異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選59

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「ところで、話が変わりますが、明日の夜遅く、重要な話があるのでお時間をいただいてもいいですか?」
「構いませんが……何の話でしょう?」
「今は言えません。とにかく大事な話です」
「分かりました。今のところ特に予定もないので、大丈夫だと思います」

 待ち合わせの約束をし、これでエドワードの要件は済んだので、次は院長を探すついでに青山の屋台を見に行くことにした。

 その途中、ゴミ箱のところで不審な子ども達を発見してしまった。

 5歳から8歳くらいに見える男女の子ども達が6人、ゴミ箱を漁っていたのだ。全員がみすぼらしいボロボロの格好をしている。大人用のサイズの服を無理に来ているので、ズボンの裾を引き摺った痕があった。裸足の子も混じっている。顔には見覚えがないし、手首に目印の布を巻いていないので、孤児院の子ども達ではないことは確かだった。

 木箱を踏み台にしていた5歳くらいの男の子が、ゴミ箱の中から竹串を取り出した。焼き鳥のようなものを売っていた屋台のゴミだろう。当然、竹串には何もついていないが――5歳くらいの男の子が、その竹串を口に入れた。ゆっくりと味わうように竹串をしゃぶり、再びゴミ箱に戻した。

 8歳くらいの女の子は、ゴミ箱から紙コップを拾い、それを手で引き千切った。そして、紙コップの内側を舌で舐め取る。

 大人達は、そんな子ども達を邪険に扱うこともなく、かといって手を差し伸べることもなく、ただ単に無視していた。子ども達の存在に気付かないような素振りで、ゴミを捨てていく。6人の子ども達はそのゴミを拾って口に運ぶ。

 ――俺は、立ち竦んでいた。

 恐ろしかった。

 目の前の光景が、ただひたすら恐ろしかった。

 地球でも発展途上国に行けば、さほど珍しくない日常風景のだろう。しかし、日本で生まれ育った俺には、この世の地獄のような、絶望的な光景に見えた。

 俺は気力を振り絞って、青山の屋台のところに行った。ゼリーとグミはとっくに売り切れ、今はじゃがバターが売られていて、長蛇の列ができていた。

「儲かってるみたいだな」

 俺は青山に声をかけながら屋台のテントの中に入った。

「ああ。目の回るような忙しさだよ」

 青山は一瞬だけ俺に顔を向けてそう言った。

 孤児院の院長先生は子ども達と一緒にじゃがバターを容器に入れたり、代金と商品の受け渡しを手伝っていた。

「院長先生。ちょっとこっちで話があるんですけど、いいですか?」

 俺が声をかけると、院長はテントの奥の方に移動してくれた。

「何のご用でしょうか?」
「えっと、さっきゴミ箱のところで、ゴミを漁っている子ども達を見つけたんですけど、あの子達は孤児院に住んでいる子じゃありませんよね?」
「ええ……。あの子達は、ストリートチルドレンです。普段は広場や飲食店街のゴミを漁っていることが多いのですが、今日はこのフェスに人が集まったから、こっちに来た子がいたのでしょうね」

 院長は表情を曇らせてそう答えた。

 ストリートチルドレン。路上生活をする子ども達のことだ。
 この街には孤児院があるから、保護者のいない子や捨てられた子は、無条件で孤児院に入れるのだと思い込んでいたけど、そうではなかったのか。

 いや、待て。

 予選が始まる前、前髪眼鏡くんはザイリックに、孤児の人口に占める孤児院に入れない子どもの割合もリストに追加させていた。

 その数字がゼロだった都市は、1つもなかった。他の街に比べれば格段に少ない数字だった記憶はあるが、ウォーターフォールもゼロではなかったのだ。

「普段は広場にいるんですか。でも、俺もよくゼリーやグミの販売で広場に行きますけど、あんな子達を見かけたことはありませんよ?」
「ああ。それはきっと、あの子達は広場のゴミ収集所でゴミを漁っているからでしょう。一軒一軒の屋台の前にあるゴミ箱を漁るより、その方が効率が良いですからね」

