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――攻撃魔法!?
「くるわよ!」
私は咄嗟にマーカスを引っ張り、後方へ飛び退る。
リューガスの手元から放たれた炎の槍が、私たちのいた場所を灼いた。地面が溶けてしまっていることから、通常の威力ではない。きっとこの部屋に何かリューガスの魔法威力増大といった魔方式が組み込まれているのだろう。
「認めない……私は、お前たちなどに負けるわけにはいかない!」
「……はぁ、やっぱりこうなるのね」
私は静かに息を整え、魔力を込めた。
「仕方ないわね、マーカス。今度は戦いで、共闘しましょうか?」
「ええ、当然。ここで負けたら、クレイヴ先生を取り戻せないので最後の正念場ですよ!!」
二人並んで構えを取る。決着をつける時が来た。
目の前に立ちはだかるリューガス=エルバート。
クレイヴ先生を陥れた張本人であり、嫉妬に駆られて罪なき人を貶めた卑怯者。
彼の背後で燻る炎が、歪んだ感情の顕れのように揺らめいていた。
「……お前たちごときに、私の計画を台無しにされるわけにはいかない」
彼の手が宙を走る。魔力が奔り、周囲の空気が熱を帯びる。きっと彼の得意魔法なのだろう。無詠唱で放ってきているから、タイミングがつかみづらい。
――火炎魔法。
「くるわよ!」
私が叫ぶと同時に、リューガスの手から放たれた紅蓮の炎が、私とマーカスを飲み込もうと迫ってきた。
「チッ、加減知らねぇな!」
マーカスが素早く手をかざし、炎の進路を逸らすように風魔法を発動する。だが、リューガスの魔法はただの火炎魔法ではなかった。
「無駄だ」
炎はただの熱ではなく、リューガスの意志に従い、まるで生き物のように軌道を変えて私たちを追ってくる。
――これは、追尾魔法との複合魔法だ!最初の攻撃の時だろうか、きっとマーキングされている。
「風だけじゃ捌ききれない!」
私はすぐさま反撃に出る。
「氷槍の矢!」
空間を凍てつかせるような冷気と共に、鋭利な氷の槍が無数に生まれ、紅蓮の炎へと放たれた。
――しかし、リューガスは微動だにせず、手をひと振りしただけで炎の軌道を変え、氷槍を難なくかわす。
「まったく……子供の戯れのような魔法だな」
「なっ……!」
私の攻撃はあっさりといなされた。
だけど、すぐに次の手を考える間もなく、リューガスの魔法はさらに強大なものへと変わっていった。
「見せてやろう……本当の魔法というものを!」
リューガスの周囲に展開される魔法陣。通常の魔法陣とは違う……まるで複数の術式を重ねたような構造になっている。なんだか気のせいかもしれないが、リューガスの容姿が変わり始めているような気がした。頭の米神から角が生えている……?
