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「え……サシャ!?」
「ッアリス、そのっ、待ってくれ!」
「待つ?」
入って来たのはサシャだった。
素っ裸の私を見て、何故か動揺しているようだが、何を焦っているのかが分からない。私は待てと言われてその場で身体を静止させてしまった。
しかしよく分かっていない私を見てサシャも冷静さを取り戻したのだろう。目を私から大きく反らしながらも話しかけてきた。一部口調は荒いままだったが。
「普通は男が急に部屋に入ってきたら拒絶するだろう!?しかも……何故裸なんだ」
「そもそもここはサシャの家、というか城でしょう。私の部屋じゃないから文句を言う権利はないわ。あと裸なのは、さっきまでお風呂に入っていたから」
「男をもっときちんと警戒しろ!!!」
「サシャだから今も警戒していないんだけど」
彼の事をずっと女だと思っていたのもあるが、私にとっては彼が自分を傷付ける存在だとは思えない。そうでなければ目の前で涙を見せたりなんてしない。
それに今だって泣き疲れた私をこうやって自身の城に置いてくれている。そんな人間を警戒する理由が分からなかった。だからそう言ったのだが、サシャは何やら不機嫌になってしまった。
「アリス。お前は一つ分かっていないことがあるみたいだな」
「へ……?」
サシャの雰囲気がガラリと変わり、瞳の色が厳しくなる。
まるで獣のように攻撃的な雰囲気に動揺して彼から離れるように後退っていたら、いつのまにか膝裏がベッドの淵に当たり、後ろにこけそうになる。そこを一気に距離を詰めて来ていたサシャに支えられたと思ったら、ベッドに押し倒されていた。
「俺はお前を簡単に拘束できるんだ。……こんな風にっ」
両手を彼の片手で簡単に上でひとまとめにされると同時に、彼の右足が私の太腿を割裂いて敏感な部分に直接触れる。完全に雰囲気にのまれていると自分でも感じた。高潔で潔癖、しかしどことなく柔らかい雰囲気だったサシャが今は野性的で粗暴な雰囲気に変わり、私を貫くんじゃないかと感じるくらいに強くて情熱的な視線を向けて来ている。
しかし不思議と恐怖は感じなかった。私は今、女性として危険に晒されているはずなのに。
「……なんで抵抗しないんだ」
「サシャだから。だって昔からサシャは私の事を傷付けるようなことをしなかったでしょう。再会してからもそれは同じ」
サシャが目を見開く。そして大きく溜息を吐いたと思ったら、彼の雰囲気が元に戻っていた。
「私も入って来たのがサシャ以外の人間だったらきちんと警戒していたわ」
「はあ。嬉しいような、嬉しくないような複雑な気持ちだ。だが、これからはきちんと俺含め、男は警戒するように」
「サシャも?」
「ああ。俺もだ。分かったらさっさと服を着てくれ」
いつの間にか拘束は解かれ、全身が自由になっていた。
サシャに差し出された彼の上着を羽織って前を閉じる。ぶかぶかだったが、彼は満足そうにそれを見つめていた。これは昔からの擦りこみのせいなのかも知れないが、一度彼がサシャだと認識してしまった今は警戒心が薄れてしまっていることは確かだった。
何故『男』として警戒しないといけないのかは分からないが、彼がそうしろというのならそうした方が良いのだろう。
「分かった。それじゃあ警戒するね」
「っぐぼあ!!?」
「着替えたいからさっさと出て行って」
警戒しろという割に、服1枚しか着ていない私をいつまでも見下ろしていたサシャの顎にアッパーをいれる。
望み通りの結果になってきっとサシャも喜んでいるだろう。
「……その調子だ」
そう言ってサシャは頭をポンと撫でて出て行った。やはり正解だったようだ。
褒められて少し嬉しくなりながら、勝手に開けたクローゼットの中にある少し分厚めの夜着を着て再度ベッドに入る。
眠りにつく前に思ったのだが、結局サシャは何をしにこの部屋に来たのだろうか。そう頭に過ったが、いつの間にか意識が落ちていた。
******
あとがき:
Twitterにこの話のおまけつけてます。
余計だなと思って省いた部分なので、そこまで重要な話じゃないと思います。
