「ってことは、領主が自発的に寄付してくれるように仕向ければいいんだな」
青山が考え込むような表情でそう言った。
そのとき、俺の脳内に電気が走ったような感覚があった。
頭の中だけでうじうじと考えず、みんなと話し合ったおかげで思いついたアイデアだった。
「分かった! チャリティーをやればいいんだ! 領主がやってくる、明日の最後のライブはチャリティーということにして、『この街のストリートチルドレンを救うために、最後のライブの収益を全て孤児院に寄付します』と来場者達に宣伝すればいいんだ。そして、個人的な寄付も募れば、領主だって寄付してくれるはずだ。何日か前に、企業や個人が野外フェスのスポンサーになってくれたことを領主に話したら、『平民達が寄付をしたのに、貴族が寄付をしないわけにはいかんな』って言ってたし!」
俺はそう叫んだ。
俺は院長を探し、明日の夜遅くに重要な話があるということを伝えておいた。
「ところで、孤児院の経営状態が改善して余裕ができたら、ストリートチルドレンの子達を孤児院で預かるつもりはありますか?」
「はい。お金さえあれば」
俺の質問に、院長は真剣な表情で即答した。
「分かりました。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
俺は院長と別れ、食堂に行った。
アイドル班の6人だけで遅い夕食をとりながら、いつものようにウィンドウ画面を確認した。
【1位 229番 スサノー星代表チーム :48593320ゼン
2位 239番 地球代表チーム :38953598ゼン
3位 233番 ポリゴウム星代表チーム :37114762ゼン
4位 232番 ラクライン星代表チーム :31697711ゼン
5位 240番 ンジャイロ星代表チーム :20781349ゼン】
「やったぁっ! 4位以内に入ってる!」
七海が真っ先に歓声を上げ、他の女子と手を取り合って喜んだ。
俺は青山と顔を見合わせ、徐々に頬が緩むのを感じた。
ついに、予選通過圏内に入った。数日前までの絶望的な状況を引っくり返したのだ。
計算すると、今日1日で5000万ゼンくらい稼いだことになる。本の印税と活版印刷のロイヤリティで1100万ゼンの収入があったのも大きかったが、何より、ライブのチケット代とグッズ販売の収入が大きい。
「料理のレシピの代金、1350万ゼンは、明日の朝1番で振り込まれる予定だ。そうしたら、俺達が1位に浮上するぞ」
俺はそう言いながら、身体中から力が抜けていくのを感じた。何だか浮ついた気分だった。
これはもう、勝ち抜け確定だろう。石原のときのように、誰かを殺してしまう奴さえいなければ、の話だが。
「石原くん達の作った借金さえなかったら、もっと早い段階で私らがダントツの1位だったんだよね? これって凄くない?」
心愛がみんなの顔を見回しながらそう訊いた。
「うん! 絶対凄いよ! ウチらは最強っしょ!」
有希がそう言いながら心愛の背中を叩いた。
これで、ストリートチルドレンの子達をどうやって救うか考えるのに専念できるな、と俺は思った。
先に女子4人を孤児院の風呂に入らせ、入れ替わりに俺と青山が入った。
風呂から上がると、女子4人がまだ起きていて、俺と青山を待っていた。
「烏丸P。何か隠し事してない?」
出し抜けに、七海がそう訊いた。
「えっ。どうしてそう思ったんだ?」
「だって、予選を勝ち抜けそうな雰囲気になったのに、まだ難しい顔してて、口数が少なかったし」
「あー……。うん。実は、隠し事してた」
俺は観念し、ストリートチルドレンについて洗いざらい話した。あのとき近くにいた青山は、屋台の仕事が忙しくて、俺の行動には気付いていなかったらしい。
「そんなことがあったんだね……。1人で抱え込まずに、話してくれたらよかったのに」
七海は悲しげな表情でそう言った。
「烏丸Pって、水臭いよね」
心愛は溜め息混じりにそう言った。
「ごめん。みんなは俺と違ってライブや屋台で忙しかったし、余計なことを考えてる暇はないだろうと思って」
「何言ってるの? 烏丸Pが1番忙しかったのに」
浅生律子は呆れたような声でそう言った。
「えっ? そんなことないだろ。この6人の中だと、俺が1番暇だったじゃないか」
訳が分からず、俺はそう言った。
「いやいやいや。どう見てもこの7日間、お前が1番忙しそうだったぞ。いつ休んでるのか全然分かんなかったし」
青山までもがそんなことを言い出した。
