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1章
漂流物
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手製の櫂を動かし、いかだを進めている。
時計は役に立たないので正確なところはわからないが、体感1時間位は漕いだのではないか。
先にフライパンを付けた櫂は水の抵抗を多少受け重く、スタート位置からそれほど進んだとも思えない。
登山を日常的にするにあたってそれなりに鍛えていたが、櫂を操る筋肉はまた違うのだろう。腕が多少痛んでいる気がする。
「ふー…」
額にじっとりと浮かんだ汗をぬぐう。
無理はよくない。
一度休憩しようと、櫂をいかだの上に戻す。
その時、ピチャッと何かがフライパンから落ちてきた。
それは海水に濡れた、きらりと太陽光に反射する鱗のようなものだった。
「はは…やった…見つけた…」
この海に放り出されて見つけた、初めての物だった。
改めて拾い上げ見分する。
大きさはティーソーサーほどもある。鱗だとすると結構な大きさではないだろうか。
こんな鱗を持つ魚は知らない。最も、魚については詳しくないので、何とも言えないのだが。
うっすらと翠色の、透明感のある鱗。
「きれいだ」
その時風が吹いた。清涼感のある風だった。
なんとなくすっきりして、頑張って櫂を漕ごうという気力が湧いてきた。
鱗は水分を拭い、割れてしまっては悲しいのでタオルでくるんでジップロックに仕舞い、バックパックの一番上に置いた。
再び櫂を手にとり漕ぎ始める。
また右へ。
コンパスが効かない船旅だ。
進む方向を見失わないように、いかだには自分で決めた上下左右を記した。
幸い先程から追い風が吹いている。
波が立つような強い風ではないが、助けにはなる。
そうしてどれくらい経っただろうか。
あれから時間はそれなりに経っているはずなのに太陽の位置も変わらず、海の色にも変化がない中で時間の感覚を失っていた。
だが本来ならそろそろ夕方になる頃合いだろう。
そんなことを考えながら進んでいると、前方に何かが浮かんでいるのが見えた。
急いでそこまで漕ぎだすが、思うようにいかない。
風はもう吹いていなかった。
あの鱗以外で見つけた2回目のものだ。確認したい。
目を凝らすと、ぶくぶくと泡を立てて今にも沈みそうになっている。
「待って…!」
とにかく近づこうと漕ぐ速度を上げる。
あれは…
「人?!」
そう、板切れに人が乗っていた。
しかし今にも落ちそうでもあった。
「おーい!おーい!起きろ!落ちるぞ!沈む!」
大声を出すがやはり気絶しているのか反応がない。
なんとかその人のところまで漕ぎつけ、助けようと手を伸ばす。
手首をつかんだ。
どうやら自分よりも大きい男のようだ。
いかだに引っ張り上げようにも気絶している人間というものは重く、さらに不安定ないかだの上からこちらは手を伸ばしているので、思うようにいかない。
「起きろ!起きてくれ!生きてるんだろ!」
いや、生きているかどうかはわからない。
男の顔色は悪く、長時間海を漂っていたのだとすると体も冷えているはずだ。
それでもこの海で見つけた自分以外の人間を逃したくはなかった。
ぐっと力を込めてもう一度男を引っ張り上げる。
だがバランスをとうとう崩し、ふわっと体が浮いた。
あ、
「おちる」
いかだから投げ出された。
と、その時のことはよくわからない。
落ちると思った次の瞬間、男が乗っていた板切れに手が触れたのはわかった。
一瞬光った気もしたが、次の瞬間にはいかだの上に居た。
そう、海には投げ出されなかった。
助けたかった男は隣に横たわっていた。
「え?」
思い切り引っ張り上げた反動で男を海から出せたのだろうか。
よかった。
いや、それよりも、だ。
何故かいかだは大きくなっていた。
時計は役に立たないので正確なところはわからないが、体感1時間位は漕いだのではないか。
先にフライパンを付けた櫂は水の抵抗を多少受け重く、スタート位置からそれほど進んだとも思えない。
登山を日常的にするにあたってそれなりに鍛えていたが、櫂を操る筋肉はまた違うのだろう。腕が多少痛んでいる気がする。
「ふー…」
額にじっとりと浮かんだ汗をぬぐう。
無理はよくない。
一度休憩しようと、櫂をいかだの上に戻す。
その時、ピチャッと何かがフライパンから落ちてきた。
それは海水に濡れた、きらりと太陽光に反射する鱗のようなものだった。
「はは…やった…見つけた…」
この海に放り出されて見つけた、初めての物だった。
改めて拾い上げ見分する。
大きさはティーソーサーほどもある。鱗だとすると結構な大きさではないだろうか。
こんな鱗を持つ魚は知らない。最も、魚については詳しくないので、何とも言えないのだが。
うっすらと翠色の、透明感のある鱗。
「きれいだ」
その時風が吹いた。清涼感のある風だった。
なんとなくすっきりして、頑張って櫂を漕ごうという気力が湧いてきた。
鱗は水分を拭い、割れてしまっては悲しいのでタオルでくるんでジップロックに仕舞い、バックパックの一番上に置いた。
再び櫂を手にとり漕ぎ始める。
また右へ。
コンパスが効かない船旅だ。
進む方向を見失わないように、いかだには自分で決めた上下左右を記した。
幸い先程から追い風が吹いている。
波が立つような強い風ではないが、助けにはなる。
そうしてどれくらい経っただろうか。
あれから時間はそれなりに経っているはずなのに太陽の位置も変わらず、海の色にも変化がない中で時間の感覚を失っていた。
だが本来ならそろそろ夕方になる頃合いだろう。
そんなことを考えながら進んでいると、前方に何かが浮かんでいるのが見えた。
急いでそこまで漕ぎだすが、思うようにいかない。
風はもう吹いていなかった。
あの鱗以外で見つけた2回目のものだ。確認したい。
目を凝らすと、ぶくぶくと泡を立てて今にも沈みそうになっている。
「待って…!」
とにかく近づこうと漕ぐ速度を上げる。
あれは…
「人?!」
そう、板切れに人が乗っていた。
しかし今にも落ちそうでもあった。
「おーい!おーい!起きろ!落ちるぞ!沈む!」
大声を出すがやはり気絶しているのか反応がない。
なんとかその人のところまで漕ぎつけ、助けようと手を伸ばす。
手首をつかんだ。
どうやら自分よりも大きい男のようだ。
いかだに引っ張り上げようにも気絶している人間というものは重く、さらに不安定ないかだの上からこちらは手を伸ばしているので、思うようにいかない。
「起きろ!起きてくれ!生きてるんだろ!」
いや、生きているかどうかはわからない。
男の顔色は悪く、長時間海を漂っていたのだとすると体も冷えているはずだ。
それでもこの海で見つけた自分以外の人間を逃したくはなかった。
ぐっと力を込めてもう一度男を引っ張り上げる。
だがバランスをとうとう崩し、ふわっと体が浮いた。
あ、
「おちる」
いかだから投げ出された。
と、その時のことはよくわからない。
落ちると思った次の瞬間、男が乗っていた板切れに手が触れたのはわかった。
一瞬光った気もしたが、次の瞬間にはいかだの上に居た。
そう、海には投げ出されなかった。
助けたかった男は隣に横たわっていた。
「え?」
思い切り引っ張り上げた反動で男を海から出せたのだろうか。
よかった。
いや、それよりも、だ。
何故かいかだは大きくなっていた。
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