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第2章〜冒険者編〜
第25話。深まる謎
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十一層~二十層と同じく、広い部屋が短い通路で繋がった階層。
その部屋の中に、30体くらい犇めいている、ミノタウロスソルジャー達。
さて、一体どうするのが一番綺麗に狩れるか。取り敢えず、今自分が持っている剣より性能が良いであろう、ミノタウロスの剣を奪うとする。
身体強化をフルブーストして、部屋の中に突っ込む。当然、ミノタウロス達が振り返るのだが、もう遅い。一番手前に居た1体に近づき、切断力の高い水刃で右手首を切り落として、剣を確保した。
あとはもう、簡単だ。
「雷刃、飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬!」
身長3mの大柄なミノタウロス共に、風×水の雷刃を5連発。電気ショックで殺し、血抜きなどの解体作業は、ギルド横の解体倉庫でやればいい。
ちなみに、肉が切れないよう魔力を操り、電撃を与えるだけに留めた。斬撃自体は、ミノタウロスの皮膚に触れた時点で霧散している。
二十層ボス部屋で、普通の人間サイズを5、6体凍りつかせるのが精一杯だったゾンビソルジャーの剣。対して、3mの巨躯を一撃で5体も沈黙せしめたミノタウロスの剣。
実に素晴らしい。食料確保が捗る。もう俺は、ミノタウロスを食料としか捉えていなかった。
「エミルーーーー!!! なんで置いてくのよ!」
「 ミノタウロスかと思ってつい、全力疾走してきちゃった……」
「全くもう。で? ミノタウロスがどうしたのよ」
「そっか。ルーシィは知らないんだっけ。このミノタウロスの肉はね、星の海亭で使ってる食材なんだ」
「星の海亭の料理食材!? なんでそれをもっと早く言わないの! あのレベルの美味しさを損ねないうちに、さっさと回収するわよ!」
ルーシィは星の海亭の料理を、いつの間に食べていたのか。少なくとも、俺と一緒に食べたことは無い。
無限収納にミノタウロスを凍らせてから入れつつ、気になったので聞いてみる。
「ルーシィ、いつ星の海亭の料理食べたの?」
「エミルが討伐作戦の日に、あたしを置いていってくれたお陰でありつけたのよ。置き手紙を見た時は本当に怒ったけど、あの料理でそんなの吹き飛んだわ」
「あの時は本当にごめん。ルーシィが戦えるって知らなくて」
「別にもう怒ってないわ。それより、回収終わったんでしょ? この調子でどんどん食料確保よ!」
「それじゃ、行こうか!」
「――――っ!」
「いやぁぁぁぁぁああ!」
広いダンジョンに響く、俺の声にならない叫びと、ルーシィの悲鳴。
なぜこんな悲鳴が轟いているのかと言うと、単純明快に、ルーシィが罠を作動させてしまったのだ。ちょっとした好奇心で、いかにも怪しい赤いボタンを押してしまって。
現在、俺たちの後ろには、直径2m程のトゲ付き鉄球が迫って来ている。
今ひょっとして、鉄球小さいじゃん。って思った?
