6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼

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「おはよう、リア」
「っ!?レイヴン、アンタまた人の寝床に忍び込んだわけ!!?」
「別にいいだろ。むしろ感謝して欲しいくらいだ。魘されていたお前をぎゅってしてやったら、震えが止まってたぜ?」

この甘くて低い、無駄に色気がある声が耳元を擽り、なんだかムズムズする。コソコソと囁かれるのが嫌だったのもあり、押し返そうとするが、寝ていた時の再現なのか強い力で更に深く抱きしめられる。私よりも年上の癖に子供っぽく、何度言っても懲りずに人の寝所に忍び込んでは、何をするでもなく隣で眠っていくのが彼だ。
けれど、今回に関しては彼の言葉から、きっと自分があの悪夢の最後で苦しみが和らいだのは彼のお陰だったのだろうことが察せられた。別にお互いに部屋を行き来するような関係性でもないし、何より不法侵入であることは変わりないので、決して感謝はしないが。
しかし嫌な夢を見たと思う。あれは私がかつて見た未来、本来起こるはずだった現実。

私はかつてグレシュタット王国の第一王女にして、『聖女の資格がある特別な人間』として育つはずの者だった。
しかし12歳で初潮を迎えた日。とある未来を夢で視る。
成熟し、聖女として認められる18歳を迎える前日の夜に私が殺される夢。そしてその『聖女の死』が原因で、グレシュタットとガリレアン、コルレア3国の間で争いの火種が燻ぶり、戦争に発展するのだ――。
これはただの夢ではない。なにせ私は幼い頃から、ここまで大規模ではないにしろいくつも未来を視て来たのだ。だから私は自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するためにも、いくつも未来のシミュレーションを占いで行った後に自分の父――グレシュタットの王に言った。

「父様、私は明日死にます!」

そこからは一番死亡する確率が低いと自身の占い結果で出た行動を取り続けた。戸籍も立場も全て捨て、お隣の国であるコルレア王国にて、今では最も有名な傭兵団の傭兵になり、現在に至る。

追記するとすれば素性を隠すためにも、本名である『ロザリア=テンペラスト』という名前ではなく『ウィリアム』という偽名を使って、男装しながら傭兵をしているということくらいだろうか。しかし慣れてみれば、この傭兵生活も悪くない。強くなれば強くなるほどにお金を稼げるし、犯罪を犯さなければ、何をやっても自由だ。勿論、面倒なお茶会や夜会に出席する必要もない。お金も自由なことに使える。
それに安全面に関しても、拠点には自分以外の強い傭兵も多く在籍していることもあり、正直城よりも安全かもしれないというレベルだ。とにかく快適なのである。この男――レイヴンに私の性別がバレていてかつ勝手に部屋に入ってくることを除いてだが。

「はあ、さっさと離して。あと何回も言っているけど、勝手に部屋に入ってこないで。貴方の行動が原因で、他のメンバーに秘密がバレたらどうするのよ」
「秘密ってお前の男装か?あれ似合わないからやめておけって、俺何回も言ってるじゃん。お前はこの姿が一番だ」
「別にアンタのために男装しているわけじゃないわ。というかそもそもアンタも素性を団に隠してるじゃない。私にだけ強要しないで」

そう。この男、レイヴンは団長の養子らしいのだが、それ以前の経歴は不明。どこでどんな生活をしていたのかなど、どれだけ親しい人間にも漏らすことがない。

「はあ、俺は別にお前にだったら明かしてもいいんだけどな。……一緒に俺の全てを背負ってくれるなら」

漆黒の髪の隙間から覗いたアメシストの瞳に射貫かれ、思わずドキリとする。
レイヴンはいつでも私の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。彼がここ最近言うようになったこの言葉。歳が近く、任務でも一緒に居る時間が長いからと気を許してくれているのかもしれないが、人間一人の人生だなんて普通に重いし、いらない。

「おっも!というか、自分の未来さえ背負いきれてないのに、アンタの全部なんて背負えないわよ」
「今回も振られちまったかー、残念。あ、そうだ!誕生日おめでとう!!」
「え?」
「なんだよ、その顔。今日、誕生日だろ?」
「忘れてただけ。そっか、今日で私18歳なのね……ありがとう」

生きるために必死でただただ忙しない毎日で忘れていたが、昨日はあの夢の日。私が死ぬはずだった日だったようだ。
だからあんな悪夢を見てしまったのかもしれない。しかしこれで完全に乗り越えたと確信できた。基本的に聖女の未来予知は、そのタイミングを振り切ってしまうことさえできれば、本来降りかかるはずの運命ごと回避できる。
私はあの自分が死亡する未来を乗り越え、『生』をつかみ取ったのだ。生き残ったこの後のことは起きてから考えればいい。
これ以上ない程の安心感と共に、私はレイヴンを追い出して二度寝を決め込んだのだった。
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