「ッアリス、そのっ、待ってくれ!」
「待つ?」
入って来たのはサシャだった。
素っ裸の私を見て、何故か動揺しているようだが、何を焦っているのかが分からない。私は待てと言われてその場で身体を静止させてしまった。
しかしよく分かっていない私を見てサシャも冷静さを取り戻したのだろう。目を私から大きく反らしながらも話しかけてきた。一部口調は荒いままだったが。
「普通は男が急に部屋に入ってきたら拒絶するだろう!?しかも……何故裸なんだ」
「そもそもここはサシャの家、というか城でしょう。私の部屋じゃないから文句を言う権利はないわ。あと裸なのは、さっきまでお風呂に入っていたから」
「男をもっときちんと警戒しろ!!!」
「サシャだから今も警戒していないんだけど」
彼の事をずっと女だと思っていたのもあるが、私にとっては彼が自分を傷付ける存在だとは思えない。そうでなければ目の前で涙を見せたりなんてしない。
それに今だって泣き疲れた私をこうやって自身の城に置いてくれている。そんな人間を警戒する理由が分からなかった。だからそう言ったのだが、サシャは何やら不機嫌になってしまった。
「アリス。お前は一つ分かっていないことがあるみたいだな」
「へ……?」
サシャの雰囲気がガラリと変わり、瞳の色が厳しくなる。
まるで獣のように攻撃的な雰囲気に動揺して彼から離れるように後退っていたら、いつのまにか膝裏がベッドの淵に当たり、後ろにこけそうになる。そこを一気に距離を詰めて来ていたサシャに支えられたと思ったら、ベッドに押し倒されていた。
「俺はお前を簡単に拘束できるんだ。……こんな風にっ」
両手を彼の片手で簡単に上でひとまとめにされると同時に、彼の右足が私の太腿を割裂いて敏感な部分に直接触れる。完全に雰囲気にのまれていると自分でも感じた。高潔で潔癖、しかしどことなく柔らかい雰囲気だったサシャが今は野性的で粗暴な雰囲気に変わり、私を貫くんじゃないかと感じるくらいに強くて情熱的な視線を向けて来ている。
しかし不思議と恐怖は感じなかった。私は今、女性として危険に晒されているはずなのに。
「……なんで抵抗しないんだ」
「サシャだから。だって昔からサシャは私の事を傷付けるようなことをしなかったでしょう。再会してからもそれは同じ」
サシャが目を見開く。そして大きく溜息を吐いたと思ったら、彼の雰囲気が元に戻っていた。
「私も入って来たのがサシャ以外の人間だったらきちんと警戒していたわ」
「はあ。嬉しいような、嬉しくないような複雑な気持ちだ。だが、これからはきちんと俺含め、男は警戒するように」
「サシャも?」
「ああ。俺もだ。分かったらさっさと服を着てくれ」
いつの間にか拘束は解かれ、全身が自由になっていた。
サシャに差し出された彼の上着を羽織って前を閉じる。ぶかぶかだったが、彼は満足そうにそれを見つめていた。これは昔からの擦りこみのせいなのかも知れないが、一度彼がサシャだと認識してしまった今は警戒心が薄れてしまっていることは確かだった。
何故『男』として警戒しないといけないのかは分からないが、彼がそうしろというのならそうした方が良いのだろう。
「分かった。それじゃあ警戒するね」
「っぐぼあ!!?」
「着替えたいからさっさと出て行って」
警戒しろという割に、服1枚しか着ていない私をいつまでも見下ろしていたサシャの顎にアッパーをいれる。
望み通りの結果になってきっとサシャも喜んでいるだろう。
「……その調子だ」
そう言ってサシャは頭をポンと撫でて出て行った。やはり正解だったようだ。
褒められて少し嬉しくなりながら、勝手に開けたクローゼットの中にある少し分厚めの夜着を着て再度ベッドに入る。
眠りにつく前に思ったのだが、結局サシャは何をしにこの部屋に来たのだろうか。そう頭に過ったが、いつの間にか意識が落ちていた。
******
あとがき:
Twitterにこの話のおまけつけてます。
余計だなと思って省いた部分なので、そこまで重要な話じゃないと思います。
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