妹に罪を着せられて追放を言い渡されましたが、大人しく従いたいと思います

皇 翼

文字の大きさ
上 下
22 / 22

21.

しおりを挟む
倒れた状態から回復して一ヶ月。
やっとサシャから戦闘のための鍛錬をして良いとの許可が下りた。
彼は今日まで必ず時間を設けて3食の食事は必ず一緒にとることで私に会いに来てくれたが、確実に落ちているであろう筋肉の事を考えると少しそれがウザったくなり始めてきた時期だった。早く鍛えさせてくれと身体全体が苛立っていたのだ。
私の中にあったのは、このままでは弱くなってしまうという、強さに対して焦がれて居ても立ってもいられなくなるような焦燥感。図書館の本で、この国独特の戦闘の知識を付けようとしても、それを早く実践で使いたくなるだけで気が休まらなかった。職業病とでも言うべきだろうか。毎日生きるために進んでやっていた『鍛錬』という行為は私の生活の一部になっていたようだ。

そして、今日それが渋々ながらサシャの口から許可された。だから私は朝から機嫌がとても良かった。

「アリスにはまだ療養をしていて欲しかったのだが……鍛練の許可を出しただけで、こんなに可愛い笑顔を見せられるなんて複雑な気持ちだ」
「健康な身体を手に入れるには、きちんと身体を動かすべきだから!」

ちなみにここでいう健康な身体というのは、戦うことのできる健康的な身体のことである。
それに、いつまでもサシャのいう軍神化の制御とやらが出来ないというのも嫌だった。悲しいような、照れたような顔をするサシャを放って、案内された騎士たちの修練場の端で早速久しぶりに見たこの自身の大剣を握って、素振りから始めようとした――のだが。

「待ってくれ!そんな重そうな武器を振るう気か!?」
「ちょっと!?武器を奪おうとしないで!!!」

サシャは怪我をするだの、体調に障るだのと言って私から大剣を無理矢理手放させようとしてきた。
素振りを邪魔されるのもだが、武器を持ったまま押さえつけようとしてこられると彼を斬りつけてしまいそうで怖いからやめてほしい。
あまりにも心配そうにこちらを見つめながら止めてくる彼に、棲家と食事を無料で提供されていることもあって少しこちらが譲歩した方が良いのではないかという気持ちになってくる。

「……わかった、武器を離すから、サシャも私の手を離して」
「ああ、すまない。思わず握っていた」
「で、どんな武器なら握ってもいいの?」
「言うことを聞いてくれて嬉しいよ。別の武器を渡すからついてきてくれ」

そうして案内されたのは、地下にある武器庫だった。
私の持っているものよりも更に2回りほど大きい剣や、双剣、杖や盾、斧、槍などなど数え切れないほどの武器が置いてあった。
たまには別の武器を使って、それに慣れておくのも今後の役に立つだろう。そう考えると、別の武器を振るってみるのも悪くない。何を貸し出してもらえるのだろう。少しワクワクしながら、サシャに声をかけた。

「どの武器を貸し出してもらえるの?双剣?小斧?それともボウガンや弓矢みたいな遠距離用の武器?」
「何言ってるんだ?アリスが使うのはこれだ」
「は????」

そう言って差し出されたものに目を疑って、二度見した。それは、手のひらほどの刃の長さしかない小刀だったからだ。

「あんな重い剣を持つことは許さない」

サシャはそう言って、私の手に小刀を握らせたーー。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました

新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

処理中です...