異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

文字の大きさ
上 下
18 / 126

予選18

しおりを挟む
「何で引っ越してきたの?」

 江住心愛がそう訊いた。

「ちょっと、事情があってな……」

 俺が意味ありげな表情を作ってそう言うと、江住心愛は慌てたような表情になった。

「ご、ごめん。深入りしすぎた」
「いや、いいんだ」

 それきり、俺達は再び黙り込んだ。

 しばらくして、建物がちらほらと見えるようになってきた。そのまま道を進み続けると、市街地に辿り着いた。ここらへんは商業地区らしく、色んな物を売る店が並んでいた。

「あっ、靴が売ってる。あそこで買ってもいい?」

 もう我慢の限界だという様子で、浅生律子がそう訊いた。ずっと泥だらけの上履きで歩くのは俺も辛かったので、快諾した。

 靴は木製だった。木のパーツを組み合わせて作られていて、内部に藁を編んだようなものを貼ってあるようだった。靴底の部分が下駄のように高くなっていた。店主に訊いてみると、これは馬糞を踏んだときの被害を少なくするものだと言われた。

 大した値段ではなかったので、その場で6人分を購入した。同じ店で靴下と安い布袋も売っていたので、それも購入した。

 店主から誰でも使える共用の井戸の場所を教えてもらい、井戸の水で手足を洗うと、生き返ったような気分になった。靴を履き替えて、脱いだ靴と靴下は、安い布袋の中に仕舞った。

 ちなみに、その布袋を持つ係は、なぜか俺ということになってしまった……。話し合いもなく、自然な形で係を押しつけられてしまったのだ。

 その後、道を進み続けると、食べ物を売っている店が多いエリアに到達した。いい匂いがする。

「何か、お腹空いたな。喉も渇いたし、買い食いでもしないか」

 青山が口を開いた。そう言われて、俺は自分が空腹であることに気がついた。

「そうだな。ウォーターフォールの食事情がどの程度なのか、調べてみないとな。色んな物を少しずつ買って、みんなで食べ比べしてみよう」

 俺は近くの屋台を見ながらそう言った。

「そんなことに使うお金があったら、貯金した方がいいんじゃない?」

 七海は自分の胸ポケットのあたりに手を置いてそう訊いた。

「食べるのは先行投資だよ。飲まず食わずで8日間を乗り切れるわけがないんだから、しっかり食べて体力をつけておこう」

 俺がそう言うと、ようやく七海の顔に少し笑顔が戻った。

「私、あの焼き鳥みたいなやつ食べてみたい」

 浅生律子が空気を読んでそう言ってくれた。

「ウチは、あのジュース飲みたい」

 妹尾有希は果物屋で売っているジュースを指さしてそう言った。

 頑張って治安が良い都市を探した甲斐あって、チンピラらしき人物も見当たらないし、女性が1人で歩いている姿も見かける。エドワードから買ったマントのような外套のおかげで、俺達も周囲の風景に溶け込んでいるようだった。
 
「よし! じゃあそれぞれ好きな物を買ってきて、ここに集合しよう。予算は1人1000ゼンまでな」

 この辺なら別行動を取っても大丈夫だろうと思い、俺はそう言った。

 青山から1万ゼン硬貨を受け取り、俺も食べ物を探す。

 ハムのようなものとレタスのようなものを挟んだサンドイッチのようなものが売っていたので、それを買ってみた。「のようなもの」が多いのは、それが本当に俺の知っているものなのか判断がつかなかったからだ。価格は1つ200ゼンで、地球のパン屋でサンドイッチを買うのと同じくらいだった。
 同じ店で具の少ないスープが100ゼンで売っていたので、それも買ってみた。スープは紙コップに入れてもらえた。こっちの世界にも紙コップはあるんだな、と思う。
 ホットケーキのようなものも買い、集合場所に戻った。

