私が望むことは、それだけなのだが。

一昨日の彼と、今の私(私編)

揺れるカーテンの向こう側。

横になったまま、

走り去る電車の音を聞いてた。



1Kの間取りの外では、

知らない誰かの世界が秒針を進める。



私の隣には別の音。

穏やかな寝息が聞こえる。

触れるとこんなにも暖かいのに、

彼が発する言葉には、

温度を感じない気がする。



私の勘違いだったらいいのにな。



一昨日偶然すれ違った元カノアノヒトはとても綺麗な人だった。


きっといい恋をしてるんだろうな。

それなら彼女の綺麗成分の
ナオト含有率は何%なんだろうか。

私は、そんなことを呑気に考えていた。



ふと、右上を見上げた。

ナオトの瞳は確実に彼女を捉えた。



気づかないふりをした。



距離が離れて、彼女が人混みに消えるまで、ずっと見ていた。


隣にいる私ではなく。


私は、気づかないふりをした。


彼女は気づいていたのだろうか。


その日、ナオトは口数が少なかった。

昨日もそうだった。

圧倒的な敗北感で、
不思議と悲しくもなかった。


ナオトが私に背を向けるように寝返りを打った。



午前９時。いい天気だ。


ベランダで憂鬱と一緒に煙を吐き出した後、
窓を閉めて、世界から２人を遮断した。



ナオトの背中にくっついてみる。

ベッドの軋む音と大きな鼓動が聞こえる。

あったかい。

ナオトが何を考えていたのかは、
わからない。

ただ、今この瞬間、ナオトは隣にいるのだ。

それだけでいいや。



そう思った。












それだけでいいや。