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番外編

番外編①前編

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・本編との繋がりは多分ないと思います。謎時空ってことで読んでください。
・頭を空っぽにして読むお話です。
・どの√にも属していない謎時空なので、ユリウス、ディラン、ロジーの全員からフェリシアに矢印が向いています。苦手な人は回避を!

******


これは魔王の討伐後、フェリシア達が国に帰って来た直後のお話。彼女らは、怪我や病気などの検査をするために一時的に王都一と言われる病院に入院させられていた。

「……退屈だ」
「うるさいよ、ディラン」
「ディラン、本気で黙っててくれませんか?それ皆思っている事ですから」

そう、入院、のだ。
彼らはずっと戦っていたとは思えないほどに軽い怪我――殆どをイリスが治療していた――しかしていなかったが、大事をとってということでここ1週間ほどずっと病院にて様々な種類の医師からカウンセリングや状態を調べるための採血、検査や治療を受け、食事の時間になったら病院によって栄養管理をきっちりされたご飯を食べ、眠る。そんな退屈な日々を過ごし続けていた。

確かに環境的にも戦況的にも不利かつ酷い戦いを続けて来た。だから心配される気持ちも分かりはするが、これは少々やり過ぎな気がしてならなかった。だからディランが言った言葉は全員が感じている事でもあった。

「しかも、こんなむさくるしい男どもと一つの部屋に閉じ込められるなんて……可哀そうな、俺」
「それ僕も思っている事ですから!僕だって、こんな年上のゴツくて汗臭い男や、汚いおっさんともう何日間も同じ屋根の下なんですから。何が悲しくて旅が終わった後も同じ場所に居続けないといけないのか」
「おい、ロジー。汚いおっさんって、俺のことを言ってるんじゃないだろうな?俺はお前の父親だぞ???」
「俺だって、むさくるしい男のロジーやユリウス、それにそこのおっさんと一緒に居続けたくないって思ってるわ!!」
「ディラン?」

彼らは不満が貯まりきっていた。王都に帰って来た時は緊張からの開放感やら魔王を倒し、生きて帰って来たんだという達成感やらに満たされ、この一時的な検査や入院についても、有難いなと思い、快く受け入れていたが、今となっては後悔してもしきれない程に後悔していた。本当に、退屈で仕方がないのだ。
あと食事が栄養を気にし過ぎているせいか、味がまずい。旅の間はずっとフェリシアが料理を担当し、少ない素材でも美味しいものを頑張って作ってくれていただけにそこへの不満も爆発していた。

それに加え、不満はもう一つ。

「……はぁ、フェリシア」
「ユリウスさんもですか。口に出したからといって、今は虚しくなるだけですよ?」
「そうだな、俺だって、女房に会いたいけど我慢してんだ」

先程の発言を咎めたダリアによって、関節技を決められているディランは既に虫の息で返事はないが、ばっちり頷いていた。ちなみに、ダリアは実の息子であるロジーによって汚いおっさんと言われたことに、少なからずショックを受けていたため、実は少し涙目だ。

そう。毎日のように検査やカウンセリングで拘束されているせいで、この1週間、彼らは彼ら自身の想い人に会えていなかった。ダリア以外、今までは毎日のように顔を合わせていた想い人。苦しくもあったが、楽しく、幸せでもあった日々から脱してしまった今。だからこそ余計にストレスが貯まる。しかも同じ箱にぶち込まれている者の4分の3がライバル――残りの一人は筋肉達磨の汚いおっさん――とあってはそのストレスも加速する。

「そうだ、会いたいなら会いに行けばいいじゃないか。どうせ、アイツも同じ病院内にいるんだろう?」
「ディラン、お前……天才か!」

いつの間にか復活していたディランが、急に起き出し、さも良い事を思いついたというように発言する。それに対して、ユリウスもすぐに賛成した。この二人の意見が揃うとろくな事が無い。

