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結局私達三人がこの国から持ち出そうと思ったのは、今まで貰っていた自身らの少額の給金と、自分たちで試行錯誤しながらも低コストで作り上げた魔物と闘うための武具のみだった。
それ故に国から出ていく準備は30分もしない内に整う。
***
「あらあら、役立たずの皆さん。ふふっ、遂にこの国を出ていくことになったのね~」
「あ゛あん?」
「ダニエル、駄目だよ」
王都唯一の門の前。私達一行は最初は王都から南に下って、流通の街・フローストに向かい、そこから馬車に乗り、私の母の母国であるエンシェント帝国に向かうつもりだった。
少しの不安と初めての場所に行くという期待感が綯交ぜになった様な心境に水を差してきたのが、私に罪を着せて、この国を追い出した張本人であるエジェリーだった。
あまりに酷く、失礼な物言いのエジェリーにダニエルが突っかかろうとするのを止める。
「相変わらずアンタの部下はガラが悪いわね。ちゃんと躾けておくことも出来ないのかしら」
「……エジェリー、なんでここにいるの?私達の事は貴女にはもう関係のない事でしょう」
「特に理由はないわよ~。最後に負け犬共の顔を拝んでおこうと思って。ふふふぅ」
自分からわざわざ絡んで来たくせに、怒ったダニエル、そしてその上司である私に対して文句を言う始末。
残念ながら、これは彼女のいつも通りの行動だった。何が不満なのかは分からないが、姉である私やそれに関わる者に事ある毎に突っかかる。
しかし、この後の私の行動だけはいつもとは違った。
通常通りであれば、どれだけ嫌な事を言われようと、謂れのないような事を目の前で言われた時でさえ、無視し続けてきた。反応すれば、更に酷い事を言われると分かっていたから。もっと酷い、やってもないし関わってすらいないような噂を流されると知っていたから。
でももうそんなことは関係ない。先程、部屋の整理をしていた時にこの国での事は全て捨てて来た。だから、エジェリーにハッキリと言い返す。
「貴女、暇なのね」
「は?」
「これからこの国は兄様の部隊と貴女の部隊。その二つだけで周辺に出現する魔物を狩って行かなければならない。普通に考えて、強力な結界を張るしか脳のない貴女は私がいなくなった後の戦い方を考えておくべきだと思うけど?」
「何を言っているの?今まではアンタが勝手にでしゃばって、私の獲物を横取りしてたんじゃない」
「……魔物を放置して、街の隅で自分だけに結界を張って震えていたくせに?」
そこまで言うとエジェリーの表情が歪む。紛れもない事実だった。
だが、エジェリーはそんな言葉を認めない。無意識の中では分かっている筈だが、彼女のプライドが『自分が戦えない』というその事実を認めなかった。
「っそれは――あれは調子がちょっと……その、悪かっただけっていうか。っていうか私はこの国で一番魔法力が高い退魔師よ!」
「そう。調子がちょっと悪かったから……そんなくだらない理由であの時、街の人達を見殺しにしたのよね。そして自分は傷一つない状態で生き残った――流石、国一番の退魔師さんは言う事が違うわね」
「っ~~~!!うるさい!うるさいうるさいうるさいっ!!!」
まだ虚偽の報告をしたことについての言及をしていなかったのだが、こらえ性のないエジェリーは炎の魔法をこちらに打ち込んでくる。
信じていた者に裏切られた私は心の痛みの限界が突破し、逆に完全に吹っ切れていた。そのため今までエジェリーに対して思っていた事が全て口から溢れ出していく。
エジェリーは元々の能力の高さからここまで他人から馬鹿にされたことがなかったのだろう。我が儘且つ自己中心的なその性格も相まって、すぐに怒りを露にして来た。
しかし彼女のそんな怒りが籠った魔法は一つもこちらに掠る事すらなく、通り過ぎていく。
私が何かしらの魔法を使っているというわけではない。ただ単にエジェリーの魔法の制御が下手くそなことに加えて、今まで何の努力も重ねずに、練習することもなかったからだろう。その威力は、私がわざわざ魔法を使うまでもない、多少身体を動かして避けるだけで済む程度のものだった。
「驚いた。それで本気のつもり?」
「黙れ!黙れえええぇぇええ!!アンタなんて、アンタなんて――アタシより法力量も地位も、財力も、容姿も、能力も全部全部全部劣ってるくせにいぃいいいい」
先程よりは多少威力が増しはしたが、相変わらず狙いの精度が低い、制御の出来ていない魔法が飛んでくる。
正直、飽きた。私はそんなエジェリーに、これみよがしな溜息を吐きながら、自身の武器である人間の子供一人分の背丈ほどある大剣を振り上げることで、彼女の放った全力の魔法を打ち返した――。
