異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選9

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「僕にアイデアがある。こう見えて僕は、異世界転生モノの小説をウェブ上で発表し、それが出版社の編集者の目に留まって、プロデビューを果たしているんだ」

 右目に眼帯をつけて左手首に包帯を巻いた男子生徒は、胸を張ってそう答えた。

「おお、それは凄いな。それで、アイデアって?」

 俺は素直に感心し、期待しながらそう訊いた。

「異世界での金稼ぎの定番と言えば、冒険者だ。冒険者ギルドに登録して、チート能力で魔物を討伐して、その素材をギルドで売ってお金を稼ぐんだ」

 その男子生徒……小説家くんは自信満々な様子でそう言ったが、俺はポカンとなり、ザイリックの方を向いた。

「ザイリック。俺達が転移させられるナイカモナ星には、魔物はいるのか?」
「野生動物はいますが、ドラゴンやオークやスライムといった、いわゆる魔物はいませんー」
「じゃあ、冒険者という職業もないのか?」
「ありませんが、近い職業として、ハンターというものはありますー」
「ハンターってのは?」
「鹿や熊や猪や鳥などの野生動物を狩る仕事ですー」

 要するに、地球にもいる普通の猟師のことだな。

「ハンターギルドはあるか?」
「ありませんー」
「と、いうわけなんだが……」

 俺が小説家くんの方に向き直ると、小説家くんは慌てた様子で、包帯を巻いた手を左右に振った。

「か、勘違いするなよ。今のはお前を試したんだ。これで、ナイカモナ星には冒険者ギルドが存在しないことが分かっただろう? 僕のおかげだぞ」
「そもそも、冒険者は厳密には自営業なんだろうけど、実質は被雇用者だからな。本気で金儲けをするなら被雇用者ではなく経営者を目指すべきだぞ。もちろん、決して被雇用者になるのが悪いわけではないんだけどな。誰かに雇ってもらうことで安定した収入を得るのは、安定した人生に繋がるからな。でも、短期間で高収入を得ようと思ったら、雇われる側ではなく雇う側になるべきだ。リスクも大きいが、リターンも大きくなるからな」

「つ、次のアイデアを言おう! 異世界での金稼ぎの定番その2! それは香辛料だ! コショウのように、地球では安いけど異世界では高価な香辛料を買い漁って異世界で売ればボロ儲けだ! 塩や砂糖や醤油などの調味料やお酒なんかも高く売れるだろう。それから、マッチ、ライター、懐中電灯、自転車、リヤカー、無線機なんかも定番だな!」

 小説家くんは意気揚々と言葉を紡ぐが、クラスメート達は彼に冷めた視線を向けていた。

「……ザイリック。地球の物をアルカモナ国に持ち込むことはできるのか?」

 俺はそう確認した。

「皆さんの肉体と、現在皆さんが着ている服以外の物を持ち込むことはできませんー。服は特別サービスだと思ってくださいー」
「だよなあ。スマホや財布が消えていた時点で、そんな気がしてたよ」

 俺以外のクラスメート達も同様だろう。

「他にはアイデアはあるか?」
「い、異世界での金儲けの定番その3! それはボードゲームだ! リバーシや将棋や囲碁やチェスのような、地球で人気のあるゲームを現地で大量生産して、それを売ってボロ儲けするんだ!」
「数百日くらいの時間があるなら、それで確実に儲けられると思う。でも、今回はたったの8日間だし、現地で人を雇って生産したとしても手作業になるから、大した数は作れないんじゃないか?」

「……い、異世界での金儲けの定番その4! 地球で人気のある小説とか漫画とかアニメとかゲームとかドラマとか映画のストーリーを再現して小説を書き、それを出版して大儲け!」
「ザイリック、アルカモナ帝国にはタイプライターとか活版印刷はあるか?」
「ありませんー」
「じゃあ、本を出版するときはどうしてるんだ?」
「書写ですねー」
「手書きで1冊1冊、書き写すってことか?」
「そうですー」
「と、いうわけだ。現地の人を雇うとしても、8日以内に、果たして何冊作れるか……」

「……金儲けの定番その5は、ちょっと考えさせてくれ」

 小説家くんはそう言い、俯いた。

 まだ金儲けのアイデアを1つも出してない俺が言うのはズルいけど、心の中で思うのは許されるだろう。
 ……小説家くん、役に立たねえええ!

「ねえ。地球の物を持ち込んで売るっていう米崎よねさきくんの話を聞いていて思ったんだけど、私達が着ている服は売れるんじゃない?」

 スラリと背の高い、モデルのような女子が、ブレザーの袖を触りながらそう訊いた。
 米崎くんというのは小説家くんの苗字だろうけど、今はどうでもいいや。

「服?」

 小説家くんが顔を上げた。

「ええ。この制服、異世界の人にとってはデザインも素材も裁縫も、完全に未知の物でしょうから、高く売れるんじゃないかしら。今ならまだ新品同然だし。どうせ、全員お揃いの服は異世界だと悪目立ちしちゃうだろうから、早めに現地の服に着替えないといけないでしょうし。買ってくれた親には悪いけど、命には代えられないしね」
「確かに! そ、そうそう、僕も本当はそう言いたかったんだよ!」

 小説家くんは満面の笑みで、うんうんと頷いた。

「それなら、料理も売れるんじゃないか?」

 先ほど、料理が趣味で、将来は自分の店を持つのが夢だと自己紹介をしていた、青……青……青なんとかくん……料理人くんがそう言った。

「料理?」
「ああ。香辛料や調味料を異世界に持ち込むことはできなくても、異世界の食材を使って、地球の料理を再現することはできるかもしれないだろう?」
「そ、そうそう! 僕も本当はそう言いたかったんだよ!」

 小説家くんがますます調子に乗った。
 まあ、他の生徒がアイデアを言いやすくなったという点では、小説家くんを評価してやるか。

「飲食店を開くのはいいけど、8日間じゃ初期費用を回収するのも大変なんじゃないかな。私のお父さんが定食屋を開業した時には、商売が軌道に乗って借金を返すまでに苦労したって聞いてるし」

 地味子ちゃんが申し訳なさそうにそう言った。

「確かに、店を開くのに必要な借金を返す前にゲームが終了してしまうリスクはあるな……。ラーメン屋なんて、3年以内の閉業率は70パーセントくらいだと聞いたことがあるし」

 料理人くんが腕を組んでそう言った。
 そのポーズ、ラーメン屋のポスターによくあるやつだな。狙ってやっているのだろうか。

「飲食店を開くんじゃなくて、現地の料理人達に、地球の料理のレシピを売ればいいんじゃないか? いきなりレシピを買ってくれと頼んでも買ってくれないだろうから、試食用の料理くらいは自分達で作らないといけないだろうけど、それなら初期費用はほとんど要らないだろう」

 俺は料理人くんの案を修正した。

「それならローリスクハイリターンだし、いいと思う」

 前髪眼鏡くんが賛成してくれ、何となくこの案は全員に受け入れられた雰囲気になった。

「だったら、さっきのリバースとか将棋みたいなボードゲームを作って売るっていうアイデアも、見本をいくつか作って、それをコピーして売る権利を商人に売る感じにすればいいんじゃない?」

 スラリと背の高い、モデルのような女子、モデル子ちゃんがそう提案した。

「そうそう、僕も本当はそう言いたかったんだよ!」

 小説家くんがここぞとばかりに同意した。
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