「そうだよ。ウチらは自分の仕事だけやってればよかったけど、烏丸Pは色んなことに手を出しまくって、自分からどんどん仕事を増やしてて大変そうだよねって、みんな言ってたんだよ?」
有希は他のメンバーの顔を見回しながらそう言った。
「でも、この期に及んでまだ仕事を増やそうとしてるなんて、烏丸Pらしいよね」
七海はそう言って、少しだけ笑った。
「でも、厳しいことを言うようだけど、その子達を救うのは烏丸Pの仕事じゃないと思うわ。この国の人達や、この街の人達の仕事よ。所詮、私達はよそ者なんだから、無理してそんなことまで考えなくてもいいんじゃないかしら。デスゲームを生き残ることだけを考えるべきよ」
浅生律子は真剣な表情でそう言った。
「うん……。浅生さんの言うとおりだと思う。実際、俺も、これが他の街の出来事だったら、何もせずにスルーしていたと思う。だけど、あの子達は野外フェスに来ていたんだ。俺達が開催した野外フェスに来ていて、俺の目の前でゴミを漁っていたんだ」
俺は考えながらそう答えた。
「ねえ。これって、そんなに難しい話なのかな? 要は、孤児院にお金があれば解決できるんだよね? ほら、前髪眼鏡くんが保険や年金の会社を作るって話をしてたときに烏丸Pがザイリックに確認したら、予選が終わった後、プレイヤーが所持していた『ゼン』は、その場に残るって教えてくれたじゃない? 銀行預金は、銀行に残るらしいけど。だったら、明日私達がこの街を去るときに、そのお金を孤児院に寄付するって言えばいいだけなんじゃないの?」
七海がそんなことを言い出した。前髪眼鏡くんというニックネームが浸透してしまっていることについて、俺は脳内で彼に謝っておいた。
「うん。俺も最初からそうするつもりではあった。だけど、それだけじゃ根本的な解決にはならないんだ」
俺はそう答えた。
「どうして?」
心愛が何も考えていないような顔でそう訊いた。
「俺達が寄付したお金は、いつか使い切って、無くなってしまうからだよ。そうなると、再び孤児院はストリートチルドレンを受け入れることができなくなってしまう。だから、俺達が稼いだお金を全て寄付しても、それは俺が院長先生を通じてあの子達に食べ物をあげたときと同じように、ただの対症療法に過ぎないんだ」
「そんなに先の未来のことまで考えて悩んでたんだね……。でも、それはいくら何でも抱え込みすぎだよ」
七海は痛ましいものを見るような表情で俺を見てそう言った。
「結局、どうなったら解決ってことになるわけ?」
心愛は苛々したような声でそう訊いた。
「この街の人達が、自分達の力でストリートチルドレンを救おうと考えるようになり、実際に救えるようになれば、解決だ」
「それなら、領主を説得するのが1番手っ取り早いよな。あの人がこの街で1番のお金持ちなんだろうし」
青山が腕を組んでそう言った。青山も俺達が領主の館に招かれたことは知っていたし、開会式のときに領主一家を見ていたはずだ。
「うん。でも、それが難題なんだ。領主はストリートチルドレンの問題を知っていて、あの子達を救う力があるのに、その力を行使していない」
「普通に領主を説得するのは駄目なの? 『あの子達を救うために孤児院に寄付してください』って」
心愛がそう訊いた。
「為政者っていう人種は、そういうのを1番嫌がるんだよ。自分が見下している側の人間に命令されるのを」
「あー、それは分かる気がする……」
有希がそう同意した。
「ってことは、領主が自発的に寄付してくれるように仕向ければいいんだな」
青山が考え込むような表情でそう言った。
そのとき、俺の脳内に電気が走ったような感覚があった。
頭の中だけでうじうじと考えず、みんなと話し合ったおかげで思いついたアイデアだった。
「分かった! チャリティーをやればいいんだ! 領主がやってくる、明日の最後のライブはチャリティーということにして、『この街のストリートチルドレンを救うために、最後のライブの収益を全て孤児院に寄付します』と来場者達に宣伝すればいいんだ。そして、個人的な寄付も募れば、領主だって寄付してくれるはずだ。何日か前に、企業や個人が野外フェスのスポンサーになってくれたことを領主に話したら、『平民達が寄付をしたのに、貴族が寄付をしないわけにはいかんな』って言ってたし!」
俺はそう叫んだ。
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