14 / 29
13.ロイの経緯③
しおりを挟む「ユキちゃん、ありがと」
おむすびを頬張る桐矢くんに麦茶を出した。
「休憩って、これからまた?」
「うん、納屋とか、物置とかさ、子供が隠れんぼに入り込んだりするから、オレらは家の周りを見てみようかって、鍵掛かって出れなくなってる可能性もあるしな」
「そっか……」
「なぁ、ユキちゃん食べてないだろ?」
「えっ……」
食欲が湧かず、何も手をつけれなかったのがナゼかバレてる。
はいと、おむすびを渡された。続けて楊枝に刺した肉団子まで、口元にきて、私は大人しく肉団子を頬張った。
晩ごはん、と言うには遅いけれど、こうして夜に桐矢くんと食事をするのは、ここに戻った頃の、泣くばかりだったあの頃以来だ。
最近では、晩ごはんに誘っても「食べたら帰れなくなりそうだから」と、断られる。食べたらすぐ眠くなっちゃうのは子供の頃から変わらないらしい。
「あのな、チカちゃんのお母さんの、リカコさんがさ、昨夜チカちゃんに怒鳴ってしまったんだと、亡くなったお母さん、リカコさんのお母さんな。その手作りの人形を壊したって」
卵焼きを飲み込み、桐矢くんは話してくれた。
「朝になって、おばあちゃんに直してもらってくるって、言って、チカちゃん、人形を持って出たんだって」
「……」
「リカコさんも、おばあちゃんって言うから、隣の坂木のばあちゃんのことかと思ったらしいんだ。前の日、坂木のばあちゃん家に行ったらしいから」
私も出会った、メロンをおすそ分けした時だ。
「でも、坂木のばあちゃん家には行ってないって分かって……」
「今朝ね、私が見たのは、坂木のおばあちゃん家とは反対に行く姿だったの」
『おばーちゃん、まってぇ』
チカちゃんは誰に言ったのか……。
私は、縁側からしましまさんの拾い物の入ったカゴを持ってきた。
「ねぇ、桐矢くん、今朝しましまさんが拾ってきたバースデーカードね、この“りっこちゃん”って、リカコさんのことだったの」
告げる私に、は? のまま桐矢くんは固まった。そして、何度かカードと私を見比べた。
「しましまさんはね、拾い物の持ち主にあった時、体を擦り寄せるて教えてくれるの。まるで“待ってたよ”って伝えてるみたいに」
「え……それ、三島の時」
そう、実際しましまさんの拾い物の持ち主が家にきた時に、桐矢くんが居合わせたのは、三島さんと沖野ヨウコさんが訪れた時だけだ。
「うん、三島さんの時もそうだった。しましまさんがそうやって教えてくれるから、私も声を掛けて縁側まで来てもらってたの」
縁側でお茶を飲みながら、他愛のない話をし、偶然のようにカゴの中の縁ある物を見つける。そうやって、しましまさんの拾い物を返していた。
「そう、だったんだ」
「こんな話、信じられる?」
「信じるよ」
応えはすぐだった。
「しましまが、他の猫と違うのは、知ってるから」
その言葉に私の方が絶句した。
「……それって、どういう」
「見つかったぞー!」
外からの声に桐矢くんも私も立ち上がり、表に出た。
「チカ!!」
「チカちゃんが見つかったぞ!」
「よかった、よかったねぇ」
足取りに疲労などは見えない様子で、チカちゃんは戻ってきた。
懐中電灯に照らされたチカちゃんは、両手に人形を二体抱えて、しましまさんと一緒に、戻ってきた。
そして、それは、チカちゃんに縋り付き泣くリカコさんと、笑顔の戻った町の人に囲まれた中で、
「はいママ! おばーちゃんが、りっこちゃんにわたしてって」
チカちゃんは二体の人形を母親に差し出した。
「え……」
人形を手渡されリカコさんは固まっていた。
動かないリカコさんに、一度戻ろう、と声をかけられたがチカちゃんは「まって!」と大人たちを止めた。
