21 / 22
20.
しおりを挟む
「ここが図書館。お前のことは既に知らせてあるから、好きなものをどれだけでも借りてくれ。暫くは窮屈な思いをさせると思うが、軍神化の制御方法さえ取得してくれれば外出も自由にしてくれて良い」
今日はサシャからこの城の案内を受けていた。
そんなに長期間ここに留まるつもりはないのだが、彼はまるで私がここでずっと暮らすかの様に色んなものを揃えて、この国についても詳しく教えてくれようとする。幼馴染の友人というだけで保護してくれようとする彼は、相変わらず優しいと思った。
しかしながら、私は彼の言う軍神化の制御が出来る様になり次第、すぐにここを出ていくつもりだった。ずっと誰かに甘えているわけにはいかないし、きっと魔物退治の仕事であれば私は出来るし、それで生計を立てていくことも可能だと思うから。
「一通り案内したが、何か聞きたいことはあるか?」
あれから。図書館、食堂、庭園、従者の待機室、騎士の宿舎・詰所、訓練場、サシャの執務室、サシャの部屋、この城の殆どの場所に案内してもらった。正直、部外者をいれて良いのかと疑問に思うことは何度もあったが、彼が楽しそうに案内しているから何も言わなかった。城主である彼が良いと言うのなら良いのだろう。
案内された施設については特に疑問や聞きたいことはなかったが、城内を歩いている間にここで働いている人たちを見て、ふとあることを思い出した。
「結局アレオリって何?」
「は!?」
「私、ここで意識が覚めた初日にその……メイドたちの話を聞いたの。ここがどこなのか、ダニエルとカノンがどのこいるのかを調べる時に」
『アレオリ』。その単語を聞いた直後、サシャは固まってしまう。
ずっと気になってはいたのだ。しかし単語を発してみればオリバーという騎士はキレるしその後もなかなか言い出す機会がなかった。先程以前その話をしていたメイドを見掛けて思い出し、今回聞いてみることにしたのだ。
サシャの名前も出ていたので、彼に聞けばわかると思ったのだが、この反応は予想外だった。そんなに言いづらいことなのだろうか。
「言い辛い内容なの?国家機密、とか?」
「……国家機密なんかじゃない。じゃないんだが、はあ……ちゃんと話す。だが一つだけ頭に入れておいてくれ。俺はその、性的嗜好はノーマルな人間だ。きちんと女性が好きだってことは理解しておいてくれ」
「ん?ええ。わかった」
思い切り嫌そうな顔をして、その綺麗な顔を歪めながらサシャは俯きながら口を開いた。
「俺はアリスと再会するまでずっと婚約者を作ることを頑なに拒否してきたんだ。だからずっと……勿論今も婚約者がいない」
「第一皇子なのに珍しい?わね。まあ、サシャがしたくないんだったらまだしなくても良いと思うけど」
いや、国の主としては子孫を残さないといけないという義務もあるし良くないかもしれないが、きっと事情があるのだろう。そう考えて話を進めてもらう。
「別に婚約したくないわけではない。子供を残す気もある――っと、これは話が逸れるな。とにかくずっと婚約者がいなかったんだ。それで周囲には基本的に男ばかりでな。だがその中でも長時間一緒にいなければならない人間というのが出てくる。それが騎士団長で俺直属の護衛騎士のオリバーだったんだ」
「オリバー……あの両刃斧使い?」
「ああ。あの赤髪のゴリラだ。それに加えてオリバーの方も婚約者を作ろうとしないものだから、いつからか、とあるおぞましい噂が立ち始めた。それがアレオリだ」
「うん?」
私がここまで言われても察していないのが分かったのだろう。サシャは絶望的な顔で深い溜息を吐くと、私の方をまっすぐに見た。
「……俺とオリバーが……こ、――とだと」
「なんて???」
「だから!!俺とオリバーが恋人関係だという噂が立ったんだ!!!俺もオリバーもお互いが好きだから、婚約しないんだ、と。真っ赤な嘘が蔓延し始めたんだよ!!」
「……なんか、ごめん。聞いちゃって」
あまりにも悲痛な表情で、叫ぶように『アレオリ』の意味について私に教えてくれた彼を見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっと言いたくない、噂されている事すらも認めたくない話なのだろう。
私はどんな顔をすればよいのか分からなくて、思わず目をそらしてしまった。その日は終始私達の間に流れる空気が重かった。
******
X(旧Twitter)に今回の話のアレクサンダー視点をちょろっと載せています。
今日はサシャからこの城の案内を受けていた。
そんなに長期間ここに留まるつもりはないのだが、彼はまるで私がここでずっと暮らすかの様に色んなものを揃えて、この国についても詳しく教えてくれようとする。幼馴染の友人というだけで保護してくれようとする彼は、相変わらず優しいと思った。
