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1.クレアの過去①
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まえがき:一応注意事項。この作品のプロットは3年前程に組んでいたものであり、現実に存在するものとはなんら関係はありません。
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クレア=ミア=レンドーレ公爵令嬢。
彼女はとある事情から生きることに絶望して、無気力になっていた時期がある。そして驚くことに、その”無気力”を覆してくれた人間というのが、最悪の出会い方をした筈のエスト=フィア=クロシュテインだった――。
***
クレアは11歳の当時、とある流行り病によって最愛の姉を失った……後々不治の病とまで言われるようになる喰花病によって。
この病は10代から20代後半までの若い女性にのみが罹る病気であり、症状としてはある日体内から皮膚を突き破るようにして急に花が開花するというものである。
花が生えてくる。それだけ聞けば綺麗だと思われることもあるかもしれない。しかしその花は宿主の魔力と生命力を吸い取って、体内で成長していき、花を咲かせるというとんでもない代物だった。
この病気の恐ろしいのは宿主が命を失うその瞬間までは”いつもよりも少し体調が悪い”程度の症状しか出ないことである。まるで水に浸した布のようにゆっくり、ゆっくりと命を吸い取っていく。だから最後の段階になるまで気が付くことが出来ない。
そうして一定の栄養を摂りつくした暁には、宿主の命と引き換えに、そのこの世のモノとは思えない程に美しい花を開花させるのだ。
このクロシュテイン王国で一番最初にこの病気に罹ったのはクレアの3歳年上の姉・ロザリア=ミア=レンドーレであった。当時14歳だったクレアの姉、彼女こそがこの病気の最初の犠牲者。
クレアはかつて花が姉の身体を内側から引き裂いて、開花する瞬間をその目で見てしまった。
しかしその時に幼いクレアに出来たのは姉の名前を叫んで、立ち尽くすことだけだった。助けを呼ぶことも、最後の言葉を聞いてあげることも何も出来なかったのだ。出来たのはただ見ている事だけ――。
『花が開花する瞬間、苦しむ姉に何もしてあげることが出来なかった』
最後、きっと彼女は自分の名前を呼んでいた。何か伝えたいことがあったのかもしれない。何か出来ることがあったのかもしれない。その考えがずっと頭の中から抜けなかった。自分は姉を見殺しにしてしまったようなものだ。それが大きな罪悪感としてずっとクレアの背中に圧し掛かる事になる。
そうして気が付いた時には姉の葬儀の準備が始まっていた。
その日からクレアの人生は絶望に染まり切る。毎日の様に大好きだった姉の影を探して、無意識の内に共に過ごした場所を出歩いては、いなくなったことを改めて理解させられる。兄や両親が気遣って用意してくれたクレアが好きだた紅茶。姉と何度も一緒に飲んだ、大好きだったはずの紅茶も味がしなかった。そして彼女の最後の瞬間を思い出して後悔し続ける日々。
どれだけ後悔しても、反省して懺悔しても彼女は戻ってこないのだ。両親や兄も『クレアは何も悪くない』と慰めてくれたが、彼女の心の重荷が下りることは一度もなかった。
そんな精神状態で二カ月ほど経った頃。国内でも喰花病の被害は止まる事はなく、むしろ被害は増え続けるばかり。既に国内外の貴族・平民問わず、かなりの数の女性に犠牲者を出し続けていた。
そしてついにクレアの番がやってくる。
最初は何となく気怠いだけだった。けれどそれが数日続いた時点で直感する。自分は姉と同じ病気に罹ったのだ、と。医者に喰花病と診断され、確定した時にはクレアの後ろで泣き崩れる両親らと裏腹に、特に悲しみも恐ろしさも感じなかった。
むしろあったのは『やっと姉を見殺しにした自分に罰が下される、自分だけ生きているというこの息苦しさから解放される』そんな諦めの様な感情だけだった。
しかしそんな感情を持ちながらも、クレアは一週間の間高熱で寝込んだ後、喰花病が完治した……否、完治してしまった。
