婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!

皇 翼

文字の大きさ
上 下
31 / 31

30.

しおりを挟む
あの時は怒ってしまった。
だってオーランドの言葉が、あまりにもひどかったから。まるで怒りをぶつけるように、わざと私を傷付けるような言葉を選んでいるような印象を受けたのだ。
思わず、あんな風に突き放すようなことを言ってしまったけれど――。

時間が経つにつれて、心の奥に妙な違和感が残り続けていた。
本当に、オーランドがあんなことを言うだろうか?
いや、彼が私に対してあの言葉を言ったのは事実である。そういう意味ではなく、あれは、あの言葉はオーランドの本意だったのだろうか。

確かに彼はいつも素っ気なくて、婚約者である私に対しても冷たく、距離を置いていた。
でも、彼は決して人を傷つけることを選んで、楽しむような人ではなかったはずだ。だからわざわざ私に声を掛けてまであんなことをしてきた意味が分からなかった。これは大きな違和感である。
彼の言葉は常に冷静で、たとえ突き放すような態度を取ることがあっても、あそこまで直接的に罵倒するようなことはなかった。

それなのに、どうして――

「とんだあばずれだな」

あの時の彼の声音を思い出して、胸がざわついた。
そこにあったのは、まるで私に怒っているのではなく、別の何かに苛立ち、私にぶつけているような印象だった。とにかく、冷静になって思いだしてみれば、彼の言動すべてに違和感を覚えた。

それに、オーランドだけではない。
考えれば考えるほど、クレイヴ先生の件とも妙に符合している気がした。なんとなくの直感だが。

先日、クレイヴ先生を陥れようとした教師がいた。
しかし、そのタイミングも不可解だった。

私やマーカスが問題を起こすことで、クレイヴ先生に何かしらのダメージを与えられる状況は、以前から何度もあったはずだ。なにせ私とマーカスは割と問題を起こしている。
それなのに、なぜあの時、あの場面で?

しかも、クレイヴ先生に話を聞いてみると、以前はあの教師もあそこまで露骨に嫉妬心をむき出しにする人ではなかったという。

「……むしろ、彼とは同期だったこともあって、仲が良かったとすら思っていたんだよ」

先生は悲しげにそう言っていた。
だからこそ、あんな風に突然態度を豹変させたことが信じられず、ショックを受けたのだ、と。今でも信じられない、あんなことをされて、お前たちを……生徒を傷付けられそうにもなったというのにな。すまない。彼を恨めそうにはないよ。そう悲しそうに私とマーカスに謝っていた。私達は気にしないで欲しいと伝えるが、どうにもあの件については、気付けずに私達に散々手間をかけさせたと、まだ申し訳なく思っているようだ。

オーランド様も、クレイヴ先生を陥れようとしたあの教師も――。

まるで、心のどこかを、別の何かに支配されたかのように、いつもの彼らとは違っていた。


何かがおかしい。
そんな考えが、脳裏を離れなくなっていた。
もしかしたら、私がそう思いたかっただけなのかもしれないが。その時はそう考えて、思考を止めた。そうして違和感を抱えたまま、2週間ほどが経った。あの日からはオーランドに絡まれることはなかった。しかし、学院内で奇妙な事件が立て続けに起こり始めたのだ。

学院の生徒たちが、突如として何の前ぶりもなく暴れ出した。少し素行が悪い生徒、優等生と言われている生徒、特に共通性もない生徒たちがばらばらに、各所で事件を起こす。

それも、ただの喧嘩や小競り合いではない。
完全に理性を失ったかのように、友人や知人に手を上げ、見境なく暴力を振るっている。

「何が……起きているの?」

私は、ただ呆然とその様子を見つめるしかなかった。

その暴力沙汰の中には、普段は穏やかで大人しい生徒も混じっていた。彼らは皆、目を血走らせ、怒りと憎悪に支配されているように見えた。それを遠目に見ている生徒たちは巻き込まれないように逃げながらも、「怖い」、「何が起こっているんだ!?」と騒然としていた。

そしてとある生徒が言ったのだ。
『まるで、何かに操られているかのようだ――』と。

私も同じように感じていた。そう、まるでオーランド様や、あの教師・リューガス=エルバートのように。

「……やっぱり、何かがおかしい」

私の胸に、確信めいた感覚が走った。

この学院で――何か、異常なことが起こっている。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...