それ故に国から出ていく準備は30分もしない内に整う。
***
「あらあら、役立たずの皆さん。ふふっ、遂にこの国を出ていくことになったのね~」
「あ゛あん?」
「ダニエル、駄目だよ」
王都唯一の門の前。私達一行は最初は王都から南に下って、流通の街・フローストに向かい、そこから馬車に乗り、私の母の母国であるエンシェント帝国に向かうつもりだった。
少しの不安と初めての場所に行くという期待感が綯交ぜになった様な心境に水を差してきたのが、私に罪を着せて、この国を追い出した張本人であるエジェリーだった。
あまりに酷く、失礼な物言いのエジェリーにダニエルが突っかかろうとするのを止める。
「相変わらずアンタの部下はガラが悪いわね。ちゃんと躾けておくことも出来ないのかしら」
「……エジェリー、なんでここにいるの?私達の事は貴女にはもう関係のない事でしょう」
「特に理由はないわよ~。最後に負け犬共の顔を拝んでおこうと思って。ふふふぅ」
自分からわざわざ絡んで来たくせに、怒ったダニエル、そしてその上司である私に対して文句を言う始末。
残念ながら、これは彼女のいつも通りの行動だった。何が不満なのかは分からないが、姉である私やそれに関わる者に事ある毎に突っかかる。
しかし、この後の私の行動だけはいつもとは違った。
通常通りであれば、どれだけ嫌な事を言われようと、謂れのないような事を目の前で言われた時でさえ、無視し続けてきた。反応すれば、更に酷い事を言われると分かっていたから。もっと酷い、やってもないし関わってすらいないような噂を流されると知っていたから。
でももうそんなことは関係ない。先程、部屋の整理をしていた時にこの国での事は全て捨てて来た。だから、エジェリーにハッキリと言い返す。
「貴女、暇なのね」
「は?」
「これからこの国は兄様の部隊と貴女の部隊。その二つだけで周辺に出現する魔物を狩って行かなければならない。普通に考えて、強力な結界を張るしか脳のない貴女は私がいなくなった後の戦い方を考えておくべきだと思うけど?」
「何を言っているの?今まではアンタが勝手にでしゃばって、私の獲物を横取りしてたんじゃない」
「……魔物を放置して、街の隅で自分だけに結界を張って震えていたくせに?」
そこまで言うとエジェリーの表情が歪む。紛れもない事実だった。
だが、エジェリーはそんな言葉を認めない。無意識の中では分かっている筈だが、彼女のプライドが『自分が戦えない』というその事実を認めなかった。
「っそれは――あれは調子がちょっと……その、悪かっただけっていうか。っていうか私はこの国で一番魔法力が高い退魔師よ!」
「そう。調子がちょっと悪かったから……そんなくだらない理由であの時、街の人達を見殺しにしたのよね。そして自分は傷一つない状態で生き残った――流石、国一番の退魔師さんは言う事が違うわね」
「っ~~~!!うるさい!うるさいうるさいうるさいっ!!!」
まだ虚偽の報告をしたことについての言及をしていなかったのだが、こらえ性のないエジェリーは炎の魔法をこちらに打ち込んでくる。
信じていた者に裏切られた私は心の痛みの限界が突破し、逆に完全に吹っ切れていた。そのため今までエジェリーに対して思っていた事が全て口から溢れ出していく。
エジェリーは元々の能力の高さからここまで他人から馬鹿にされたことがなかったのだろう。我が儘且つ自己中心的なその性格も相まって、すぐに怒りを露にして来た。
しかし彼女のそんな怒りが籠った魔法は一つもこちらに掠る事すらなく、通り過ぎていく。
私が何かしらの魔法を使っているというわけではない。ただ単にエジェリーの魔法の制御が下手くそなことに加えて、今まで何の努力も重ねずに、練習することもなかったからだろう。その威力は、私がわざわざ魔法を使うまでもない、多少身体を動かして避けるだけで済む程度のものだった。
「驚いた。それで本気のつもり?」
「黙れ!黙れえええぇぇええ!!アンタなんて、アンタなんて――アタシより法力量も地位も、財力も、容姿も、能力も全部全部全部劣ってるくせにいぃいいいい」
先程よりは多少威力が増しはしたが、相変わらず狙いの精度が低い、制御の出来ていない魔法が飛んでくる。
正直、飽きた。私はそんなエジェリーに、これみよがしな溜息を吐きながら、自身の武器である人間の子供一人分の背丈ほどある大剣を振り上げることで、彼女の放った全力の魔法を打ち返した――。
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