異世界デスゲーム? 優勝は俺で決まりだな……と思ったらクラス単位のチーム戦なのかよ! ぼっちの俺には辛すぎるんですけど!

真名川正志

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予選2

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 ――その瞬間、床に青く発光する多層構造の魔方陣が出現した。

「えっ」

 右隣の席の女子がそう呟いた。席の並び順的に、この女子は出席番号1番のはずだ。

「何これ」「ヤバくない?」「誰かのイタズラ?」

 名前を知らないクラスメート達が口々にそう呟く。中には、教師の目から死角になる位置で動画を撮影している奴もいる。

「し――静かに! 落ち着け!」

 担任がそう言ったが、誰も黙らない。

 逃げた方がいいんじゃないか。
 そう思い、俺が立ち上がったとき、床が、壁が、天井が、窓が、柱が、机が、椅子が、黒板が、鞄が、筆記用具が――教室の中にある、ありとあらゆるものが青く光り輝いた。
 あちこちで悲鳴が上がる。

 眩しくて、俺は目を瞑った。

 そして次に目を開けると、宇宙空間にいた。

「――は?」

 俺は反射的にそう呟いた。

 床も壁も天井もない。上下左右に、星空が広がっている。

 そこに、俺たち生徒だけがいた。椅子はあるが、机はない。
 担任と副担任も消えている――いや、消えたのは俺たちの方か? 教室から生徒たちだけが消えて、教室に座っていたときの順番と間隔のまま、この宇宙空間に転送されたのか?

 ……いやいやいや。宇宙空間に転送って。
 何気なく思い浮かべた言葉にゾッとする。俺はいつからそんなファンタジーやSFを信じる人間になってしまったんだ。
 しかし、そうとでも考えないと説明がつかない。夢にしては身体や意識の感覚がリアル過ぎる。

 教室に魔方陣が出現したときはうるさかったクラスメートたちも、今は黙り込んで周囲を見回していた。

「空気がある。重力もある」

 出席番号1番の女子が小さい声で呟いた。

 言われてみると、息もできるし、身体が浮かぶような感覚もない。
 助かった……。ここが本当に宇宙空間だったら、すぐに死んでしまうからな。

「ここ、プラネタリウムなのかな」

 俺は出席番号1番の女子に向かってそう言ったが、無視された。女子は真剣な表情で床に手を伸ばしている。

 ……え、マジで無視されたの? そんなことある?
 さっきの「空気がある。重力もある」って言葉に反応したつもりだったんだけど、右隣の女子的には独り言のつもりだったんだろうか。

「僕、プラネタリウムが好きで、たまに行くんだけど、非常口が見当たらないから、ここはプラネタリウムじゃないと思うよ」

 俺の後ろに座っていた佐古くんがそう言ってくれた。
 ありがとう、佐古くん。きみのおかげで俺は、見知らぬ女子の独り言に反応してしまったヤバい奴にならずに済んだよ。

「じゃあ、本物のプラネタリウムじゃないのかな」

 俺は適当な返事をしながら、何となく右隣の女子の真似をして、床――というか地面に床に触れようとした。しかし、触れることができなかった。
 見えない空気の壁に柔らかく押し返されたかのように、指先が途中で止まった。何の感触もなかった。
 そんなバカな。地面に触れることができないなんて、ここはどこなんだ? 夢か? それともVR空間か?

「ここ、どこ?」「何かのドッキリ?」「さっきまで教室にいたと思うんだけど、知らないうちに眠らされて運ばれたのか?」

 他のクラスメート達も、そんなことを言いながら地面を触ろうとしている。

「やだ! スマホが無くなってるんだけど!」

 少し離れた席で悲鳴が上がった。

「俺のスマホも無くなってる! 財布も、家の鍵も!」

 その近くの男子生徒が、ポケットを裏返してそう叫んだ。

「私のも!」「俺のも!」

 大騒ぎになった。
 そう言えば俺の財布とスマホも無くなってるけど……他にも無くなっている物がたくさんあるのに、悠長だね、君ら。
 そう思ったけど、スマホや財布をなくすというのは日本でも起こり得る事態だったから、「宇宙空間に転移させられた疑惑」よりは現実感があるのかもしれない。