そりゃあ、大人から見れば大して大きくはないだろう。ところがどっこい、俺の身長は120cm前後。ルーシィはそれより数cm高い程度。ルーシィは何歳か不明だが、恐らく俺の1つ上とかだろう。
つまり、年相応の身長しかないのだ。ボタン押していきなり身長の1.7倍近い物体が迫ってきたら恐怖しかないだろう。例えそれが、切ろうと思えば切れるものであっても、だ。
覚悟を決めて鉄球に向き直り、鞘は無いが居合の構えを取る。
「ルーシィ! アレを切るから、俺の後ろにいて! 水刃―刹渦―!」
鉄球が射程圏内に入った瞬間、飛斬系より威力の出る、纏刃状態の水刃で縦に割った。俺達に当たることなく、割れた鉄球は転がっていき、光の粒子になって消えた。
「っはぁ~~。びっくりした。助かったわ、エミル」
「次はあんな怪しいボタン押さないでね」
「言われなくても、もうあんなのこりごりよ」
「ならいいけど。それじゃ、進もうか……って、ルーシィ! その床は!」
「え? っきゃ!」
不自然に出っ張っている床に気づかず、ルーシィがそれを踏んでしまった。突然床が抜け、彼女が視界から消える。
「っ!! ルーシィ!!!」
慌てて駆け寄って床を確認すると、中でルーシィが手と足を壁にくっつけ、下に落ちないよう、踏ん張っていた。よく見ると、穴の底には剥き出しの刃が、所狭しとぎっしり詰まっている。
急いでルーシィに手を貸し、引っ張り上げた。
「ありがとう……」
「どういたしまして。無事で良かった。今まで罠なんて一切なかったからあまり気にしてなかったけど、ここに来ていきなり致死レベルの罠、か。慎重に進もう」
「えぇ。ゆっくり進みましょう」
鉄球の罠に引っかかったのが、二十二層。
そして現在、三十層のボス部屋内。あれから幾つもの罠にかかって、なんとか無傷の俺たちの前には、牛頭と馬頭が居る。
牛頭は見た目ほぼミノタウロスなので同じだと思っていたら、後ろから馬の頭を持った人型の魔物が出てきたのだ。確証は無いが、恐らく牛頭馬頭だろう。との判断をした。
奴らの身長は280cmほどで、普通のミノタウロスより少し小さく、最初は少し舐めてかかっていた。
ここまで戦闘において、ほぼ無傷だったのも悪かったのだろう。
考え無しに一撃入れようと突っ込んだら、モロ腹に一撃貰い、俺は壁まで吹っ飛んだ。
それを見たルーシィは、警戒しながら慎重に近づき、牛頭へ軽く蹴りを放ったのだが……。
牛頭は見た目によらず俊敏で、サッと躱されてしまう。そして、すぐ横に居た馬頭が、凄まじいパワーが窺える斬撃を放ってきて、ルーシィが飛び退く。
牛頭はスピードタイプ。馬頭はパワータイプか。
俺がバランス型。ルーシィは恐らく、今までの彼女の動きを客観的に判断すると、スピードタイプだろう。
ならば、二手に分かれるのが一番だ。
「ルーシィ、馬頭を頼む! 俺が牛頭を倒して加勢に行くまで、なんとか攻撃を躱して凌いで!」
「え、なに? めず?」
その反応を見て、はっとする。この世界に、牛頭と馬頭なんて存在しない。
俺が牛頭と馬頭だと判断したのは、前世の記憶で知っていたからだ。存在しないはずのものが、なぜ居るのか。ゆっくり考えたいが、今はそんな暇はない。
ルーシィにはどう伝えれば良いか。
「ルーシィは馬頭を!俺は牛頭だ!」
「わかったわ!」
どうやら伝わったようなので、俺は壁から牛頭目掛けて駆ける。今度は一撃貰わないよう、目と足に身体強化を集中して。
何度か剣を振るって躱されたが、6度目くらいの攻撃で脛に傷を付けた。傷の痛みで牛頭が膝をついてしゃがんだので、背後に回り込み、雷刃で首を狩る。
「雷刃―霹靂―!」
「ブ、ブモォォォ……、……、と……」
「え? 今……」
何か、話した? 魔物が言葉を話すなんて、ありえない。言葉を話すのは、意思ある種族だけだ。動物しかり、ダンジョンに出てくるような生粋の魔物が言葉を解すなぞ、聞いたことがない。
一瞬考え込みそうになったが、ルーシィ達の戦闘は続いており、取り敢えずそちらの救援に向かう。
「遅れてごめん! 加勢するよ!」
「早かったじゃない! 一気に仕掛けるわよ!」
