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第3章〜カイン学園編〜
第43話。獣人国到着
しおりを挟む翌日。言われた通り、朝7時に全員が魔導列車のカイン駅に集合した。1車両を丸々貸切にしたらしく、俺達以外は誰もいなくて騒ぎ放題だ。B組のラウラも一緒に6人で固まって座り、到着まで睡眠などを挟んで会話で暇を潰した。
そして丸一日かけてやってきた、獣人国の首都ベスティエ。先生は駅員と少し話があるとかで、俺達だけで先に駅の前に出て待っている事になったのだが。
「おらぁ! とっとと歩け、ゴミ奴隷が!」
「ひぃぃ!」
駅を出てすぐに目に入ったその光景。この世界では見たことがない、奴隷の存在。
黒地に黄色の模様が入った服を着てふんぞり返っている獣人が、屋台の売り物である果物を齧りながら、ボロボロの服を着た獣人を足蹴にしていた。
「こっ、困ります。旦那様。お代を……」
「今、何か言ったか? 言ってねぇよなぁ? ゲパルド様親衛隊の証であるこの服を見てそんなこと言えるわけねえからなぁ」
「そんな、ですが……」
「うるせぇ!」
お金を払わずに果物も食べてそのまま去ろうとしたのか、店主に引き止められた獣人が怒りをあらわにして屋台を蹴り倒した。
「なによ、これ」
隣でルーシィが驚きに目を見開いて硬直している。カイン学園の生徒全員が似たような感じになっているが、それも頷ける。
なぜなら、この世界に現在奴隷はいないはずなのだから。種族間戦争の時は捕虜にした他種族をそのまま奴隷にしたりしていたらしいが、戦争が終わったあと奴隷達は解放され、それ以降奴隷はどの種族も作ろうとしていなかった。
「うぅ……」
倒れた屋台から呻き声が聞こえてきて、視線をそちらに向けると店主が下敷きになっていた。反射的に体が動いて助けに行く。店主の上に乗っている屋台の残骸を退かしていると、それが気に食わなかったのか親衛隊の獣人が突っかかってきた。
「なんだこのガキ、ハーフエルフ? 年中森に引きこもってる非力種族の混ざりモンが、しゃしゃり出てくんじゃねぇ!」
イライラとした声と共に、俺の顔目掛けて飛んできた親衛隊獣人の足。さほど早くはないので片手で余裕をもって受け止めることが出来た。
「なっ、くそ!」
そのまましっかりと握った為、足の持ち主が押しても引いてもビクともしない事に煮えを切らしたのか、今度は拳が向けられた。それをもう片方の手で受け止めようとしたのだが、その前に親衛隊獣人の拳が半透明の何かに弾かれた。
「これ以上、そのお方に手出しすることは私が許しませんわ」
俺達に割って入ったのはサラシャだった。
全くの無表情で親衛隊獣人に近づき、彼に手を翳す。すると、彼を囲うように半透明の何かが瞬時に構築された。
サラシャが翳した手を握ると、その半透明の何かがどんどん小さくなって親衛隊獣人を押し潰し始める。
「ぐうぅ……あ゛ぁ゛」
「サラシャさん、もうやめてください!」
「ですが、この者は……」
親衛隊獣人の苦しげな声を聞き、慌ててサラシャを止めようとしたのだが、彼女はやめてくれなかった。
そっと周囲を見回して、他の生徒がまだ駅前にいるのを確認する。これなら大丈夫か。
声のトーンを落とし、サラシャにだけ聞こえる声量でゆっくりと言葉を発する。
「もういい、サラシャ嬢。やめるんだ」
俺の王子としての声にハッとしたサラシャは握っていた手を開き、親衛隊獣人を解放する。解放された彼は反動でへたり込んだがすぐに立ち上がり、捨て台詞を残しながら奴隷を連れて走り去った。
「申し訳ありません、殿下……」
「俺を思ってのことですよね。怒ってないですし、謝らないでください。あと、殿下呼びはちょっと……」
「あっ……失礼致しましたわ、エミルさん」
想像と全く違う現状に固まっていた生徒達が、事態が落ち着いて我に返り駆け寄ってきた。
「エミル大丈夫だった?」
「その、悪かったわね……助けに行けなくて。怪我はないかしら?」
いつも元気なミシェルが顔を曇らせて俺の心配をし、ルーシィは心ここに在らずといった様子でも怪我の確認をしてくれた。その他の子供達は店主を助けたり屋台の残骸を片付けたりしている。
「大丈夫だよ。怪我もしてない。ところでサラシャさん、さっきのアレは何ですか?」
「結界魔法ですわ。小さい頃から治癒魔法が苦手だったのですが、何故かこれは得意だったのです」
結界魔法なんて聞いたことがないし、当然それを扱える一族も知らない。主要6属性魔法以外は特別な血筋でなければ扱うことが出来ない。サラシャの種族である天族は、治癒魔法しか特殊魔法は受け継がれていなかったはずだ。
ルーシィと同じような突然変異か?
彼女も魔力を持たないはずの獣人に生まれた、魔力を持って魔法を扱える存在。
何十年、何百年に一度なら現れるかもしれないが、同じ時代に2人も現れるなんて凄い確率だ。
「偶然……?」
「どうかなさいましたか? エミルさん」
「いえ、なんでもありません」
サラシャに首を傾げられてしまったが、今はまだ誤魔化しておいた。
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