異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選16

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 ズボンのポケットに入れておいて、1万ゼン硬貨を落としてしまったら悲惨なので、俺は他の5人に分散して硬貨を渡し、胸ポケットに仕舞っておいてもらった。

 ウィンドウ画面で確認すると、俺が0ゼン、女子4人がそれぞれ2万ゼン、青山が4万ゼンの所持金と表示されていた。
 ここにはいないクラスメート達も、半数以上がすでに数万から十数万ゼンずつ稼いでいるようだった。さっきまでは出席番号順だったが、今は所持金の多い順に上から表示されていた。
 チーム別の所持金を見ると、どのチームも似たり寄ったりで、地球代表の239番チームは真ん中くらいの順位だった。

「ところで、ウォーターフォールはどんな街ですか」

 俺は情報収集を開始した。

「いい街ですよ。何と言っても、領主様が善人で有能ですからね。おかげで治安もいいし、街も発展しています」

 エドワードはそう答えた。

 その後も質問を重ね、分かった情報をまとめると次のようになる。

 ウォーターフォールは半島に作られた街なのだそうだ。工場で工業製品を大量生産し、それを港で船に乗せて、他の領地や外国に売りさばいているらしい。
 近隣の村や町から若い男性が工場に出稼ぎに来ることが多く、独身男性の比率が高いのはそのせいらしい。
 工場と言っても、機械化が進んだ日本で想像するものとは違い、筋力が必要とされるから、若い男性限定なのだそうだ。
 ただし若い女性も、歓楽街で仕事をするために出稼ぎに来る人は結構いるらしい。

 いま俺達がいるのは西門の前なのだそうだ。東門の方が交通量が多く道も立派で、栄えているらしい。
 東門の傍には大きな河があり、見晴らしが良いのだという。ザイリックに転移させるとき、周囲に人がいない場所を指定したから、俺達は人通りの少ない西門の近くに転移させられたようだ。
 ただし、俺達は、妹尾有希が壁に向かって左に歩き始めたから西門に辿り着いたが、逆方向に進んでいたとしても2時間歩けば東門に到達していたらしいが。

 この辺はもともとアルカモナ帝国とは違う国だったが、200年ほど前に併合されたのだそうだ。
 そういった歴史があるため、ウォーターフォールには色んな人種がいて、俺達のような外見の人も決して珍しくないそうだ。それを聞いたときはみんなホッとした。

 同じ国とは言っても、ここから首都までは船だと60日くらい、馬車だと180日くらい離れていて、首都に行ったことのある人は殆どいないらしい。首都への工業製品の輸出も、経由地となる港町で別の船に乗せ換えてもらっているそうだ。貴族の子供は首都の学校に通うことになっているから、領主一家は確実に首都に行ったことがあるが、他に首都に行ったことのある人は知らないという話だった。

 そういった情報の他に、お勧めの宿や飲食店も教えてもらった。宿は1泊につき、安宿でも3000ゼン、平民が利用するまともな宿ならその倍以上が相場という話だった。

 これだけの情報を得られただけでも、エドワードに上着を売ってよかったと思った。

 さらに、エドワードからマントのような外套も6着売ってもらった。農村で作られた手織りのものらしく、1枚1500ゼンだった。門の中でもその金額で売っているという話だったので、その値段で購入した。とりあえずこれを羽織っていれば、ウォーターフォールでも目立たないということだった。

「そろそろ貴方達の番ですな。他の服も売ってくれる気になったら、是非、アイス商会にお越しください」

 エドワードはそう言って、俺に名刺を渡してくれた。紙は和紙にそっくりで、判子を押して作られたものだった。名前の他に、商会の所在地の地図も書かれていた。ここにも名刺文化があるんだな、と思った。

