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「ラジオ体操?」
「ええ。トレーニング・ルームを掃除しているときに、ラジカセと、ラジオ体操のCDを発見したの。暗くて狭い核シェルターの中に閉じこもっていると、どうしても憂鬱な気分になるし、運動不足になっちゃうし、だんだん昼と夜の感覚がおかしくなってくるでしょ。それを解消するために、起床後一番にラジオ体操をするといいんじゃないかと思うの」
「確かに健康的だし、ラジオ体操をすると1日が始まる、という気分になっていいね。でも、ラジオ体操をするなんて中学生の夏休み以来だな」

 僕の通っていた小中学校では、生徒は夏休みには地元の公園でラジオ体操に参加しなければならないということになっていた。と言っても、真面目に通っていたのは小学生のうちだけだったのだが。進学すると、同級生や先輩たちの間で、中学生にもなってラジオ体操に行くなんて格好悪いという空気が蔓延し始めていたのだ。僕も彼らに合わせるようにして3日に1日はサボるようになり、3年生になる頃には夏休みの最初の方と最後の方しか行かなくなっていた。

「私は妹の付き添いで、高校生になっても行かされたけどね」
「朝日奈さん、妹さんがいるんだ?」
「あ――うん。まあね」

 失言した、という様子で朝日奈さんは目を伏せた。

「ごめん。詮索するようなこと言っちゃって」
「ううん、別にいいの」
「えっと、じゃあ朝は起きたらまず顔を洗ってトレーニング・ルームに集合してラジオ体操をすることにしよう。その後、朝食だね。7時から8時まであれば充分かな」
「お昼ご飯は正午から1時間でいいよね?」
「いいと思うよ。で、おやつは午後3時で、夕食は午後7時でいいかな」
「ちょっと待って。3時のおやつなんて必要?」
「必要だよ。お昼ご飯から夕食まで6時間も空くんだから」
「分かった。いいわ。三時にティータイムということにしましょう」

 朝日奈さんはスケジュール表にそう書いた。

「夕食も1時間として、8時からは入浴だね。その後は自由時間。これで大体の予定は決まったかな?」
「待って。午前中と午後の空いた時間に何をするかも決めておかないと」
「そんなことまで決めるのか? そのときそのときの気分でいいんじゃないか?」
「駄目よ。後で軌道修正するかもしれないけど、大体何をするかくらい決めておかないと」
「何をするの?」
「午前中はできるだけ身体を動かした方がいいから、朝ご飯を食べたら掃除にしましょう」
「毎日掃除するのか? 1日置きでいいんじゃないか?」
「食料庫の掃除をする日と、食料庫以外の掃除をする日に分ければ、毎日違う場所を掃除できるでしょ。多分、食料庫の掃除の方が早く終わるから、そのときに洗濯をすることにしましょう」
「今日は食料庫もそれ以外も全部一気に掃除したから、少なくとも明日は掃除しなくてもいいよね?」

 掃除が嫌いな僕は期待を込めてそう訊いた。

「全くもう。隙あらば仕事量を減らそうとするんだから。分かった。じゃあ、明日は洗濯だけにしましょう」
「掃除と洗濯が終わったら自由時間だね」
「ええ。ただし、そのときも身体を動かす遊びをしましょう。エアロバイクを漕いで発電したり、卓球をしたり」
「え? 卓球なんてあった?」
「さっき、倉庫でピンポン玉とラケットを見つけたわ」
「卓球台は?」
「残念ながら台は見つからなかったけど、倉庫にあるものと食堂のテーブルを使って工夫すれば、卓球できると思う」
「卓球部のエースだった朝日奈さんと違って、僕は素人なんだから、お手柔らかに頼むよ」
「はいはい。……ちょっと待って。どうして山上くん、私が卓球部だったことを知ってるの? 私、そんなこと教えてなかったと思うけど」

 朝日奈さんは不思議そうな表情で僕を見た。
 僕はゆっくりと生唾を呑み込んでから、答える。

「どうしてって――同じ高校だったんだから、知っててもおかしくないだろ。それより、午後からの自由時間は、あまり身体を動かさないものにした方がいいんじゃないか?」

 僕がそう誤魔化すと、朝日奈さんは納得してくれたようだった。

「そうね。午後からはテレビ室で映画鑑賞をしたり読書したりして過ごすことにしましょうか。こんなところね。じゃあ山上くん、日誌に予定表のことも書いておいてね」
「分かった」

 僕は頷き、日誌の続きに『1日の予定表も作りました』と付け加えた。
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