起きた彼女にあったのは『奇跡だ』と歓喜する家族や使用人達と、今までからは似ても似つかない変わり果てた容姿になってしまった自分だった――。
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クレア=ミア=レンドーレ公爵令嬢。
彼女はとある事情から生きることに絶望して、無気力になっていた時期がある。そして驚くことに、その”無気力”を覆してくれた人間というのが、最悪の出会い方をした筈のエスト=フィア=クロシュテインだった――。
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クレアは11歳の当時、とある流行り病によって最愛の姉を失った……後々不治の病とまで言われるようになる喰花病によって。
この病は10代から20代後半までの若い女性にのみが罹る病気であり、症状としてはある日体内から皮膚を突き破るようにして急に花が開花するというものである。
花が生えてくる。それだけ聞けば綺麗だと思われることもあるかもしれない。しかしその花は宿主の魔力と生命力を吸い取って、体内で成長していき、花を咲かせるというとんでもない代物だった。
この病気の恐ろしいのは宿主が命を失うその瞬間までは”いつもよりも少し体調が悪い”程度の症状しか出ないことである。まるで水に浸した布のようにゆっくり、ゆっくりと命を吸い取っていく。だから最後の段階になるまで気が付くことが出来ない。
そうして一定の栄養を摂りつくした暁には、宿主の命と引き換えに、そのこの世のモノとは思えない程に美しい花を開花させるのだ。
このクロシュテイン王国で一番最初にこの病気に罹ったのはクレアの3歳年上の姉・ロザリア=ミア=レンドーレであった。当時14歳だったクレアの姉、彼女こそがこの病気の最初の犠牲者。
クレアはかつて花が姉の身体を内側から引き裂いて、開花する瞬間をその目で見てしまった。
しかしその時に幼いクレアに出来たのは姉の名前を叫んで、立ち尽くすことだけだった。助けを呼ぶことも、最後の言葉を聞いてあげることも何も出来なかったのだ。出来たのはただ見ている事だけ――。
『花が開花する瞬間、苦しむ姉に何もしてあげることが出来なかった』
最後、きっと彼女は自分の名前を呼んでいた。何か伝えたいことがあったのかもしれない。何か出来ることがあったのかもしれない。その考えがずっと頭の中から抜けなかった。自分は姉を見殺しにしてしまったようなものだ。それが大きな罪悪感としてずっとクレアの背中に圧し掛かる事になる。
そうして気が付いた時には姉の葬儀の準備が始まっていた。
その日からクレアの人生は絶望に染まり切る。毎日の様に大好きだった姉の影を探して、無意識の内に共に過ごした場所を出歩いては、いなくなったことを改めて理解させられる。兄や両親が気遣って用意してくれたクレアが好きだた紅茶。姉と何度も一緒に飲んだ、大好きだったはずの紅茶も味がしなかった。そして彼女の最後の瞬間を思い出して後悔し続ける日々。
どれだけ後悔しても、反省して懺悔しても彼女は戻ってこないのだ。両親や兄も『クレアは何も悪くない』と慰めてくれたが、彼女の心の重荷が下りることは一度もなかった。
そんな精神状態で二カ月ほど経った頃。国内でも喰花病の被害は止まる事はなく、むしろ被害は増え続けるばかり。既に国内外の貴族・平民問わず、かなりの数の女性に犠牲者を出し続けていた。
そしてついにクレアの番がやってくる。
最初は何となく気怠いだけだった。けれどそれが数日続いた時点で直感する。自分は姉と同じ病気に罹ったのだ、と。医者に喰花病と診断され、確定した時にはクレアの後ろで泣き崩れる両親らと裏腹に、特に悲しみも恐ろしさも感じなかった。
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しかしそんな感情を持ちながらも、クレアは一週間の間高熱で寝込んだ後、喰花病が完治した……否、完治してしまった。
起きた彼女にあったのは『奇跡だ』と歓喜する家族や使用人達と、今までからは似ても似つかない変わり果てた容姿になってしまった自分だった――。
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