 なるほど。俺はゼリーとグミの屋台で出たゴミは孤児院に持ち帰っていたから、広場のゴミ収集所には行ったことがなかった。だからあの子達の存在を知らなかったのだろう。

「ストリートチルドレンは、いつからこの街にいるんですか?」
「ずっと昔からです。私が生まれる前から。と言っても、もちろん同じ子どもがいるわけではなくて、入れ替わり続けているのですが」

 院長は、50歳くらいに見える痩せた女性だ。その院長が生まれる前からとなると、問題は非常に根深そうだ。

「そんなに前から……。あの子達は孤児院に入ることはできないんですか?」
「私も入れてあげたいのは山々なのですが、現在でも孤児院の経営は赤字が続いているので、難しいのです。この街のストリートチルドレンの人数は、おそらく数十人はいるでしょう。あの子達を受け入れると、今孤児院で暮らしている子ども達も、私達職員も、全員が共倒れしてしまうでしょう」

 院長は両手を胸の前で握り締め、沈痛な声でそう答えた。

「あ、すみません。俺は別に院長先生を責めているわけじゃないんです。ただ、この街の現状を知りたいだけです。孤児院に入れる子と入れない子の差は、何なんですか?」
「孤児院に入れることができた子は、親が亡くなったものの、遺産を残してくれたというパターンが多いですね。その遺産を孤児院の運営費として貰う代わりに、成人するまでうちで育ててあげるのです。他には、育児はできないけど見殺しにすることもできない、という親戚が、お金だけ出して、遺児を孤児院に入れるパターンもあります。
 一方、ストリートチルドレンになってしまった子達は、親が貧しかったせいで遺産がなかったり、親に捨てられたり、劣悪な家庭環境から家出してきた子達が多いですね……。
 ただし例外的に、本当に小さい乳幼児は、うちで引き取る場合もあります。1度ストリートチルドレンになってしまうと、盗みを覚えてしまうことが多く、素行が悪くて養子に出せないことが多いのですが、乳幼児ならまだ盗みも覚えていませんし、できるだけ小さい子がいいと希望する養親が多いため、短期間のうちに養子に出せるかもしれないと、引き取っているのです」
「領主様は、何もしてくれないんですか?」
「領主様は孤児院の税金を免除してくださっているので、その分、1人でも多くの子どもを受け入れることができています。この街では深夜の無許可の外出は禁止されていますが、ストリートチルドレンが橋の下などで大人しく寝ている場合は、取り締まりの対象外としてくれています。後は、お店の物を盗んで捕まった場合、犯罪奴隷にして街の中で労働をさせることもあります。奴隷には食事が与えられるので、少なくとも飢えることはありませんから。領主様がしてくださるのはそれだけですが、孤児院の税金が免除されているだけでも、他の街の領主よりはマシだと聞いています」

 院長は暗い表情でそう言った。

 エドワードはあの領主のことを、善人で有能だと評していた。

 アルカモナ帝国の基準では、その通りなのだろう。他の街に行けば、あの子達のような子どもは、この街の何倍も何十倍もいる。それと比べたら、ウォーターフォールの領主は善人なのだろう。

 だけど、日本の基準で考えたら?

 あの子達が貧困に苦しんでいるのは、決して自己責任なんかではない。為政者としての義務を果たさない領主の責任だ。

「院長先生、ちょっと待っていてください」

 俺はそう言うと、青山にお盆を借り、近くの屋台を回って焼き鳥のようなものやパンや野菜スープやフルーツジュースを6つずつ買い集めた。それを持って院長のところに戻り、こう頼んだ。

「お昼からステージ前で、リバーシとトランプと腕相撲の大会を開く予定なのですが、スペースが足りなさそうだから、手の空いている子ども達に草むしりをさせて欲しいんです。そのとき、あの子達――あそこでゴミを漁っている子ども達にも、その仕事を手伝わせてもらえませんか? この食べ物は、その報酬です」
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