24 / 34
23
しおりを挟む
朝はヴィロン村の炊き出しの用意。そして昼から日が暮れるまでは瓦礫を退かしたり、無事だった木材や煉瓦を使って家を出来るだけ元の形に近く修復していく作業の繰り返しだった。
人の手で出来る所は村人と協力して。どうしても修繕に魔法が必要な時は、魔法が使用できるキャリーやアメリア、フェリシアが主導権を握って作業を進めていく。
フェリシアはそれなりに身体を鍛えている方だという自負はあったが、この作業はいつもと違う筋肉を使うため中々の重労働だった。毎日限界まで魔法と肉体を使い続ける日々――――。
けれどフェリシアにとってはこの忙しさが丁度良かった。何かしらの作業をしていれば、嫌な事を忘れることが出来たからだ。それにここ数日で村の人々、キャリーやアメリアともかなり打ち解けてきていたため、このヴィロン村は居心地が良かった。
そんな日々が1週間程続いたある日のことだ。とある家を直し終えた直後。その家を見た年若い女性に抱き付かれて、涙ながらに礼を言われた。これまでにも感謝の言葉を述べられることはあったが、ここまで感動されたことはなかったためにフェリシアは内心少し驚く。
一方的に抱き付かれて行き場のない手を彷徨わせているフェリシアに気づいたのであろう女性は、いきなりこのような行動に出てしまったことを謝罪しながらも事情を話し始めた。
話を聞いてみると、フェリシアが先程修繕した家はどうやらこの女性――ミーアの夫の残してくれたものだったらしい。
ミーアの夫は二年前、魔物からミーアとその子供を守るために囮になって死んでしまったらしい。
その日は丁度前日の魔物との戦いで城塞の壁で破損していた部分があったらしく、そこから侵入してきたという。それ以前にもそのようなことは何度かあり、その時は村に駐屯している兵が討伐していたが、その日はあまりにも運が悪かった。駐屯兵が怪我をしたために代わりの兵が来たばかりだったのだ。それ故に対応が遅れてしまった。
様々な要因・不運が重なって、村の外れにあったこの家に数匹の魔物が襲撃をかけてきたのだ。そうして彼女の夫は妻と子供を逃がすために囮になり、魔物を全て引き付けて近くの森に魔物を引き離したのだという。
ミーアも兵が到着してすぐに森に向かってもらったそうだが、その時には魔物の周辺に血だまりがあっただけ。夫は肉の一片も残らず食い殺されていたそうだ。そうして兵が魔物を討伐して残っていたのは血だらけになった衣服の一部だけ。
彼のお陰でこのミーアにも子供にも他の村人にも被害はなかったが、彼はもう……ここにはいない。
だから彼の形見でもあるこの家を以前の様に修復してくれて嬉しかったのだそうだ。
ミーアはフェリシアが去る最後の最後まで感謝の言葉を尽くしていた。”わざわざ王都から来て、私達の家を直してくれてありがとう”と……。
「……私、そんな立派な理由で来たわけじゃないんだけどな」
夜、アッシュブレイド城塞の客室。与えられた部屋の天蓋付きのベッドの上で仰向けになりながら、手で顔を覆う。自分が恥ずかしかった。だってフェリシアは逃げてきただけだ。嫌な事――怖い事から。
それに毎日ずっと作業を続ける理由もそれらを振り払って少しでも忘れる為だ。だから自分はそんな立派な人間ではないのだ。
その日は色々な思いがこんがらがって、フェリシアは朝日が昇る直前まで寝付くことができなかった。
******
あとがき:
中々更新できずにすみません。でも完結させる気はちゃんとありますので、ご安心を!!(一応、少しずつですが話は進んでいますし(;´Д`))
気分転換に他連載したり、そっち先に完結させたりとかしてますが、こっちも書け次第更新していきますので……!