 屋台に並んでいるうちに、奥の広場で座って食べている人達を発見していたので、そちらに向かった。
 空いているベンチを探し、そこに座った。
 青山が焼き鳥のようなものの串を箸のように使い、別々の容器に入れて、6人が少しずつ食べられるようにした。

 焼き鳥のようなものは、鳥ではなく豚肉に近かった。味はただの塩味で、正直あまり美味しくなかった。
 サンドイッチのようなものは、ハムとレタスは俺の知っている味だったけど、パンが硬くて美味しくなかった。味付けはこちらも塩だけだった。
 スープも野菜を塩水で煮込んだだけのように感じられた。
 ホットケーキのようなものは、甘くなかったし、硬かった。小麦粉と牛乳を適当に混ぜてホットプレートの上で焼いただけのような味がした。
 焼き魚もあったが、これも焼いた魚に塩を振っただけの味だった。

 正直に言って、料理は全体的にあまり美味しくなかった。

 そんな中、マンゴーとミカンの中間のような果物を搾ったジュースは甘くて爽やかで美味しく、また飲んでみたいと思える味だった。
 ちなみにジュースを分けるときは、俺と青山は先に食べ物が入っていた容器に移してもらい、残りを女子4人が回し飲みする形だった。

「うーん。どうもこの国では、調味料があまり発達していないようだな。味付けは塩が基本というか、それしかないみたいだ。醤油や味噌はもちろん、砂糖やお酢やコショウを使った料理ですら一般的ではないようだな。出汁という概念もなさそうだ。この焼き鳥みたいなものも、タレをつければもっと美味しくなりそうなのに、塩味しか売っていなかった」

 青山が腕組みをしてそう言った。

「マヨネーズもなかったし」

 江住心愛が不満げにそう言った。

「マヨネーズはあるわけないだろう。アレが禁止されてるんだから」

 卵という言葉を口にするのもマズいような気がして、俺はそんな言い方をした。

「あ、そうか。そうだよね」
「あと、油で揚げる料理も見当たらなかったな」

 俺がそう言うと、青山は頷いた。

「そうだな。油が高価なのかもしれないな」
「この後は、どうする?」
「アイドル活動はどういう予定なんだ?」
「とりあえず初日は練習だけの予定だ」
「それなら、思っていたより治安が良さそうだし、俺だけ別行動にしてもいいか? 料理の材料や調理器具が売っている場所を見てみたい。その間、5人は音楽や物語を売ってみたらどうだ?」

 青山がそう言い、別行動を取ることになった。この広場のこのベンチのあたりで3時間後に待ち合わせる約束をして、別れた。

「さっきのジュース美味しかったから、今度は全員分買おうよ」

 妹尾有希がそう言い、全員が賛成した。

「――あの、この街には出版社とか劇場はありませんか?」

 入門する前に商人のエドワードに訊いておくべきだったのに、訊き忘れていたことを、果物屋の店主に訊いてみた。

「出版社は知らないなあ。俺、字がほとんど読めないし。でも、劇場ならあの角を右に曲がって15分くらい歩くと、1軒だけあったと思う。『エンジェルズ』っていう看板が出てるらしいから、すぐに分かるだろう。たぶん、あそこがウォーターフォールで唯一の劇場だな。ずっと昔はもう1軒あったんだが、そっちは潰れちまったはずだ」

 中年男性である果物屋の店主は、女子4人に意味ありげな視線を向けて、そう教えてくれた。

 そして、ジュースを飲みつつ、今後のアイドル活動について話し合いをしながら、店主が教えてくれた方向に向かったのだが――。

「何よこれ! 私、こんな店でアイドル活動なんてできない!」

 西表七海が悲鳴のような声を上げた。

 果物屋の店主が劇場だと言っていた『エンジェルズ』は、何というかその、独身男性向けのお店だったのである。看板には、布面積の少ない服を着た女性のイラストが描かれていた。
 周囲の店には酒場やバーが多く並んでいて、歓楽街のど真ん中にあるお店のようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...