異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選58

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 そして、2回目のライブはつつがなく終わった。

 サインとグッズの購入を終えたオリヴァーが、俺のところにやってきた。

「さっき、部下に指示して本の印税と活版印刷のロイヤリティをお前の口座に振り込ませておいたから、後で確認しておいてくれ」

 この街では、週末も普通に銀行が開いているのだ。

 この国の慣習だと、本の印税は10パーセントが相場である。本の価格は5000ゼンで、初版発行部数は1万部なので、普通なら印税は500万ゼンとなるはずだ。しかし、今回は重版した際の印税が不要の買い取り形式なので色をつけてもらい、800万ゼンということになった。

 日本人の感覚だと本の価格が高すぎるようにも思えるが、いくら今回から活版印刷が使えるとはいえ製本の手間は日本とは比べものにならないし、紙代とインク代も高いから、まだ良心的な価格なのだそうだ。他の街にも輸出する予定で、むしろそちらがメインだが、輸出した際には関税と輸送量が上乗せされてしまうので、例えば首都で同じ本を買おうとすると2万ゼンを軽く越えてしまうらしい。

 発行部数が少なすぎる気がするが、そもそもアルカモナ帝国の人口自体が日本よりも大幅に少ないし、識字率も低く、高価な本を買うことができる層は限られているため、これでも通常の数倍の発行部数なのだそうだ。

 印税とは別に、活版印刷のアイデア料が300万ゼン支払われることになった。

 ――つまり、合計1100万ゼンの収入!

「ありがとうございます!」
「ところで、『1の3』が別の町に行くという話だが……」

 オリヴァーは改まった態度でそう切り出した。

「はい」
「どこの街に行くのか教えてくれ」

 ヤバい。この人、『1の3』を追いかけてくる気満々だ!

「えっと……秘密です」
「何で秘密なんだ?」
「街から街への移動中は危険が伴いますし、過激なファンの人達がついてくると困るので」

 あなたみたいな、ね。

「そうか。なら、俺には教えてくれてもいいよな。次の街で『1の3』の本の宣伝と売込みをするのが目的だから」

 公私混同しやがって!

「うーん……。もう、こうなったら仕方がないですね。明日の野外フェスが終わった後で、『本当のこと』を教えます。それで勘弁してください」
「本当のこと?」
「はい」
「よく分からんが……まあいい。時間を作っておくよ」
「どうもです」

 俺がそう言うと、オリヴァーは次のライブのオークションの整理券を貰いに行った。

 次の街についてきたがったヘンリーを誤魔化すときに使った言い訳の二番煎じである。ヘンリーとオリヴァーの2人同時に異世界デスゲームについて説明すれば、一石二鳥だ。

 しかし、オリヴァーよりも、エドワードや孤児院の院長先生や『エンジェルズ』の店長とかの方が付き合いが長いし、こうなったらエドワードと院長先生と店長にも「本当のこと」を教えてあげた方がいいだろうか?
 特に、オリヴァーとエドワードは以前から仕事の付き合いがあって仲が良いみたいだし、オリヴァーはもともと『エンジェルズ』の常連だったし、ヘンリーとオリヴァーは「本当のこと」を教えてもらっていたのに自分は除け者にされていたと俺達が去った後で知ったら、エドワードや店長は傷つくだろう。

 店長は『1の9』のサイン会の対応をしていて忙しそうなので、後回しだ。

 そう思い、俺はエドワードを探しに屋台村へ移動した。今日はいつもの『エンジェルズ』の公演と違ってスタッフが大勢いるので、俺が抜けても問題なく回る。もちろん、ちゃんとスタッフと七海達に声をかけてから抜け出したが。
 報告連絡相談は社会人の基本だからな……いや、俺、社会人じゃなくて高校1年生のはずなんですけどね? 今さらだけど、15歳の男子高校生が異世界でアイドルのプロデューサーをやって野外フェスを開催してるって、いったいどういう状況なんだよ。

 俺はフェスの運営委員会会長として屋台の見回りもしながら、リバーシとトランプの販売所へ行った。行列ができていたが、俺はその行列をスルーして販売所のテントの中に入った。

「クロウさん、どうもどうも! おかげ様でリバーシとトランプが飛ぶように売れていて、嬉しい悲鳴が止まりませんよ! 大会の賞品目的の人だけではなく、ゲーム自体の面白さの評判が広まって買い求める人が殺到しているんです。これも『1の3』の人気と知名度のおかげですね。いくらゲームが面白くても、普通なら売れ行きが伸びるにはもっと時間がかかったはずですから」

 エドワードは商人らしいウハウハ顔で、手揉みをしながらそう言った。

「それはよかったです。大会の方はどうなってますか?」
「そちらも順調に応募者が集まっています。ただ、リバーシとトランプの参加者がそれぞれ200人くらいなのに対し、腕相撲の参加者が1000人を越えたのは想定外でしたが……」
「えっ。そんなに腕相撲が人気なんですか?」
「この街には、体力自慢、筋力自慢の若い男性達が大勢出稼ぎに来ていますからね」
「ああ……。そうか、そうでしたね」
「『1の3』には特に興味がなくても、優勝すれば人気者になって自慢できたり、酒場で酒を奢ってもらえたりするでしょうから。そういう名誉を目当てに参加する人が多いみたいです。まだまだ参加者が増えそうな勢いですし、滞りなく腕相撲大会を実施できるよう、木工所に緊急連絡してアームレスリング台を増産してもらっているのですが、どうなることやら……」

 エドワードはそう言いながら、アームレスリング台の試作品を見せてくれた。
 全て木と釘で作られていて、塗装もされていないが、機能としては充分そうだった。

 試しに俺とエドワードと腕相撲をしてみたら……エドワードは非常に力が強く、俺はあっさりと負けてしまった。

 えっ? マジで? マジで負けたのか、俺?

「これでも商人ですからな。重い荷物を運んでいて、自然と身体が鍛えられているのですよ」

 エドワードは気遣うようにそう言った。

 やめて! 気遣わないで! 余計に惨めになるから!

 中年のエドワードに腕相撲で負けてしまったことは、若いと自負している俺にとって物凄くショックだった。だが、よく考えたら俺は異世界デスゲームが始まるまでは半分引きこもりみたいな生活をしてたし、日本人とアルカモナ人では日常生活で使う筋肉量が違うから仕方がないか……。

 ――本戦に備えて、予選のうちから体力と筋力を鍛えておいてくれ! 次からは体力勝負になるかもしれないからな。

 ウォーターフォールに転送される直前、クラスメート達にそんなことを偉そうに頼んでいたのに、言い出しっぺの俺自身が体力も筋力も鍛えていないことに気付き、罪悪感を覚えてしまった。

 いや、でもまあ、こっちに来てから毎日凄い距離を歩いているから、体力は自然と鍛えられたよな? 重いグッズを大量に持ち運んでるから筋力も鍛えられているだろう。

 俺は自分にそう言い聞かせた。

「ところで、腕相撲の参加者がそんなに多いなら、会場のスペースが足りませんよね?」

 大会は昼からステージ前で行なう予定だったが、3つの大会合計で1400人も来たら納まりきらないだろう。

「そうですな。参加者だけではなく観客も押し寄せるでしょうから」
「子ども達にステージ周辺の草むしりを頼んで、一時的にスペースを広げましょう。あの辺はもともと草があまり生えていないので、今から子ども達を総動員すれば充分なスペースを確保できると思います」
「そうしてくれると助かります」
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