避けに徹していたルーシィが、攻めに転じる。軽く飛んで馬頭の腹に拳を叩きつけたが、吹き飛ばすには至らない。しかし、馬頭の動きが止まった。俺にはそれで十分だ。
今度は俺が飛び上がり、馬頭の胸に深々と剣を突き刺したのだが……。
「ヒヒイィィィン……み、ごと……なり…………」
「やっぱり、喋ってる!?」
あまりの驚愕に、声を上げてしまった。ルーシィが俺の方を見て、問いかけてくる。
「喋った? まさか、ソレが? 嘘でしょ?」
「牛頭の時はちゃんと聞こえなかったけど、今回は俺の耳が馬頭の口に近かったからかな? ちゃんと聞こえた。間違いなく、喋ってたよ」
牛頭と馬頭が確実に死んでいるのを確認してから、俺は考えだす。
「やっぱり、このダンジョンおかしいよ。冒険者が居ないし、出てくる魔物の数は異常だし。最後は喋る魔物……。本当になんなんだろう、ここは」
この三十層まで、ついぞ誰とも会わなかった。そして、今から考えると魔物の数も相当異常だった。普通のダンジョンに、あれ程の数が固まって出てくるだろうか? そして、極めつきは、この世界に存在しないはずの牛頭馬頭が話した。
どう考えてもおかしい。
「下層に行けば何かわかるかも、ってここまで来たけど、何もわからなかったわね。むしろ、謎が増えちゃったみたい」
その通りである。今までの傾向でいくと、そろそろ次の階層への道が開くのだが……。何も起こらない。
「このボスで、このダンジョンは終わりなのかな? 次の階層の階段が出てこないし」
「たしかにそうね」
と、話していたら、変化は突然訪れた。
俺達2人の体が光りだしたのである。そう、俺達。今まではボスの剣だったり、ボスの体だったりしたのだが。
ルーシィが震える手で俺の腕を掴んできたので、そっとその手を上から押さえる。そしてそのまま俺達は、光の粒子になった。
「……ル……エミ……エミル!」
「……ルーシィ?」
どうやら気を失っていたらしく、ルーシィに起こされて目を覚ました俺は、身を起こして周囲を確認した。
石で造られた、教室程度の広さをもつ部屋。その床ギリギリまで広がった、複雑な魔法陣。軽く線を擦ってみたが、不思議なことに全く掠れなかった。完全に閉じられた空間で、出入口は見当たらない。そして、その魔法陣の中心にある、刀掛けに置かれた刀。
「なんでここまで剣、剣、剣って来ておいて、刀が来るんだ……」
「かたな? なにそれ?」
「あ……」
しまった。刀もこの世界には存在しない。
「エミル、ちょっと変よ。めず……なんとかもそうだし、かたなってなに?」
「えっと……ごめん、話せない」
適当に誤魔化すのが、この場を乗り切る正解なのだろう。けど、俺はルーシィに嘘をついたり、それに近いことを言いたくなかった。だから、謝った。
「………………そう」
「………………ごめん」
「いいわよ、べつに。あたしだってエミルに隠していることがあるわ。それと同じよ」
「それって……」
真剣な目をして、俺の目を覗き込むルーシィ。俺もそれを見つめ返す。二十一層ではにらめっこの展開になったが、今回はならない。お互いに目をそらす。
それから暫く沈黙が続いたのに耐えられず、立ち上がって刀に近寄る。
「エミル、それ……かたな、だっけ? 触って大丈夫なのかしら?」
「わからない。けど、何もしなければここから出られないと思う」
出口は無く、俺たちの他にあるのは、刀と魔法陣だけ。このまま出られなかったら飢え死にしかないだろう。一か八か、刀に触れてみた。
――――バチッ――
指先が触れた瞬間、静電気を受けたような痛みを感じ、手を引く。同時に、床の複雑な魔法陣に罅が入り、砕け散った。
何か不味いことをしてしまったかもしれない。不安になって固まっていると、頭に若い男性の声が響いた。
(ふぁ~ぁ、よく寝たぁ。あれ、君もしかして……ふぅ~ん。やっと来たね。いや、もう……か)
「だ、誰だ!」
「エミル!? どうしたのっ?」
ルーシィには、この声が聞こえていないようだ。状況がイマイチ飲み込めていないであろうルーシィを置き去りにして、若い男性の声は言葉を続けた。
(俺? 俺はアドル。勇者って言えばわかるよね?)
勇者。800年前に、2000年間続いていたとされる種族間戦争を終わらせたと語り継がれる、英雄。
それが、何故こんなダンジョンに?
その部屋の中に、30体くらい犇めいている、ミノタウロスソルジャー達。
さて、一体どうするのが一番綺麗に狩れるか。取り敢えず、今自分が持っている剣より性能が良いであろう、ミノタウロスの剣を奪うとする。
身体強化をフルブーストして、部屋の中に突っ込む。当然、ミノタウロス達が振り返るのだが、もう遅い。一番手前に居た1体に近づき、切断力の高い水刃で右手首を切り落として、剣を確保した。
あとはもう、簡単だ。
「雷刃、飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬!」
身長3mの大柄なミノタウロス共に、風×水の雷刃を5連発。電気ショックで殺し、血抜きなどの解体作業は、ギルド横の解体倉庫でやればいい。
ちなみに、肉が切れないよう魔力を操り、電撃を与えるだけに留めた。斬撃自体は、ミノタウロスの皮膚に触れた時点で霧散している。
二十層ボス部屋で、普通の人間サイズを5、6体凍りつかせるのが精一杯だったゾンビソルジャーの剣。対して、3mの巨躯を一撃で5体も沈黙せしめたミノタウロスの剣。
実に素晴らしい。食料確保が捗る。もう俺は、ミノタウロスを食料としか捉えていなかった。
「エミルーーーー!!! なんで置いてくのよ!」
「 ミノタウロスかと思ってつい、全力疾走してきちゃった……」
「全くもう。で? ミノタウロスがどうしたのよ」
「そっか。ルーシィは知らないんだっけ。このミノタウロスの肉はね、星の海亭で使ってる食材なんだ」
「星の海亭の料理食材!? なんでそれをもっと早く言わないの! あのレベルの美味しさを損ねないうちに、さっさと回収するわよ!」
ルーシィは星の海亭の料理を、いつの間に食べていたのか。少なくとも、俺と一緒に食べたことは無い。
無限収納にミノタウロスを凍らせてから入れつつ、気になったので聞いてみる。
「ルーシィ、いつ星の海亭の料理食べたの?」
「エミルが討伐作戦の日に、あたしを置いていってくれたお陰でありつけたのよ。置き手紙を見た時は本当に怒ったけど、あの料理でそんなの吹き飛んだわ」
「あの時は本当にごめん。ルーシィが戦えるって知らなくて」
「別にもう怒ってないわ。それより、回収終わったんでしょ? この調子でどんどん食料確保よ!」
「それじゃ、行こうか!」
「――――っ!」
「いやぁぁぁぁぁああ!」
広いダンジョンに響く、俺の声にならない叫びと、ルーシィの悲鳴。
なぜこんな悲鳴が轟いているのかと言うと、単純明快に、ルーシィが罠を作動させてしまったのだ。ちょっとした好奇心で、いかにも怪しい赤いボタンを押してしまって。
現在、俺たちの後ろには、直径2m程のトゲ付き鉄球が迫って来ている。
今ひょっとして、鉄球小さいじゃん。って思った?
