上 下
31 / 33
act.4 Another Story

彼の後悔3

しおりを挟む
一度アルファポリスのログインを再度求められるという最悪のエラーで書いていたデータが消し飛びショックで暫く続きをかけていませんでした。こんな遅くの更新になり、もしも待っていてくれた方がいらっしゃったら申し訳ありません。アスタリスク以下、本編です。若干の残酷表現的なのがあります。

****************************************************



それから暫く後の事だ。あの後何度もヴィーに会いに行って弁明したが、彼女に僕の言葉は響かなく、悲しそうに軽く微笑むだけだった。
誤解は未だに解けていないだろう。
この時ばかりは執務で彼女と会えないのは苦痛以外の何物でもなかった。第一王女が来ているせいで執務の量は増えるばかり。確実に勘違いをされているのにそれを訂正する時間すら取れない。

そうして二週間程経った頃だろうか。その時は最悪の形で訪れた。

ヴィオレッタが王女を殺したという事実を聞いたとき、そこにあったのは目の前が見えなくなるほどの空白――――。
彼女が人を殺したという事実が信じられない。何も考えられなかった。
そうして放心しているうちに僕は貴族達や隣国、その他諸々の要因に煽られ、いつの間にか彼女は僕の手によって断頭台に上がっていた。


目の前でヴィーの首が飛ぶ。最後に瞳があった時、見えたのは僕に対する何か強い感情の籠もった瞳とそれを埋め尽くすように覆い被さる恐怖だった。何かを叫んでいたようだったが、放心していた僕にはなにも聞こえなく、ただただそれを見つめていた。

それはとても非現実的でまるで悪い夢の中にでもいるかのように信じられない光景で……僕はいつの間にか断頭台まで移動し、飛んだヴィーの首を拾い、抱えていた。
傍観していた下品な貴族や平民のざわめきが聞こえたが、もう気にならない。
彼女の顔は最後の瞬間、よほど怖かったのだろう……悲痛な表情が浮かんでいた。

「まだ、暖かい……」

暖かく、ズブズブと服に染み込んでくる血。深く吸い込むと、僕が好きな彼女の髪の匂いが鼻腔の奥にこびり付く。けれど、今は少し鉄の匂いが混ざっていて少し残念だ。僕が好きな綺麗な瞳の色も既に濁り始めてしまっている。
彼女はもう、ピクリとも動かない。
それを実感した瞬間、急に現実感が湧き上がった。彼女は死んだ。一番守りたかったはずの存在の彼女が……僕の手によって、断頭台に送られて……。

僕は何をしたかったんだ?何を守りたかったんだ……?
一番守りたかったはずの存在を自分の手で失くしてしまってから気づく。それと同時に、後悔などという軽い言葉で表せないほどの深い悔恨の渦に突き落とされた。
何故僕は王子なのだろう。こんな立場、彼女が隣に並んでくれないなら何の意味もないのに……僕はその立場で結局、彼女を殺してしまったのだ。

そうして僕はいつのまにか普段から腰に携えている剣を抜いていた。その後の事は正直よく覚えていない。


けれど、最後に僕の意識が戻った時には見渡す限りの赤が広がっていた。
醜い貴族共が肉塊になって転がっている。中にはまだピクピクとまだ動いているものもあれば、完全に人の形を失い、静物と化している物……様々だった。辺りには咽返るような血の臭いと人間が死んだ時に筋肉が緩んで出る激しい糞尿の臭い混じってとんでもない悪臭となり、漂っている。
その風景に自然と笑みが浮かんだ。そうして抱えたままだった彼女の頭と向き合う。少し唇が乾いていた。

「ごめんね。今から僕もそっちに行くから……待ってて」

そう囁き、彼女に口付けを落とすと、僕は自分の命を断った。


*************


「っ――――」

息苦しさに目が醒める。全身が嫌な汗でびっしょりと濡れて嫌な感じだ。僕は……彼女を、ヴィーを喪ってそれで――――。

「アーシュ?急に飛び起きてどうしたの?」
「え……ヴィー?」

眠そうに眼を擦るヴィーがもぞりと起き上がり、僕に心配そうな顔を向ける。
彼女は死んでしまったのでは……?一瞬そんな考えが頭をよぎるが、すぐに頭の中で否定が飛ぶ。
ヴィーはあの夢の様に死んでなどいない。僕は先日彼女との結婚式を済ませ、今は執務も全て休んでの蜜月中なのだ。即ち、今は僕の人生の中で一番幸せな時期なのだ。そんな時にあんなおかしな夢を見てしまうなんて……。

「怖い夢でも見た……?」

混乱して返事らしい返事をしていなかった僕の顔を間近で覗き込んでくる愛おしい彼女の顔。そこに思わず口づけを落とした。

「んん――――っふぅ、ん……」

啄むように唇を重ね合わせ、段々と舌を入れて行為を深めていく。ヴィーはあの夢とは違い、目の前に元気な姿でいて、今も僕の愛に必死になって応えようとしてくれる。そんな彼女に更に愛しさが募り、キスを深めながらそのまま押し倒した。

「っアーシュ……?」
「眠いだろうけど、ごめんね」
「……いいよ、来て」

その言葉で全てを察したらしいヴィーが僕を受け入れてくれる。あんな未来はあり得ない……もしこの先何が起ころうとも、僕はもう絶対に彼女を離しはしないのだから。
甘えるように抱き着いてくる彼女を僕も抱きしめる……今度は決して離さないように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

運命は、手に入れられなかったけれど

夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。 けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。 愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。 すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。 一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。 運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。 ※カクヨム様でも連載しています。 そちらが一番早いです。

どうも、初夜に愛さない宣言をされた妻です。むかついたので、溺愛してから捨ててやろうと思います。

夕立悠理
恋愛
小国から大国へ嫁いだ第三王女のリーネは、初夜に結婚相手である第二王子のジュリアンから「愛することはない」宣言をされる。どうやらジュリアンには既婚者の想い人がいるらしい。別に愛して欲しいわけでもなかったが、わざわざそんな発言をされたことに腹が立ったリーネは決意する。リーネなしではいられないほどジュリアンを惚れさせてから、捨ててやる、と。 「私がジュリアン殿下に望むことはひとつだけ。あなたを愛することを、許して欲しいのです」  ジュリアンを後悔で泣かせることを目標に、宣言通り、ジュリアンを溺愛するリーネ。  その思惑通り、ジュリアンは徐々にリーネに心を傾けるようになるが……。 ※小説家になろう様にも掲載しています

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

処理中です...