それに魔力が黒ずみ、禍々しいものに変化していた。これが彼の研究なのだろうか。
「マズいですね、アレは……!」
マーカスが焦った声を上げた直後――
「熾炎の獄!」
リューガスの足元から、一瞬で周囲数メートルが業火の牢獄と化した。
炎の柱が立ち上り、私とマーカスを閉じ込める。
「っ……くぅ!」
逃げ場がない!とっさに私とマーカスを包み込むように氷の魔法を周囲に張ったが、長くは持たないだろう。すでに皮膚にじりじりとした熱さが伝わり始めている。
「甘いな。これで終わりだ」
リューガスは、確信したように腕を組んだ。
だけど、私たちだってただやられるつもりはない。複合魔法においてはこんな男に負けてたまるかという気持ちがあった。
「……本当にそうかしら?」
私は、リューガスをまっすぐ見据えた。
「ほう?」
彼の眉がわずかに動く。やってみろと言った様子だ。その油断と慢心に付け込んでやる。
――今だ。
「マーカス!」
「はい!」
マーカスが一気に駆け出し、炎の壁に向かって風魔法を全開にする。
「烈風の翼!」
暴風が渦を巻き、炎をかき消すように巻き上げる。その瞬間、私は一気に魔力を込め、氷の魔法を発動させた。
「――氷嵐の舞!」
炎の牢獄が、氷と風の力で吹き飛ばされていく。
リューガスの目が、ほんの僅かに見開かれた。
「……ほう、面白いな」
「まだ終わりじゃないわ!」
私は地面を蹴り、一気に距離を詰める。
リューガスもすぐに魔法陣を描き、迎撃の構えを取った。
「愚か者め……!」
放たれる私の身体程の大きな火球。
だけど、その瞬間――
「遅すぎる!」
マーカスがリューガスの横へと回り込み、彼の足元に向けて風の刃を叩き込んだ。そしてそれと同時に彼を包み込むように水が満たされる。ルーカスの魔法だ。
リューガスのバランスが崩れた。
狙い通り。
「これで……終わりよ!」
私は、全魔力を込めた魔法を放つ。
「氷結封印!」
凍てつく氷がリューガスの身体を包み、瞬く間に顔を除いた全身を凍りつかせた。
――勝った。この魔法は氷魔法と水魔法、そして更に強力な氷魔法で3重にした上に、内側からも外側からも防壁魔法を張ったものだ。だから、どんな炎でも溶けはしない。
リューガスは氷の中で動けなくなり、ついに沈黙した。
マーカスが大きく息を吐く。
「……死ぬかと思いましたよ、今回は……」
「……ええ、私もよ」
二人して、膝に手をついて息を整える。強力な魔法を撃ちまくったせいで、魔力がかつかつだ。
リューガスを倒したことで、私たちはようやく一歩、クレイヴ先生を取り戻すための道を切り開いたのだ。
リューガスを氷魔法で拘束したまま、私とマーカスは肩で息をしながら彼を睨みつけた。
これで全部終わった。
「くるわよ!」
私は咄嗟にマーカスを引っ張り、後方へ飛び退る。
リューガスの手元から放たれた炎の槍が、私たちのいた場所を灼いた。地面が溶けてしまっていることから、通常の威力ではない。きっとこの部屋に何かリューガスの魔法威力増大といった魔方式が組み込まれているのだろう。
「認めない……私は、お前たちなどに負けるわけにはいかない!」
「……はぁ、やっぱりこうなるのね」
私は静かに息を整え、魔力を込めた。
「仕方ないわね、マーカス。今度は戦いで、共闘しましょうか?」
「ええ、当然。ここで負けたら、クレイヴ先生を取り戻せないので最後の正念場ですよ!!」
二人並んで構えを取る。決着をつける時が来た。
目の前に立ちはだかるリューガス=エルバート。
クレイヴ先生を陥れた張本人であり、嫉妬に駆られて罪なき人を貶めた卑怯者。
彼の背後で燻る炎が、歪んだ感情の顕れのように揺らめいていた。
「……お前たちごときに、私の計画を台無しにされるわけにはいかない」
彼の手が宙を走る。魔力が奔り、周囲の空気が熱を帯びる。きっと彼の得意魔法なのだろう。無詠唱で放ってきているから、タイミングがつかみづらい。
――火炎魔法。
「くるわよ!」
私が叫ぶと同時に、リューガスの手から放たれた紅蓮の炎が、私とマーカスを飲み込もうと迫ってきた。
「チッ、加減知らねぇな!」
マーカスが素早く手をかざし、炎の進路を逸らすように風魔法を発動する。だが、リューガスの魔法はただの火炎魔法ではなかった。
「無駄だ」
炎はただの熱ではなく、リューガスの意志に従い、まるで生き物のように軌道を変えて私たちを追ってくる。
――これは、追尾魔法との複合魔法だ!最初の攻撃の時だろうか、きっとマーキングされている。
「風だけじゃ捌ききれない!」
私はすぐさま反撃に出る。
「氷槍の矢!」
空間を凍てつかせるような冷気と共に、鋭利な氷の槍が無数に生まれ、紅蓮の炎へと放たれた。
――しかし、リューガスは微動だにせず、手をひと振りしただけで炎の軌道を変え、氷槍を難なくかわす。
「まったく……子供の戯れのような魔法だな」
「なっ……!」
私の攻撃はあっさりといなされた。
だけど、すぐに次の手を考える間もなく、リューガスの魔法はさらに強大なものへと変わっていった。
「見せてやろう……本当の魔法というものを!」
リューガスの周囲に展開される魔法陣。通常の魔法陣とは違う……まるで複数の術式を重ねたような構造になっている。なんだか気のせいかもしれないが、リューガスの容姿が変わり始めているような気がした。頭の米神から角が生えている……?
