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act.1 The past
彼女の事情5
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リーシャにこれ以上ないくらいに綺麗に着飾ってもらい、最強の鎧を手に入れたヴィオレッタはエスコートをしてもらうためにも兄であるロベールと合流する。もう緊張は殆どしていない。彼らの父である公爵は母をエスコートするため、お茶会の会場である王宮の温室庭園で直接会う事になっている。
「兄様!!」
客室まで直接迎えに来た兄の姿を認めるとヴィオレッタは思わず満面の笑みになり、小走りで駆け寄った。ロベールは王立騎士団に所属しているため制服で来ている。制服と言っても正装版なので少し飾りが多めだが、ベースが軍服なので機動性はとても良い。
「おっと、走ると危ないよ」
そう言いながらもヴィオレッタが転ばないようにロベールは即座に彼女と腕を組み、ヴィオレッタに彼の空色の瞳から蕩けそうなほどに甘い視線を送った。未だに前髪が瞳にかかっていない状態で人に直視したりされたり、直視したりするのには慣れないが、慣れ親しんだ兄に会えてヴィオレッタは安心する。
「前髪、切ったんだね。似合っているよ、ヴィーをエスコートできるなんて光栄だな」
「兄様も格好いいですよ!!あと私もお兄様にエスコートしてもらえて、すごく嬉しいです!」
兄妹は互いに微笑み合いながらも王宮のメイドに案内されて、今回の会場に到着した。
彼らが温室庭園の扉を開けると同時にウィステリアの上品だが思わずクラリとするほどに濃厚な香りが二人を包み込んだ。
温室庭園には国花であるウィステリアの花々が天井から枝垂れるようにして咲き誇っている。地面にはその花びらが落ち、まるで絨毯のようだ。それらすべてが幻想的な雰囲気を湛えていて、まるでこの世のものとは思えぬほど。
この花々は国でも随一の庭師たちに完璧に管理され、年中咲き続ける。基本的に一般には解放されることはなく、訪れた上位貴族や他国の王族から言伝に伝わっているその美しさは”楽園”と例えられるほどで、国内外問わず有名だ。
その光景に若干気後れを感じつつもヴィオレッタは兄にエスコートされ、両親・国王・王妃・第一王子が既に座っているお茶席へと着いた。
「遅れてしまいましたね、申し訳ありません。国王両陛下、アシュレイ……様」
ロベールが既に席についていた面々を見て、彼らよりも遅く来てしまったことを詫びる。
「よい。時間より少し早い程だ。よくぞ参ったな」
「ロベール、ヴィオレッタ。わざわざ呼び出したこのバカ王にそんな下手に出る必要はないぞ」
「……バカ王」
「事実だろう。無理矢理婚約を取り付けるような――」「うぅ、悪かったな!不出来なバカ王でっ」
「不出来とまでは言っていないが……」
「言っていなくても思っているんだろ!!?」
最初は国王が尊大な態度で答えるが、公爵の言葉でそれは一気にぶち壊される。だがそのおかげで一気に庭園内に穏やかな雰囲気が漂った。
ついでに、王妃と二人の母である公爵の妻は”いつものこと”と自分たちの夫の会話を無視しながら、談笑している。既に人払いがされているせいか、それぞれが殆ど素で話している。
実際、言い争いながらも国王と公爵は楽しそうだ。この気安さは長年の友情の賜物なのだろう。ヴィオレッタは最初は驚いたが、少ししたらそんな彼らのやり取りにも慣れる。
そうして彼らをなんとなく微笑まし気に眺めていると、此方を見つめている瞳に気づいた。
(綺麗な瞳の色……この庭園のウィステリアの花とそっくり――――なんというか、惹きつけられる。それに見ているとなんだか……何かを思い出すような――懐かしい感じがする)
それが第一王子をヴィオレッタが初めて見た時の印象だった。
此方を見つめる彼の瞳の美しさに思わず吸い込まれるように見入る。そうして二人がいつの間にか見つめ合う形になっていることに気づいたロベールが、咳払いをして全員の視線を此方に向けた。
「そう、だな。本題に入ろう。」
「ああ」
口喧嘩をしていた公爵・国王の二人も自分たちの娘と息子が知らず知らずのうちに見つめ合っていることに気づき、話の軌道修正をする。
「……アシュレイ、自己紹介を」
国王が自分の息子である第一王子に自己紹介を促す。すると、彼は第一王子はハッとしたように瞳を見開き、ヴィオレッタから視線を外した。それを何となく惜しく思いながらも、ヴィオレッタは彼の言葉を待つ。
「ウィステリア王国第一王子のアシュレイ=ウィステリアです。君と婚約できて本当に嬉しいよ……これからよろしくね、僕の可愛い婚約者」
年齢は少し上だろうか、幼いながらも高貴な雰囲気を纏った美しい少年は少し気障なセリフの後、軽く頭を下げた。金を紡いだような綺麗な髪が頭を下げるのと同時にぴょこりと跳ねる。彼の一挙一動にすら見惚れてしまっていたヴィオレッタは少し反応に遅れながらも自分も自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。ガーランド公爵家の長女、ヴィオレッタ=ガーランドと申します。これからよろしくお願い致します、アシュレイ殿下」
「……アーシュ」
「……え、っと」
「君には殿下じゃなくて、アーシュって呼んで欲しいな……」
(か、可愛い!!?)