「馬鹿ですよ、馬鹿。この病院に来て最初に言われたでしょう。女子棟へは許可が出ている場合を除いて、男性患者の侵入は禁止、と。しかも今は夜ですよ!?常識的に考えてもあり得ません!!」

しかし冷静な者がいた。ロジーだ。彼は一番年下にもかかわらず、今日に至るまで、年上2人のストッパー役という謎の立場に収まっていた。このパーティーは基本、女子組のいないところで年上が暴走して、それを最年長と最年少が止めるという形で動いていた。

「……ロジー。俺は何も彼女の寝る前のあどけない姿が見たいとかあわよくば寝顔が見たいとかっていう下心で動いているわけではないんだ。……心配なんだよ、あの戦いで一番魔力をギリギリまで消費していたのはフェリシアだ。俺達が戦いやすいように、と後方から魔法攻撃をしながらイリスへのサポート魔法も使っていただろう」
「そうだ、それにフェルは無理をしていても隠すタイプだからな……昔からそうだった。それに旅の最中も何度か明らかに治療を必要とする怪我を隠して、自分で無理矢理治療している場面に出くわした。だから、放っておけないんだ」
「!?おい、ディラン、それは聞いてないぞ!」
「魔力の無駄だと言って裂傷を自分で縫おうとしてたから、流石に止めて、無理矢理とっ捕まえて治療魔法をかけた。だから安心しろ」
「安心、は出来ないな。ディランの治療か……すぐにでも傷口を見せてもらわないと安心できない!!」
「……それは流石に酷くないか?それに傷が残った場合もちゃんと対処する。俺が責任をとって、けっこ――」
「それはさせないよ。気づくことが出来なかった俺の方が重罪だ。だから俺が彼女と――」

少し黙って見ていたら、すぐにこれだ。
この二人はフェリシアの前に立つと、アピールがただただ下手くそなくせに格好つけたいおぼこの様な男とこちらもまた格好つけたいツンデレ男と化すくせに、彼女がいない場所では異様に張り合う。これを見る度に、この好意が丸見えな態度の10分の1でも彼女の前で素直に出せれば、想いが少しは伝わるだろうに……とロジーとダリアは考えるのだ。まあ、そんなことをされたら、ロジーがかなり不利になるので指摘などしてやらないが。

「はいはい。そこまでです。まず、ユリウスさん。貴方は明らかに下心が丸見えで、キモイです。それとディランは何気に自分だけがフェリシアさんの昔を知っているマウントやめてください。殺意がわきます。あと二人共結婚なんて出来ないです。させません。……でも、確かに彼女は無理をし過ぎる気がある。一度、様子を見に行った方が良いかもしれな――」
「ロジー!!お前まで口車に乗せられてるんじゃない!全く、我が息子ながら詰めが甘い」
「っでも、彼女が無理をするのは事実です」
「だから冷静になれ。ここがどこだと思っている?病院だぞ。いくらフェリシアだからと言って、今の俺達みたいに全身くまなく調べられたら、隠せるはずがないだろう。それに既に今は魔力の温存どうこうが関係ないだろう。よって、アイツが傷を隠すわけがない」
「あ……そうか、それもそうですね」

ユリウスとディラン、二人の口車に乗せられそうになったロジーだったが、ここはもう一人の静止役であるダリアによって、冷静な状態に戻ることが出来た。
やはりまだ年若いロジーでは、時々年上二人によって唆されてしまうことがあるのだ。

「ッチ、髭ジジイめ、余計なことを」
「ディラン?」
「やっべ!俺ちょっとトイレ行ってくる」
「逃げるんじゃねー!!」

思惑を阻止されたディランは、またしても軽率にダリアに対して喧嘩を売り、とっちめられそうになる。ディランはこのやりとりに関しては、何度やっても学ばない男だった。
しかし、逃げたと思われたディランはそれから10分経っても、帰ってくることはなかった――。



(後編に続く)
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