妹に罪を着せられて追放を言い渡されましたが、大人しく従いたいと思います

皇 翼

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「な……んで、私が、アンタなんかに……」

闘いの後、地に伏していたのはエジェリーだった。私によって軽く魔法を打ち返されるだけで倒された彼女は、お得意の結界を展開する間を与えられることすらなく、戦闘は終わった。身体を起こすことすらままならないのか、地べたにつけた顔で此方を睨みつける。

「私は、あの時から強くなるって決めたから。エジェリー、貴女がその立場で胡坐をかいて何もしていない間に私はずっと努力してきたのよ」

私は確かにエジェリーの言う通り、魔力の量は少ない。けれど彼女に馬鹿にされる程少なくはないのだ。エジェリーが規格外なだけで、私も歴代の王族の中で10本の指に入るくらいには魔力を所有している。
けれど違ったのは、とあるタイミングから『エジェリーより劣っている』と言われる度に努力をし続けてきたことだ。少しでも父王に認めてもらえるように、国の役に立てるように、そう考え、自分のその牙を陰で磨き続けて来た。

「っそんな、努力なんて意味のないもの――」
「意味のない?でも現に私より遥かに法力の量が多い貴女は私に負けてるじゃない」

もう言い返すことが出来ないのか、今度はいつも通り、私の本来の血筋に対する侮辱や『私の本当の実力はこんなんじゃない』などと言った世迷言を吐き続けるエジェリーに背を向けて歩き出す。彼女とは、もう話す価値すら見出すことが出来なかった。

***

王都の門から一歩出ると、植物一つない――まさに荒野が続く。
数年前までは王都の外もこんな光景ではなかったのだが、この国でが見つかってからは王都内がそのエネルギーの煌めきで満ちるのと対照的に外の世界は、魔物の手によって一気に荒廃していった。

「……あの女、最後まで嫌な人間でしたね。実際実力も大したことなかったですし、国内で言われている最強の魔法力というのも嘘なのでは?」
「いいえ、彼女の能力は確かに優れているわ。でも今までその力に甘えて、周囲も彼女の傲慢な態度を治そうとしなかった」
「国王自体の頭が悪いですもんね」
「カノンもそういう事を堂々と言わない。一応ここは未だノルネンツ国内よ」

先程のエジェリーの時は静かに殺気を放って怒っていたカノンも今はスッキリしたのかケラケラと笑っている。
でも私はカノンのように表情が緩むことはなかった。本来であれば、今まで思っていた事を全てエジェリーにぶつけられて、彼女を打ち負かすことで自分の本来の実力も証明することができた。だから少しはスッキリとしている筈……なのだが、私の心は曇っていた。

エジェリーがあそこまで酷い性格になってしまったのは、自分にもその原因の一端があるのではないかと考えてしまったからだ。
あの子にはずっと誰か、『生まれ持っている能力だけに頼る貴女の行動は間違っている』と正面から言ってくれる誰かが必要だったのだ。全てを捨て去って、自分とは既に何の関係もないエジェリーと向き合って思った。彼女は子供のまま何も成長していない。
しかし私をこの国から追い出した原因はエジェリーだ。哀れだとは思えど、あの間違った行動を正してやるほどには善人にもなりきれなかった。その中途半端な自分自身の感情が私を暗くさせていた。
しかし一人旅ではないのだ。このことについては一旦忘れることにする。

「……この国も見納めね」
「本当、クソみたいな国でしたね!」
「カノン、何度も言ってるけど、女の子がクソなんて言葉使っちゃいけませんよ」
「はーい。次からは気を付けます」

この様子だと、またどこかしらで汚い言葉を使ってしまうのだろうな、なんて予想しながらもいつものやり取りに安心する。この二人だけはあの国にいて唯一得られた良い縁だったと今、しみじみとその重みを噛みしめる。
二人の事を最初はこの国に置いていこうとしていたが、自分に着いてきてくれて良かったと改めて感じた。

「ダニエル、カノン、一緒にいてくれてありがとう」
「えへへ、私も師匠と一緒にいられて嬉しいです」
「僕は死ぬまでアリスさんについていきますから、安心してください!」
「いや、それはちょっと……」
「ダニエル断られてる~。重すぎる男は嫌われるよ」
「そんな……!」
「まあ、冗談は置いておいて。二人も着いて来るって言っても、途中でそのまま滞在したい国とかがあれば、そこで離れても大丈夫だからね」
「……あり得ないとは思いますが、頭の片隅に入れておきます」
「僕の居場所はいつでもアリスさんの横ですよ」

二人が成長して、段々と離れていくのは考えるだけで少し寂しさも感じるが、この国から出る時に私と共に来てくれた時点でもう十分だった。だからこの国の柵から解き放たれた今は、この二人にもより良い選択をして欲しい。それを考えての言葉だった……のだが、二人共あまり聞く気はないようだ。
そんなところにも相変わらずだな、と思い、自然と顔が緩みながらも私達3人は新たな一歩を踏み出した――。
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