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「お前、分かっているのか?人間を殺すところだったんだぞ??」
「くっ、なんで、動けないの」
「おいおいおいおい、無理矢理動くな。腕の骨が折れるぞ」

首を刎ねられかけたせいで気を失い、地面に仰向けで倒れているトーマスの身体に大剣を突き立てようとしているのに、ピクリとも身体を動かすことが出来ない。私は今も無理矢理身体を動かそうとしているが、ミシミシと骨が軋む音がするだけで動く気配はなかった。

「どんだけそいつを殺したいんだ……。でも分かっているか?お前はそいつを殺したら、そいつと同類になるんだぞ。誰かを救える力を誰かの命を奪うために使うだなんて、悲しいだろう」

『お前は役に立たない人間なんかじゃない。誰かを救うことが出来る強さを持った人間だ』

名前も身分も知らない人間に言われた言葉によって、脳裏にかつて言われた言葉が過る。過去の私に生きる希望を与えてくれた少女からもらった大切な言葉の一つだった。
こんなことをやりたくてやっているんじゃない。
発された言葉を脳が処理した瞬間、涙が溢れて来た。国を追い出される前から――ずっと国の人間達や兄妹であるはずの者達から苦しめられていた頃から溜め続けていた涙が。

「っでも、どうしても許せないの。なんで魔法を使える者は……私は酷い目に遭い続けないといけないの!?努力して、死にそうな思いをしながら何度人を救っても、こうやって酷い言葉を浴びせられるだけ。救いなんてない、誰も認めてもくれないどころか、役立たずと私を責めるだけ。こんな世界、絶対におかしい!!!」

自分自身の力を他人のためにと使い続けながらも、本当はずっと……ずっとそう思っていた。
兄や妹と理不尽に差をつけられる自分。どれだけ血のにじむような努力をしても、あの国では自身を認めてくれる人なんていなかった。民を命からがら魔物から守れば、その瞬間は感謝された。
しかし次に出会う時には、何故だか彼らも『エジェリー様に守ってもらえれば、僕はこんな傷一つすら負わなかったはずだ』と私を責め立てた。

自分だって頑張って彼らを助け出したのに、あまりにも理不尽だ。
そう心の中で思っていても、表に出すことはできなかった。今度こそはと鍛練を積んでも、結局『もっと早く来れば、自分の家財は無事だった』や『救援が遅すぎる』と何かしらの理由を付けて責められる。

そんな中、私を慕って共に歩んでくれた唯一の存在であるダニエルとカノンにこの『人間共』は手を出したのだ。いや、それよりも酷い。『人間共』は、魔法を使える者の人権を踏みにじり、死ぬまで使役しようとしている。
憎悪の感情が膨れ上がるのを抑えきれない。

「こんな世界、滅びてしまえばいい」

そう口にした瞬間、身体の奥底から力が溢れ出して、見えない拘束が解けるのを感じた。
胸元を見ると髪の毛の色が白銀に染まっていた。そして背中に違和感を感じた。ちらりと後方を見てみると、背中から6枚――3対の白い羽根が飛び出てくる感覚と共にバサリとそれが翻った。
身体が異形のものに変化しているにも関わらず、気持ちが良かった。
今までの魔力量は何だったのだろうと馬鹿馬鹿しくなってしまう程の魔力、自分がような充足感。

「クソッ!止められなかったか!!」

殺意に塗れる意識の端でフードの男がそう呟くのが聞こえた――。
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