アシュレイがヴィオレッタを甘えたような瞳で見つめる。それに思わず自分より年上である男の子に抱くような感想ではないものが内心浮かんでしまった。それと同時にいくら許可されたとしても、第一王子である彼を愛称などで呼んでもいいのだろうか。
ヴィオレッタがそう悩んでいる内にアシュレイはいつまでも名前を呼んでくれないことに少し不貞腐れた様で、先程より瞳が悲しそうだ。それに更なる焦りを覚えたヴィオレッタは思わず声を発してしまった。
「アーシュ」
そう呼んだ瞬間のアシュレイの表情はとても幸せそうで――思わずヴィオレッタも心が満たされてしまう程だった。
***
その後は国王たち曰く”気を利かせた”らしく、ヴィオレッタはアシュレイと二人きりにされた。正確には、給仕のメイドや扉の前の護衛兵がいるため二人きりではないのだが、彼らも一流の人間。完全に空気と化している。
だが、ヴィオレッタはどうしようもなく気まずい雰囲気を味わっていた。アシュレイはヴィオレッタを見つめながらも、楽しそうに次々と自分の事やヴィオレッタに対する質問を投げかけてくる。けれどヴィオレッタはどれも頭に入ってきていなかった。何故なら……。
(なんか、すっごい見られてる……どうすればいいの?)
アシュレイは話しながらもじっとヴィオレッタを見つめ続けているのだ。緊張を解すためにも、用意された紅茶を一口、また一口と飲んでいく。
ウィステリアの花は本来、体内に直接取り込むと毒性がある。しかし、この茶葉は王族やそれに準ずる人間にしか出されることのない特別性のものらしい。曰く、特殊な方法で毒性を100%除いているんだとか。
気を紛らわせるために、そのウィステリアを茶葉に使ったらしい紅茶を啜っても、焼き立てらしくまだ温かいスコーンをつまんでも視線はヴィオレッタだけに注がれている。恥ずかしさからか、見られているところが火傷しそうな程に熱を持つのを感じる。
そうして紅茶を半分飲み終えた辺りで耐えられなくなったヴィオレッタは、口を開いた。
「あの、アーシュ……様。そんなに見つめられては、居心地が……悪いのですが」
「様はつけないで。あと、敬語もいらないよ」
「…………アーシュ」
「うん。なにかな?」
「あまり見つめないで欲しい、かな。……なんていうか、落ち着かない」
様付けも敬語もいらないと言われたヴィオレッタは言い直す。未だに許可があるとはいえ、目上の……目上すぎる立場の人間へ敬語や敬称なしに話すのは躊躇われて、言葉一つ一つをかなり選んで発する。
「なんで?僕たちはもう婚約者だ。だからどれだけ見つめても問題ない。だよね、ヴィー?」
「それも……そう、かも……?」
いきなり愛称で呼ばれたことに若干の驚きと一緒に自分が流されている事を感じつつも、混乱して思わずアシュレイの言葉を肯定してしまう。
肯定したことにより、アシュレイは嬉々としてヴィオレッタに視線を送り続けている。
「あの、なんでそんなに私を見つめるの……?」
流されて暫くは耐えたが、やはり視線に耐え切れなくなったヴィオレッタは思い切って理由を聞いてみる。実際彼女の心拍数は王子の美貌に見つめられ続けたせいで外にも聞こえそうな程バクバクと高鳴っていた。
「君の瞳が綺麗だから、かな」
「え……」
ヴィオレッタに動揺が走る。今までヴィオレッタ自身も気持ち悪いと思っていた所為で瞳を隠していたこともあり、両親や兄以外――しかもこんな美人から自分の容姿……ましてや自分の瞳などを褒められたことがなかったのだ。
だが所詮はお世辞だろうと割り切り、会話を続ける。
「……ありがとう。でも正直私、自分のこの瞳が嫌いだから――あまり瞳は見つめないで欲しい」