「あのね、にゃんちゃんが、ママのおたんじょうびのカードもってるの!」
息を飲んだ。
「にゃあん」
チカちゃんの足元でしましまさんがひと鳴きする。
「あぁ、よく何か拾って持って帰るって猫か」
しましまさんのことを知る人の声があがる中、動けない私の耳元で「オレが取ってくるから」と残し、桐矢くんは離れて行った。
「誕生日のカードってこれかな?」
「うん!」
知っていたかのようにチカちゃんはバースデーカードを受け取った。
「それを、猫が拾ってきたのか?」
「そうだよ! その猫は賢いけぇ、こないだは、わたしのお守り見つけてくれたんだよ」
隣のおばあちゃんに続くのは、
「あー、その猫か! うちのじーさんが作ったルアーも見つけたらしいからな」
「あぁ、ユキさん家の猫か! うちも娘にもらった、手作りのキーホルダーを見つけてくれてたんだよ!」
「鼻がいいんだよ」
「そんな賢い猫だったのか!」
「チカちゃんを見つけたのは、その猫なのか!?」
「すごいな! 猫なのに鼻がいいのか」
「なぁ、カードにはなんて書いてあるって?」
こんなふうに、大勢の前で知られたくなかった。
ドクンドクンと心臓の音が頭で響く。
「ユキちゃん、ユキ! 息しろ」
「はっ……、は、とうやくん……」
呼吸を忘れるほどの不安に、固く握り締めていた手を解いた。
「戻ろう、ユキちゃん」
「…………」
振り返えり、見たのは、膝を着き、人形を抱きしめたリカコさんと、体を擦り寄せているしましまさんの姿。
しましまさんの拾い物は町の皆が知ることになった。
翌日から猫の拾い物を覗きに、何人もの人が家を訪れ、拾い物をする珍しい猫しましまさんも人に追い回された。
そして、しましまさんは家へ戻って来れなくなり……。
私は総司くんとの繋がりを失った。
おむすびを頬張る桐矢くんに麦茶を出した。
「休憩って、これからまた?」
「うん、納屋とか、物置とかさ、子供が隠れんぼに入り込んだりするから、オレらは家の周りを見てみようかって、鍵掛かって出れなくなってる可能性もあるしな」
「そっか……」
「なぁ、ユキちゃん食べてないだろ?」
「えっ……」
食欲が湧かず、何も手をつけれなかったのがナゼかバレてる。
はいと、おむすびを渡された。続けて楊枝に刺した肉団子まで、口元にきて、私は大人しく肉団子を頬張った。
晩ごはん、と言うには遅いけれど、こうして夜に桐矢くんと食事をするのは、ここに戻った頃の、泣くばかりだったあの頃以来だ。
最近では、晩ごはんに誘っても「食べたら帰れなくなりそうだから」と、断られる。食べたらすぐ眠くなっちゃうのは子供の頃から変わらないらしい。
「あのな、チカちゃんのお母さんの、リカコさんがさ、昨夜チカちゃんに怒鳴ってしまったんだと、亡くなったお母さん、リカコさんのお母さんな。その手作りの人形を壊したって」
卵焼きを飲み込み、桐矢くんは話してくれた。
「朝になって、おばあちゃんに直してもらってくるって、言って、チカちゃん、人形を持って出たんだって」
「……」
「リカコさんも、おばあちゃんって言うから、隣の坂木のばあちゃんのことかと思ったらしいんだ。前の日、坂木のばあちゃん家に行ったらしいから」
私も出会った、メロンをおすそ分けした時だ。
「でも、坂木のばあちゃん家には行ってないって分かって……」
「今朝ね、私が見たのは、坂木のおばあちゃん家とは反対に行く姿だったの」
『おばーちゃん、まってぇ』
チカちゃんは誰に言ったのか……。
私は、縁側からしましまさんの拾い物の入ったカゴを持ってきた。
「ねぇ、桐矢くん、今朝しましまさんが拾ってきたバースデーカードね、この“りっこちゃん”って、リカコさんのことだったの」
