異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選27

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「続きましては、今夜のスペシャルゲスト、『1の3』です!」

 店長の紹介に合わせて、『1の3』のメンバーがステージに上がると、戸惑ったような空気が客席を支配したのが分かった。
 ちなみに客席は3割くらいしか埋まっていなくて、後ろの方は全部空席になっていた。だが、平日の夜の早い時間帯であることを考えると、これでも多い方なのだろう。
 このアルカモナ帝国の暦では1週間は8日間であり、平日は6日間、休日は2日間だということを、練習のときにヘンリーに聞いていた。今日は6日間続く平日の1日目だった。

「おいおい、どいつもこいつも、まだガキじゃねーか! さっきの色っぽい姉ちゃんを出せ!」

 前の方の席に座っていた中年オヤジがヤジを飛ばしたのが聞こえた。ちなみにこれは、オヤジとヤジをかけたオヤジギャグではない。決して違う。

 ヤジを浴びせられた七海の表情が曇ってしまった。有希と心愛も顔をしかめている。

「――大丈夫。お前らは綺麗だ。胸を張って、自信を持て」

 俺がそう言うと、有希は深呼吸をして背筋を伸ばした。

 一歩前に出て、「聞いてください」と言い、曲名を告げた。

 俺は指揮を開始した。伴奏が始まり、3人が歌い出すと、俺はそっと客席に降りた。

 七海に約束した通りに、俺は客席のど真ん中に移動する。

 七海が俺だけを見つめているのが分かった。俺も見つめ返す。何だか変な気分になってくるが、視線を逸らすわけにはいかない。

 七海は、あまり声が出ていなかった。緊張しているのと、さっきヤジを浴びせられたショックから立ち直っていないのだろう。

 すると、有希が曲に合わせながら自然に動いて、七海の手を握った。こんな打ち合わせはしていなかったから、完全に有希のアドリブである。七海が驚いた表情で有希を見る。空気を読んだ心愛も、七海の反対側の手を握った。

 そして3人で手を繋いだまま歌っているうちに、七海は笑顔を取り戻した。俺から視線を外し、他の客を見る余裕も生まれた様子だった。

 俺が客席を見回すと、誰もが呆気に取られたような表情で、3人を食い入るように見つめていた。

 1曲目が終わると、割れんばかりの拍手が起こった。さっきヤジを飛ばした中年オヤジですら、拍手をしていた。

「――3人とも、よかったぞ。2曲目の前に自己紹介をしろ。苗字はなしで、名前だけでいいから」

 俺は壇上に戻ると、小声でそう指示した。

「『1の3』の有希です! よろしくお願いします!」

 真っ先に有希がそう声を張り上げ、他の2人も続いた。

「ユキちゃん! こっち向いて!」「ナナミちゃーん! 可愛いよ!」「ココアちゃーん! 頑張れー!」

 客席からそんな声が聞こえた。

 ――2曲目、3曲目も大成功だった。七海達が歌う度に成長し、垢抜け、自信に満ちた表情になっていくのが分かった。3曲目が終わると、七海達は上気した顔で何度も頭を下げた。

「それでは、これからサイン会を始めます!」

 俺は客席に向かってそう宣言した。

「サイン会? 何だそれ」

 さっきヤジを飛ばしていた中年オヤジが、無駄に大きな声でそう訊いた。
 俺はサイン会とは何かについて説明し、サインは有料で1枚1000ゼン必要なことも説明した。

 俺達は打ち合わせ通りにステージから降り、前の方で客を出迎えるポジションになった。

「サイン色紙を家に飾ればインテリアとしても使えますし、今日ここに来られなかった人に見せて自慢することもできますよ! また、『1の3』の七海、有希、心愛と、近くでお喋りするチャンスですよ!」

 俺は必死にそう言った。

 やっと何人かが動き出し、列を形成し始めた。

 俺が予め判子を押しておいた色紙に、客の目の前で、3人で協力してサインを書いていく。

「お名前は?」
「ジョージだ」
「ジョージさんですね。ジョージさん、今日は私達の歌を聴いてくれてありがとうございます!」

 七海はそんな会話をしながら、ピンク色のインクで「ジョージさんへ」と書いて、サインを胸の前できゅっと抱き締めてから、ジョージと名乗った男性客に笑顔で手渡した。

「あ、ありがとう! 3人とも、凄くいい歌だったよ!」

 ジョージはそう言い、照れくさそうにサインを受け取った。

「これがサイン会か」「何かいいな」「やべえ、俺も欲しくなってきた」

 遠巻きに見ていた客達がそんなことを言い、列に並び始めた。
 結局、『1の3』の歌を聴いていた客の8割くらいがサインをもらっていた。

 その後、客達と店長からの強い要望があり、1時間後にもう1回歌うことになってしまった。

「ねえ、烏丸P。次はアイドルソングも歌っていい?」

 楽屋に戻ると、七海が上目遣いにそう訊いた。

「あー、まあ、1曲くらいならいいんじゃないか? 店長も、選曲は自由にしていいって言ってたし。最初の2曲は演歌で、最後の1曲は七海の好きな曲にすればいいと思う」

 俺はそう答えてしまった。

 喉を痛めないようにしっかりと休憩をとり、2度目の出番がやってきた。

 ステージに戻って最初に思ったのは、何かお客さん多くない? ということだった。
 1度目のときよりも、明らかに客が増えている。さっきは3割くらいしか席が埋まっていなかったのに、今は8割くらいになっていた。

「待ってました!」「ナナミちゃーん! さっきはサインありがとう!」「みんな頑張れー!」

 1度目のステージのときにはなかった、そんな声援が上がった。

 そして2度目のステージも大成功だった。演歌とは全く雰囲気の違うアイドルソングが始まると、最初こそ戸惑うような空気になったものの、すぐに客達は盛り上がってくれた。

 2度目のサイン会のときに判明したのだが、1度目のステージを聴いた客の一部が、友人や同僚に『1の3』に関する噂を流し、その評判を聞きつけた客が集まってきたから、客が増えていたのだった。

 そして再び客達と店長からの強い要望があり、1時間休憩をとった後、今夜3度目のステージもやらされることになってしまった。3度目のステージのときには、満席になっていた。『1の3』の歌を聴くために、最初からいた客の多くがまだ居座っているのだそうだ。

 早くも3人それぞれにファンがついているようだった。調子に乗った俺が「推し」という言葉も紹介すると、順応の早い一部の客達は「俺の推しは○○ちゃんだ!」などと、他の客と会話するようになっていた。

 4度目のステージも……と頼まれたのだが、さすがにそれは俺が断った。みんな疲れているのが分かったからな。

 1人で何回も何回も列に並ぶ客がいたおかげで、200枚用意していたサイン色紙は全てなくなった。色紙がなくなったからサイン会は終わりですと俺が告げると、客から悲鳴が上がった。

 サインは1枚1000ゼンだから、単純計算で20万ゼンの収入となった。実際は紙代やインク代もかかるから、もうちょっと少ない収支になるが。

 さらに店長からは、今夜のギャラとして30万ゼンももらってしまった。1回のステージにつき10万ゼンという計算らしい。普通、ゲストのギャラはもっと安いのだが、今回は『1の3』目当てのコアなファン達が、何回も高い酒を注文してくれたおかげなのだという。俺は、ファン達が高い酒を注文するように誘導してくれた『エンジェルズ』の女性スタッフにもお礼を言っておいた。

 ――合計50万ゼンの収入!

 異世界での新人アイドルのデビュー初日としては、上々の滑り出しであった。
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