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1章

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ざぁん…という音といくばくかの磯臭ささで目が覚めた。

状況が飲み込めないが、どうやら自分は海にいるらしい。

ぐらぐらゆらゆらと不安定なものの上に倒れている。海の上、小波に揺られているのか。

重たい瞼を頑張って開こうとしたが、日光らしい眩しさに目はうっすらとしか開くことができない。

腕を動かしてみると、手はざらりとした、ぼこぼことした感じのものを撫でた。

すんすん、と鼻を鳴らしてにおいを嗅いでみると、なんとなく木のにおいがした。

自分は今木の上?木が何本か並べられているから…いかだか?に寝ているのだろうか。



「んんっ…あー…」

声は出た。寝起きの、喉に引っかかったような声だが、自分が発した声だった。

頭痛がする。寝る前の事を思い出したい。

とりあえずもっと状況把握をすべく、ゆっくり起き上がる。不安定ないかだの上だったが起き上がるくらいはできた。

二日酔いか何かのように頭も体も重いが、動けない事はない。手をついて周りを見渡す。



やはり海だ。



海しか見えない。見渡す限りの海、と頭上には真っ青な空。それだけだ。

なぜだ。

自分は、そうだ、登山2日目で…キャンプをしていて、そう、タープを張って寝たのだ。

海じゃない。

なのになぜ海で、こんないかだの上に居るのだ。さっぱり意味がわからない。誰か説明してくれ。

そう思っても、誰も答えてはくれなかった。

魚さえ跳ねない海の上で、鳥さえ飛んでない空が広がる中で自分ひとり。

「意味…わかんないって…」

力が抜け、起こしていた体を乱暴に倒す。

いかだは揺れて……ぼすっと頭に何かが当たった。痛くはない。

この状況で、自分といかだ以外を確認する事は大事だ。

慌てて起き上がり、頭に当たったものを確かめる。

それは自分の荷物だった。

登山するにあたって用意したデカいバックパック。

パンパンになってるバックパックで…多分…フル装備だ。

これはおかしなことである。

何故なら自分はそれなりに物を出した状態で寝ていたからだ。

ということは、誰かが…そう、自分以外の誰かが…荷物を纏めて…自分をこんな状況に追いやったということになる。



………。



さて、いつまでも呆然としていたいが、そうも言っていられない。

「状況把握を、しよう」

いち、ここは海で自分はいかだの上に居る。見渡す限り何も見えない。

に、たぶんフル装備ある。

さん、装備を纏めたらしき誘拐犯はここにはいない。自分は置き去りにされた。

よん……………グゥウ……と腹がなった。

誘拐犯が親切にも荷物を纏めてくれているので、おそらく食料もそのままだとありがたい。

海に落ちないように慎重にバックパックを探る。

あった、小分けにしたジップロックのまま入っている。

このままいつまで海の上に漂うのかわからないが、今腹が減っている。腹が減っているとろくなことを考えない。だから今は食べる。

バナナとチョコ…とにかくカロリーをまず摂取することにする。

幸い長期登山の途中だった。食料はまだある。

できればバックパックの中身を全て広げて確認したいが…こんな狭い…おそらく2畳程度しかないようないかだの上では危険だ。

「そうだ」

コンパスを…目印もなさそうなこの状況でどんな役に立つかはわからないが…とりあえずコンパスを取り出す。コンパスはすぐに取り出せるようにサイドポケットに入れてあった。

これはサーモコンパスで…





「え?」





壊れてしまったのだろうか。

太陽は今頭の真上に…だから昼だと思っていて…つまり南がこちらだと思っていたのだが…針は南も北も指していなかった。というかくるくる回り続けている。

そして温度もおかしい。マイナスを示している。こんなに…穏やかな気候なのに。

「壊れた…?いや……ここがおかしいのか…?」

ふと腕時計の存在を思い出し、時間を確認した。

表示が消えている。

時計も、GPSも、作動している気配がない。

いや…心拍計だけは作動している。



大きく、大きく波が記録されていく。



いったい…自分は今どこに居るのだろう…ここは…どんな…。

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