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28.解決策
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クレアとエストが真の意味で心を通じ合わせた後。
事情を知ったマルタや協力者として全てをクレアと共有していたクリストファーは散々二人を揶揄いながらも、ケントやセーレと共に祝福した。
しかし、クレアのやらかしたこと――薬を使用して死を偽装したが、実は生きていたこと――は大きな問題となっていた。
エストの父であるクロシュテインの国王は何も干渉してくることはなかったが、未だ隠しているというのに、既にこの情報を握っている貴族達の内の足を引っ張りたいと考えるものたちは違った。
今日はそのことで話があるとレンドーレ公爵、即ちクレアの父親によってエストとクレアは呼び出されていた。
***
普段はあまり入る事のない自宅の応接間。公爵家という立場に置かれているだけに古く、家具単体の価値だけでなく、歴史的価値も付与されているであろう重厚感あふれるその部屋は呼び出された内容が内容なだけに、無駄に威圧感を放っているように感じた。
「……それで、二人共、今回の呼び出し理由は分かっているな?」
「はい。私が何も確認せずに一人で暴走したからです」
「クレア、お前はどう責任を取るつもりだ?お前は自ら宣言した筈だ。この先何があっても『クレア』としての自分は捨てる、と」
「待ってください!今回の件は、俺が悪かったんです。だからクレアだけに責任を取らせたりなどしません」
「エスト……」
今まで見たことのない、父親の公爵としての迫力、そして恐ろしい形相にたじろぐクレアをエストは庇うように隣に座る彼女を抱き寄せ、反論する。
「お前みたいな若造に何ができる」
しかし、公爵はエストに対しても全く容赦がなかった。標的が変わっただけだと言わんばかりに今度はエストを威圧する。
「手立てはあるのか?」
「っそれ、は――」
ないのだろう。手立てなどあったら、既に実行している。二人は追い詰められていた。しかしそんなところに救いの手が現れる。ノックすることなくいつの間にか入室してきていたクリストファーだった。
「父様……大人げないですよ」
「……クリストファー」
「そろそろその下手クソな演技をやめてください。クレアを怖がらせて楽しむなんて、不愉快です」
「え、演技……?」
「父様はね、既に解決策を手元に持っていて、かつクレアとエスト様がその解決策を持っていないと知った上で、こんな尋問じみたことをしていたんだよ。本当、悪趣味だよね」
クリストファーの発言にエストとクレアは固まる。どういうことだと公爵の方を見つめると、先程の態度は何処へ行ったのやら、お腹を押さえて机に顔を伏せながら、こみ上げる笑いを堪えているところだった。
「父様?」
クレアの声のトーンが低くなる。散々怖がらせられていたことがかなり応えていたようだ。先程までは恐怖心の滲んだ瞳で見つめていたのからは一転、まるでゴミ虫を見る様な瞳で睨みつけている。流石に彼女の声音に対してこれ以上は不味いと分かったのか、すぐに公爵は弁明を試みる。
「っこれはだな、クレア、そのちょっとした出来心だったというかなんというか――」
「…………」
「その、怯えているクレアも可愛かったよ――なんて」
「……絶対に許しません!!」
******
結局、公爵が用意していた解決策というのは現国王の妾が何度もエストやクレアに暗殺者を差し向けていたという証拠をつかんだというものだった。
実はこれは半分以上がクレアの功績だったりする。
曰く、何度暗殺者を差し向けても、クレアとエスト、両名とも殺すことが出来ないという焦りに駆られていた暗殺者組織の本部。そいつらがクレアが死んだという事を知り、それを利用して、クレアを暗殺したのは自分達だと偽造したうえで、妾から大量の金銭を受け取っていたらしい。
クリストファーはクレアの死を秘密裏に組織によって『殺された』ものだと王の妾に思わせるためにこそこそと動いていたやつらを捕まえたと言っていた。幸運なことに、その捕まえたやつらは金で雇われた下っ端だったようで、簡単に組織のやった事を吐いた。
そこからは虱潰しに本拠地を探し、追い詰めていったという事だった。
要は暗殺者組織が欲に目を眩ませて、やってもいない事をやったと偽造していたのだ。そこから芋づる式に今までやっていたことの証拠、契約書類、妾との繋がり、その全てが公爵家に握られてしまったということらしい。
これらの証拠さえあれば、国王の妾をその立場から引きずり下ろすことも出来る。
ここから後付けではあるが、クレアが死を偽装していたのは『エスト・クレアの両名は何度も暗殺者に狙われていたが、ずっとその尻尾を掴めなかったため、クレアが自身の身を削ることで戴冠式の前に敵の炙り出しを行った』という理由付けをするのだそうだ。
大々的に死という事実を広めたのは相手の尻尾を掴むために仕方なく……という事にするらしい。
あまりの嘘のオンパレードにクレアは顔を引きつらせるが、これで丸く収められるのであれば縋らない手はない。
「ね?クレアちゃん、父様頑張ったんだよ?許してくれないかなぁ?」
「嫌です」
「そ、そんなこと言わないでよ~」
しかし父親の先程の態度を許す許さないは別だった。彼は普段は優しく、家族想いな人間だが、たまーにこんな風に無駄な部分でやり過ぎるのだ。今まで何度も経験してきたが、そろそろちゃんと反省して欲しいところだ。
今は既に父親の顔に戻っており、年甲斐もなく猫なで声でクレアに許しを乞うている。クリストファーはそれを先程のクレアと同じ様にゴミくずを見る様な目で見つめたのだった――。