告げる私に、は? のまま桐矢くんは固まった。そして、何度かカードと私を見比べた。
「しましまさんはね、拾い物の持ち主にあった時、体を擦り寄せるて教えてくれるの。まるで“待ってたよ”って伝えてるみたいに」
「え……それ、三島の時」
そう、実際しましまさんの拾い物の持ち主が家にきた時に、桐矢くんが居合わせたのは、三島さんと沖野ヨウコさんが訪れた時だけだ。
「うん、三島さんの時もそうだった。しましまさんがそうやって教えてくれるから、私も声を掛けて縁側まで来てもらってたの」
縁側でお茶を飲みながら、他愛のない話をし、偶然のようにカゴの中の縁ある物を見つける。そうやって、しましまさんの拾い物を返していた。
「そう、だったんだ」
「こんな話、信じられる?」
「信じるよ」
応えはすぐだった。
「しましまが、他の猫と違うのは、知ってるから」
その言葉に私の方が絶句した。
「……それって、どういう」
「見つかったぞー!」
外からの声に桐矢くんも私も立ち上がり、表に出た。
「チカ!!」
「チカちゃんが見つかったぞ!」
「よかった、よかったねぇ」
足取りに疲労などは見えない様子で、チカちゃんは戻ってきた。
懐中電灯に照らされたチカちゃんは、両手に人形を二体抱えて、しましまさんと一緒に、戻ってきた。
そして、それは、チカちゃんに縋り付き泣くリカコさんと、笑顔の戻った町の人に囲まれた中で、
「はいママ! おばーちゃんが、りっこちゃんにわたしてって」
チカちゃんは二体の人形を母親に差し出した。
「え……」
人形を手渡されリカコさんは固まっていた。
動かないリカコさんに、一度戻ろう、と声をかけられたがチカちゃんは「まって!」と大人たちを止めた。
「あのね、にゃんちゃんが、ママのおたんじょうびのカードもってるの!」
息を飲んだ。
「にゃあん」
チカちゃんの足元でしましまさんがひと鳴きする。
「あぁ、よく何か拾って持って帰るって猫か」
しましまさんのことを知る人の声があがる中、動けない私の耳元で「オレが取ってくるから」と残し、桐矢くんは離れて行った。
「誕生日のカードってこれかな?」
「うん!」
知っていたかのようにチカちゃんはバースデーカードを受け取った。
「それを、猫が拾ってきたのか?」
「そうだよ! その猫は賢いけぇ、こないだは、わたしのお守り見つけてくれたんだよ」
隣のおばあちゃんに続くのは、
「あー、その猫か! うちのじーさんが作ったルアーも見つけたらしいからな」
「あぁ、ユキさん家の猫か! うちも娘にもらった、手作りのキーホルダーを見つけてくれてたんだよ!」
「鼻がいいんだよ」
「そんな賢い猫だったのか!」
「チカちゃんを見つけたのは、その猫なのか!?」
「すごいな! 猫なのに鼻がいいのか」
「なぁ、カードにはなんて書いてあるって?」
こんなふうに、大勢の前で知られたくなかった。
ドクンドクンと心臓の音が頭で響く。
「ユキちゃん、ユキ! 息しろ」
「はっ……、は、とうやくん……」
呼吸を忘れるほどの不安に、固く握り締めていた手を解いた。
「戻ろう、ユキちゃん」
「…………」
振り返えり、見たのは、膝を着き、人形を抱きしめたリカコさんと、体を擦り寄せているしましまさんの姿。
しましまさんの拾い物は町の皆が知ることになった。
翌日から猫の拾い物を覗きに、何人もの人が家を訪れ、拾い物をする珍しい猫しましまさんも人に追い回された。
そして、しましまさんは家へ戻って来れなくなり……。
私は総司くんとの繋がりを失った。
851
お気に入りに追加
1,979
あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる