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「アリス=ノルネンツ。今日お前の逃がした魔物のせいで、多くの民が犠牲になった。その罪としてお前をこの国から追放する」

ノルネンツ王国の第一王女にして、魔を払う役目を持つ退魔師の一人。そんな立場であったはずの私は今、謁見の間にて、この国の王である血の繋がった私自身の父親の手によって断罪されていた。

「しかもお前、魔物を追撃しようとしたエジェリーに『あの魔物は自分の取り分だ』とのたまった挙句、部下を囮に無理矢理引き留めて自分の手柄を優先したそうじゃないか。弱いくせに――恥を知れ!」

散々罵ってもなお、父は続ける。彼にとって私は既に娘ではなく、一人の咎人だった。
私がやっていないこと、無実であることを全く考えようとしない。彼に私に対する情なんてない。そういう卑劣な行為を平気でやる人間だと思われているからだ。

「謝罪すらも出来ないのか……まあそんなことしたところで許される罪ではないが。やはり失敗作は所詮失敗作のまま――穢れた他国アトラステアの血めが!この国の希望はやはりエジェリーのみ」

違う。魔物アレを逃がしたのは私じゃなくて、あの子……エジェリーだったのに――。
否定の言葉が心の中に浮かぶが、それは声に出す前に音のない気体になって空気に溶け出していく。だってどうせ信じてもらえない。

以前ノルネンツ王国周辺の魔物を一斉に狩る討伐計画が実行された。その当時、エジェリーは私の戦績を全て横取りしたのだ。勿論私もその時はエジェリーが虚偽の報告をしたと、退魔師を取り仕切っている退魔師団団長にも父王にもちゃんと主張した。しかしその主張は全て無視されたのだ。それどころか私がエジェリーの戦績を後から横取りしようとしているという噂を流され、王宮での立場がより酷くなった挙句、父王からも酷い罰を与えられた。
それ以降にも似たような事が何度かあったが、その度に私は虚偽の報告をしてエジェリーを貶めようとしたと言われ、散々な目に遭っていた。

エジェリーは特別なのだ。生まれ持った能力の高さから皆に必要とされて、父王や兄からも愛され、何をしても許されるし、何を言っても信じてもらえる。私とは真逆だ。

今までの経験からみても正直に言ったところで責任を妹に押し付けるのかと更に罪が重くなって、終わり。もしかしたらこの国からの追放よりももっと酷い目に遭わされてしまうかもしれない。処刑なんてこともあるかもしれないのだ。
そこまで考えて絶望し、私は今度は何も主張することなく完全に口を噤んだのだった。

「いつまでここにいる?お前のような不要物の居場所などここにはない。さっさと荷物をまとめてこの国から出ていけ。ハッ、くれぐれもこの王宮から盗みは働くなよ」

実の子供に向けているモノだとは思えないほどに冷たい視線。私を蔑み、完全に見下した言葉。

私は今まで彼に少しでも振り向いてもらえるように――『よくやった』そう褒めてもらえるように頑張っていたのに、それが馬鹿らしくなってくる。
なんでこんな人のために今まで身を削ってこの国に尽くしてきたのだろう。認めて欲しかった人に、不要と言われたのが悲しくて、認めてもらうどころか捨てられたのが悔しくて、情けなくて……心の中はぐちゃぐちゃになっていた。

この場からいなくなるためにカタカタと震える足に力をいれる。自分でも情けなくなるくらいに小さな一歩だった。
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