しかしながら、私は彼の言う軍神化の制御が出来る様になり次第、すぐにここを出ていくつもりだった。ずっと誰かに甘えているわけにはいかないし、きっと魔物退治の仕事であれば私は出来るし、それで生計を立てていくことも可能だと思うから。
「一通り案内したが、何か聞きたいことはあるか?」
あれから。図書館、食堂、庭園、従者の待機室、騎士の宿舎・詰所、訓練場、サシャの執務室、サシャの部屋、この城の殆どの場所に案内してもらった。正直、部外者をいれて良いのかと疑問に思うことは何度もあったが、彼が楽しそうに案内しているから何も言わなかった。城主である彼が良いと言うのなら良いのだろう。
案内された施設については特に疑問や聞きたいことはなかったが、城内を歩いている間にここで働いている人たちを見て、ふとあることを思い出した。
「結局アレオリって何?」
「は!?」
「私、ここで意識が覚めた初日にその……メイドたちの話を聞いたの。ここがどこなのか、ダニエルとカノンがどのこいるのかを調べる時に」
『アレオリ』。その単語を聞いた直後、サシャは固まってしまう。
ずっと気になってはいたのだ。しかし単語を発してみればオリバーという騎士はキレるしその後もなかなか言い出す機会がなかった。先程以前その話をしていたメイドを見掛けて思い出し、今回聞いてみることにしたのだ。
サシャの名前も出ていたので、彼に聞けばわかると思ったのだが、この反応は予想外だった。そんなに言いづらいことなのだろうか。
「言い辛い内容なの?国家機密、とか?」
「……国家機密なんかじゃない。じゃないんだが、はあ……ちゃんと話す。だが一つだけ頭に入れておいてくれ。俺はその、性的嗜好はノーマルな人間だ。きちんと女性が好きだってことは理解しておいてくれ」
「ん?ええ。わかった」
思い切り嫌そうな顔をして、その綺麗な顔を歪めながらサシャは俯きながら口を開いた。
「俺はアリスと再会するまでずっと婚約者を作ることを頑なに拒否してきたんだ。だからずっと……勿論今も婚約者がいない」
「第一皇子なのに珍しい?わね。まあ、サシャがしたくないんだったらまだしなくても良いと思うけど」
いや、国の主としては子孫を残さないといけないという義務もあるし良くないかもしれないが、きっと事情があるのだろう。そう考えて話を進めてもらう。
「別に婚約したくないわけではない。子供を残す気もある――っと、これは話が逸れるな。とにかくずっと婚約者がいなかったんだ。それで周囲には基本的に男ばかりでな。だがその中でも長時間一緒にいなければならない人間というのが出てくる。それが騎士団長で俺直属の護衛騎士のオリバーだったんだ」
「オリバー……あの両刃斧使い?」
「ああ。あの赤髪のゴリラだ。それに加えてオリバーの方も婚約者を作ろうとしないものだから、いつからか、とあるおぞましい噂が立ち始めた。それがアレオリだ」
「うん?」
私がここまで言われても察していないのが分かったのだろう。サシャは絶望的な顔で深い溜息を吐くと、私の方をまっすぐに見た。
「……俺とオリバーが……こ、――とだと」
「なんて???」
「だから!!俺とオリバーが恋人関係だという噂が立ったんだ!!!俺もオリバーもお互いが好きだから、婚約しないんだ、と。真っ赤な嘘が蔓延し始めたんだよ!!」
「……なんか、ごめん。聞いちゃって」
あまりにも悲痛な表情で、叫ぶように『アレオリ』の意味について私に教えてくれた彼を見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。きっと言いたくない、噂されている事すらも認めたくない話なのだろう。
私はどんな顔をすればよいのか分からなくて、思わず目をそらしてしまった。その日は終始私達の間に流れる空気が重かった。
******
X(旧Twitter)に今回の話のアレクサンダー視点をちょろっと載せています。
745
お気に入りに追加
2,334
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。


王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?
時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。
どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、
その理由は今夜の夜会にて

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる