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25.精神世界②
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クレアがエストに出会ってから――他の貴族に厭味を言われたり、嫌がらせを受けがらも、エストと共に過ごす内に少しずつ彼女の内面も変化していく。目に見えて分かる変化としては塞ぎ込んでいた時よりも笑顔でいる時間が増えた。そして時間の使い方も変化していた。
医術や魔法薬学の勉強にのめり込み、それらをどんどん自分のものにしていく。そしてエストを中心として、クレアを容姿で差別しない人達との交流も増えた。
そんな彼女の視線の先にはいつでもエストがいた。思い出の中がエストで溢れていた。
そんな中、見逃せないモノがエストの目に飛び込む。クレアが自身に差し向けられた暗殺者に殺されかけるが、なんとか形成を逆転し、一対一で対峙している場面だった。クレアは片腕を負傷した状態であっても、その暗殺者を無事捕縛することに成功する。
「こ、れは――どういうことだ!?アイツらはクレアまで狙っていたというのか!!?」
「………………」
「どうなんだ!?答えてくれ、クリストファー」
クリストファーはこの光景が映し出されるのを見て、『やってしまった……』と言いたげな表情になる。
クリストファーが悪いわけではない事は分かっている。しかし、エストはこの場で唯一事情を知っているであろうクリストファーに詰め寄ってしまう。
「……俺は貴方に相談するべきだと何度も言ったんです。しかし、クレアはずっと秘密にしてくれと言っていました」
「っ何故だ。なんで俺を頼ってくれなかったんだ。そんなにも俺が信用できなかったのか?……いや、違うな。あんなことを言ったんだ。それも全部俺の――」
『全部が俺のせい。自業自得だ』。また自身の立場が彼女に負担を掛けていたことをこんな風に直接見て、知って、エストは抑えきれないと言った様子で再び感情をぶちまけてしまう。
それに加えて自身の行いを更に後悔していた。何も相談してもらえなかったことが悲しく、彼女にずっと自分のことで負担を掛けて苦しませていた事に気づけなかったのが何よりも悔しかった。しかしそんな負の感情をクリストファーが遮って、否定する。
「違います!!クレアは貴方に少しでも負担を掛けたくないと言っていました」
「え……」
「クレアはずっと貴方の事を想っていたんですよ。自分が前を向けたのは貴方のおかげだって、だからこんな事でわざわざ手を煩わせたくない、と」
「っでも、俺は――」
「いきなりこんなものを見せられて、怒りを覚えてしまう気持ちはわかりますが、これ以上は僕が言うべきことではありません。クレアを目覚めさせて、彼女に直接聞いてください」
エストは頷く。ここに来てからは取り乱してばかりだ。彼女は本当に秘密が多すぎる。しかしこれはそれだけクレアとちゃんと向き合えていなかったという証拠だろう。
彼女を目覚めさせて、気持ちを伝える。そして次こそは全て打ち明けてもらえるような存在になって見せる。そう決意を新たにした。
***
そこから更に場面は変化し、クレアが死を偽装した場面になる。
「誤解のないように言っておきますが、クレアはずっとエスト様のあの最初の言葉を気にしていたようです。出来るだけ貴方の負担になりたくないから、と。この方法を選びました」
「……そうか。本当、見事に騙されたよ」
先程とは打って変わって、エストは冷静だった。
「ふふ、今回ばかりはクレアの方が上手でしたね」
「俺は本当に、クレアの事を何も知らなかったんだな」
「はい。じゃあ、これからいっぱい知ってあげてください」
「ああ」
エストとクリストファーは微笑み合う。ここに来てやっと気持ちが一つになったような気がした。
周囲ではクレアが『ルーネスト』という一人の男を偽装して過ごし王宮に、そしてエストの施術を経て、またエストと過ごすようになったところまでが猛スピードで再生されていく。
見覚えのある光景に、そろそろこの回想も終わりが近づいていることを自然と察することが出来た。
そして、二人が庭園で襲撃され、クレアがエストの呪いをあの特異魔法によって身代わりしたところで、再び周囲は光に包まれた。
******
目の前に今度は、新たに透明な膜の様なものに覆われた真っ白な球体が現れる。今までの魔力反応を比べても、ここは最もクレアの魔力が濃い。きっとこれが最深部であろうことが伺えた。軽く膜に触れてみる。
「っ――!?」
エストはすんなりと片腕をその柔らかい膜の中にいれることが出来たが、クリストファーが身体を大きく弾かれてしまっていた。数メートルはじけ飛んだ彼の身体を見て、エストは思わず触れていた膜から手を離す。
「クリストファー?どうしたんだ!?」
「……どうやら僕はこの中には入れないみたいです」
「お前が入れないなんて、どういうことだ?この膜はなんなんだ?」
「これはきっと、クレアの精神の――心の最深部。最も見られたくないものがある場所。僕には真の意味ではクレアの中に入り込めない……きっと貴方だけ特別なんですよ、エスト様」
やはり貴方に着いてきて頂いて正解でした。クリストファーは残念そうに、しかしどこか嬉しそうにエストに微笑みかける。
事実、クリストファーはずっと全ての事を共有してきた妹が離れていくのは寂しかったが、自分以上に心を許す大切な相手――それも同じくらいに、命を捨てても良いとすら思う程に彼女を想ってくれる人――が出来ていたことに嬉しさを感じていた。そんな相手、人生を過ごしていても、中々出来るものではない。しかしクレアはその相手が出来たのだ。ならばこれは祝福するべき、喜ばしい事なのだ。
彼なら、エストならば、これからはきっとクレアを大切に、幸せにしてくれる。それを改めてこんな場面で実感してしまった。だからエストの背中を押す。
「クレアは貴方に全てを見られて嫌われたくないと思うと同時に、全てを見て欲しいという相反する感情を持っているんです。だから行ってあげてください。僕はここで貴方の帰りを大人しく待っています……妹を、クレアを頼みます」
その言葉には全てが詰まっていた。その言葉の深い意味まで全部を察したエストは頷く。そうしてクリストファーに送り出されて、エストはクレアの心の最も深い部分に足を踏み入れたのだった――。
******
あとがき:
あとちょっと!本当にあとちょっとで終わります(ただし今日中に書き上げられるかは謎)。
医術や魔法薬学の勉強にのめり込み、それらをどんどん自分のものにしていく。そしてエストを中心として、クレアを容姿で差別しない人達との交流も増えた。
そんな彼女の視線の先にはいつでもエストがいた。思い出の中がエストで溢れていた。
そんな中、見逃せないモノがエストの目に飛び込む。クレアが自身に差し向けられた暗殺者に殺されかけるが、なんとか形成を逆転し、一対一で対峙している場面だった。クレアは片腕を負傷した状態であっても、その暗殺者を無事捕縛することに成功する。
「こ、れは――どういうことだ!?アイツらはクレアまで狙っていたというのか!!?」
「………………」
「どうなんだ!?答えてくれ、クリストファー」
クリストファーはこの光景が映し出されるのを見て、『やってしまった……』と言いたげな表情になる。
クリストファーが悪いわけではない事は分かっている。しかし、エストはこの場で唯一事情を知っているであろうクリストファーに詰め寄ってしまう。
「……俺は貴方に相談するべきだと何度も言ったんです。しかし、クレアはずっと秘密にしてくれと言っていました」
「っ何故だ。なんで俺を頼ってくれなかったんだ。そんなにも俺が信用できなかったのか?……いや、違うな。あんなことを言ったんだ。それも全部俺の――」
『全部が俺のせい。自業自得だ』。また自身の立場が彼女に負担を掛けていたことをこんな風に直接見て、知って、エストは抑えきれないと言った様子で再び感情をぶちまけてしまう。
それに加えて自身の行いを更に後悔していた。何も相談してもらえなかったことが悲しく、彼女にずっと自分のことで負担を掛けて苦しませていた事に気づけなかったのが何よりも悔しかった。しかしそんな負の感情をクリストファーが遮って、否定する。
「違います!!クレアは貴方に少しでも負担を掛けたくないと言っていました」
「え……」
「クレアはずっと貴方の事を想っていたんですよ。自分が前を向けたのは貴方のおかげだって、だからこんな事でわざわざ手を煩わせたくない、と」
「っでも、俺は――」
「いきなりこんなものを見せられて、怒りを覚えてしまう気持ちはわかりますが、これ以上は僕が言うべきことではありません。クレアを目覚めさせて、彼女に直接聞いてください」
エストは頷く。ここに来てからは取り乱してばかりだ。彼女は本当に秘密が多すぎる。しかしこれはそれだけクレアとちゃんと向き合えていなかったという証拠だろう。
彼女を目覚めさせて、気持ちを伝える。そして次こそは全て打ち明けてもらえるような存在になって見せる。そう決意を新たにした。
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そこから更に場面は変化し、クレアが死を偽装した場面になる。
「誤解のないように言っておきますが、クレアはずっとエスト様のあの最初の言葉を気にしていたようです。出来るだけ貴方の負担になりたくないから、と。この方法を選びました」
「……そうか。本当、見事に騙されたよ」
先程とは打って変わって、エストは冷静だった。
「ふふ、今回ばかりはクレアの方が上手でしたね」
「俺は本当に、クレアの事を何も知らなかったんだな」
「はい。じゃあ、これからいっぱい知ってあげてください」
「ああ」
エストとクリストファーは微笑み合う。ここに来てやっと気持ちが一つになったような気がした。
周囲ではクレアが『ルーネスト』という一人の男を偽装して過ごし王宮に、そしてエストの施術を経て、またエストと過ごすようになったところまでが猛スピードで再生されていく。
見覚えのある光景に、そろそろこの回想も終わりが近づいていることを自然と察することが出来た。
そして、二人が庭園で襲撃され、クレアがエストの呪いをあの特異魔法によって身代わりしたところで、再び周囲は光に包まれた。
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目の前に今度は、新たに透明な膜の様なものに覆われた真っ白な球体が現れる。今までの魔力反応を比べても、ここは最もクレアの魔力が濃い。きっとこれが最深部であろうことが伺えた。軽く膜に触れてみる。
「っ――!?」
エストはすんなりと片腕をその柔らかい膜の中にいれることが出来たが、クリストファーが身体を大きく弾かれてしまっていた。数メートルはじけ飛んだ彼の身体を見て、エストは思わず触れていた膜から手を離す。
「クリストファー?どうしたんだ!?」
「……どうやら僕はこの中には入れないみたいです」
「お前が入れないなんて、どういうことだ?この膜はなんなんだ?」
「これはきっと、クレアの精神の――心の最深部。最も見られたくないものがある場所。僕には真の意味ではクレアの中に入り込めない……きっと貴方だけ特別なんですよ、エスト様」
やはり貴方に着いてきて頂いて正解でした。クリストファーは残念そうに、しかしどこか嬉しそうにエストに微笑みかける。
事実、クリストファーはずっと全ての事を共有してきた妹が離れていくのは寂しかったが、自分以上に心を許す大切な相手――それも同じくらいに、命を捨てても良いとすら思う程に彼女を想ってくれる人――が出来ていたことに嬉しさを感じていた。そんな相手、人生を過ごしていても、中々出来るものではない。しかしクレアはその相手が出来たのだ。ならばこれは祝福するべき、喜ばしい事なのだ。
彼なら、エストならば、これからはきっとクレアを大切に、幸せにしてくれる。それを改めてこんな場面で実感してしまった。だからエストの背中を押す。
「クレアは貴方に全てを見られて嫌われたくないと思うと同時に、全てを見て欲しいという相反する感情を持っているんです。だから行ってあげてください。僕はここで貴方の帰りを大人しく待っています……妹を、クレアを頼みます」
その言葉には全てが詰まっていた。その言葉の深い意味まで全部を察したエストは頷く。そうしてクリストファーに送り出されて、エストはクレアの心の最も深い部分に足を踏み入れたのだった――。
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あとがき:
あとちょっと!本当にあとちょっとで終わります(ただし今日中に書き上げられるかは謎)。
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