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第1章〜牡羊座クリオス編〜
4話 いっちょレベリングっと
しおりを挟む「おう兄ちゃん、昨日ぶりだな! よく眠れたか?」
「あぁ、いい宿だった。紹介ありがとな」
「おうよ!」
入り口に行くと、昨日と同じ様にキースが警備していたので軽く挨拶をして街を出た。
そしてやって来たのは南の森。
ここに来るまでエンカウントは無かった。
「さすが牡羊座領域。平和だな」
この世界もキッチリ同じとは限らないが、AOBには13の地域区分と、それぞれを守護する聖獣が居た。
聖獣は占いとかでよく使われている12星座を元にしたモンスターで、牡羊座のクリオスもその1つ。
その守護獣の領域に国が1つずつあり、守護獣の名前と同じ国名だから覚えるのは簡単だった。
13の区分と12の聖獣だと数が合わないが、この大陸の中心にある1領域だけは暗黒領域と呼ばれ、誰も入ることが出来なかった。
俺はそこに魔王が出現したのでは無いかと予想している。
AOBの時へレースは村と呼ばれる規模だったのだが、今では一目で港町だと認識できる程大きい。
3000年という時の流れは恐ろしいな。
「ゲーム知識のままだと確証が持てないし、どっかで歴史情報を入手したいが……王都の図書館に行けば何かわかるか?」
その為には、レベリングでステータスを上げなければならないわけだが。
考えごとにふけっていると、モンスター独特の鳴き声が聞こえてきた。
──グギャゴキャ、ブヒィ!──
「ん? やっとか」
この世界初のエンカウントはゴブリン3体。
気づかれないように木に隠れて近づき、居合切りの射程圏内に入った所で構えを取る。
「居合切り!」
スキル名を言わないとスキルが発動しないので、かなり厨二病感満載だが仕方なく言う。
「ギギィァ……」
「グゴ!?」
「グギャグヒ!」
倒した1体の悲鳴と踏み込んだ俺の足音に反応して、残りの2体が反撃してくる。
「パリィ、パリィ! 居合切り!」
少々コツがいる連続パリィを難なく成功させ、攻撃が滑って呆然としているゴブリンを一撃で仕留める。
パリィは、攻撃が来る方向に武器を構えて防御した状態でタイミングよく『パリィ』というと相手の攻撃を受け流せる、全職共通スキルだ。
前衛職は基本、スキルの連続使用でスタミナが減ってきたらパリィか回避で回復を待つ。
「ん、上々だな。ドロップアイテムは……」
ゲームの時は、倒すとポリゴンが弾けてドロップアイテムがアイテム欄に追加されていたが、ここではどうなんだろうか。
5分くらい待ったが、ゴブリンの死体に変化は見られない。
「やっぱりそうくるか……」
この世界には俺以外に個人パネルを持っている人は居ないらしいので予想はしていた。
やはり、素材入手には自分で解体する必要があるみたいだ。
「木刀じゃ解体なんて出来ないし、やったとしても入手は二束三文の魔石だけだから放置でいいか。金は討伐報酬で貰えば良いし…………さて、そろそろかな」
素材入手方法を確認する為に、俺が5分もかけた理由。
それは、とある現象が発生するのを待っていたからだ。
「グギィィ!」
背後から飛びかかってきたゴブリンへ、素早く構えを取ってスキルを使う。
「居合切り!!」
切り捨てたゴブリンがどさりと地に落ちのを横目で見ながら、周囲を確認する。
「1、2、3……6体か。まぁまぁだな」
モンスターを倒した場所に長く居ると、倒したモンスターと同種のモンスターがわらわらと寄ってくる。
AOBでは、モンスターを倒すと魔素が拡散して、それを求めるモンスターが集まってくるとかなんとかって設定だったはずだ。
この世界ではさしずめ、血の匂いに寄ってくるってところか。
レベリングに最適なこの現象を、俺がデコイ狩りと呼んでいたら、いつの間にか多くのAOBプレイヤーに広がっていたのは置いておこう。
今はモンスター殲滅あるのみ。
☆
あれから小一時間経過して、俺のプレイヤーレベルは8に、ジョブレベルは5に上がった。
「よし、鋭突が増えてるな。必須スキルも入手したし、スライム狩りに行くか」
ジョブレベルは5の倍数ごとに20までレベルアップで新規スキルが入手出来る。
今回はスライム狩りに必須級の、突き系スキルをゲットした。
「隠密系なら探知スキルで、スライムならすぐ見つけられるんだけど。今は地道に探すしかないか」
スライムは大体水辺に居るので、AOB時代の記憶を頼りに川や池を探して歩いていると、水の音が聞こえてきた。
「お、こっちか」
早速音のする方向へ向かう。
暫くして現れたのは砕石が多い川で、透き通った綺麗な水が流れていた。
「どっちでもいいけど、上流行ってみるか」
そこかしこに点々とスライムが居たので、デコイ狩りより移動しながらの方が効率的だろう。
近くに居たスライムへ向かって、木刀を顔の横に倒して持ってくる霞の構えを取り、スキルを放つ。
「鋭突!」
上手くスライムの中央付近をユラユラ移動する魔石を破壊出来たようで、デロりとスライムが溶け消え、砕けた魔石の破片だけが残る。
「なるほど、スライムだとこうなるのか」
肉体ごと残っていたゴブリンとはえらい違いだ。
粉々の魔石じゃ買い取ってすら貰えないだろうし、集めるのも一苦労なので、放置するのは変わらないが。
「スライムは斬撃耐性があるから、やっぱり鋭突は必須級だよな。AOBで初めて戦ったときはそうと知らずに苦戦したなぁ、そういえば」
今となっては懐かしい思い出だ。
スライムは侍の居合切り等、斬撃系の攻撃に耐性を持っているので、斬撃以外の方法で倒さなくてはならない。
当時初心者だった俺は、それで1回デスペナを受けた。
「戦闘って、ホント事前情報の有る無しで全然変わってくるよな。まぁ、ここには知ってるモンスターしか出ないだろうし、サクサクいくか」
デコイ狩りは複数の敵に囲まれるので、リアルタイムで状況判断をしながらスタミナゲージを意識しつつ、スキルを使っていた。
しかし、今回はスライム同士の距離が離れているのでその必要はない。
少し歩いては切り、切っては歩いてレベリングをしていく。
川を上り続け、高さ10m程の滝が見えてきた。
「AOBにこんなのなかったよな? ってことはBOCの追加要素か、この世界オリジナルってことになるけど」
俺の知ってるこの森の川は滝など無く、緩やかな流れが森の外まで続いていた。
「ゲーム的テンプレだと、滝の裏に洞窟とかあったり……するんだ、けど…………って、あるんかい!」
ゲームに似ているとはいえ、紛れもない現実の世界にも滝裏の洞窟というのは存在するようで。
思わずノリでツッコミを入れてしまった。
「まだ昼間だし、ちょっと行ってみるか」
もし中が広かったとしても、夕方にはへレースに帰れるだろう。
そう判断した俺は、薄暗い洞窟へと足を踏み入れた。
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