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     【6】

 夢を見ていた――ような気がする。
 夢の中の僕は高校生になり、修学旅行で京都に来ていた。できれば朝日奈さんと同じスケジュールで神社仏閣を見て回りたかった。

 しかし、基本的には班別でそれぞれ違う寺社を回ることになっており、クラスの違う僕が朝日奈さんと一緒に行動するのは難しかった。

 僕は京都のどこのお寺に行っても、朝日奈さんの姿を捜していた。
 運よく発見しても、僕は同じ班の子たちと談笑している朝日奈さんを遠くから見つめることしかできず、自分の班を抜け出して彼女に話しかけることなどできなかった。

 しかし、修学旅行の最終日になって、幸運の女神が舞い降りてきた。
 朝、ホテルを出発するときに、僕と朝日奈さんはたまたま同じタイミングで、ロビーにあった自動販売機のジュースを買ったのだ。僕が先にジュースを買ったところへ、後から朝日奈さんがやってきた形だった。
 僕は、その場でジュースを飲みながら、朝日奈さんを見ていた。朝日奈さんは僕の視線になど気付かない様子で、コーラを買った。朝日奈さんは部屋に戻ってから飲むつもりらしく、立ち去ろうとした。

 引き止めなければ、と思った。何か理由をつけて立ち話でもしようと思った。

「あの」

 意を決し、かすれた声で僕がそう声をかけると、朝日奈さんは不思議そうな表情で振り返った。

「何?」
「えっと……」

 言葉が続かなくなり、気まずい沈黙が流れた。
 そこへ、修学旅行に同行していた、中年の男性カメラマンが通りかかった。

「こっちを向いて」

 カメラマンがそう言い、朝日奈さんはカメラの方を向いた。人間は、カメラを見ると反射的に微笑んでしまう生き物だ。朝日奈さんは自然な笑みを浮かべ、僕はぎこちない笑みを浮かべた。カメラマンは慣れた動作でシャッターを切ると、その場から立ち去った。

「じゃあね」

 朝日奈さんは微笑みを浮かべたままそう言い、コーラを持って歩いていった。

 後日、修学旅行も終わり日常生活が戻ってきた頃。修学旅行中に撮られた写真が廊下に掲示された。希望者は写真の番号を申込用紙に記入し、代金を封筒に同封して担任に渡せば、数日後に希望した写真が届けられるというシステムだった。

 自分が写っている写真なのだから、僕がこの写真を買ってもおかしくない。僕は自分にそう言い聞かせながら、自動販売機を背景にして、僕と朝日奈さんがジュースを片手に並んでいる写真を購入した。

 以来、その写真は僕の宝物になった。財布に入れ、いつも持ち歩いていた。
 あの写真が手元にあるだけで満足だったのに。どんなにボロボロになってしまっても、写真に写っていたはずの朝日奈さんの顔すら見分けがつかなくなってしまっても、僕は満足だった。
 それなのに。

 それなのに、僕はその写真を失くしてしまった。電車の中に財布ごと置き忘れてしまった。
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