なんとなく彼に隠し事はしたくなかった為、見られたくない理由を素直に答える。ヴィオレッタの瞳の色は未来視のせいか金色をしている。家族の誰も指摘はしないが、家族親類の誰とも違う異質な色なのだ。
すると彼は信じられないものを見たように瞳を見開いて言った。
「え、そんなに綺麗な瞳なのになんで!!?僕は、一番最初に君の綺麗な金の瞳を見た時この国の女神・アレイシアを思い出したよ……?それに実際僕は今も君に魅了されている……一目見た時から目が離せない程に」
最初は冗談を言っているのかと思ったが、アシュレイの瞳は此方を真っ直ぐに見つめていて嘘はない。それどころか怖いくらいの本気が伝わってきた。
「っそう……」
最終的にヴィオレッタは、アシュレイの賛辞に対してそれしか返せなかった。ヴィオレッタがそんなツレナイ態度をとっていても、当のアシュレイはヴィオレッタを眺めながら、楽しそうに話をしてくる。歳が近い家族以外の人とこんな風にゆっくりと話をすることができたのは何時振りだろうか……。
暫く話してみて分かった事だが、アシュレイは不思議な雰囲気を持つ人間だった。ヅカヅカと急に近づいてくるくせにヴィオレッタが本当にが嫌がる距離までは決して踏み込んでこない。
話しているといつからか、ヴィオレッタはそんなアシュレイに妙な居心地の良さを感じていた。
「兄様!!」
客室まで直接迎えに来た兄の姿を認めるとヴィオレッタは思わず満面の笑みになり、小走りで駆け寄った。ロベールは王立騎士団に所属しているため制服で来ている。制服と言っても正装版なので少し飾りが多めだが、ベースが軍服なので機動性はとても良い。
「おっと、走ると危ないよ」
そう言いながらもヴィオレッタが転ばないようにロベールは即座に彼女と腕を組み、ヴィオレッタに彼の空色の瞳から蕩けそうなほどに甘い視線を送った。未だに前髪が瞳にかかっていない状態で人に直視したりされたり、直視したりするのには慣れないが、慣れ親しんだ兄に会えてヴィオレッタは安心する。
「前髪、切ったんだね。似合っているよ、ヴィーをエスコートできるなんて光栄だな」
「兄様も格好いいですよ!!あと私もお兄様にエスコートしてもらえて、すごく嬉しいです!」
兄妹は互いに微笑み合いながらも王宮のメイドに案内されて、今回の会場に到着した。
彼らが温室庭園の扉を開けると同時にウィステリアの上品だが思わずクラリとするほどに濃厚な香りが二人を包み込んだ。
温室庭園には国花であるウィステリアの花々が天井から枝垂れるようにして咲き誇っている。地面にはその花びらが落ち、まるで絨毯のようだ。それらすべてが幻想的な雰囲気を湛えていて、まるでこの世のものとは思えぬほど。
この花々は国でも随一の庭師たちに完璧に管理され、年中咲き続ける。基本的に一般には解放されることはなく、訪れた上位貴族や他国の王族から言伝に伝わっているその美しさは”楽園”と例えられるほどで、国内外問わず有名だ。
その光景に若干気後れを感じつつもヴィオレッタは兄にエスコートされ、両親・国王・王妃・第一王子が既に座っているお茶席へと着いた。
「遅れてしまいましたね、申し訳ありません。国王両陛下、アシュレイ……様」
ロベールが既に席についていた面々を見て、彼らよりも遅く来てしまったことを詫びる。
「よい。時間より少し早い程だ。よくぞ参ったな」
「ロベール、ヴィオレッタ。わざわざ呼び出したこのバカ王にそんな下手に出る必要はないぞ」
「……バカ王」
「事実だろう。無理矢理婚約を取り付けるような――」「うぅ、悪かったな!不出来なバカ王でっ」
「不出来とまでは言っていないが……」
「言っていなくても思っているんだろ!!?」
最初は国王が尊大な態度で答えるが、公爵の言葉でそれは一気にぶち壊される。だがそのおかげで一気に庭園内に穏やかな雰囲気が漂った。
ついでに、王妃と二人の母である公爵の妻は”いつものこと”と自分たちの夫の会話を無視しながら、談笑している。既に人払いがされているせいか、それぞれが殆ど素で話している。
実際、言い争いながらも国王と公爵は楽しそうだ。この気安さは長年の友情の賜物なのだろう。ヴィオレッタは最初は驚いたが、少ししたらそんな彼らのやり取りにも慣れる。
そうして彼らをなんとなく微笑まし気に眺めていると、此方を見つめている瞳に気づいた。
(綺麗な瞳の色……この庭園のウィステリアの花とそっくり――――なんというか、惹きつけられる。それに見ているとなんだか……何かを思い出すような――懐かしい感じがする)
それが第一王子をヴィオレッタが初めて見た時の印象だった。
此方を見つめる彼の瞳の美しさに思わず吸い込まれるように見入る。そうして二人がいつの間にか見つめ合う形になっていることに気づいたロベールが、咳払いをして全員の視線を此方に向けた。
「そう、だな。本題に入ろう。」
「ああ」
口喧嘩をしていた公爵・国王の二人も自分たちの娘と息子が知らず知らずのうちに見つめ合っていることに気づき、話の軌道修正をする。
「……アシュレイ、自己紹介を」
国王が自分の息子である第一王子に自己紹介を促す。すると、彼は第一王子はハッとしたように瞳を見開き、ヴィオレッタから視線を外した。それを何となく惜しく思いながらも、ヴィオレッタは彼の言葉を待つ。
「ウィステリア王国第一王子のアシュレイ=ウィステリアです。君と婚約できて本当に嬉しいよ……これからよろしくね、僕の可愛い婚約者」
年齢は少し上だろうか、幼いながらも高貴な雰囲気を纏った美しい少年は少し気障なセリフの後、軽く頭を下げた。金を紡いだような綺麗な髪が頭を下げるのと同時にぴょこりと跳ねる。彼の一挙一動にすら見惚れてしまっていたヴィオレッタは少し反応に遅れながらも自分も自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。ガーランド公爵家の長女、ヴィオレッタ=ガーランドと申します。これからよろしくお願い致します、アシュレイ殿下」
「……アーシュ」
「……え、っと」
「君には殿下じゃなくて、アーシュって呼んで欲しいな……」
(か、可愛い!!?)
アシュレイがヴィオレッタを甘えたような瞳で見つめる。それに思わず自分より年上である男の子に抱くような感想ではないものが内心浮かんでしまった。それと同時にいくら許可されたとしても、第一王子である彼を愛称などで呼んでもいいのだろうか。
ヴィオレッタがそう悩んでいる内にアシュレイはいつまでも名前を呼んでくれないことに少し不貞腐れた様で、先程より瞳が悲しそうだ。それに更なる焦りを覚えたヴィオレッタは思わず声を発してしまった。
「アーシュ」
そう呼んだ瞬間のアシュレイの表情はとても幸せそうで――思わずヴィオレッタも心が満たされてしまう程だった。
***
その後は国王たち曰く”気を利かせた”らしく、ヴィオレッタはアシュレイと二人きりにされた。正確には、給仕のメイドや扉の前の護衛兵がいるため二人きりではないのだが、彼らも一流の人間。完全に空気と化している。
だが、ヴィオレッタはどうしようもなく気まずい雰囲気を味わっていた。アシュレイはヴィオレッタを見つめながらも、楽しそうに次々と自分の事やヴィオレッタに対する質問を投げかけてくる。けれどヴィオレッタはどれも頭に入ってきていなかった。何故なら……。
(なんか、すっごい見られてる……どうすればいいの?)
