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あの時は怒ってしまった。
だってオーランドの言葉が、あまりにもひどかったから。まるで怒りをぶつけるように、わざと私を傷付けるような言葉を選んでいるような印象を受けたのだ。
思わず、あんな風に突き放すようなことを言ってしまったけれど――。
時間が経つにつれて、心の奥に妙な違和感が残り続けていた。
本当に、オーランドがあんなことを言うだろうか?
いや、彼が私に対してあの言葉を言ったのは事実である。そういう意味ではなく、あれは、あの言葉はオーランドの本意だったのだろうか。
確かに彼はいつも素っ気なくて、婚約者である私に対しても冷たく、距離を置いていた。
でも、彼は決して人を傷つけることを選んで、楽しむような人ではなかったはずだ。だからわざわざ私に声を掛けてまであんなことをしてきた意味が分からなかった。これは大きな違和感である。
彼の言葉は常に冷静で、たとえ突き放すような態度を取ることがあっても、あそこまで直接的に罵倒するようなことはなかった。
それなのに、どうして――
「とんだあばずれだな」
あの時の彼の声音を思い出して、胸がざわついた。
そこにあったのは、まるで私に怒っているのではなく、別の何かに苛立ち、私にぶつけているような印象だった。とにかく、冷静になって思いだしてみれば、彼の言動すべてに違和感を覚えた。
それに、オーランドだけではない。
考えれば考えるほど、クレイヴ先生の件とも妙に符合している気がした。なんとなくの直感だが。
先日、クレイヴ先生を陥れようとした教師がいた。
しかし、そのタイミングも不可解だった。
私やマーカスが問題を起こすことで、クレイヴ先生に何かしらのダメージを与えられる状況は、以前から何度もあったはずだ。なにせ私とマーカスは割と問題を起こしている。
それなのに、なぜあの時、あの場面で?
しかも、クレイヴ先生に話を聞いてみると、以前はあの教師もあそこまで露骨に嫉妬心をむき出しにする人ではなかったという。
「……むしろ、彼とは同期だったこともあって、仲が良かったとすら思っていたんだよ」
先生は悲しげにそう言っていた。
だからこそ、あんな風に突然態度を豹変させたことが信じられず、ショックを受けたのだ、と。今でも信じられない、あんなことをされて、お前たちを……生徒を傷付けられそうにもなったというのにな。すまない。彼を恨めそうにはないよ。そう悲しそうに私とマーカスに謝っていた。私達は気にしないで欲しいと伝えるが、どうにもあの件については、気付けずに私達に散々手間をかけさせたと、まだ申し訳なく思っているようだ。
オーランド様も、クレイヴ先生を陥れようとしたあの教師も――。
まるで、心のどこかを、別の何かに支配されたかのように、いつもの彼らとは違っていた。
何かがおかしい。
そんな考えが、脳裏を離れなくなっていた。
もしかしたら、私がそう思いたかっただけなのかもしれないが。その時はそう考えて、思考を止めた。そうして違和感を抱えたまま、2週間ほどが経った。あの日からはオーランドに絡まれることはなかった。しかし、学院内で奇妙な事件が立て続けに起こり始めたのだ。
学院の生徒たちが、突如として何の前ぶりもなく暴れ出した。少し素行が悪い生徒、優等生と言われている生徒、特に共通性もない生徒たちがばらばらに、各所で事件を起こす。
それも、ただの喧嘩や小競り合いではない。
完全に理性を失ったかのように、友人や知人に手を上げ、見境なく暴力を振るっている。
「何が……起きているの?」
私は、ただ呆然とその様子を見つめるしかなかった。
その暴力沙汰の中には、普段は穏やかで大人しい生徒も混じっていた。彼らは皆、目を血走らせ、怒りと憎悪に支配されているように見えた。それを遠目に見ている生徒たちは巻き込まれないように逃げながらも、「怖い」、「何が起こっているんだ!?」と騒然としていた。
そしてとある生徒が言ったのだ。
『まるで、何かに操られているかのようだ――』と。
私も同じように感じていた。そう、まるでオーランド様や、あの教師・リューガス=エルバートのように。
「……やっぱり、何かがおかしい」
私の胸に、確信めいた感覚が走った。
この学院で――何か、異常なことが起こっている。
だってオーランドの言葉が、あまりにもひどかったから。まるで怒りをぶつけるように、わざと私を傷付けるような言葉を選んでいるような印象を受けたのだ。
思わず、あんな風に突き放すようなことを言ってしまったけれど――。
時間が経つにつれて、心の奥に妙な違和感が残り続けていた。
本当に、オーランドがあんなことを言うだろうか?
