初恋の幼馴染兼世界を救った騎士に『恋愛対象外』だと思われている件について

皇 翼

文字の大きさ
上 下
2 / 4

1.

しおりを挟む
フェリシアはその後呆然とするディランを放置し、イリスをおんぶして王宮で与えられている客室まで戻ってきた。
道中、自分とほぼ同じくらいの背丈のイリスを背負える自分はディランの言う通り脳筋ゴリラなのかもしれないと少し落ち込みはしたが、先程の怒りを思い出して、考えること自体をやめた。

***

「――様……姉様、――て」
「んん、」

囁くように優しい声が身体と鼓膜を揺する。しかしフェリシアは昨日それなりにアルコールを摂取していたせいもあり、中々起きようとは思えなかった。

「姉様、朝ですよー。ね、え、さ、まーー!!」
「うう゛!?」

最初は優しかった声音も、眠って相手をしてくれる気配のないフェリシアに段々と飽きてきたのか口調が強くなり、最後には弾丸の様に何かがフェリシアの仰向けで寝ている身体に突っ込んで来た。

「イリス……?」
「はい!」

目を開けてみると、そこには見覚えのある金の柔らかそうな頭がフェリシアの胸にすり寄るように近づけられていた。どうやら昨日同じ部屋に運んで、『姉妹だし、まあいいか』というテキトーな思考回路で同じベッドに寝かせておいたイリスはお酒が入っていなかった分、フェリシアよりも早く目覚めたようだ。

そこまで認識して、脳が覚醒すると同時に昨日の事を少しづつ思い出していく。
そしてディランに自分が発言したことを思い出したと同時にフェリシアは頭を抱えた。とんでもない発言をしてしまった……。冷静になった思考は昨日の言動を既に後悔し始めていた。

(……どうしよう)

起こしてくれたイリスの頭をいつもの癖で撫でて、後悔に沈む。なにせ怒りからとは言え、好意を抱いている人間に対して自分の貰い手――結婚相手を見つけると宣言してしまったのだ。ディランは昔からどれだけ酒を飲んでも、絶対に飲まれないタイプだった。だから確実に昨日の事も憶えているだろう。

そしてフェリシアの性格上、発言したことを”出来ない”などと言って、負けを認める事など出来なかった。なにせ昔から彼女は途轍もなく意地っ張りであった。一度決めたり、言葉に出したことは曲げられない。しかも今回は馬鹿にされているのだから、尚更だ。

しかしそれと同時に考えてしまう。結局女として見てもらえもせず、一生ただの幼馴染として過ごすくらいならば、この恋はもう捨ててしまったほうが良いのではないか、と――。
ディランは辺境伯の嫡子だ。今までは何故か婚約者がいなかったが、今後はそれに近い女性が確実に出来るだろう。その時、この叶わない恋心を抱えたままで彼の隣に立つ女性を見るなんて……考えただけでフェリシアの心は悲鳴を上げる。
この女扱いされることのない幼馴染という関係性を捨てる勇気もないくせに、恋心を抱えたままで幼馴染が別の女性と結ばれるのを手放しで喜んで見守ることも出来ない。

それにフェリシアとて貴族だ。ずっとこのまま結婚しないというわけにもいかないのである。将来はアーゼンベルクの家をフェリシアかイリスが継いで、血筋を残していかなければならない。だから元々、ずっとこのままディランへの恋心を抱え続けるだなんて生産性のない事を続けるというわけには行かなかったのだ。


これはある意味必然だったのかもしれない。彼を諦めるための必然的な事象――。

だからこれからフェリシアは自分の宣言通り、きちんと恋心に諦めをつけて結婚相手を見つけなければならないのだ。

「姉様?先程からずっと考え事ですか?なんだかお顔が暗いような――」
「いいえ、大丈夫よ……ちょっとお腹が空いちゃっただけ。食堂に行きましょうか」
「……そう、ですね」

イリスは昔からフェリシアとずっといるだけに姉である彼女の心の機微に敏感である。だから敢えて心配の言葉を遮って、何でもない風を装った。これすらもきっと妹にはバレているのだろうが、彼女は言及しない事を選んでくれたようだった。
そんなイリスに微笑み、感謝しながら、二人は連れ立って朝食を摂りに行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄を喜んで受け入れてみた結果

宵闇 月
恋愛
ある日婚約者に婚約破棄を告げられたリリアナ。 喜んで受け入れてみたら… ※ 八話完結で書き終えてます。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた

宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

夫で王子の彼には想い人がいるようですので、私は失礼します

四季
恋愛
十五の頃に特別な力を持っていると告げられた平凡な女性のロテ・フレールは、王子と結婚することとなったのだけれど……。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...