「名刺はありませんが、俺はクロウです。以後お見知りおきを」

 俺はそう言い、エドワードと別れて、門の中に入った。

「全部で6人か?」

 厳つい顔の門兵がそう訊いた。

「そうです」

 俺が代表してそう答えた。

「ウォーターフォールに来るのは初めてか?」
「はい」
「文字は読めるか?」
「読めます」
「じゃあ、とりあえずこれを読め。読み終わったら返せ」

 門兵はそう言い、1枚の紙を渡した。エドワードにもらった名刺と同じく、和紙のような紙だった。

 6人でその紙を覗き込む。

 エドワードに聞いていた通り、1人につき3000ゼンの通行税がかかることなどが書かれていた。街に入るときだけではなく、街から出るときにも通行税が必要らしい。ただし、1度通行税を払えば、1ヶ月間有効の入門証が発行され、その入門証があれば通行税は免除される。
 また、別途、荷物にも関税がかかる。馬に乗っている場合は、馬の通行料も2000ゼンかかる。入門待ちの列ができていたのは、馬車の中の荷物を調べ、関税を計算していたのが理由なのだろう。俺達は手ぶらだから、関係のない話だったが。

 その他、街のルールについても書かれていた。
 殺人や窃盗の禁止など、常識的なことの他に、真夜中の鐘が鳴ってから早朝の鐘が鳴るまでは無許可の外出禁止というルールもあった。

 読み終えた紙を門兵に返すと、入国の目的を聞かれた。俺は旅の楽団だと答え、楽器を持っていないことに関してはエドワードにしたのと同じ言い訳を繰り返した。どこから来たのか訊かれたから、この質問を想定してエドワードから聞いておいた遠方の街の名前を答えた。

 青山が代表して18000ゼン支払い、入門証を発行してもらう。入門証も和紙のような素材でできていて、そこに両手の人さし指の指紋を押させられた。

 やっと門を出たときには、歓声を上げたい気分だった。自分でも気付かないうちに緊張していたらしい。

 ウォーターフォールの中に入っても林があった。
 しかし、さっきまでは壁に遮られて見えなかった、煙突から立ちのぼる煙がいくつも見えた。さらにその向こうには、かすかに海も見え、水平線らしきものも確認できた。

「うまくウォーターフォールに入れてよかったな。それにしても、烏丸にあんな社交性があるなんて、意外だったぞ」

 道を歩きながら、青山がからかうようにそう言った。

「失礼な。俺はやろうと思えば社交的に振る舞うこともできるんだよ。……短時間ならな」

 長時間話し続けると、どうしてもボロが出てしまうのだ。

 ボロと言えば、結構な頻度で馬糞も落ちていて、集中して歩かないと踏んでしまいそうだった。馬糞には「ボロ」という呼び方もあるのだ。
 ……ダジャレじゃないぞ、決してダジャレじゃないぞ! って、俺は誰に言い訳をしているんだろう?

 と思ったとき、西表七海が何もない場所を見て悲鳴を上げた。

「嘘でしょ!? 何これ!」
「どうした?」

 青山がそう訊いた。

「画面を見て! 石原くんの所持金が、マイナス9999万ゼンになってる!」
「はあ!?」

 俺は慌ててウィンドウ画面を確認した。
 すると確かに、【石原伸介】の名前の横に【-99999800ゼン】と表示されていた。

 チーム別の所持金の画面を表示すると、当然ながら、俺達地球代表チームはダントツの最下位に転落していた。所持金がマイナスになっているチームなんて、俺達だけだった。

「石原くんって、確か、烏丸Pと対立していた男子よね? クラス全員で首都に転移するかどうかで揉めていた」

 浅生律子がそう確認し、江住心愛と妹尾有希が頷いた。

 そうだ。取り巻きABが言っていたボス猿くんの苗字が、石原だったような気がする。

「いったいどうやったら、予選開始から1時間も経たないうちに1億ゼンも借金を作れるんだよ!」

 青山が憤慨した様子でそう言った。

 1億ゼンという言葉に、聞き覚えがあるような気がした。

 ――人を殺した場合、被害者1人つきマイナス1億ゼンとしますー。

 ザイリックの言葉が脳裏に蘇る。

「分かったぞ。……あいつ、人を殺したんだ」

 俺は頭を抱えながらそう言った。
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