そりゃあ、大人から見れば大して大きくはないだろう。ところがどっこい、俺の身長は120cm前後。ルーシィはそれより数cm高い程度。ルーシィは何歳か不明だが、恐らく俺の1つ上とかだろう。
つまり、年相応の身長しかないのだ。ボタン押していきなり身長の1.7倍近い物体が迫ってきたら恐怖しかないだろう。例えそれが、切ろうと思えば切れるものであっても、だ。
覚悟を決めて鉄球に向き直り、鞘は無いが居合の構えを取る。
「ルーシィ! アレを切るから、俺の後ろにいて! 水刃―刹渦―!」
鉄球が射程圏内に入った瞬間、飛斬系より威力の出る、纏刃状態の水刃で縦に割った。俺達に当たることなく、割れた鉄球は転がっていき、光の粒子になって消えた。
「っはぁ~~。びっくりした。助かったわ、エミル」
「次はあんな怪しいボタン押さないでね」
「言われなくても、もうあんなのこりごりよ」
「ならいいけど。それじゃ、進もうか……って、ルーシィ! その床は!」
「え? っきゃ!」
不自然に出っ張っている床に気づかず、ルーシィがそれを踏んでしまった。突然床が抜け、彼女が視界から消える。
「っ!! ルーシィ!!!」
慌てて駆け寄って床を確認すると、中でルーシィが手と足を壁にくっつけ、下に落ちないよう、踏ん張っていた。よく見ると、穴の底には剥き出しの刃が、所狭しとぎっしり詰まっている。
急いでルーシィに手を貸し、引っ張り上げた。
「ありがとう……」
「どういたしまして。無事で良かった。今まで罠なんて一切なかったからあまり気にしてなかったけど、ここに来ていきなり致死レベルの罠、か。慎重に進もう」
「えぇ。ゆっくり進みましょう」
鉄球の罠に引っかかったのが、二十二層。
そして現在、三十層のボス部屋内。あれから幾つもの罠にかかって、なんとか無傷の俺たちの前には、牛頭と馬頭が居る。
牛頭は見た目ほぼミノタウロスなので同じだと思っていたら、後ろから馬の頭を持った人型の魔物が出てきたのだ。確証は無いが、恐らく牛頭馬頭だろう。との判断をした。
奴らの身長は280cmほどで、普通のミノタウロスより少し小さく、最初は少し舐めてかかっていた。
ここまで戦闘において、ほぼ無傷だったのも悪かったのだろう。
考え無しに一撃入れようと突っ込んだら、モロ腹に一撃貰い、俺は壁まで吹っ飛んだ。
それを見たルーシィは、警戒しながら慎重に近づき、牛頭へ軽く蹴りを放ったのだが……。
牛頭は見た目によらず俊敏で、サッと躱されてしまう。そして、すぐ横に居た馬頭が、凄まじいパワーが窺える斬撃を放ってきて、ルーシィが飛び退く。
牛頭はスピードタイプ。馬頭はパワータイプか。
俺がバランス型。ルーシィは恐らく、今までの彼女の動きを客観的に判断すると、スピードタイプだろう。
ならば、二手に分かれるのが一番だ。
「ルーシィ、馬頭を頼む! 俺が牛頭を倒して加勢に行くまで、なんとか攻撃を躱して凌いで!」
「え、なに? めず?」
その反応を見て、はっとする。この世界に、牛頭と馬頭なんて存在しない。
俺が牛頭と馬頭だと判断したのは、前世の記憶で知っていたからだ。存在しないはずのものが、なぜ居るのか。ゆっくり考えたいが、今はそんな暇はない。
ルーシィにはどう伝えれば良いか。
「ルーシィは馬頭を!俺は牛頭だ!」
「わかったわ!」
どうやら伝わったようなので、俺は壁から牛頭目掛けて駆ける。今度は一撃貰わないよう、目と足に身体強化を集中して。
何度か剣を振るって躱されたが、6度目くらいの攻撃で脛に傷を付けた。傷の痛みで牛頭が膝をついてしゃがんだので、背後に回り込み、雷刃で首を狩る。
「雷刃―霹靂―!」
「ブ、ブモォォォ……、……、と……」
「え? 今……」
何か、話した? 魔物が言葉を話すなんて、ありえない。言葉を話すのは、意思ある種族だけだ。動物しかり、ダンジョンに出てくるような生粋の魔物が言葉を解すなぞ、聞いたことがない。
一瞬考え込みそうになったが、ルーシィ達の戦闘は続いており、取り敢えずそちらの救援に向かう。
「遅れてごめん! 加勢するよ!」
「早かったじゃない! 一気に仕掛けるわよ!」
避けに徹していたルーシィが、攻めに転じる。軽く飛んで馬頭の腹に拳を叩きつけたが、吹き飛ばすには至らない。しかし、馬頭の動きが止まった。俺にはそれで十分だ。
今度は俺が飛び上がり、馬頭の胸に深々と剣を突き刺したのだが……。
「ヒヒイィィィン……み、ごと……なり…………」
「やっぱり、喋ってる!?」
あまりの驚愕に、声を上げてしまった。ルーシィが俺の方を見て、問いかけてくる。
「喋った? まさか、ソレが? 嘘でしょ?」