それに魔力が黒ずみ、禍々しいものに変化していた。これが彼の研究なのだろうか。
「マズいですね、アレは……!」
マーカスが焦った声を上げた直後――
「熾炎の獄!」
リューガスの足元から、一瞬で周囲数メートルが業火の牢獄と化した。
炎の柱が立ち上り、私とマーカスを閉じ込める。
「っ……くぅ!」
逃げ場がない!とっさに私とマーカスを包み込むように氷の魔法を周囲に張ったが、長くは持たないだろう。すでに皮膚にじりじりとした熱さが伝わり始めている。
「甘いな。これで終わりだ」
リューガスは、確信したように腕を組んだ。
だけど、私たちだってただやられるつもりはない。複合魔法においてはこんな男に負けてたまるかという気持ちがあった。
「……本当にそうかしら?」
私は、リューガスをまっすぐ見据えた。
「ほう?」
彼の眉がわずかに動く。やってみろと言った様子だ。その油断と慢心に付け込んでやる。
――今だ。
「マーカス!」
「はい!」
マーカスが一気に駆け出し、炎の壁に向かって風魔法を全開にする。
「烈風の翼!」
暴風が渦を巻き、炎をかき消すように巻き上げる。その瞬間、私は一気に魔力を込め、氷の魔法を発動させた。
「――氷嵐の舞!」
炎の牢獄が、氷と風の力で吹き飛ばされていく。
リューガスの目が、ほんの僅かに見開かれた。
「……ほう、面白いな」
「まだ終わりじゃないわ!」
私は地面を蹴り、一気に距離を詰める。
リューガスもすぐに魔法陣を描き、迎撃の構えを取った。
「愚か者め……!」
放たれる私の身体程の大きな火球。
だけど、その瞬間――
「遅すぎる!」
マーカスがリューガスの横へと回り込み、彼の足元に向けて風の刃を叩き込んだ。そしてそれと同時に彼を包み込むように水が満たされる。ルーカスの魔法だ。
リューガスのバランスが崩れた。
狙い通り。
「これで……終わりよ!」
私は、全魔力を込めた魔法を放つ。
「氷結封印!」
凍てつく氷がリューガスの身体を包み、瞬く間に顔を除いた全身を凍りつかせた。
――勝った。この魔法は氷魔法と水魔法、そして更に強力な氷魔法で3重にした上に、内側からも外側からも防壁魔法を張ったものだ。だから、どんな炎でも溶けはしない。
リューガスは氷の中で動けなくなり、ついに沈黙した。
マーカスが大きく息を吐く。
「……死ぬかと思いましたよ、今回は……」
「……ええ、私もよ」
二人して、膝に手をついて息を整える。強力な魔法を撃ちまくったせいで、魔力がかつかつだ。
リューガスを倒したことで、私たちはようやく一歩、クレイヴ先生を取り戻すための道を切り開いたのだ。
リューガスを氷魔法で拘束したまま、私とマーカスは肩で息をしながら彼を睨みつけた。
これで全部終わった。
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