 壁があるのか確かめたくて、俺は右手を前に突き出しながら、教室だったら廊下がある方に向かって歩いた。
 驚いたことに、10メートルくらい進んでも壁に突き当たらなかった。
 それからどんどん進んでも、壁はなかった。振り返ると、クラスメート達のうちの半分くらいは、俺の真似をしたのか、それぞれがバラバラの方向に向かって歩いていた。一番遠い奴とは、すでに200メートルくらい離れている。

「あー、皆さん、戻ってきてくださいねー」

 突然、間延びした女性の声がした。
 椅子が集まっている場所の10メートルくらい上方に、ワンピースのような簡素な服を着た美少女が浮かんでいた。外見年齢は俺達と同じ、15歳前後に見える。少女の髪はピンク色で、背中には大型の鳥のような白い羽が生えていた。頭の上には黄色い輪っかが浮かんでいる。

「天使!? 私達、死んじゃったの!?」

 椅子がある位置から動かなかった女子のグループの中の1人が、そう叫んだ。

「いいえー。私は天使ではありませんし、あなた達は生きていますよー」

 ピンク色の髪の美少女は感情のない声でそう言った。

「じゃあ、神様? 女神様?」

 さっきと同じ女子がそう質問した。

「神様でも女神様でもありませんよー。私は魔法生命体のザイリック239番ですー。本当は私には肉体はないのですが、あなた達が話しやすいように、あなた達の頭の中をちょこーっと覗かせてもらって、人間より上位の存在をイメージを読み取り、その外見を作ってみただけですー」

 誰だよ、こんなアニメに出てくる美少女っぽい天使をイメージした奴。
 いや、そんなことより、魔法生命体って何だ。

 ザイリック239番と名乗る魔法生命体はゆっくりと降下し、教卓があった位置に降り立った。彼女を中心に、クラスメート達が集まる。俺はその輪の1番外で、目立たないようにする。
 近くで見ると、ザイリック239番は表情に乏しいというか、人形や3Dモデルのように作り物めいて見えた。

「魔法生命体って何?」

 さっきと同じ女子が、俺が疑問に思っていたことを訊いてくれた。こいつ、便利だな、と思った。俺が知りたいことを先回りして訊いてくれる。おかげで、俺が他の奴らにバカだと思われずに済む。質問子ちゃんと名付けよう。

「魔法で生み出された人工生命体のことですー」
「ホムンクルスってやつ?」
「少々お待ちくださいー。……あなた達の頭の中をちょこーっと覗かせてもらいましたが、ホムンクルスは錬金術によって生み出された人造人間のことのようですねー。私は錬金術ではなく魔法によって生み出された生命体ですし、人間でもないので、ホムンクルスではありませんねー」

 さっきはスルーしたけど、頭の中を覗く? そんなことができるのか、こいつ。恐ろしいな。

「魔法なんて実在するの?」
「さっきまであなた達がいた地球には、実在していませんでしたー。でも、私が生み出された世界には魔法は実在していますよ-」
「ここは地球じゃないの?」
「はいー。ここは魔法によって生み出された魔空間の一種ですー。会議をするときに使われているものですー」
「地球に――というか、日本に戻して。さっきまでいた、あの教室に戻して」

 質問子ちゃんの言葉に、他のクラスメート達も同調する。
 正直に言うと、俺も教室に戻りたかった。戻って退学したかった。きっと俺はストレスが原因で、教室で倒れてしまって、今頃は保健室のベッドで夢を見ているんだ。そうに違いない。入学初日に倒れるというのは、充分に退学理由になるだろう。

「それはできませんー」
「何で?」
「あなた達は、『第3回異世界対抗デスゲーム』の地球代表に選ばれたからですー」
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