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堕ちていく

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 母からは髪を抜いていると「きもい悪い」と言われ、たまに帰ってくる姉には「トイレが臭い」「やめなよ」「お母さんの気持ちを考えろ」「ニート」「すねかじり」と言われた。わかっている。すべて自分が悪い。
 
 あるとき「お母さんの期待に一生懸命に応えてきた。小さいころから迷惑をかけないように我慢してきた。」と母に言うと、は「何でもかんでも人のせいにする。〇〇(姉)は元気にやってるじゃない。」と言われた。「お金は出さない」と言われた。心の中で「お母さんのせいでこうなったのに、病気の責任はとってくれない。勝手に生んだのにこんな病気になった私の責任はとってくれない。生まれてきたくなんてなかった。」と憎しみがどんどん大きくなっていく。「誰も助けてなんかくれない」「こんな状態になってしまってるのに見捨てるのか」
 だけど病気になるのは誰のせいでもない。私が特別こういう気質に育ってしまっただけだ。そう言い聞かせても私の問題は一人では抱えきれなかった。どうしても助けが必要だし、憎しみと怒りをぶつける対象が必要だった。
 結局自分に憎悪が向き、自傷行為が激しくなった。毎晩のようにピアスを開ける。耳にはもう穴をあける余地がなくなった。ニードルを突き刺し、えずきながらこじ開ける。舌や唇の下、へそにもピアスを開けた。布団は血だらけになっていた。
 とにかく過食がしたいしタバコが吸いたい。クレジットカードは親が隠して預かっているので働くしかない。日払いのバイトを探した。派遣の引っ越し屋のバイトを始めた。体力的にとにかくしんどい。重い荷物を持てないのでひたすら早く動く。社員が派遣を選んで現場に連れていく。優しくて気のいい社員もいたが、気性の荒いパワハラもいる。女は力がないのでなかなか選んでもらえない。そしてピアスだらけなのでテープで隠しても倦厭される。そんな自分を渋々連れていく人間はもちろんよくは扱ってくれない。とにかく精神的につらかった。帰りはとんでもないところで降ろされ、帰りの電車賃もない。日払いと謳って本当に日払いしてくれるバイトなどそうないのだ。
 引っ越し屋は数回でリタイアし、登録先からの電話を無視し続けた。携帯の支払いやカードの支払いが度々滞り、電話が鳴り督促状が届く。怖くて仕方なかった。次に始めたのは「チャットレディ」だ。わかってはいたが水商売である。話を聞きに行く。交通費がないので片道50分自転車をこいだ。露出の高い女性との面接。ライブチャットで全裸になる仕事である。もちろん親には内緒である。日払いについて聞くと、手数料で3割取るという酷い内容であった。しかしそれでもお金が必要だった。週に3回ほど、20時ごろに事務所に行き、朝の5時ごろ上がる。女性用の下着も持っていないので仕方なく購入し、服も持っていないので事務所で借りた。
 用意された部屋でライトを浴びながら客を待つ。客が入ったり出たりする。チャットで話しかけられ、こちらは音声で返す。いろんなタイプの客がいるが、要望に応える。時間稼ぎをしつつ脱ぐ。それを事務所の責任者がリモートで観ながらアドバイスをチャットで投げる。そんな感じでやっていった。その店では新人にしていきなり3位になった。すごく褒められた。この月は20万以上の売り上げを稼いだ。でも試用期間だなんだと言われ、18万くらいしかもらえなかった。
 不満に思いつつも久しぶりに手にした大金である。でも過食するのに現金が手元になく、「体を売ってまで自分で稼いだのだからカードを返せ!!」と怒りの感情が爆発し、親に「バイトしてるからカードを返してほしい」と言った。だいぶもめたがカードを手にして久しぶりに好きなだけ食べものと酒、たばこを買った。
 夜中のバイトに自転車50分。先月はビギナーズラックだったのだろう。なかなか売り上げが伸びない。するとばかばかしく思えてきてチャット中に隠れて酒を飲むようになった。タバコも吸った。それが責任者にばれて怒られた。
 どんどんすさんでくる。自分のことがますます嫌になる。髪染めを買ってきて一晩に何回も染める。思いの色にならずブリーチを繰り返す。頭皮は真っ赤になり、お湯で濡らすと激痛である。もちろんドライヤーが痛くてかけれない。そんなこんなで朝になり、緑色の髪で学校に行く。学長に怒られる。気分はどんどん落ち込みチャットレディのバイトに行けなくなった。電話が何度もかかってくる。5万くらいは稼いでいたが、振り込んでもらえなかった。

 カウンセリングの帰りに新宿2丁目まで歩き、レズビアンバーに面接に向かった。3時間ほど歩いた。このころ痩せに痩せて、今まで入らなかったスキニーパンツがぶかぶかであった。見るからに病気だったのであろう、「客が心配する」との理由で断られた。「2年後出直してきな」といい、坊主頭の女性がスタッフに私を紹介し、お酒を一杯ごちそうしてくれた。緊張しながらも近くの客とも話をし、外国人ともlineを交換した。なんだか楽しかった。

 このころの病院実習は産科であった。
妊婦も赤ちゃんも見たくなかったし、婦人科健診など受けたこともなく、産婦人科に立ち入ることすら嫌だった。健診台に座ってみろと言われ断った。唇の下にピアスをつけたままで教師にも指摘されたが開けたばかりなので外せなかった。妊婦に使うアセスメントは独特で、「ウェルネス思考」というものだった。要するにプラス思考みたいなものだ。マイナス思考しか持ち合わせておらず、何回書き直しても却下される。その場にいるのも怖くて仕方なく発狂直前であった。涙が止まらなくなりグループメンバーにも教師に変に報告され、実習辞退させられた。家にひきこもった。
 心療内科で月1回のカウンセリングを受けていたが、電車に乗っていくのが大変であった。出発する直前まで過食嘔吐していて風呂にも入れず、着替えもできず、寝間着のまま電車に乗った。翌月はついに行けなかった。キャンセル料など取られるのが怖く、電話にも出れず、二度と行くことはなかった。
 
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