「牛頭の時はちゃんと聞こえなかったけど、今回は俺の耳が馬頭の口に近かったからかな? ちゃんと聞こえた。間違いなく、喋ってたよ」
牛頭と馬頭が確実に死んでいるのを確認してから、俺は考えだす。
「やっぱり、このダンジョンおかしいよ。冒険者が居ないし、出てくる魔物の数は異常だし。最後は喋る魔物……。本当になんなんだろう、ここは」
この三十層まで、ついぞ誰とも会わなかった。そして、今から考えると魔物の数も相当異常だった。普通のダンジョンに、あれ程の数が固まって出てくるだろうか? そして、極めつきは、この世界に存在しないはずの牛頭馬頭が話した。
どう考えてもおかしい。
「下層に行けば何かわかるかも、ってここまで来たけど、何もわからなかったわね。むしろ、謎が増えちゃったみたい」
その通りである。今までの傾向でいくと、そろそろ次の階層への道が開くのだが……。何も起こらない。
「このボスで、このダンジョンは終わりなのかな? 次の階層の階段が出てこないし」
「たしかにそうね」
と、話していたら、変化は突然訪れた。
俺達2人の体が光りだしたのである。そう、俺達。今まではボスの剣だったり、ボスの体だったりしたのだが。
ルーシィが震える手で俺の腕を掴んできたので、そっとその手を上から押さえる。そしてそのまま俺達は、光の粒子になった。
「……ル……エミ……エミル!」
「……ルーシィ?」
どうやら気を失っていたらしく、ルーシィに起こされて目を覚ました俺は、身を起こして周囲を確認した。
石で造られた、教室程度の広さをもつ部屋。その床ギリギリまで広がった、複雑な魔法陣。軽く線を擦ってみたが、不思議なことに全く掠れなかった。完全に閉じられた空間で、出入口は見当たらない。そして、その魔法陣の中心にある、刀掛けに置かれた刀。
「なんでここまで剣、剣、剣って来ておいて、刀が来るんだ……」
「かたな? なにそれ?」
「あ……」
しまった。刀もこの世界には存在しない。
「エミル、ちょっと変よ。めず……なんとかもそうだし、かたなってなに?」
「えっと……ごめん、話せない」
適当に誤魔化すのが、この場を乗り切る正解なのだろう。けど、俺はルーシィに嘘をついたり、それに近いことを言いたくなかった。だから、謝った。
「………………そう」
「………………ごめん」
「いいわよ、べつに。あたしだってエミルに隠していることがあるわ。それと同じよ」
「それって……」
真剣な目をして、俺の目を覗き込むルーシィ。俺もそれを見つめ返す。二十一層ではにらめっこの展開になったが、今回はならない。お互いに目をそらす。
それから暫く沈黙が続いたのに耐えられず、立ち上がって刀に近寄る。
「エミル、それ……かたな、だっけ? 触って大丈夫なのかしら?」
「わからない。けど、何もしなければここから出られないと思う」
出口は無く、俺たちの他にあるのは、刀と魔法陣だけ。このまま出られなかったら飢え死にしかないだろう。一か八か、刀に触れてみた。
――――バチッ――
指先が触れた瞬間、静電気を受けたような痛みを感じ、手を引く。同時に、床の複雑な魔法陣に罅が入り、砕け散った。
何か不味いことをしてしまったかもしれない。不安になって固まっていると、頭に若い男性の声が響いた。
(ふぁ~ぁ、よく寝たぁ。あれ、君もしかして……ふぅ~ん。やっと来たね。いや、もう……か)
「だ、誰だ!」
「エミル!? どうしたのっ?」
ルーシィには、この声が聞こえていないようだ。状況がイマイチ飲み込めていないであろうルーシィを置き去りにして、若い男性の声は言葉を続けた。
(俺? 俺はアドル。勇者って言えばわかるよね?)
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メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
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「異世界に転生か再び地球に転生、
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即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
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「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
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