あとがき:
ちょっと文章におかしなところがあると思われるので、後で修正しに来ます。
事情を知ったマルタや協力者として全てをクレアと共有していたクリストファーは散々二人を揶揄いながらも、ケントやセーレと共に祝福した。
しかし、クレアのやらかしたこと――薬を使用して死を偽装したが、実は生きていたこと――は大きな問題となっていた。
エストの父であるクロシュテインの国王は何も干渉してくることはなかったが、未だ隠しているというのに、既にこの情報を握っている貴族達の内の足を引っ張りたいと考えるものたちは違った。
今日はそのことで話があるとレンドーレ公爵、即ちクレアの父親によってエストとクレアは呼び出されていた。
***
普段はあまり入る事のない自宅の応接間。公爵家という立場に置かれているだけに古く、家具単体の価値だけでなく、歴史的価値も付与されているであろう重厚感あふれるその部屋は呼び出された内容が内容なだけに、無駄に威圧感を放っているように感じた。
「……それで、二人共、今回の呼び出し理由は分かっているな?」
「はい。私が何も確認せずに一人で暴走したからです」
「クレア、お前はどう責任を取るつもりだ?お前は自ら宣言した筈だ。この先何があっても『クレア』としての自分は捨てる、と」
「待ってください!今回の件は、俺が悪かったんです。だからクレアだけに責任を取らせたりなどしません」
「エスト……」
今まで見たことのない、父親の公爵としての迫力、そして恐ろしい形相にたじろぐクレアをエストは庇うように隣に座る彼女を抱き寄せ、反論する。
「お前みたいな若造に何ができる」
しかし、公爵はエストに対しても全く容赦がなかった。標的が変わっただけだと言わんばかりに今度はエストを威圧する。
「手立てはあるのか?」
「っそれ、は――」
ないのだろう。手立てなどあったら、既に実行している。二人は追い詰められていた。しかしそんなところに救いの手が現れる。ノックすることなくいつの間にか入室してきていたクリストファーだった。
「父様……大人げないですよ」
「……クリストファー」
「そろそろその下手クソな演技をやめてください。クレアを怖がらせて楽しむなんて、不愉快です」
「え、演技……?」
「父様はね、既に解決策を手元に持っていて、かつクレアとエスト様がその解決策を持っていないと知った上で、こんな尋問じみたことをしていたんだよ。本当、悪趣味だよね」
クリストファーの発言にエストとクレアは固まる。どういうことだと公爵の方を見つめると、先程の態度は何処へ行ったのやら、お腹を押さえて机に顔を伏せながら、こみ上げる笑いを堪えているところだった。
「父様?」
クレアの声のトーンが低くなる。散々怖がらせられていたことがかなり応えていたようだ。先程までは恐怖心の滲んだ瞳で見つめていたのからは一転、まるでゴミ虫を見る様な瞳で睨みつけている。流石に彼女の声音に対してこれ以上は不味いと分かったのか、すぐに公爵は弁明を試みる。
「っこれはだな、クレア、そのちょっとした出来心だったというかなんというか――」
「…………」
「その、怯えているクレアも可愛かったよ――なんて」
「……絶対に許しません!!」
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結局、公爵が用意していた解決策というのは現国王の妾が何度もエストやクレアに暗殺者を差し向けていたという証拠をつかんだというものだった。
実はこれは半分以上がクレアの功績だったりする。
曰く、何度暗殺者を差し向けても、クレアとエスト、両名とも殺すことが出来ないという焦りに駆られていた暗殺者組織の本部。そいつらがクレアが死んだという事を知り、それを利用して、クレアを暗殺したのは自分達だと偽造したうえで、妾から大量の金銭を受け取っていたらしい。
クリストファーはクレアの死を秘密裏に組織によって『殺された』ものだと王の妾に思わせるためにこそこそと動いていたやつらを捕まえたと言っていた。幸運なことに、その捕まえたやつらは金で雇われた下っ端だったようで、簡単に組織のやった事を吐いた。
そこからは虱潰しに本拠地を探し、追い詰めていったという事だった。
要は暗殺者組織が欲に目を眩ませて、やってもいない事をやったと偽造していたのだ。そこから芋づる式に今までやっていたことの証拠、契約書類、妾との繋がり、その全てが公爵家に握られてしまったということらしい。
これらの証拠さえあれば、国王の妾をその立場から引きずり下ろすことも出来る。
ここから後付けではあるが、クレアが死を偽装していたのは『エスト・クレアの両名は何度も暗殺者に狙われていたが、ずっとその尻尾を掴めなかったため、クレアが自身の身を削ることで戴冠式の前に敵の炙り出しを行った』という理由付けをするのだそうだ。
大々的に死という事実を広めたのは相手の尻尾を掴むために仕方なく……という事にするらしい。
あまりの嘘のオンパレードにクレアは顔を引きつらせるが、これで丸く収められるのであれば縋らない手はない。
「ね?クレアちゃん、父様頑張ったんだよ?許してくれないかなぁ?」
「嫌です」
「そ、そんなこと言わないでよ~」
しかし父親の先程の態度を許す許さないは別だった。彼は普段は優しく、家族想いな人間だが、たまーにこんな風に無駄な部分でやり過ぎるのだ。今まで何度も経験してきたが、そろそろちゃんと反省して欲しいところだ。
今は既に父親の顔に戻っており、年甲斐もなく猫なで声でクレアに許しを乞うている。クリストファーはそれを先程のクレアと同じ様にゴミくずを見る様な目で見つめたのだった――。
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