いや、彼が私に対してあの言葉を言ったのは事実である。そういう意味ではなく、あれは、あの言葉はオーランドの本意だったのだろうか。
確かに彼はいつも素っ気なくて、婚約者である私に対しても冷たく、距離を置いていた。
でも、彼は決して人を傷つけることを選んで、楽しむような人ではなかったはずだ。だからわざわざ私に声を掛けてまであんなことをしてきた意味が分からなかった。これは大きな違和感である。
彼の言葉は常に冷静で、たとえ突き放すような態度を取ることがあっても、あそこまで直接的に罵倒するようなことはなかった。
それなのに、どうして――
「とんだあばずれだな」
あの時の彼の声音を思い出して、胸がざわついた。
そこにあったのは、まるで私に怒っているのではなく、別の何かに苛立ち、私にぶつけているような印象だった。とにかく、冷静になって思いだしてみれば、彼の言動すべてに違和感を覚えた。
それに、オーランドだけではない。
考えれば考えるほど、クレイヴ先生の件とも妙に符合している気がした。なんとなくの直感だが。
先日、クレイヴ先生を陥れようとした教師がいた。
しかし、そのタイミングも不可解だった。
私やマーカスが問題を起こすことで、クレイヴ先生に何かしらのダメージを与えられる状況は、以前から何度もあったはずだ。なにせ私とマーカスは割と問題を起こしている。
それなのに、なぜあの時、あの場面で?
しかも、クレイヴ先生に話を聞いてみると、以前はあの教師もあそこまで露骨に嫉妬心をむき出しにする人ではなかったという。
「……むしろ、彼とは同期だったこともあって、仲が良かったとすら思っていたんだよ」
先生は悲しげにそう言っていた。
だからこそ、あんな風に突然態度を豹変させたことが信じられず、ショックを受けたのだ、と。今でも信じられない、あんなことをされて、お前たちを……生徒を傷付けられそうにもなったというのにな。すまない。彼を恨めそうにはないよ。そう悲しそうに私とマーカスに謝っていた。私達は気にしないで欲しいと伝えるが、どうにもあの件については、気付けずに私達に散々手間をかけさせたと、まだ申し訳なく思っているようだ。
オーランド様も、クレイヴ先生を陥れようとしたあの教師も――。
まるで、心のどこかを、別の何かに支配されたかのように、いつもの彼らとは違っていた。
何かがおかしい。
そんな考えが、脳裏を離れなくなっていた。
もしかしたら、私がそう思いたかっただけなのかもしれないが。その時はそう考えて、思考を止めた。そうして違和感を抱えたまま、2週間ほどが経った。あの日からはオーランドに絡まれることはなかった。しかし、学院内で奇妙な事件が立て続けに起こり始めたのだ。
学院の生徒たちが、突如として何の前ぶりもなく暴れ出した。少し素行が悪い生徒、優等生と言われている生徒、特に共通性もない生徒たちがばらばらに、各所で事件を起こす。
それも、ただの喧嘩や小競り合いではない。
完全に理性を失ったかのように、友人や知人に手を上げ、見境なく暴力を振るっている。
「何が……起きているの?」
私は、ただ呆然とその様子を見つめるしかなかった。
その暴力沙汰の中には、普段は穏やかで大人しい生徒も混じっていた。彼らは皆、目を血走らせ、怒りと憎悪に支配されているように見えた。それを遠目に見ている生徒たちは巻き込まれないように逃げながらも、「怖い」、「何が起こっているんだ!?」と騒然としていた。
そしてとある生徒が言ったのだ。
『まるで、何かに操られているかのようだ――』と。
私も同じように感じていた。そう、まるでオーランド様や、あの教師・リューガス=エルバートのように。
「……やっぱり、何かがおかしい」
私の胸に、確信めいた感覚が走った。
この学院で――何か、異常なことが起こっている。
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