アシュレイは話しながらもじっとヴィオレッタを見つめ続けているのだ。緊張を解すためにも、用意された紅茶を一口、また一口と飲んでいく。
ウィステリアの花は本来、体内に直接取り込むと毒性がある。しかし、この茶葉は王族やそれに準ずる人間にしか出されることのない特別性のものらしい。曰く、特殊な方法で毒性を100%除いているんだとか。
気を紛らわせるために、そのウィステリアを茶葉に使ったらしい紅茶を啜っても、焼き立てらしくまだ温かいスコーンをつまんでも視線はヴィオレッタだけに注がれている。恥ずかしさからか、見られているところが火傷しそうな程に熱を持つのを感じる。
そうして紅茶を半分飲み終えた辺りで耐えられなくなったヴィオレッタは、口を開いた。
「あの、アーシュ……様。そんなに見つめられては、居心地が……悪いのですが」
「様はつけないで。あと、敬語もいらないよ」
「…………アーシュ」
「うん。なにかな?」
「あまり見つめないで欲しい、かな。……なんていうか、落ち着かない」
様付けも敬語もいらないと言われたヴィオレッタは言い直す。未だに許可があるとはいえ、目上の……目上すぎる立場の人間へ敬語や敬称なしに話すのは躊躇われて、言葉一つ一つをかなり選んで発する。
「なんで?僕たちはもう婚約者だ。だからどれだけ見つめても問題ない。だよね、ヴィー?」
「それも……そう、かも……?」
いきなり愛称で呼ばれたことに若干の驚きと一緒に自分が流されている事を感じつつも、混乱して思わずアシュレイの言葉を肯定してしまう。
肯定したことにより、アシュレイは嬉々としてヴィオレッタに視線を送り続けている。
「あの、なんでそんなに私を見つめるの……?」
流されて暫くは耐えたが、やはり視線に耐え切れなくなったヴィオレッタは思い切って理由を聞いてみる。実際彼女の心拍数は王子の美貌に見つめられ続けたせいで外にも聞こえそうな程バクバクと高鳴っていた。
「君の瞳が綺麗だから、かな」
「え……」
ヴィオレッタに動揺が走る。今までヴィオレッタ自身も気持ち悪いと思っていた所為で瞳を隠していたこともあり、両親や兄以外――しかもこんな美人から自分の容姿……ましてや自分の瞳などを褒められたことがなかったのだ。
だが所詮はお世辞だろうと割り切り、会話を続ける。
「……ありがとう。でも正直私、自分のこの瞳が嫌いだから――あまり瞳は見つめないで欲しい」
なんとなく彼に隠し事はしたくなかった為、見られたくない理由を素直に答える。ヴィオレッタの瞳の色は未来視のせいか金色をしている。家族の誰も指摘はしないが、家族親類の誰とも違う異質な色なのだ。
すると彼は信じられないものを見たように瞳を見開いて言った。
「え、そんなに綺麗な瞳なのになんで!!?僕は、一番最初に君の綺麗な金の瞳を見た時この国の女神・アレイシアを思い出したよ……?それに実際僕は今も君に魅了されている……一目見た時から目が離せない程に」
最初は冗談を言っているのかと思ったが、アシュレイの瞳は此方を真っ直ぐに見つめていて嘘はない。それどころか怖いくらいの本気が伝わってきた。
「っそう……」
最終的にヴィオレッタは、アシュレイの賛辞に対してそれしか返せなかった。ヴィオレッタがそんなツレナイ態度をとっていても、当のアシュレイはヴィオレッタを眺めながら、楽しそうに話をしてくる。歳が近い家族以外の人とこんな風にゆっくりと話をすることができたのは何時振りだろうか……。
暫く話してみて分かった事だが、アシュレイは不思議な雰囲気を持つ人間だった。ヅカヅカと急に近づいてくるくせにヴィオレッタが本当にが嫌がる距離までは決して踏み込んでこない。
話しているといつからか、ヴィオレッタはそんなアシュレイに妙な居心地の良さを感じていた。
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