人の手で出来る所は村人と協力して。どうしても修繕に魔法が必要な時は、魔法が使用できるキャリーやアメリア、フェリシアが主導権を握って作業を進めていく。
フェリシアはそれなりに身体を鍛えている方だという自負はあったが、この作業はいつもと違う筋肉を使うため中々の重労働だった。毎日限界まで魔法と肉体を使い続ける日々――――。
けれどフェリシアにとってはこの忙しさが丁度良かった。何かしらの作業をしていれば、嫌な事を忘れることが出来たからだ。それにここ数日で村の人々、キャリーやアメリアともかなり打ち解けてきていたため、このヴィロン村は居心地が良かった。
そんな日々が1週間程続いたある日のことだ。とある家を直し終えた直後。その家を見た年若い女性に抱き付かれて、涙ながらに礼を言われた。これまでにも感謝の言葉を述べられることはあったが、ここまで感動されたことはなかったためにフェリシアは内心少し驚く。
一方的に抱き付かれて行き場のない手を彷徨わせているフェリシアに気づいたのであろう女性は、いきなりこのような行動に出てしまったことを謝罪しながらも事情を話し始めた。
話を聞いてみると、フェリシアが先程修繕した家はどうやらこの女性――ミーアの夫の残してくれたものだったらしい。
ミーアの夫は二年前、魔物からミーアとその子供を守るために囮になって死んでしまったらしい。
その日は丁度前日の魔物との戦いで城塞の壁で破損していた部分があったらしく、そこから侵入してきたという。それ以前にもそのようなことは何度かあり、その時は村に駐屯している兵が討伐していたが、その日はあまりにも運が悪かった。駐屯兵が怪我をしたために代わりの兵が来たばかりだったのだ。それ故に対応が遅れてしまった。
様々な要因・不運が重なって、村の外れにあったこの家に数匹の魔物が襲撃をかけてきたのだ。そうして彼女の夫は妻と子供を逃がすために囮になり、魔物を全て引き付けて近くの森に魔物を引き離したのだという。
ミーアも兵が到着してすぐに森に向かってもらったそうだが、その時には魔物の周辺に血だまりがあっただけ。夫は肉の一片も残らず食い殺されていたそうだ。そうして兵が魔物を討伐して残っていたのは血だらけになった衣服の一部だけ。
彼のお陰でこのミーアにも子供にも他の村人にも被害はなかったが、彼はもう……ここにはいない。
だから彼の形見でもあるこの家を以前の様に修復してくれて嬉しかったのだそうだ。
ミーアはフェリシアが去る最後の最後まで感謝の言葉を尽くしていた。”わざわざ王都から来て、私達の家を直してくれてありがとう”と……。
「……私、そんな立派な理由で来たわけじゃないんだけどな」
夜、アッシュブレイド城塞の客室。与えられた部屋の天蓋付きのベッドの上で仰向けになりながら、手で顔を覆う。自分が恥ずかしかった。だってフェリシアは逃げてきただけだ。嫌な事――怖い事から。
それに毎日ずっと作業を続ける理由もそれらを振り払って少しでも忘れる為だ。だから自分はそんな立派な人間ではないのだ。
その日は色々な思いがこんがらがって、フェリシアは朝日が昇る直前まで寝付くことができなかった。
******
あとがき:
中々更新できずにすみません。でも完結させる気はちゃんとありますので、ご安心を!!(一応、少しずつですが話は進んでいますし(;´Д`))
気分転換に他連載したり、そっち先に完結させたりとかしてますが、こっちも書け次第更新していきますので……!
56
お気に入りに追加
5,038
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愚か者は幸せを捨てた
矢野りと
恋愛
相思相愛で結ばれた二人がある日、分かれることになった。夫を愛しているサラは別れを拒んだが、夫であるマキタは非情な手段でサラとの婚姻関係そのものをなかったことにしてしまった。
だがそれは男の本意ではなかった…。
魅了の呪縛から解き放たれた男が我に返った時、そこに幸せはなかった。
最愛の人を失った男が必死に幸せを取り戻そうとするが…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。
なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。
7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。
溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる